アサート No.499(2019年6月22日)

【投稿】「テロ対策施設」未完成で再稼働中の全原発が順次運転停止へ
                            福井 杉本達也 

1 九州電力川内原発1号機が来年3月運転停止に
 九州電力の川内原子力発電所1号機が2020年3月18日に運転停止となる。テロ対策施設「特定重大事故等対処施設(特重施設)」の完成が20年3月17日の期限内に間に合わないためである(日経デジタル:2019.6.14)。「特重施設」とは「原発に航空機を衝突させるなどのテロ行為が発生した場合に、遠隔操作で原子炉の冷却を続ける設備などを備えるテロ対策施設『特定重大事故等対処施設』」をいう。既に、原子力規制委の4月24日の会合で、「電力会社に対し、『原発本体の工事計画の認可から5年』の完成期限の延長を認めないことを決めた。再稼働済みの九州電力川内原発1号機(鹿児島県)は来年3月に期限を迎え、その時点で運転中でも施設が完成していなければ運転停止となる。」(産経:2019.4.24)等々と各紙で報道されたところであるが、川内1号のみならず、2号、関電の大飯3、4号、高浜3,4号、四電の伊方3号など全国の稼働中の全原発が今後順次運転停止に追い込まれることとなる。
 規制委は、2015年11月に「特重施設」の設置期限を新規制基準制定後5 年以内というそれまでの規定を、本体施設工事認可後5 年以内に変更した。本来、本体施設の設置許可変更申請と同時に「特重施設」の設置を申請すべきところ(新規制基準の制定は2013 年7月)、経過措置規定により5 年間の適用猶予をしたが、この適用猶予の起点をさらに本体施設工事認可時に変更していた。
 今回も電気事業者は「特重施設等の設計で、審査を通して安全性の向上を図ってきた結果、現地工事は、大規模かつ高難度の土木・建築工事となるといった状況変化が生じてきている。」、「規制委員会殿において、事業者の対応の状況、更なる安全向上のために要する期間を総合的に考慮し、対応を検討いただきたい。」(電力9事業者:「特重施設等の設置に向けた更なる安全向上の取組状況について」2019.4.17)として、またぞろ「適用猶予」を「確信」していたところ、いきなり梯子を外された形となった。
 
2 テロ対策施設「特定重大事故等対処施設(特重施設)」とは
 「特重施設」とは、新規制基準の中の「原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムに対して対処する施設」、「原子炉格納容器の破損を防止するための必要な 設備」と規定されており、具体的には@既設制御室が使えなくなった時の第二制御室 ・A予備電源設備 ・B予備注水設備 ・CPWRのフィルターベントなどが想定されている。したがって、原子炉を冷却する機能が喪失し炉心が著しく損傷した場合に備えて、原子炉補助建屋等との離隔距離をもつ(100m以上)、又は頑健な建屋を設け、その建屋の中に原子炉格納容器の破損を防止するための上記機能を有する施設を収納できなければならない。しかし、テロ対策を口実に情報を不開示とし、詳細は不明のままで、具体的な図面や設計仕様は分かっていない。
 2001年の9.11以降、米原子力規制委(NRC)は2002年2月、米国の原子力事業者に
対し、航空機の衝突や全電源喪失などへの対策を講じるよう求めた。これらの措置は、NRCの命令の項目名から「B5b」と呼ばれている。もし日本でNRCの安全性強化策を効果的かつタイムリーに実施していれば福島第一原発事故事態は軽減されていたであろうとニルス・ディアズ元NRC委員長は述べている。しかし、当時の旧保安院は、NRCからテロ対策強化の情報を得ていたものの、電力各社には伝えられなかった。

3 電力事業者は「特重施設」がなくても、運転中の原発は規制基準に適合し安全性は確保と主張
 電力事業者は、「特重施設」がなくても「『本体施設等でテロ対策を含めた重大事故等対策に必要な機能を満たし』、使用 前検査で合格したプラントから、順次、運転を行っており、本体施設等の運転を継続するにあたっての安全は既に確保されている。」との立場をとっている(上記「取組状況」)。電力事業者にとっては「特重施設」は完成の目途も立たない経営的な重荷でしかない。「特重施設等の設計で、審査を通して安全性の向上を図ってきた結果、現地工事は、大規模かつ高難度の土木・建築工事となるといった状況変化が生じてきている。」、「現地工事は、様々な制約の下で安全を最優先にしながら、早期完成に向けて最大限の努力を 行っているが、安全向上のための詳細設計に更に時間を要しているプラント」もある(上記「取組状況」)などと、工事をしたくない理由を長々と述べている。
 「意図的な航空機衝突への頑健性を高めるため、配置場所を見直したことで、大規模な掘削等の土木工事が必要となっている。」、「躯体工事:基準地震動を一定程度超える地震動に対して頑健性を高めることにより、大規模な躯体工事となっている。」(同上)などとも書き、そもそも工事がまともに完成するかさえ不透明である。当初は規制委とのなれあいで、「テロ対策を口実としての情報不開示」を盾に適当な施設での「完成」を見込んでいたふしがあるが、これがひっくり返されてしまったということであろう。予備電源・予備注水施設などを設置するとすれば。当然基準地震動に対応しなければならない。現在稼働中の原子炉本体さえ当初設計自体が基準地震動に適合しているかどうかも曖昧な状況の中、狭小な原発敷地内において、本体に影響の出ないような場所で基準地震動に対応した大規模施設を作ろうというのであるから、場所も限定され、その費用はかなりの額にのぼる。

