Assert Webの更新情報(2025-01-09)

【最近の投稿一覧】
1月9日 【投稿】「米国の友人になることは致命的である」―バイデン大統領による日本製鉄のUSスチール買収阻止―
1月5日 【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文
1月5日 【翻訳】中国は、U.S. Steel 買収商談が揺らぐことを望んでいる
12月31日【投稿】移民排除:トランプ陣営、亀裂拡大--経済危機論(153)
12月25日【投稿】トランプ次期政権の失速と破綻--経済危機論(152)
12月17日【投稿】韓国戒厳令と尹大統領の弾劾―そして属国日本は
12月15日【投稿】中東危機:米・イスラエル、イラン核施設攻撃へのエスカレート
11月22日【投稿】バイデン政権、退任直前の危険な世界戦争拡大への挑発
11月18日【投稿】「103万円の壁」と国民負担率の考え方
11月10日【投稿】トランプ勝利と日本の針路
11月6日 【投稿】米大統領選:バイデン/ハリス政権の敗北
10月30日【投稿】総選挙結果について(福井の事例を含め)
10月29日【投稿】衆院選:自公政権の大敗と流動化
10月29日【投稿】総選挙結果について
10月27日【書評】『大阪市立大学同級生が見た連合赤軍 森恒夫の実像』
10月23日【投稿】戦争挑発拡大と米大統領選--経済危機論(151)
10月12日【投稿】被団協・ノーベル平和賞受賞 vs. 石破首相「核共有」
10月2日【投稿】米/イスラエル:中東全面戦争への共謀--経済危機論(150)
9月28日【投稿】バイデン/ハリスの大量虐殺加担--経済危機論(149)
9月25日【投稿】海自艦の中国領海侵犯と福島第一核汚染水で完全白旗:日中外相会談の内実
9月11日【投稿】支離滅裂:米大統領選討論会--経済危機論(148)
9月3日【新刊】「大阪市立大学同級生が見た連合赤軍森恒夫の実像」が出版されました。
9月2日 【書評】『賃金とは何か―職務給の蹉跌と所属給の呪縛』―濱口桂一郎著
8月25日【投稿】バイデン撤退とハリス指名--経済危機論(147)
8月23日【投稿】福島第一原発の溶融核燃糾(デプリ)取り出し失敗―『廃炉』は不可能・核の呪文から解放され正気に戻れ
8月18日【映画】I AM A  COMEDIAN(アイアム・ア・コメデイアン)・テレビから消えた男
8月13日【投稿】全国知事会での小池都知事の「地方切り捨て」発言と46道府県の批判
8月11日【投稿】根拠なき「南海トラフ地震臨時情報」の発表と岸田首相の中央アジア歴訪中止
8月10日 【投稿】長崎平和式典で米欧「チーム・ジェノサイド」の敗北
8月6日 【投稿】米国株式市場の暴落--経済危機論(146)
8月5日 【投稿】史上最大の暴落「ジャパニック・マンデー」--経済危機論(145)
8月1日 【投稿】世界的規模のシステム障害とサイバー攻撃の可能性を考える
7月30日【投稿】米大統領選:トランプ苦戦への急展開--経済危機論(144)
7月29日【投稿】醜悪なパリオリンピック開会式
7月27日【投稿】日本原電敦賀2号原発は原子炉直下に活断層ありが確定、ようやく廃炉へ
7月14日【投稿】トランプ暗殺未遂とNATOの全面核戦争計画
7月10日【投稿】円安で「五公五民」どころか、今や「六公四民」:岸田政権は天下の悪代官
7月8日 【投稿】フランス「新人民戦線」、1位獲得--経済危機論(143)
7月7日 【投稿】英スナク政権の歴史的大敗--経済危機論(142)
7月3日 【書評】『所有論』鷲田清一著(講談社:2024年1月30日)
7月1日 【投稿】日本はガスライティングから正気に戻れー米大統領選テレビ討論で明らかになったことー
6月28日 【投稿】米大統領選・党首討論とバイデン氏の失態--経済危機論(141)
6月22日 【投稿】再生エネルギー賦課金は官製詐欺商法
6月15日 【投稿】
G7・「不幸な集まり」--経済危機論(140)
5月31日 【投稿】大賀正行氏のご逝去を悼む
5月28日 【投稿】危険な核戦争瀬戸際政策--経済危機論(139)
5月16日 【投稿】バイデン・トランプ共通の謬論--経済危機論(138)
4月27日 
【投稿】米経済:スタグフレーション化--経済危機論(137)
4月15日 【投稿】イラン報復攻撃とバイデン政権--経済危機論(136)
3月31日 【投稿】米・橋梁崩壊事故が示したもの--経済危機論(135)
3月24日 【投稿】日銀の「異次元」緩和解除と巨大な副作用
3月21日 【投稿】米国のTikTok規制法案とSNSの利用
3月19日 【投稿】武器輸出の行き着く先
3月18日 【投稿】バイデン氏の焦りと動揺--経済危機論(134)
3月8日 【投稿】自然を無視した原発に場所はない―志賀原発の地震被害の公開
2月27日 【投稿】株価最高値更新の虚実--経済危機論(133)
2月25日 【投稿】岸田売国政権下の新NISA狂騒曲と株高
2月20日 【投稿】核管理が完全に崩壊した日本
2月15日 【投稿】米政権:ガザ・ラファの虐殺、ゴーサイン--経済危機論(132)
2月12日【投稿】タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビューと「トランプ2.0」
2月4日 【投稿】バイデン:中東全域への緊張激化--経済危機論(131)
1月30日 【投稿】能登半島地震1か月―『天災のあとは、すべて人災』
1月28日 【投稿】国際司法裁:イスラエルへの大量虐殺阻止命令--経済危機論(130)
1月23日 【投稿】バイデン:イエメンへの戦争拡大--経済危機論(129)
1月16日 【投稿】志賀原発・能登半島地震で被害ーそれでも再稼働に突き進む政府・規制委・財界
1月14日 【投稿】バイデンの危険なエスカレート--経済危機論(128)
1月9日 【映画評論】『破戒』―監督:前田和男―
1月4日 【投稿】能登半島地震と志賀原発
1月4日 【翻訳】Ukraineの将来は、ドイツやイスラエルの事例ではなくて、朝鮮半島の事例的である。

【archive 情報】
2023年5月1日
「MG-archive」に新しい頁を追加しました。
民学同第3次分裂

2023年4月1日
「MG-archive」に以下のページを追加しました。
(<民学同第2次分裂について>のページに、以下の2項目を追加。
(B)「分裂大会強行」 → 統一会議結成へ
(C)再建12回大会開催 → 中央委員会確立

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【投稿】「米国の友人になることは致命的である」―バイデン大統領による日本製鉄のUSスチール買収阻止―

【投稿】「米国の友人になることは致命的である」―バイデン大統領による日本製鉄のUSスチール買収阻止―

                            福井 杉本達也

1 国家は政治的要素を考えて判断する

日本製鉄による米USスチールの買収計両についてパイデン大統領は1月3日、「『米国の国家安全保障を損なう恐れのある行動を取る可能性がある』と判断して中止命令を出した」(日経:2025.1.5)。日鉄は、不当な政府介入があったとしてパイデン大統領らを提訴した。米鉄鋼会社クリーブランド・クリフスと同社最高経営賀任者、全米鉄鋼労働組合(USW)会長も買収妨害行為で民事訴訟を提起した(日経:2025.1.7)。

これに対し、孫崎享氏は「国家の首脳は当然政治的要素を考えて判断する。たとえそれが『経済問題』であっても。この問題は大統領選挙の結果に直結する政治的に大問題。当然政治的に判断する、それを外国人が不当というのははなはだ僭越」とX(旧ツイッター)に書いた(孫崎享:2025.1.8)。日鉄会長の米大統領ら提訴で何が起こるかとして、「①訴訟中、日鉄幹部は責任取ることなく居残り、②裁判は負けます ③巨額の弁護料を払います ④巻き込まれた首相、大臣は米国から白い目で見られます。」と述べている(孫崎:2025.1.8)。

 

2 「不当な政治介入」とまぬけに吠える日本マスコミ

1月5日付け日経社説は「米国の国家安全保障を損なう恐れがあるとの主張は根拠に乏しく、不当な政治介入である。強く非難する。」「同盟国である日本の企業による正当な取引を強引に阻止することは、米国への投資を萎縮させる懸念も残す。安全保障を理由とした介入は極めて限定的であるべき」と非難した。また、読売は5日付けの社説で「米政府は、独善的な姿勢を改めるべきだ。」「日本は、安全保障のうえで米国の緊密な同盟国のはずだ。日本企業による買収がリスクだというなら、バイデン政権自身が進めてきた友好国との供給網の強化も、前提が崩れる。」と書いた。

また、石破首相の年頭記者会見では、記者の質問に答える形で、「日本の産業界から今後の日米間の投資について懸念の声が上がっているということは残念ながら事実であります。このことは我々としても重く受け止めざるを得ないものでございます。アメリカの国内法に基づき審査中でございました個別の企業の経営に関する案件について、日本政府としてコメントすることは不適切でありますので、コメントはいたしませんが、このような懸念があることを払拭すると、そういうふうに向けた対応は合衆国政府には強く求めたいと思っております。なぜ安全保障の懸念があるのかということについては、それはきちんと述べてもらわなければ、これから先の話には相成りません。いかに同盟国であろうとも、これから先の関係において、ただ今申し上げた点は非常に重要だ」と述べている(首相官邸)。また、1月3日、大統領買収阻止命令後の記者会見でカービー補佐官は「『この決定は日本をめぐるものではない。アメリカ最大の鉄鋼製造の企業をアメリカ資本の企業として維持することについての決定だ。日本との特別に緊密な関係や、同盟関係についての決定ではない』と述べて、日本企業による買収計画であることはバイデン大統領の判断に影響を与えておらず、日本との同盟関係に変わりはないと強調」したが、嘘八百である(NHK:2025.1.4)。日本には安全保障の懸念があるというのがバイデン大統領の正式見解である。これ以上の答えはない。

