【投稿】トランプ関税:米最高裁で敗北--経済危機論(173)

<<トランプ氏:「ひどい」判決、「国家の恥辱」>>
2/20、米最高裁は、トランプ大統領が国際経済緊急事態権限法( International Emergency Powers Act (IEPA))に基づき世界の大半の国々に広範な関税を課したことは憲法上の権限を逸脱したとの判決を下した。6対3の判決を下し、トランプ大統領が同法に基づく関税の正当性を主張する根拠は「大統領の正当な権限を超えている」と判断し、関税権限は議会にあることを再確認したのであった。ただし、この判決は、トランプ大統領が課した全ての関税を撤廃するものではなく、アルミニウムと鉄鋼への関税はそのまま残るものの、他のほとんどの関税を撤廃するものである。

 この裁判は、昨年8月、連邦巡回控訴裁判所が、国際緊急経済権限法を用いて関税を課したことは憲法違反であるとの判決を下したことを受け、最高裁判所に持ち込まれていたものであった。当初、トランプ大統領が最初の任期中に任命した保守派判事3名によって審理され、圧倒的多数派を占める保守派判事によって、トランプ氏に有利とみられていたのであるが、トランプ氏が任命したエイミー・コニー・バレット判事とニール・ゴーサッチ判事までもが多数意見に賛同し、トランプ氏にとって決定的に不利な判決が下されたのである。

判決文は、関税は基本的に課税の一形態であると強調し、憲法第1条第8項を引用し、憲法起草者が関税や税金を課す権限を意図的に議会にのみ付与したことを強調し、「関税を課す権限は明らかに課税権の一部である」と述べ、行政機関の規制権限には、規制手段としての課税権は本質的に含まれない」と判断し、規制権限と課税権限の間に明確な線を引くことで、最高裁は経済権限の一極集中を防ぐことを目的とした憲法の中核原則を再確認したのであった。
ジョン・G・ロバーツ最高裁判所長官は、「大統領は、無制限の金額、期間、範囲の関税を一方的に課すという特別な権限を主張している。この主張された権限の広範さ、歴史、そして憲法上の文脈に鑑み、大統領はその権限を行使するための明確な議会の承認を得なければならない」「大統領が一方的に関税を課すことを可能にする条項は何も存在しない」と判決文で述べている。

 同日、トランプ大統領は、この「ひどい」“terrible”判決を激しく非難し、緊急記者会見で、最高裁を「国家の恥辱」“disgrace to our nation”と批判し、関税措置を無効とした判事たちは「外国の利益に左右されている」、「極めて非愛国的で、憲法に不忠実だ」とまで極言する事態である。

トランプ氏は、へし折られた大統領権限の返す刀で、新たな関税、「大統領令により新たに10%の全世界関税を課す」と発表、この新たな関税は、現在も適用されている既存の関税に上乗せされると述べている。しかし、この1974年通商法第122条に基づく新たな関税は150日間しか継続できないが、それでも、他の権限を用いて高関税を維持する方法を見つけると主張している。トランプ政権が、たとえ代替的な貿易権限を追求したとしても、それらの手続きはより遅く、より制限的とならざるを得ないのが現実であろう。たとえ関税を継続する方法を見つけたとしても、これは重大かつ、決定的な敗北であることは間違いない。

<<米国商工会議所「企業と消費者にとって朗報」>>
トランプ氏はいら立ちを募らせているが、判決は米国商工会議所から歓迎され、「企業と消費者にとって朗報」と報じられている。また、欧州議会の国際貿易委員会のベルント・ランゲ委員長は、この判決は「法の支配にとって前向きなシグナル」だと評価している。

この判決がもたらす現実は、すでに、米国貿易裁判所では、数百件の関税還付訴訟が係争中であり、還付額は1750億ドルを超えると推定されており、既に徴収された還付金について膨大な不確実性を生み出し、さらにこれまで交渉されてきた既存の貿易協定そのものが改めて問い直され、複雑化させることが避けられないことである。
この最高裁の判決により、関税を賄うために多額の費用を支払わなければならなかった大手小売業者に対し、政権は手数料の返還を迫られる可能性も避けられない。業界団体はすでに「完全、迅速、かつ自動」の返金手続きを求めており、中小企業は不法に奪われたと主張する資金の回収に長期間の法廷闘争を強いられる余裕はないと主張している。もちろん、平均的な米国の家庭がは1,700ドル以上の関税コストを負担してきたと推定されているが、高いコストを支払った消費者がそのような救済措置を受けられるかどうかは、全く明らかではない。不法関税の返還を求める今後の訴訟は、大混乱を招くことは必至である。
 アトランティック誌のスタッフライター、デビッド・フラム氏は、「関税導入後の訴訟は悪夢のような事態になりそうだ。不当に課税された原告は、不法に奪われた金の返還を求めて訴訟を起こすだろう。では、顧客は不当な課税によって生じた価格上昇分の一部を請求できるだろうか?トランプ政権の混乱はさらに続くことになるだろう。」と予測している。

 2/20、ダラス経済クラブで講演したベッセント財務長官は、4月以降、政府が不法に徴収した1750億ドルの関税収入をめぐって「フードファイト」が起こると予想しているかと問われて、アメリカの企業や消費者が関税の払い戻しを受ける可能性を軽視、無視して、「アメリカ国民はそれを目にしないだろう」と述べている。

トランプ大統領にとって、この判決は、貿易相手国に圧力をかけ、経済報復の手段として多用してきた関税という脅迫手段を失わせることが明らかであり、関税はもはや引き返すに引き返せない伝家の宝刀である。新たな関税を次から次へと繰り出さないわけにはいかないところへ自らを追い詰めている、それが実態であろう。
そして、関税を押し付けられてきた各国は、今や、米国大統領が交渉において何の権限も持たないことが明示されたため、関税還付や新たな関税は混乱と不透明性を招くことが明らかである。

この判決の直接的で実際的影響は、深刻な不確実性とも言えよう。一夜にして、トランプ氏が自慢にしていた巨額の歳入の穴が開いてしまい、緊急代替関税発動に振り回され、経済的政治的危機をさらに増大させるリスクを深化させてしまったのである。

大胆な政策転換で、関税戦争から脱却する緊張緩和と平和的な道こそが問われているが、今や独裁者・暴君と化し、内外ともに孤立化しているトランプ氏にとっては、一層危険極まりない戦争経済への危険性が差し迫っているとも言えよう。
(生駒 敬)

 

カテゴリー: 平和, 政治, 生駒 敬, 経済, 経済危機論 パーマリンク