ASSERT 498号 (2019年5月25日発行)

【投稿】 世界の荒波に漂う安倍政権
【投稿】 ファーウェイを巡る米中貿易戦争と日本への影響
【投稿】 「令和」祝賀・衆参同日選挙への目論み---統一戦線論(60)---
【書評】 『核兵器はなくせる』

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【投稿】 世界の荒波に漂う安倍政権
              〜米露に行き詰まり中朝に接近〜

相次ぐ外交的敗北
 4月22日から29日にかけ、安倍は仏、伊など欧州4か国、および米、加の北米2か国を歴訪した。国会で予算委員会の開催に応じない中、連休にかこつけ、昭恵を連れての不要不急のバカンスに興じたのも同然の外遊である。
 しかしこの直前の4月11日、世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関(DSB)上級委員会は、韓国による日本産農水産物禁輸を不当だとする日本の訴えを退けた。下級審である同小委員会(パネル)では日本の提訴が認められていたのに対し、今回の判断は「逆転敗訴」の形となり、国際捕鯨委員会(IWC)脱退に次ぎ、日本の国際的孤立を印象付けるものとなった。
 安倍外遊に水を差され狼狽した日本政府は、安倍訪米中の26日、DSBの会合で上級委員会の決定は「科学的根拠を欠くもの」などと難癖をつけた。さらに5月になり、この時日本の主張に賛同したのは10以上の国や機関であると、非公開の原則を破り産経新聞にリークさせた。
 しかしDSBはWTO全加盟国−164の国と地域−によって構成されるものであるから、「10の国と機関が日本支持」と喧伝するのは逆効果であろう。
 安倍は、28日カナダで上級委員会の決定に関して、加盟国から問題視する声が上がっている、として「紛争解決に資さない形で結論が出るという議論があり、改革が不可欠だ」(4月30日「毎日」)と同委員会の「機能不全」をまくしたて「WTO改革を大阪のG20で議論する」と大見得を切ったのである。
 確かに同委員会は、定数7名の上級委員が現在3名しか在籍していないなど、困難な運営を迫られている。しかしその要因は、アメリカが委員の再任や指名をボイコットしているからであり、安倍の批判はお門違いと言うものであろう。
 今回の件では外務省が「戦犯」扱いされているが、同省のホームページでは現在も「WTO紛争処理制度は…WTO体制の中心的な柱の1つをなしています。‥紛争解決制度は有効に機能し,貿易紛争の多くが迅速かつ公平に解決され,ルWTOルールの明確化を実現してきました。…この紛争解決制度が,加盟国から信頼を得て,効果的に機能していることを示しています」と記され、全面的に評価しているのである。
 このように日本政府は、WTOを評価してきたのであり、安倍も自由貿易の推進を言うのであれば、保護主義的立場からWTOを「機能不全」にしたうえ、脱退をも示唆するトランプを諌めるのが順序というものだろう。
 しかし、トランプに忖度する安倍はワシントンでは、そうしたことは億尾もださずに、ひたすらご幇間外交に徹したが芳しい反応は得られなかった。
 
「ストップ、アベ・ウェルカム、スガ」
 4月26日、ホワイトハウスで安倍は、10回目の首脳会談を行ったが、各国記者団の前でトランプにレッドカーペットを踏ませてもらえないという椿事が発生し、日米首脳の関係を垣間見せた。
 会談では、当然のことながら日米貿易交渉が最大の問題となり、トランプは5月下旬の訪日時に妥結できるよう安倍に要求した。首脳会談に先立ち麻生−ムニューシン財務長官、茂木−ライトハイザー通商代表の「担当者会談」も行われたが、結論はおろか妥協点を探ることもできず、業を煮やしたトランプが直談判に及んだ形となった。
 首脳会談では、「貿易交渉を加速化させる」ことでその場をしのいだが、その後も新協定への「為替条項」の導入や、日本からの自動車輸出の数量規制などが取り沙汰されている。
 そのたびに茂木などが打ち消しに躍起になっているが、アメリカの苛立ちを現すものであり、トランプも27日の4回目となる安倍とのゴルフを終えた直後は「素晴らしい議論ができた」と「上機嫌」だったが、同日の支持者集会では「日本やあらゆる国が過去数十年間にわたり、我々から巨額をぼったくってきた」(4月29日「毎日」)と本音を剥きだしにしたのである。
 そして5月17日には、自動車、部品の輸入がアメリカの安全保障上の問題となっていることを正式に認めた。
 トランプの「トリセツ」が世界中を探しても存在しない中、安倍は外遊中フランス、イタリア、およびカナダの首脳との会談でトランプを意識し、盛んに価値観の共有をアピールした。しかしトランプに対し、毅然とした対応をとるこれら各国首脳と、万事腰砕けの安倍とでは価値観は共有できなかっただろう。
 日米貿易交渉は、5月下旬のトランプ訪日からG20にかけてのタイトな日程で、安倍政権の意に沿うような形での妥結は困難と考えられる。安倍としては、「令和最初の国賓」として、即位したばかりの新天皇を接待役に、最大限もてなす以外に方策はないだろう。
 こうした閉塞状況の中、連休明けの5月9日〜11日満を持した様に菅が訪米し、ペンス副大統領やポンペイオ国務長官と一連の会談をこなした。サプライズでトランプとの会話、挨拶もあるのではないかとの観測も流れたが、今回はさすがに遠慮した様である。しかし今回の異例の外遊、厚遇は、ポスト安倍を睨んだアメリカの視線を滲ませるものとなった。
 訪米の目的は、菅が拉致問題担当であることから北朝鮮への対応が中心と見られているが、全般的な日米関係の調整が主眼であろう。とりわけ貿易問題に関して、安倍訪米前の「担当者会談」で埒があかず、副総理の麻生に至っては、本来のカウンターパートである副大統領に会えないなかでの、訪米となった。
 これを対米外交での多様なパイプ作りと評価する向きもあるが、失態続きの外務省=河野の地位低下と合わせれば、事実上の2重外交の始まりであろう。