 

3 「アメリカの敵になることは危険かもしれないが、友人になることは致命的である」

ヘンリー・キッシンジャーに「アメリカの敵になることは危険かもしれないが、友人になることは致命的である」という有名な格言がある。ベトナム戦争末期に、南ベトナム傀儡政権を見捨てたときの言葉だと言われる。日経=FTの記事で、FT東京支局長のレオ・ルイスは、同様の「米国には永遠の友人や敵は存在せず、あるのは国益だけだ」というキッシンジャーの言葉を引用し、「米国は友情の前にはいくつもの巨大な注意事項がある」。「フレンドショアリングは概念として存続するかもしれないが、今回の一件で明らかになった現実の前では、この言葉はあまりにも生ぬるい。」と書いている(2025.1.8)。「緊密な同盟国のはず」などという言葉はあまりにも政治的リアリティを欠いている。これがこれまでの自民党政治の土台であった。

 

4 カナダは米国の51番目の州

1月6日、カナダのトルド首相が辞意を表明した。物価高や移民問題で支持率が低迷する中、追い打ちをかけたのがトランプ次期米大統領による追加関税の表明であった。トランプ氏はSNSに「カナダが米国に股収されれば関説はなくなる。米国がカナダ存続のために大規模な貿易赤字や補助金に苦しむことはもはやできない」と投稿した(日経:2025.1.8)。

カナダはこれまでも米国に従順で、中国・通信機器最大手のファーウェイの副社長孟晩舟氏を2018年12月1日、米国の要請により、対イラン経済制裁に違反して金融機関を不正操作した容疑でカナダ国内で逮捕した。しかし、2021年9月24日、孟氏は米司法省との司法取引し釈放された。米国にとって、人なつこい「犬」でも「犬」である。用が済めば切り捨てられる。日本も「同盟国」という呪文から早く解放されなければならない。

対照的に、メキシコのシェインパウム大統領は、追加関税の脅しを受けながらも「権力とは謙虚であること。メキシコは決して頭を下げ続けたり、卑屈になったりすることはない」と、トランプ氏の理不尽な主張には一歩も引かない構えである(日経:2025.1.7)。

 

5 苦しい時の「中国叩き」は無益

東京新聞の8日の社説は、「23年の世界粗鋼生産は1位の中国宝武鋼鉄集団以下、上位30社のうち17社を中国勢が占める。生産過程での脱炭素技術に優位性を持つ日鉄とUSスチールが組んで世界市場で存在感を増せば、市場を支配しつつある中国勢との健全な競争に向けた起点になり得たのではないか。」と書いている。

1977年、日中国交回復後の経済協力の目玉として、日鉄が技術支援し中国初の近代製鉄所となる上海宝山製鉄所を建設した。2004年からは日系自動車メーカー向けに合弁の宝鋼日鉄自動車鋼板(BNA)を設立し、急増する車用鋼板の需要を取り込んできた。しかし、BYDなど中国EVメーカーの躍進で、自動車産業の競争環境が激変し、日系メーカーは13%も販売台数が落ちるなど苦戦を強いられ、鋼板の競争も激しさを増している。結果、2024年7月23日、日鉄は半世紀およぶ宝山鋼鉄(中国宝武鋼鉄集団傘下)との合弁事業から撤退すると発表している(日経:2024.7.24)。USスチールの買収計画はこうした鉄鋼の激変の中で提起されたものではあるが、日系自動車メーカーの中国における苦戦もあり、圧倒的な中国鉄鋼業界に対抗できる環境にはなりえない。日本は最大の基幹産業の自動車をはじめ産業技術力において、中国勢に後れを取り始めているということであり、不純物が多く品質の劣る電炉転換に切り替えたところで、競争力を回復できるとは思ない。日経は1月4日の社説で「経済安保で中国抑えよ」と題して、「いいとこ取りの中国に、自由貿易を都合の良い姿に変えさせてはならない。重要な技術やサプライチェーン(供給網)を特定の国に握られないよう、経済安全保障の観点」が重要と書いたが、苦しい時の“中国叩き”は何も生み出さない。

 

6 日鉄はまともに買収交渉を考えてきたのか

そもそも、買収が失敗した場合、5億6500万ドルの違約金を支払う義務が生じるということ自体が問題である。かつての繊維交渉や自動車輸出制限、日米半導体交渉、米国内の不動産買収等々。今回の買収に米政府が介入しないという保証はなかった。当然、自らの責任以外の外部要因で買収交渉が頓挫することとなれば、違約金は支払わないという条項を設けておくべきものである。

最悪なことは日鉄がネオコンの元国務長官のポンペオ氏をアドバイザーに起用したことである(Bloomberg 2024.7.20)。トランプ氏は大統領選後早々に裏切り者のポンぺオ氏を次期政権構想から外したが、トランプ氏に喧嘩を売るようなものである。

買収価格の合意の時期もあるが、大統領選真っ只中に買収交渉が具体化したというのも、あまりにも甘い見通しである。当初、日鉄側は民主党・バイデン再選が濃厚と踏んでいたのかもしれないが、ラストベルトが選挙の争点にならないはずはない。USスチールは本社をペンシルバニア州ピッツバーグに置く。周知のように、ペンシルバニア州は大統領選ではスイング・ステートと呼ばれ、共和党と民主党の勢力が拮抗している。誰が大統領候補であろうと、買収交渉に下手に妥協することは許されないのである。

日鉄とUSWが交渉した段階で、USWは「既存の高炉設備ではなく、組合員が所属しない米南部の竃炉の製鉄所に『日鉄は最終的には生産を移管する』」と不信を強めていたことである(日経:2024.12.10)。日本の鉄鋼3社は製鉄工程でコークスが必要な高炉を使う。高炉は効率的に商品質な製鉄が可能な半面でCO2排出量が多い。一方、電炉はコストや品質に課題があるものの非化石電力が調達できればCO2排出量が削減できる。JFEは倉敷の製鉄所でを28年稼働を目指し大型電炉の導入を計画している。日鉄も広畑と八幡の製鉄所で電炉を導入を計画している(日経:2024.7.23)。しかも、メンバーシップ制の日本とは異なり、米国はジョブ制である。ジョブ制は労働者はその職場で該当するジョブがなくなれば解雇される。高炉のジョブと電炉のジョブでは異なる。労組が抵抗することは目に見えていた。

日鉄の米大統領提訴は現役員の責任逃れの時間稼ぎとも思える。

カテゴリー: 政治, 杉本執筆, 経済 | コメントする

【翻訳】中国は、U.S. Steel 買収商談が揺らぐことを望んでいる

【翻訳】中国は、U.S. Steel 買収商談が揺らぐことを望んでいる

The New York Times  International Edition、December 24-25, 2024

Opinion : The New York Times publishes opinion from a wide range of perspectives in hope of promoting constructive debate about consequential questions.
“ China wants the U.S. Steel deal to falter” by David Burritt
[ the president and chief executive of U.S. Steel.]

 この取引は米国製造業の将来にとって決定的な瞬間である。米国は正しい決断を下さねばならない。
 U.S. Steelは一年前に日本の日本製鉄株式会社(以下”Nippon Steel”と称す) によって買収されることに同意した。
この取引は我々の会社の将来を保証し、我社に投資し、より競争力ある革新的かつ力強い鉄鋼業に進化させるものである。この取引は米国の全世界における地位を強化するであろう。
 我々の最強の味方の一人(Nippon Steel)として提携を深めて我々に中国との騒がしい、行き届かない市場操作とよく戦うことを許し認めてくれる。
 その時以来、President Baiden and President-elect Donald Trump は、この取引に反対であると言ってきている。U.S. Steelは、アメリカ人によって所有されるべきであると主張して。多くの多様なる記事は、Biden政権の最終決断は近々に下されるであろうと論じている。
 U.S. Steel のような象徴的な会社の売却商談は、米国民の感情を深く揺り動かすことは理解出来るし、私もその感情を分かち合っている。
 U.S. Steelは、この国を形作るのに貢献した一つの会社(”institution”)である。 我々は、歴史に誇りを持つと同様に、今日の現実に対峙しなければならない。U.S. Steelは、もはやAndrew Carnegieの時代であったような米国産業界のリーダーではない。 我々は今やこの国の三番目の鉄鋼メーカーに過ぎず、世界では24番目である。 我が社の雇用は、1943年がピークであって、生産は1953年がピークであった。そして、我社の主要な顧客は今では自動車産業や家電メーカーであって、かって支えてくれた軍事や社会/産業基盤の分野ではなくなっている。
 この商談は、U.S. Steel にとって最良であり米国にとってもそうである。 実際、それはU.S. Steel を傷つけず健全に保つ唯一の選択肢である。 我々は、我社の労働者、地域の選ばれた職員や自治体からの支持を受けてきている。 今日、我々は利害関係あるすべての人々に当社の繁栄と米国の鉄鋼産業の将来について、共に働き、正しいことを行い、この取引を成立させるために共に働こうと呼びかけている。
 Nippon Steel は、我社の労働者や設備に対して重要な約束を行ってきており、それらは拘束力があり実行可能である。 Nippon Steelは、U.S. Steelが米国で組織された会社として、社名は変えず、本社を Pittsburgh に置いたまま保持すると約束している。 さらに、U.S. Steelは、米国人の統治チームを持ち、その取締役会の大多数を占めるであろう。Nippon Steelは、U.S. Steelの union-represented facilities* に$3 billion(約4,500億円) 近くの投資を行い、4,000人以上の雇用をPennsylvaniaとIndiana 州で保証し、5,000人以上の雇用を作り出すであろう。
  *union-represented facility : そこで働く労働者が組合に加入している設備/施設と
   訳すべきか。 1/5 朝日新聞朝刊の記事によれば、U.S. Steel の工場では、高炉で働 く従業員は、組合に組織されていて、この買収商談に反対している全米鉄鋼労働組合(USW)に加入しているのに対して、電炉で働く従業員、労働者は、組合に組織されていない、としている。