4 規制の強化は米国の指示か―規制委の独自で判断できるはずはないー
 今回、規制委は突然従来の「猶予」方針を転換したが、たとえば日本経済新聞社説の「原子力発電所に設置が義務づけられたテロ対策施設について、原子力規制委員会は期限内に完成できない原発には原則として運転停止を命じることを決めた。工事が遅れている九州電力・川内原発1 号機(鹿児島県)のほか、複数の原発が停止する可能性がある。テロ対策施設は、攻撃を受けた原発が大事故に至るのを防ぐ要である。未完ならば安全確保の最低条件である規制基準に不適合となり、運転は認められない。停止命令は厳しい措置だが、規制委の判断は筋を通したといえる。」(日経社説:2019.4.25)などと、いつになく「物分かりの良い」主張となっている。「特重施設」の扱いについては、各紙とも扱いは非常に慎重であり、福井新聞の6月15日の九電川内1号の運転停止記事も、4面に「川内1号機来春停止へ」という小さな取り扱いであり、日経も5面で「原発テロ対策重く」というように相対的に軽い記事となっている。
 IAEAは事故時に適用される深層防護概念として、通常運転の故障から、過酷事故による放射性物質の大量放出までを5段階に分けているが、3.11まで日本では事故が起きても設計基準内に抑え込むレベル3までの対応しかとっておらず、炉心溶融など過酷事故を意味するレベル4や、住民を放射性物質から守るため、避難させるレベル5の事故は、全く想定していなかった。3.11からわずか1年後の2012年、福島第一原発事故原因が不明かつ新規制基準も定まっていない中で、当時の民主党・野田政権は、強引に大飯3・4号を再稼働させ、その後、2014年の福井地裁の樋口裁判長の運転差し止め仮処分判決により運転停止を命ぜられたが、それをも無理やりひっくり返して再々稼働させている。また、2015年には九電川内1号機をレベル5の住民避難計画を全くおざなりにしたままで強引な再稼働を行うなど、全国の原発を次々再稼働させてきた規制委・国のこの間の動きを見るかぎり、今回は素直に原発の停止を決断したとは考えにくい。「特重施設」(「テロ対策施設」)はIAEAの深層防護概念をさらに上乗せした規制委独自の規制である。「炉心損傷の防止」、「格納容器の閉じ込め機能等の維持」、「放射性物質の拡散抑制」、「指揮所等の支援機能の確保」については、シビアアクシデントの深層防護概念と共通するものの、航空機の衝突など「原子炉建屋外設備が破損した場合等への対応 」については独自になる。昨年6月にトランプ大統領が金正恩氏と首脳会談をするまで散々北朝鮮のミサイルの脅威を煽ったが、2015年7月の参院において山本太郎議員は、日本がミサイル攻撃を受けたときのシミュレーションや訓練を政府が行っていることを確認したうえで、川内原発について、最大でどのぐらいの放射性物質放出を想定しているかをただした。これに対し、当時の規制委の田中俊一委員長は、原発へのミサイル攻撃の事態は想定しておらず、事故が起きたときに福島第一原発の事故の1000分の1以下の放射性セシウムが放出される想定だなどと、ごまかしの答弁をした。田中前委員長の1000分の1以下の放射性セシウムの放出という答弁は、ミサイル攻撃で格納容器が崩れないことを前提として発言しているものである(「アサート」2015.9.26参照)。ようするに当時は全くミサイル攻撃などのテロ対策を考えていなかったのである。ところがその規制委が「変身」したのであるから、規制委・国への運転停止を強制するものは「上部」からの指示以外にない。国家より上部とは、海外からの圧力という以外にはない。原発全面停止という非常事態を下手に煽らないマスコミの報道の「従順さ」がそれを物語っている。東芝の解体でウエスチングハウスという難問が一応決着し、日立の英原発計画のとん挫、三菱重工のトルコ原発計画も中止に追い込まれる中で、危険極まりない日本の原発の再稼働の「広告塔」としての意義は国際的にはなくなったということであろうか。詳細はまだやぶの中である。

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