「北方領土」も絶望的に
 5月10日、菅がワシントンでペンスと和気藹々と会談している一方、河野はモスクワでラブロフ外相と「激しいやりとり」を演じていた。
 ラブロフは1月、2月の会談時に述べた「第2次世界大戦の結果を日本が認めることが前提」との立場を繰り返し強調したのに対し、河野は帰国後の11日、札幌市で「かなりヒートアップした」などと述べるなど、平行線どころか、会談を重ねるたびに立場が遠のいていることが明らかになった。
 日露平和条約交渉は昨年11月の首脳会談で「1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速することで合意」したものの、以降の交渉は停滞した。そもそも安倍と経済産業省の前のめりで始まった日露交渉の責任を押し付けられた外務省は、困難な交渉を本気でやる気はないだろう。
 外務省以外も冷ややかである。防衛省、自衛隊は昨年F-35A戦闘機を三沢基地に配備し、さらに今年3月に就役した護衛艦「しらぬい」(満載排水量6800t)を大湊基地に配備した。対露最前線の海自拠点である大湊に新造艦が配備されるのは、冷戦時代の1984年以来35年ぶりとなる。
 しかも84年に配備されたのは、新造艦とはいえ同1700tの小型護衛艦だったのに対し、今回は対潜能力を強化した大型艦であり、ロシアに対するアピール以外の何ものでもない。
 これに対しロシアも、昨年就役したフリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」(同4500t)を北方艦隊から派遣、5月11日に大湊と目と鼻の先の津軽海峡を、日本海から太平洋に向け通過させた。また北方4島を含むクリル諸島の兵力も増強されており、F-35に対抗する形で昨年択捉島に試験配備された、Su35s戦闘機の本格的配備も進むだろう。
 また4月に件のF-35が墜落した際、可能性はないにもかかわらず、ロシアが機体の回収を目論むという憶測が流布されるなど、北方領土を巡る疑心暗鬼と軍事的緊張の度合いは高まっている。
 今後秋田県にイージス・アショアが配備されれば一段のエスカレートは免れず、平和条約締結に向けた環境作りとは程遠い現状が浮き彫りとなっている。
 今年の「北方領土の日」に開かれた「北方領土返還要求全国大会」のアピールから「不法に占拠され」との文言が消され、2019年度版外交青書からも「北方4島は日本に帰属する」との表現が削除されたが、いくら文言で譲歩しても言行不一致ではロシアの不信は解けないだろう。
 経済協力も具体的な進展はなく、5月15日にはロシア極東・北極圏発展省が北方4島で進めている経済特区事業を拡大させると発表した。ロシアは日本との共同事業に優先させる形で、投資と開発を進める構えである。
 この様に安倍政権が4島返還を封印し、いくら「協力と妥協」のポーズをとっても、6月の平和条約大筋合意は絶望的となったのである。
  
2重外交から2重権力へ
 米露との関係が隘路に入り込む中、安倍はまたしても中国、北朝鮮に接近しようとしている。4月25日ウラジオストックで露朝首脳会談が開かれ、「六か国協議」当事国の首脳で金正恩と会談できていないのは、安倍一人となった。
 焦燥感にかられた安倍は5月6日の日米電話協議後、突如「拉致問題での進展がなければ」との政権の根幹にかかわる原則を投げ捨て、無条件での首脳会談開催を追及することを明らかにした。
 安倍は4月の訪米で北朝鮮問題も協議したと説明していたが、トランプとの電話の後で、決定的な方針転換を囲み会見で表明するのは、ワシントンで何も詰め切れていないことの証明であり、軽率さの露呈でもある。
 こうした無節操さを嘲笑うかのように、北朝鮮は「飛翔体」=中距離弾道弾を2度にわたり試射をした。これに対し融和姿勢を貫く韓国、3度目の首脳会談を視野に入れるアメリカが静観の態度をとったのは当然と言えるが、安倍政権も「国連安保理決議違反で遺憾」と防衛大臣が表明したのみで、安倍本人は日朝会談への意欲を露わにしている。
 また、菅の訪米直前での方針転換は、ニューヨークでの拉致問題シンポに出席予定である「対北強硬派」の菅への牽制でもあり、外交の主導権が誰にあるかを示したかったのだろう。
 政権内の権力闘争に起因する2重外交は、国内外に無用の混乱を招くことになる。米中露朝の狭間で右往左往する安倍を後目に菅は、着々と基盤を固めているように見える。5月17日の記者会見で菅は、野党の不信任決議案提出について質問を受け、総理大臣の専権事項である衆議院の解散について言及した。
 官邸は2重権力の様相を呈しつつある。ぶれ続ける外交、内政に於いては景気が後退局面に入る中、消費税を巡る混乱が続いている。野党はこうした安倍政権の矛盾を追及し、衆参W選挙を視野に入れ統一名簿の作成と、候補者の一本化を進めなければならない。(大阪O)