 Nippon Steel は約定によって、我々の最終製品、生産物が、原料の鉄鉱石や石炭が米国内で採鉱され、溶解され、作り続けられる。 U.S. Steel の米国にある生産設備を永久に止めない。また、スラブとしての半製品、粗鋼は輸入しない。 加えて、外国との取引において、U.S. Steel の利益になるように行動し、不公正な取引から我社を守る。 また、我社は、Nippon Steel の立場に配慮することなく自社の議決に従って行動できるであろう。これこそが、我社従業員と我が国が望むべき未来である。これがNippon Steel が提供する未来であり、それなくしては、実現できない将来である。
 U.S. Steel は、我社の union-represented facilities に投資する資源/資金を持っていない。Nippon Steel との取引がなければ、我社は、以前に描いた方針に立ち戻るであろう。それは、組合化されていない設備に集中的に効率化投資をすることを含んでいる。
 皮肉なことに、この買収商談を妨害することは、鉄鋼労働者組合のトップリーダーとBiden政権の両方が、救いたいと振舞っている設備や雇用の衰退へと導くであろうし、100年以上続いている鉄の町:Pittsburgh の終焉に近づけるであろう。さらにこの妨害は、米国鉄鋼産業から世界の舞台でよりよく競争する機会を奪うであろう。

 我々は、計り知れない重圧の下で産業界を運営している — 我々の操業をより友好的風潮にする要望と中国鉄製品の容赦ない大量供給の重圧の下で。 これらの課題は、大胆かつ戦略的決断を必要とする。このことは、何故にU.S. Steel が革新的で低コスト、低カーボンの製造技術を追求し、より持続的で競争力ある将来への道を目指す理由である。 この道は、我々に魅力的目標を獲得させるものであり、我々の主な競争相手の Cleveland-Cliff が、昨年、我社の買収活動を始めた時に、我社の取締役会は、代案も含めて再審議して、いかなる取締役会も、そうしたであろうように、Nippon Steel の$ 14.9 billion (約2兆2,350億円)の買収提案を受け入れる決断をしたのである。

 我々の中国の競争相手は、この買収商談を注意深くながめていて、むしろ失敗することを望んでいる。この商談で我社の従業員/労働者の仕事はより確実に保証され、顧客は、よりよいサービスを受けられ、さらに、世界マーケットにおける中国鉄鋼生産の優位は弱まるであろう。 もし、この取引が成就しなければ、U.S. Steel はさらに弱体化するであろう。しかし我々は、それを起こしてはならない。 Nippon Steel と U.S. Steel は、この取引を完成させて、米国の鉄鋼生産のより強化された将来を確保する準備ができている。

                        [完]  (訳: 芋森)  

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【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文

【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文

                           福井 杉本達也

経済産業省は2024年12月17日に、新しいエネルギー基本計画の原案を示した。2040年度の発電量に占める原子力発電の割合を2割程度とし、再生可能エネルギーは4~5割程度に上げる。生成AI(人工知能)の普及による電力需要への対応と脱炭素の両立を図るために、原発を再生エネとともに「最大限活用」するという。さらに問題なのは、東日本太震災の大被害を受けて、原発を制限しようとしていた動きを大きく変えようとしている。原案ではこれまでエネルギー基本計画にうたわれていた「可挺な限り原発依存度を低減する」との文言を削除した。生成AIなどによるデーターセンターや半導体工場の新設による電力需要の大幅な増加により、2040年度には今日の発電電力量よりも1~2割程度多くなると見込み(大風呂敷を拡げ)、そのため、古くなった原発の建て替えを進め、次世代革新炉も建設するというのである(日経:2024.12.18)。

2 歴史から教訓を学ばぬ者は、過ちを繰り返して滅びる
2011年3月11日、福島第一原発は人類史上最悪レベルの原発事故を引き起こし、東日本が滅亡の危機に直面したが、幸いにも奇跡が重なり、東日本の滅亡は免れた。しかし、放出された放射性物質による被曝線量が年1ミリシーベルト以上の地域は、8都県で約1万3千平方キロ(日本の面積の約3%)に及んだ(朝日:2011.10.11)。原発事故を引き起こした原因は地震と津波であるが、日本の原発は巨大地震に耐える設計で建造されていない。しかも、2010年には巨大津波によって福島原発が壊滅的な打撃を受けることが予想され、対策が提言されていたにもかかわらず、東電は何の対策も講じなかった。
『原発を止めた裁判官』・樋口英明氏は、(1)原発事故のもたらす被害は極めて甚大、(2)それゆえに原発には高度の安全性が求められる、(3)地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということにほかならない、(4)わが国の原発の耐震性は極めて低い、(5)よって、原発の運転は許されないと単純明快に述べている。「歴史から教訓を学ばぬ者は、過ちを繰り返して滅びる」。いま日本は滅びる寸前にある(植草一秀2024.12.22)。しかも、世界のすべての国に取り返しのつかない損害を与えながら。

3 AIによる電力需要という欺瞞
AIが電力需要の1~2割を占めるようになるというなら、そのような産業は存続できない。AIが電力需要が大幅に削減するとか、発電にかかる経費を大幅に下げることができるというなら、産業としての意味はあるが、単にエネルギー需要を増加させるというならば産業としての存続する意味はない。
AIのデーターセンターは膨大な電力を消費する。IEAは2026年の世界の電力消費量がAIの普及などを受けて、2022年の2倍に膨らむと試算する。日本でも、電力中央研究所は2021年に9240億キロワット時だった日本の電力消費は2050年に最大で37%増えると予想する。生成AIは大量のデータを学習しながら文章や画像を自動的に作るが、そのため膨大なデータ計算が必要である。AIのディープラーニングでは、大量のデータを機械に読み込ませることで、機械が自らそのデータから規則性や特徴を導き出し学習する。この際、CPU (Central Processing Unit:中央演算処理装置)よりはるかに高い演算性能をもつGPU(Graphics Processing Unit:画像処理演算装置)サーバーは、比較的安価にディープラーニングを実行できる。しかし、膨大なデータのほとんどはゴミである。AIはそのゴミの中から膨大な計算処理によって目的物を探し出す。その処理をGPUサーバーが行うが、この情報処理はエントロピーの増大であり、情報というエントロピーは熱エネルギーという物理的な形態で増加したエントロピーをコンピューターから外部に排出することによって,内部を低エントロピー状態に持っていく。したがって、データーセンターの電力消費のほとんどは、この空調や水冷などの冷却工程に使われる。
工業生産を支える本質的な技術はエネルギー供給技術である。算出エネルギー量/投入エネルギー量=エネルギー算出比>1.0 つまり、投入エネルギー量より算出エネルギー量が大きいことが条件である。(参照:近藤邦明HP:「工業化社会システムの脱炭素化は不可能」2021.3.25)AIはデープランニングによって、省エネや生産性の向上に寄与するかもしれないが、とても、その投入電力消費量に見合うだけの算出エネルギーを生み出す(省エネを含めて)とは思えない。データセンターが増えれば増えるほど、生産力が落ちると考えられる。経産省官僚のAIによる電力消費量の増加という理屈付けは、物理的にも技術的にも経済的にも全く整合性のとれない作文にすぎない。

4 GXという欺瞞
2023年にグリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針を閣議決定したが、原発は発電時に温暖化ガスを排出しない脱炭素電源であると主張している。50年の温暖化ガス排出実質ゼロの達成に向け、原発と再生エネを最大限活用する。政府は、原子力の2割程度の目標達成には、国内に現存する36基の原発ほぼすべてに相当する稼働が欠かせないとみる。さらには、廃炉原発の建て替えや再稼働を推進とする(日経:同上)。
原発はゼロエミッションだというが、それは発電時に二酸化炭素を排出しないというだけであり、建設時や維持管理には膨大な二酸化炭素を排出している。また、放射性廃棄物も、セシウム137の半減期は30年であり、30年たたないと半分にはならない。100年たっても1/10は残る。プルトニウム239の半減期は2万4千年で安全な水準には10万年以上かかる。その間、放射性廃棄物を管理するために膨大な石油・天然ガス・石炭などの化石エネルギーが投入されねばならない。10万年後に人類が生存しているかどうかもわからない。
政府・経団連など、日本の支配層はまともに原発の危険性について考えようとしていない。ばかげた「エネルギー基本計画」という作文から目を覚まさねばならない。

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】移民排除:トランプ陣営、亀裂拡大--経済危機論(153)

<<「H-1B」問題の浮上>>
1/20に米トランプ次期大統領の新政権発足が控えているにもかかわらず、政権与党・共和党内部、そしてトランプ再選の原動力となってきたMAGA運動(Make America Great Again・アメリカを再び偉大に)内部の亀裂が露呈し、対立が先鋭化し始めている。
きっかけは、移民排除をめぐる外国人労働者問題の浮上である。対立の発端は「H-1B」ビザプログラムである。このビザは、大卒資格を必要とする専門職を対象とし、最大6年間の滞在を許可する、外国人材の就労ビザであるが、大手独占企業とハイテク企業が、差別的な低賃金労働を確保する手段として徹底的に利用し、多大な利益を享受してきたことにある。
 このビザについて、経済政策研究所(EPI)は報告書(April 11, 2023)で、H-1Bビザは「米国労働者の賃金や労働条件に悪影響を与えることなく、熟練職種における真の労働力不足を補う」ために使用されていない実態を明らかにし、「テクノロジー企業やアウトソーシング企業は、大量解雇の時期にH-1Bビザプログラムを悪用し続けている。上位30社のH-1B雇用主は、2022年に34,000人の新規H-1B労働者を雇用し、2022年と2023年初頭に少なくとも85,000人の労働者を解雇した。」ことを明らかにし、「このプログラムを支配している残りの企業は、熟練した移民労働者に低賃金を支払い、米国の仕事を海外に移転することでこのプログラムを悪用するアウトソーシングビジネスモデルを採用している」現状を厳しく警告している。
しかも、雇用主はH-1B労働者に市場価格よりはるかに低い賃金で労働者を雇用し、なおかつ雇用主がビザを管理しているため、転職を事実上制限し、劣悪な労働条件を長期にわたって強制することによって、膨大な超過利潤を懐に入れてきたのである。

そして現在、インドの報告によると、2023年には約69,000人の低技能、中技能、高技能のインド人がH-1Bビザを承認され、さらに210,000人がビザの3年間延長を受けている。さらに少なくとも60万件のインド人H-1Bビザについて、イーロン・マスク氏にグリーンカード取得の支援を求めている、と言う。

こうした横行するH-1Bビザ乱用のその最大の受益者の一人が、トランプ氏に代わる「影の大統領」と言われるイーロン・マスク氏である。トランプの再選活動に2億5千万ドル以上もの資金を投じた世界一の富豪イーロン・マスク氏にとっては、「就労ビザ制度がなければ、ビジネス界(あるいは現在の政府)で現在の地位にまで上り詰めることはなかった」と自ら述べている。

対して、トランプ氏のMAGA運動の支持者たちは、このプログラムこそが米国の雇用を奪っていると主張し出したのである。

<<トランプ氏の寝返り・裏切り>>
 そしてトランプ氏自身も、前回大統領選に際し、2013年の声明で「私はH-1Bビザの使用を永久にやめ、アメリカ人労働者の雇用を絶対的に義務付ける。例外はない。」と断言し、「H-1Bプログラムは高度技能でも移民でもありません。これらは海外から輸入された一時的な外国人労働者であり、アメリカ人労働者の代わりを低賃金でするという明確な目的があります。私は、横行するH-1Bビザの乱用をなくし、フロリダのディズニーでアメリカ人が外国人の代わりを訓練することを余儀なくされたようなとんでもない慣行を終わらせることに全力で取り組んでいます。私は、H-1Bビザを安価な労働力として利用することを永久にやめ、すべてのビザおよび移民プログラムにおいて、アメリカ人労働者をまず雇用するという絶対的な要件を制定します。例外はありません。」と公言していたのである。

 ところが今回、トランプ氏は、何と、イーロン・マスク氏に同調し、高度な技能を持つ労働者の移民ビザを支持すると述べ、「私は所有する不動産に多くのH-1Bビザを持っています。私はH-1Bの信奉者です。何度も利用してきました。素晴らしいプログラムです。」と一転、宗旨替え。完全な寝返り・裏切りである。「H-1Bビザの使用を永久にやめ、例外はない。」と断言していたことに対して、いくばくかの弁明も釈明もまったくなし、この人物のいい加減さを臆面もなくさらけ出している。
いずれにしても、テクノロジー界の大物でフェイスブック創設者のマーク・ザッカーバーグ氏やアマゾン創設者のジェフ・ベゾス氏が、過去にトランプ氏に批判的だったにもかかわらず、屈服し、それぞれ100万ドルをトランプ氏の就任式に寄付しており、こうしたハイテク業界の大物たちが次々とフロリダ州にあるトランプ氏のマール・アー・ラーゴ・クラブを訪れ、直接会って多額の献金をし、トランプ氏はこれを大歓迎、有権者に約束した政策を放棄し、H-1Bビザで利益を得ているこれら大資本・富裕層の側に立っている ことには、以前と全く同様、変わりはない、それが現実である。しかし、この変節・裏切りは、広範な政治的・経済的危機をもたらすであろうことも確実である。

<<「卑劣な愚か者」vs.「幼児だ」>>
マスク氏は、X(旧Twitter)のコメントで、「スペースX、テスラ、そしてアメリカを強くした何百もの企業を築いた多くの重要な人々とともに私がアメリカにいるのは、H1Bビザのおかげです。」と自慢し、「H-1Bビザの使用を永久にやめろ」などと叫ぶのは、「一歩下がって、自分の顔にクソにしてしまえ」(“Take a big step back and f**k yourself in the face,” )「くたばれ」とまでののしり、「この問題について、あなた方には到底理解できないような戦いを挑みます」と宣戦布告している。
マスク氏はさらに強硬姿勢を見せ、移民とテクノロジー業界を非難し続けているMAGA支持者は「卑劣な愚か者」だと述べ、「彼らを排除しなければ共和党は間違いなく没落する」と述べている。

 対して、MAGA運動を支援、主導してきたスティーブ・バノン氏は、イーロン・マスクについて「この男は政府の契約と納税者の補助金で暮らしている…あなたはアメリカ人ですらない、ただのグローバリストだ。アドルフ・ヒトラーから小切手を受け取るつもりだ」と切って捨て、イーロン・マスクを「幼児」と酷評している

そして、移民やH-1Bビザに関するマスク氏の見解を批判した複数の著名なアカウントがプレミアム機能にアクセスできなくなり、保守派、極右陣営から「マスク氏は検閲の疑いがある、報復的な検閲に他ならない。」「我々はHB1ビザに反対を表明したのに、@elonmuskが意図的に我々を締め出したようだ。これがアメリカで最も「自由な」ソーシャルメディアプラットフォームの新たな現状なのか?」と非難される事態である。
慌てたマスク氏は、「このプラットフォームに、もう少しポジティブで美しい、または有益なコンテンツを投稿してください。」と弁明している。

こうした事態の進行は、まさに次期トランプ政権の政治的・経済的危機の顕在化である、と言えよう。
(生駒」敬)

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【投稿】トランプ次期政権の失速と破綻--経済危機論(152)

<<「影の大統領」イーロン・マスク>>
米大統領選に勝利して7週間、1月の大統領就任までは、そして就任後しばらくは、いわば「蜜月期間」であるはずであったが、トランプ氏自身の行動によって、蜜月も台無しと化している。
12/21、米議会両院は政府資金を3月14日まで延長する土壇場の資金パッケージを可決したのであるが、トランプ氏は、連邦政府を今後3か月間維持するための最新の法案で共和党を統一することができず、実に下院共和党議員38人が法案に反対票を投じたのである。トランプ氏は、次期政権にとっても足かせとなりかねない債務上限の撤廃を「アメリカ第一のアジェンダに不可欠」と強調したにもかかわらず、公然と反対票を投じられる事態に追い込まれたのである。ポリティコ紙は「共和党、トランプ氏に逆らう」と表現している。

ことここに至る前段階で、トランプ氏最大の支援者イーロン・マスク氏は、下院共和党ジョンソン議長が当初提案した超党派の下院支出法案について「可決されるべきではない」と宣言し、法案を廃案にするよう圧力をかけ、旧ツィッターXで2億人を超えるフォロワーに、議員に反対票を投じるよう呼びかけ、賛成票を投じた共和党員は2年以内に議席を失うことになるだろうと警告、脅し、廃案に追い込んだのである(12/18)。混乱と混迷の末、12/21早朝、下院と上院は支出計画の別のバージョンを可決したのであった。しかしそれは、債務上限の延長または廃止というトランプ氏の要求を含まないものであった。
 トランプ氏がマスク氏に振り回され、二番手として振舞っている、マスク氏は「影の大統領」のように振舞っており、年老いて疲れ果てたトランプ氏を「鼻先で」操っているとまで揶揄される事態の出現である。
次期トランプ政権が大幅な財政赤字の拡大を提案したとき、たとえ2人でも反対に回れば、トランプ氏が公約に掲げたチップ課税なし、社会保障課税なし、残業課税なしなど、4兆ドルにも及ぶ減税法案の成立は見通せない事態の出現である。

12/22、慌てたトランプ氏はMAGA支持者への演説で、「私が言えるのは、彼(マスク氏)が大統領になることはないということだ」と主張し、「そして私は安全だ。なぜか分かるか? 彼は大統領になれない。彼はこの国で生まれていないからだ」と発言(マスク氏は南アフリカ出身)、この発言が拡散、「これではマスク氏が次期大統領であることが確認される」、「これはJD・ヴァンス(次期副大統領)にとって非常に侮辱的である」と、さらなる逆効果の事態である。
トランプ氏に反対する現職および元共和党員のグループ、リンカーン・プロジェクトは、「歴史上、大統領に選ばれた人物がこんなことを言わなければならなかったことはなかった」と述べ、「トランプ 彼は弱い」と断じている。

<<トランプ次期政権がすでに経済を破綻させている兆候>>
トランプ氏は、次期政権の経済政策の最重要課題として、大幅な金利引き下げを米中銀・FRBに実行させることに焦点を当てている。ところが、FRBのパウエル議長は、12/18、金利を0.25ポイント引き下げたが、「インフレをめぐる不確実性」から、来年の利下げは市場の予想よりもはるかに控えめになると示唆する声明を発表した。これも、いわばトランプ氏に忠誠を誓うものではなく、トランプ氏にとっては予想外であった。この声明を受けて、ダウ工業株30種平均は1123ポイント下落し、終値は1日の安値付近で、10日連続の下落となった。ウォール街のメガバンクは、この日大きな下落を見せ、モルガン・スタンレーは5.25%下落。ゴールドマン・サックスは4.25%下落、シティグループは4.22%下落、バンク・オブ・アメリカは3.44%下落、JPモルガン・チェースは終値で3.35%下落した。(パウエル議長がトランプ次期大統領に大胆なメッセージ

 トランプ氏が、あらゆる輸入品に高関税を課すと脅し続けていることから、引き続くインフレを予測し、FRBは将来の利下げを控えたのだとも言えよう。実際、トランプ氏は「私はEUに対し、米国との莫大な赤字を米国の石油とガスの大量購入で埋め合わせなければならないと伝えた。さもなければ、関税一辺倒だ!」と発言している。

さらにパウエル氏は、記者会見で、トランプ氏が仮想通貨の大口寄付者に対してビットコイン戦略準備金を創設するという約束にFRBが関与するだろうという見方を全面否定し、「我々はビットコインを所有することは許されていない」と述べ、「FRBの法律変更は求めていない」と断言したのである。この発言により、ビットコインは急落に見舞われる。
当然、トランプとパウエルの対決が準備されている、と言えよう。

すでに全米製造業協会は、大統領選後の調査で、2025年の設備投資はわずか1.6%しか伸びないと予測している。バイデン政権の破滅的とされる経済政策の下で、たとえまやかしといえども3%以上だった国内総生産(GDP)成長率は、すでにトランプ政権下では来年2.7%に低下すると予測されている。経済収縮にもかかわらずインフレが進行するスタグフレーションの深化である。
 公式統計をまとめているウェブサイト「トレーディング・エコノミクス」によると、名目賃金の伸びは10月の5.6%から、2025年第1四半期、第2四半期、第3四半期にはそれぞれ4.7%、3.5%、2.5%に低下する。実質賃金は来年伸びなくなるか、下がり始める、トランプ政権の下での実質賃金の低下である。潤うのは富裕層のみ、さらに貧富の差が拡大することが確実視さる兆候である。
まさに、「トランプ大統領が経済を破綻させている兆候はすでに現れている」と言う現実である。(newrepublic.com December 23, 2024)

<<トランプ「帝国主義」の併合希望リスト>>
10/21、トランプ氏は、通行料が高いためパナマ運河の早急な返還を求めると述べ、運河は「他者の利益のために与えられたのではなく、単に私たちとパナマへの協力の証として与えられたものだ。この寛大な寄付の道徳的および法的原則が守られない場合、私たちはパナマ運河を全額、そして疑問の余地なく私たちに返還するよう要求する。」とパナマ運河の奪還を宣言した。イーロン・マスク氏はこの発言を大歓迎、「2025年は素晴らしい年になるだろう2025年は素晴らしい年になるだろう」と応じ、その後、トランプ氏は、運河の名前を「米国運河へようこそ」と変更して応じる軽率さである。
ただちにパナマのホセ・ラウル・ムリーノ大統領は、同国の主権は交渉の余地がなく、1977年の条約に基づきパナマ運河は完全にパナマのものであると、トランプ氏の要求を拒絶した。隣国コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は、「私はパナマの側に立ち、その主権を守るつもりだ…もし米国の新政権がビジネスについて話し合いたいなら、我々は直接会って、国民のためにビジネスについて話し合うが、名誉と尊厳については決して交渉しない」とペトロ氏はXで語り、トランプ氏の発言は地域の安定に対する侮辱だと断言している。

さらにトランプ氏は、12/22、グリーンランド獲得の夢を再び持ち出し、購入は「世界中の国家安全保障と自由」に必要不可欠だと位置付け、これまたイーロン・マスク氏はソーシャルメディアで「おめでとう!アメリカがグリーンランドを獲得できるよう支援してください」とツイートしている。

グリーンランドの首相であるミュート・ブールップ・エゲデ氏は、グリーンランドは「決して売りに出されることはない」、「私たちは売り物ではないし、これからも売り物にはならない。自由を求める長い闘いに負けてはならない」と断固たる拒否のメッセージを発している。

トランプ氏はまた、12/18の投稿で、カナダの首相を「知事」と呼び、「多くのカナダ人がカナダが51番目の州になることを望んでいます。税金と軍事的保護を大幅に節約できます。素晴らしいアイデアだと思います。51番目の州!!!」と宣言している。
さらに加えて、トランプ氏は、米国はメキシコに年間3000億ドルの「補助金」を出していると主張し、「補助金を出すなら、州にしましょう」とまで述べている。トランプ氏と政権移行チームの幹部は、「メキシコをどの程度侵略すべきか」という問題も検討しているとまで報じられている。

いずれも「冗談か」と思われる軽率な発言であるが、トランプ「帝国主義」の併合希望リストとしては、切実な帝国主義的願望を反映していると言えよう。放置されてはならないし、徹底的に孤立化させること、平和と緊張緩和の流れを形成させることこそが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】韓国戒厳令と尹大統領の弾劾―そして属国日本は

【投稿】韓国戒厳令と尹大統領の弾劾―そして属国日本は

                            福井 杉本達也

1 韓国戒厳令

尹錫悦大統領が、12月3日夜に非常戒厳を宣言し、6時間後に解除した。尹大統領は、「共に民主党の立法独裁は、大韓民国の憲政秩序を踏みにじり内乱をたくらむ自明な反国家行為」だとしたうえで、「破廉恥な従北反国家勢力を一挙に清算し、自由憲政秩序を守るため、非常戒厳を宣言する」と主張した。空挺部隊が国会に進入し、市民と対立する一触即発の状況が生じたが、国会は翌4日1時に在籍議員の過半数の賛成で戒厳解除決議案を議決し、尹大統領は午前4時30分頃、戒厳を解除すると発表した。軍が国会の決定を尊重したことで、平和裏に事態を収束させたが、危うく1980年5月18日の光州事件の再来・流血事件に至るところであった(「ハンギョレ」社説:2024.12.4)。

2 米国が命じた戒厳令

マクレガー退役大佐は「私たちは韓国を真の主権国家として扱っているわけではなく、それは私たちが半島全体の軍事的支配を事実上有する特定の協定を結んでいる」と述べている(Douglas Macgregor  youtube 2024.12.5)。

KJ NOHは「米国防省は、戒厳令が事前に通知されていたかどうかについてコメントすることを拒否している。しかし、彼らが知らなかったことは事実上不可能です。韓国でのこれまでの全てのクーデターは、アメリカによって承認されている。これは、アメリカが、韓国の全ての軍隊を事実上支配しているからだ。韓国軍は、在韓米軍の将軍が率いる統合司令部であるCFC(米韓連合軍Combined Forces Command)/UNC(国連軍United Nations Command)司令部に報告します。アメリカはまた、『戦時』のオペレーション・コントロールを維持している(つまり、いつでも好きなときに作戦をコントロールできる)。すべての軍隊の動きは、軍隊、武器、監視、武器が警戒態勢で溢れている密集した軍事領土地域での友軍の砲撃事件を避けるため以外にないとしても、米国に報告され、調整されなければならない。そして、SK特殊部隊(Special Operations Command, Korea)は、国会の部隊と同様、どの軍隊よりもアメリカと最も緊密に統合されており、アメリカとホスト国の特殊戦部隊が一つの組織に統合されている世界で唯一のアメリカ特殊作戦司令部だ。」、「朝鮮半島は地球上で最も厳重に監視されている場所であり、陸地と空域の隅々まで監視されています。国会に兵士を運ぶヘリコプターが、航空輸送許可を得るのが遅れたのは、その地域が航空飛行が最も厳しく制限された地域の1つであるためだと推測されています。その空域の監視と制御は、おそらく直接報告され、米軍司令部と調整されている」と書いている。(KJ NOH 「PEARLS AND IRRITATIONS JOURNAL LIMITED」2024.12.14)

また、マグレガー退役大佐は「尹大統領は事実上、CIAによって選ばれた人物でした。彼は韓国では植民地の手先として広く認識されています。彼は、選挙から数年後、今や自分の党が今後の選挙で勝つ可能性がないことを認識しています。現在、彼の党は「国民の力党」と呼ばれています。それ以前は「自由韓国党」でしたが、いくつかの名前を持ち、実質的にはアメリカが韓国半島で政治的な出来事を操作するための仮面に過ぎません。」と述べている(マクレガー退役大佐:上記)。

奇妙なことに、日本のマスコミは在韓米軍司令部の動きについては全く触れていない。「3日午後11時48分頃、戒厳兵約280人が国会にヘリで投入 された。第1陣を乗せたヘリ3機が国会裏の運動場に次々と着陸した。」(読売:2024.12.14)という記事があるが、このような行為は、在韓米軍・国連軍統合司令部の承認がなければ行うことは不可能であり、むしろ、バイデン政権が尹氏に戒厳令を命じたというのが正解ではないか。

3 北朝鮮軍のウクライナ派兵という大嘘

トランプ氏の米大統領選での優勢が伝えられるようになった10月下旬からキエフ発の共同通信の情報として「ロシア東部の演習場で訓練を終了した北朝鮮兵約2千人が、ウクライナ国境に近いロシア西部に向けて列車などで移動していることが24日分かった。ウクライナ軍筋が共同通信に明らかにした。」とし、また「カービ米大統領補佐官は23日の記者会見で、北朝鮮兵らが東部元山付近から船でロシア極東ウラジオストクに移動したと指摘した。」と報道している(福井新聞:2024.10.25)。その後も、日本のマスコミは、韓国国家情報院が11月13日に「北朝鮮兵がロシア西部のクルスク州でロシア軍の戦闘作戦に参加していると初めて認めた。1万人以上の北朝鮮兵がウクライナとの交戦に本格的に加わったとみられる。」(日経:ソウル+ワシントン支局 2024.11.14)との米韓合同合作の情報を垂れ流し、最近の12月14日の報道ではウクライナのゼレンスキー大統領はロシア西部クルスク州で「かなりの数の北朝鮮兵をロシアが戦闘に使い始めている」・北朝鮮兵の損失は「すでに顕著になっている」と書いている(日経:2024.12.16)。しかし、肝心の北朝鮮もロシアもこれらの報道を認めてはいない。ロシアのネベンジャ国連⼤使は「⻄側諸国が北朝鮮軍の露派遣疑惑を理由に安保理会合を招集することで、NATO諸国が⾮公式に⾃国の軍⼈らをウクライナに派遣していることを正当化しようとしていると批判した。」(Sputnik日本:2024.11.1)。

また、これに関連し、マクレガー退役大佐は、尹大統領は「『ウクライナで北朝鮮の兵士が戦っている』との主張しました。しかし、それは完全な嘘です。北朝鮮兵が戦っているというのは単なる大嘘です。しかし、彼と彼の情報機関は、北朝鮮の兵士がロシア側で戦っているので、韓国人もウクライナ側で戦うべきだと主張しました。しかし、これは国民に受け入れられませんでした。ほとんどの韓国人は、北朝鮮兵がそこにいるとは信じていませんが、彼らがいるかどうかに関わらず、韓国人は戦いたくないと考えました。」と述べている(Douglas Macgregor上記:youtube)。戒厳令はかなり以前から計画されていたのではないか。しかも、米国主導で。

4 いわゆる「陰謀論」

尹大統領の弾劾が可決された翌日の日経は、12月15日付けで「民主主義揺らす陰謀論」と題しで、尹大統領は「総選挙で野党が大勝した背景に、北朝鮮の影響を受けた勢力による不正があった」と主張」しているが、「一部の保守系ユーチューバーや極右団体が盛んに訴えている内容に近い」「こうした状況から『尹氏が陰謀論に毒されている』との見方が広がる」。SNSで「韓国や米国では偏った主張が支持される傾向が顕著となり、妥協によって利害対立を解決する民主主義の機能が働きにくくなっている」と書いている(日経:2024.12.15)。

誰に命令されて尹大統領が戒厳令を発したのかを明らかにしないために「陰謀論」がもてはやされている。これは、在韓米軍の動きと米国バイデン政権の動きを見ない・隠したいことから起こっている。

来年1月20日にはトランプが大統領に復帰する。2018年6月にシンガポールで行われた初の米朝首脳会談に続き、2019年2月にはベトナム・ハノイで第2回首脳会談が行われた。同年6月にトランプは韓国を訪れ、板門店で3回目の米朝首脳会談を行った。この際、トランプは板門店の南北軍事境界線を歩いて越え、北朝鮮側に足を踏み入れたが、残念ながら軍産複合体の強い圧力もあり、第1次のトランプ政権では朝鮮半島の緊張緩和にはつながらなかった。軍産複合体をバックとするバイデン政権は北朝鮮への挑発を強めた。第2次政権で軍産複合体の圧力に屈せず「朝鮮戦争の終戦」となるならば、在韓米軍は撤退し、在日米軍の必要性もなくなる。それは、ウクライナ戦争でロシアの弱体化に失敗し、完全に敗北した米軍産複合体にとっては、その存在自体を否定される最悪の悪夢である。バイデン政権の残任期間は残り1カ月に過ぎない。その短い期間に、何としても韓国を中国・ロシアとの戦争の最前線地帯に作り替える必要に迫られていた。

5 日本への影響

12月15日の日経は尹大統領の弾劾決議案が可決されたことを受け、「日韓外交は事実上の停止状態に陥る。首脳間の意思疎通をテコに関係改善に動いてきたが厳しい状況に後戻りする」と書いたが、その前日、弾劾決議案を通過させるため、第1回目の弾劾案の結論部分の「価値外交という美名のもとで地政学的バランスを度外視し、朝中露を敵対視し、日本中心の奇異な外交政策に固執し、東北アジアにおいて孤立を招き、戦争の危機を触発した」などと記されていたが、その記述をわざわざ削除し、戒厳令の憲法違反と内乱罪のみを焦点とし、与党も賛成しやすい内容とした(毎日:2024.12.14)。いかに日本との外交関係が韓国にとっても(また日本にとっても)売国的な政策であるかを明らかにしている。それを主導した尹大統領も岸田前首相も売国的な政治家である。この売国政策で日韓両国を強制的に結びつけたのがバイデン政権であり、軍産複合体の利益のために「彼が米国の対中国戦争計画の油まわす米国の地政戦略の従順な執行者だったからであり、米国の世界覇権を維持するという重要な課題において、実際、米国の深い支持」を受けていたからである(KJ NOH上記 2024.12.14)。「朝鮮戦争の終戦」に反対すること・極東における緊張を煽ることこそ日本政府=与党自民党の立場(対米従属・売国の)を守ることであり、もし、「朝鮮戦争の終戦」となるならば、在韓米軍は撤退し、在日米軍の必要性もなくなり、戦後の日本の国体としての対米従属も崩壊せざるを得ない。そのとき、日本は初めて(韓国も)自主的な外交が可能となる。

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【投稿】中東危機:米・イスラエル、イラン核施設攻撃へのエスカレート

<<「2つの選択肢」>>
12/12、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、ドナルド・トランプ政権移行チームでは、イランの核施設への攻撃が真剣に検討されている、と言う。たとえ、イランが核兵器を製造しようとしている証拠がなくても、イランの核エネルギーインフラを攻撃するという脅しである。

「核施設に対する軍事攻撃の選択肢は、現在、政権移行チームの一部メンバーによってより真剣に検討されている」とWSJは説明し、「イランの地域的立場の弱体化と、テヘランの核開発の急成長に関する最近の暴露により、デリケートな内部協議が加速している、と政権移行関係者は述べた。」と報じている

そしてイスラエルでも、同様の議論が行われている。 やはり12/12、「イスラエル国防軍は、中東におけるイラン代理グループの弱体化とシリアのアサド政権の劇的な崩壊を受けて、イランの核施設を攻撃する機会があると考えている」と

タイムズ・オブ・イスラエル紙は報じ、さらに「イスラエル空軍は、イランにおけるそのような潜在的攻撃に対する準備を強化し続けている」と強調している。

WSJによると、トランプ次期大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は最近、イラン攻撃の可能性について話し合い、「トランプ氏は最近の電話会談で、自分の任期中にイランの核開発が勃発することを懸念しているとネタニヤフ氏に伝え」、2つの選択肢を検討、1つ目は、中東における米軍のプレゼンスを強化しつつ、イスラエルに米国の支援なしにイランの核施設を破壊する能力を与えること。もう一つは、交渉の場でテヘランに譲歩を強いるために米国が脅しをかけることである。

トランプ氏にとって、それは「次期大統領は、新たな戦争、特に米軍を巻き込む可能性のある戦争を起こさない計画を望んでいる」というポーズの必要性からの要請である、と言えよう。

<<「イラン爆撃の機会到来」>>
米国の諜報機関CIAや、米国防総省、国際原子力機関IAEAはいずれも、イランが現段階において核兵器を開発してはいないと確認しているにもかかわらず、この危険な動きである。

イランが、これまですでにフォルドゥのウラン濃縮施設で IAEA による監視強化を認めることに同意したと報じられており、イランはごく最近、ウランを60%レベルを超えて濃縮しないと約束しており、いずれにせよ、イランは、いかなる時点でも核兵器の製造を試みておらず、それが変化したという証拠は存在していない、のである。

しかし、米・イスラエルにとって事態は好都合に急展開しだしたのである。シリアのバッシャール・アル・アサド前大統領の政権の急速な崩壊と追放によって、イラン攻撃に対するシリア側の防壁が崩れ、イランが脆弱な状況に陥りつつあると見なしうる事態の出現である。

12/10、イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエルによるシリアのゴラン高原の占領は永久に続くと宣言したが、これは、「国際法の明白な違反」行為である。国連は、「占領されたゴラン高原にイスラエルの法律、管轄権、行政を押し付けるというイスラエルの決定が違法であることを再確認する安全保障理事会決議497の完全な実施に引き続き尽力する」との声明を発表している。

しかしイスラエルは、国連決議など無視し、何十年にもわたって、どんな手段を使ってでもイランとの戦争を始めよう、米軍をそこに引きずり込もうとする野望、イラン爆撃の機会が到来したと判断し、攻撃開始の検討、具体化に着手しだしたのである。

 すでにイスラエルは、シリアで大規模な爆撃作戦を開始し、わずか48時間で480回もの攻撃を実施している。イスラエル軍は、旧政権の軍事資産を壊滅させ、残された装備の約80%を破壊したと公言している。事実上、イスラエルがシリアの制空権を掌握し、イランへの空爆が容易になる可能性を認めている。

米政権、現ブッシュ政権、次期トランプ政権、ともにネタニヤフ政権と一体の行動をこれまでも取ってきたことからすれば、危険極まりない事態の進展である。第三次世界大戦、核戦争への危険である。そうした事態をストップさせる、孤立させる、平和の力の結集こそが試されている。
(生駒 敬)

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【投稿】バイデン政権、退任直前の危険な世界戦争拡大への挑発

<<「戦争の質的に新しい段階」>>
11/19、ウクライナは初めてアメリカ製の長距離ミサイルATACMSをロシアに向けて発射し、ウクライナ当局は、ミサイルはロシア南西部のブリャンスク地方の弾薬庫に命中したと発表している。
 一方、ロシア国防省は、発射された6発のATACMSのうち5発が撃墜され、1発が損傷し、損傷したミサイルの破片が落下して弾薬庫で火災が発生したが、被害や死傷者は出なかったと発表している。
G20会合に出席していたロシアのラブロフ外相は、西側諸国に対し、「長距離ミサイルがウクライナ領からロシア領に対して使用される場合、それは米国の軍事専門家によって制御されていることを意味するため、我々はそれを西側諸国によるロシアに対する戦争の質的に新しい段階とみなし、それに応じて対応する」と注意を喚起すると同時に、「ロシアは核戦争を回避する立場を固く守っており、核兵器は抑止力として機能する」とも述べている。
ここで、「米国の軍事専門家によって制御されている」長距離ミサイルとは、
* 米国製のATACMS は、米軍が提供する衛星ナビゲーション データを使用する
* ターゲットの選択と座標は、米国の軍事技術専門家によって実行される
* ミサイルの誘導ヘッドに飛行ミッションをロードするプロセスは、米軍兵士によって実行される
ものであり、「発射は米国の将校なしでは実行できない」ものであること、米国側の直接の関与・主導権が明らかとなっている。
ウクライナ側は、この米国が供給した長距離ミサイルをロシア領土のさらに奥深くに発射する許可を、3日前の11/17段階で得ていたことが明らかにされている。

<<戦争を「トランプ対策」化する>>
バイデン政権が何カ月もの間、長距離ミサイル攻撃の承認をためらい、他のNATO諸国にも同調を要請していたにもかかわらず、方針転換に踏み切り、世界戦争への挑発拡大、さらには核の瀬戸際政策に乗り出したのである。すでに9月の段階で、ロシアのプーチン大統領は、ロシアへの長距離ミサイル攻撃は「紛争の本質、性質そのものを明らかに変えるだろう」と、そのリスクの大きさを警告していたものである。
そのリスクの大きさにもかかわらず、方針転換に踏み切ったのは、米大統領選に大差で敗北し、今やレイムダック化したバイデン政権が、次期トランプ政権に「ウクライナの代理戦争を終わらせはしない」、戦争の泥沼化・世界戦争化を引き継がせようとしたもの、と言えよう。
トランプ次期大統領が「ウクライナ戦争を3日で終わらせる」などと公言し、来年1月の大統領就任と同時に、ウクライナ戦争終結に乗り出すという選挙公約を反故にさせる、あるいは戦争終結そのものをはるかに困難にさせる事態を意図的に作り出す、ウクライナ戦争を「トランプの脅威から守る」という、いわば、戦争を「トランプ対策」化することなのである。
 そして危険なのは、このバイデンの世界戦争化に加担する、NATO諸国のなかの好戦的で危険な動きである。スウェーデンは核戦争の事態を想定し、国民に500万枚のパンフレットを配布し、備え方を指導している。パンフレットには、核攻撃の際に食料を備蓄し、避難所を見つける方法が記載されている。フィンランドは、人々に備え方をアドバイスする新しいウェブサイトを立ち上げ、ノルウェーは、世界の終わりに備えるためのヒントを記した独自の小冊子を郵送し、1週間自給自足で生活するための準備方法や、核事件に備えて保存しておくべき長期保存可能なアイテムのリストも掲載している。(バイデンが火に油を注ぐ中、ヨーロッパは戦争に備える 11/20 zerohedge

英国とフランスもキエフに提供した長距離ミサイルの使用制限を解除したと報じられているが、ドイツとイタリアは、同調していない。

一方、対するトランプ時期大統領は11/19、世界は第三次世界大戦と核戦争の瀬戸際にいるという厳しい警告を発し、バイデン氏ののエスカレーションによって世界的な対立のリスクが高まり、核保有国が直接の紛争に巻き込まれる可能性があると主張し、さらなるエスカレーション防止の緊急性を訴え、世界規模の壊滅的な結果を回避するために、平和と強力なリーダーシップが極めて必要だと強調している。

<<ロシアの新型中距離極超音速ミサイル「オレシュニク」>>
11/21 プーチン大統領は、新型中距離極超音速ミサイル「オレシュニク」を、ウクライナがロシアのブリャンスク州とクルスク州に対してNATOの長距離ATACMSとストームシャドウを使用したことへの報復として、11月21日の夜に発射された、と公表した。「西側諸国が扇動したウクライナの地域紛争は、世界戦争の要素を獲得した」と述べ、この新型中距離極超音速ミサイル「オレシュニク」は、マッハ10(時速1万2250キロ 秒速約2.5~3キロメートル)を超える速度で飛行するもので、現在の米

国や欧州の防衛システムによる迎撃をほぼ不可能となる。プーチン大統領は、「米国がヨーロッパで構築したミサイル防衛システムを含む、世界中の既存の現代の防空システムは、そのようなミサイルを迎撃することはできない。不可能だ」、これは単なる「戦闘テ

スト」であると繰り返したが、ロシア領土への攻撃に米国と英国製の兵器が使用されたことに対し、紛争を不必要にエスカレートさせようとしているのではなく、脅威とみなされるものには報復するものであると述べている。

この「オレシュニク」は、核弾頭を搭載可能な中距離ミサイルで、射程は約5,500キロ。ロシア西部から発射した場合、欧州全体を射程内に収め、飛行速度はマッハ10(時速1万2250キロ)で、ポーランドのレジコボにある米国のミサイル防衛基地へは8分、英国には19分で到達する。

11/22、米国防総省のサブリナ・シン副報道官は、米国はロシア連邦との紛争を望んではおらず、紛争地域に派兵する考えもない、と述べ、新型ミサイルの発射に懸念を示しつつ、ロシア側の核準備に変化は見られないとし、米国側も核の位置付けは変えない考えを表明した。一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官によると、ロシア側は核リスク軽減ルートを通じ、中距離ミサイル「オレシュニク」発射前の30分前に警告を米国側に送信していたとのことである。

今、世界は危険極まりない世界戦争への挑発に、いかに対処すべきかが問われている。緊張激化と戦争挑発を孤立化させ、封じ込める、緊張緩和と平和への闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】「103万円の壁」と国民負担率の考え方

【投稿】「103万円の壁」と国民負担率の考え方

                               福井 杉本達也

1 国家への見方―「慈悲深い専制君主国家」か「リバイアサン国家」か

政府は一体なんのためにあるのか。権丈善一慶応大教授は「政府は国民のことをおもんばかりながら諸施策を展開している慈悲深い専制君主」であるとするモデルと、ホッブスが考えた「政府は国民から可能な限り搾り取る」ことしか考えないというリバイアサン・モデルがあるとし、市場に任せ賃金だけで配分するリバイアサン・モデルだけでは、「支出の膨張や収入の途絶という、生きていれば必ず直面する生活リスクにうまく対応できない欠陥がある」とし、多くの人たちが老後に貧困に陥ってしまわないよう、慈悲深い専制君主のように「強制的な社会保険制度」を整備してきたとする。しかし、政府を「慈悲深い」と信頼するにしては、政府の長い間の「所業」はそのイメージとは乖離しているというのが先の衆院選の結果ではないかとする(福井:2024.11.16)。

2 「103万円の壁」の「財務省の壁」

国民民主党は衆院選挙で「年収103万円の壁」を取り上げ、所得税がかからない基礎控除48万円・給与所得控除58万円の合計103万円を178万円する税制改革を提案した。基礎控除など人的控除は所得のうち「最低限度の生活」を維持する収入には課税しないという「憲法25条の生存権の保障の租税法における現われである」と考えられている(金子宏)。しかし、48万円=月4万円で最低限度の生活を送ることなど不可能である。参考となるのは生活保護費である。68歳の単身世帯は生活扶助費として月に6万8千円~7万8千円程度が受給可能であり、これを基準とすべきであるとする(竹中治堅政策研究大学院大学教授:日経:2024.11.13)。自公と国民民主党の協議が行われているが、与党・財務省サイドは譲歩する気は薄い。

3 「106万円の壁」と社会保険料

現在、パート労働者の厚生年金の適用要件は、月8万8000円以上、年収換算で約106万円以上(労働時間要件:週20時間以上)となっている。106万円を超えると社会保険料が発生し、手取り収入が少なくなるため、パート労働者が年末になると就労を調整するという問題がある。保険料は労使で折半して支払うのが現行制度である。厚労省の案は、手取りの急減を避けるため、働き控えが発生する年収層のパート労働者に限り、保険料の労使の負担割合を現行の折半ではなく、労1:使9(徐々に労2:使8…)というように柔軟な制度として手取り減を回避しようというものである(日経:2024.11.16)。

租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率は2023年度は46.1%である。江戸時代に農民が領主に納める年貢割合を表現した「五公五民」がある。日本の国民負担率は、1979年度に30%台、1994~2004年度までは34~36%台。しかし、高齢化による社会保険料の増加などにより2013年度から40%台、2020年度に初めて47%を超えたが、実質賃金は低迷し続け、中間層は衰退。非正規が拡大し、生活不安が増大している。これに先送りした少子化対策の財源として2026年度にも社会保険料増が加わる。

4 消費税と飲食料品への課税の問題点―エンゲル係数は28.7%に

消費税は、2024年度予算では23.8兆円を見込み、国税+地方税の構成割合では34.9%と最大の費目となっている。逆に法人所得課税・個人所得課税の構成割合は年々低下している。消費税は導入当初は福祉目的を強調したが、実際は法人・所得税減税の原資となってきている。所得税に「1億円の壁」というものがあり、所得が1億円をこえると、税負担は減っていく。「所得税は給与・事業所得などには最高税率45%で累進(総合)課税をする一方、利子・配当・株式謡渡益といった金融所得は一律15%(地方分合わせて20%)で課税される。高所得者ほど金融所得が所得全体に占める割合は高く、所得税負担率が下がることになる。所得税+社会保険料の負担率(2020年)は300万~400万円の所得階層で17・9%、50億円~100億円の所得階層では17・2%と高額所得者の方が負担率が低い」(佐藤主光一橋大教授:「金融所得課税の課題」日経:2024.11.6)。

消費税を仮に国民民主党が主張するように現行10%の税率を半分の5%にするとすれば、1%で2.5兆円として、12.5兆円の減収となるが、二人所帯で月の消費支出が30万円ならば、約1.5万円の減税となる。

消費税の飲食料品税率8%を0にするという案もある。エンゲル係数が28.7と日本では急伸している(日経:2024.11.17)。月の消費支出の平均が30万円とすると、食費は8万円となる。消費税は8%で計算すると、6400円の減税となる。海外では「食料品など生活関連への税率は軽減税率を設けるか、そもそも課税対象にしない」(森永卓郎+泉房穂『ザイム真理教と闘う』2024.11.14)。税金は取りやすいところから取るという発想を改めるべきである。

 

6インフレ税

「インフレ税」という課税項目があるわけではないが、昨今のように円安が進めば。「インフレにより家計から政府への所得移転が進む」。「インフレで通貨価値が目減りすれば、これまで積み上げた政府債務の実質的な負担は減る。実質個人消費が低迷する一方、税収が改善することから『インフレ税』と呼ばれ」家計負担は一段と増す(日経:2024.7.1)。国家が国民が知らない間に国民の財産を没収していることになる。アベノミクスによる黒田日銀による国債の買い入れは、日銀紙幣の増発であり、実質的な円の切り下げであり、米国からのインフレの輸入となる。米国にとっては米国の高いインフレの一部を日本に転嫁させるインフレの輸出となる。日本国民の物価は高くなり負担を強いられる一方、米国民は安い日本製品を手に入れることができる。また、ドル・円の金利差から円キャリー取引で資金が金利の高い米国に向かいウクライナ戦争で傷んだ米国の国家財政を補填している。

しかも輸入物価は高くなるので、石油・ガスなどのエネルギー資源価格が高くなる。これは全ての卸売物価に影響する。政府は、電気・都市ガス代の補助金として、電力需要が高まる来年1 ~2月分については家庭向けの電気で1キロワット時当たり2・5円、都市ガスは1立方メートル当たり10円を検討しているという(福井:2024.11.14)。紙幣を増発して貨幣の価値を下げ、物価を高くし、高くした物価のために補助金を出すという分けのわからない政策を続けている。

7 電気料金という「税金モドキ」

電気料金は滞納するわけにはいかない。滞納が続けば電気を止められてしまう。家庭の設備のほとんどは電気をエネルギー源としており、電気が止められたら生活はできない。電気料金は独占価格であり、「税金モドキ」である。電力料金表を見れば分かるが、「再生エネルギー賦課金」という項目がある。再生可能エネルギーの普及促進を目的とするとして、電気料金に上乗せされており、負担額は年々増える傾向にある。2024年度は3.49円/Kwhとなっている。化石燃料によるエネルギー供給の一部を再生可能エネルギーで賄うことで、燃料価格の高騰に伴う電気代の上昇の抑制するという建前であるが、太陽光・風力発電で保有量が多いのは。豊田通商が157万Kw、パシフィコ・エナジーが90万Kw、米系のグローバル・インフラストラクチャーが90万Kw、ENEOSが65万Kw、Jパワーが58万Kwなどとなっており(日経:2023.12.4)、電力の固定価格買い取り制度(FIT)という官製市場で事実上の大企業への補助金となっている。家庭の電気料金の1割近くを占める。

原発はさらなるブラックホールとなっている。日本原電敦賀2号機は2011年以来、1ワットの発電することなく、原子力規制委から原子炉直下に活断層があるとして不許可処分を受けた。卸電力会社である日本原電には、この間5電力企業から1兆4000億円の基本料金が支払われているが、全く発電していない。これは全て電力料金に転嫁されている。

龍谷大学の大島堅一教授が、東北電力での原発関連経費を計算している。東北電力の自社の原発の減価償却や修繕などにかける費用は年間1,352億円。さらに、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)と日本原子力発電東海第2原発(茨城県)から電力を購入する契約を結んでおり、両原発が停止中で受電量がゼロでも年間265億円を払う。これらの「原発の電気を調達する経費」は年間計1617億円に上り、年間販売電力量で割った単価は1キロワット時当たり2.35円。標準家庭は原発の費用として、月額611円を支払っている計算になる(河北新報:2024.1.27)。

再エネ賦課金と原発関連経費を合わせると家庭は1500円/月の電気料金を余分に支払っていることとなる。さらに、経済産業省は原発の新増設を進めるため、建設費を電気料⾦に上乗せできるようにする制度の導⼊を検討している。福島第⼀原発事故で安全対策費が膨らみ、建設費を回収する⼿段がなくなり、電⼒は投資に及び腰になっており(朝日:2024.7.24)、電気料金は便利な財布である。

 

8 放漫財政と官僚機構の劣化―ガソリン補助金・コロナ補助金など

政府は経済対策の原案にガソリン補助金の継続を盛り込んだ(日経:2024.11.13)。これまで累計で7兆円の巨額の補助金をぶち込んでいる。この補助金の問題点は「政府がガソリンの値下げ目標を設定し、現実との価格差を埋めるように金額を足し込んで計算することにある。『この方式だと、ガソリン価格が高いほど補助金が多く出ることになる。値上げをすれば『ご褒美』がもらえる。逆に、値下げしたら補助金が減る』」ことである。。「値上げで補助金額が上がるってことは、消費者からぼったくって、さらに国からカネをたんまりともらう。」という仕掛けである(金田信一郎・「ヤバい会社烈伝:エネオス」『東洋経済』2023.2.3)。また、半導体の支援に6兆円の補助金と4兆円の金融支援への債務保証を行うと発表した(日経:2024.11.12)。

2020~2021年のコロナ禍においては、緊急事態とはいえ、膨大な予算が投入された。コロナ禍で世界で最も財政支出をした国の1つが日本である。2021年12月29日、NHKは「検証コロナ予算 77兆円」を放送している。例えば、雇用調整助成金は、事業主がコロナ禍で労働者に休業手当を支払う際、その一部を助成する制度だ。雇用維持を目的に2020年4月から2023年3月まで特例措置が設けられた。3年間で約6兆4000億円の雇調金が支給された。コロナ禍で大打撃を受けた外食や飲食、宿泊、小売り、交通インフラ、観光業など、幅広い業種で活用されたが、不正も相次いでいる。これまで不正受給で社名を公表された企業は全国で1437社、不正受給総額は465億7502万円に達する(増田和史:「ダイヤモンドオンライン」2024.11.19)。

コロナ禍で中小企業対策として4兆2千億円の予算を計上した持続化給付金事業では、事務局費669億円を「サービスデザイン推進協議会」という怪しげな団体に委託し、それが「電通」にそのままの金額で丸投げされた。電通はそれを、さらに下請け・再々下請けへと投げ、その資金の一部資金はが電通に還流した。この構図は今も変わらない。資源エネルギー庁は電気・ガス補助金の事務局業務を、博報堂に総額372億円で丸投げしたが、その業務の大部分を子会社に委託し、さらに別の会社に再委託や再々委託していたことを会計検査院に指摘された(毎日:2024.10.6)。今の官僚機構は現場がどうかを全く考えず、頭だけで「政策」ともいわれぬ「政策?」を考え?、それを現場に丸投げする。現場はできないから民間に丸投げする。民間はその甘い汁を吸う。その象徴が「マイナ保険証」である。マイナ保険証の導入のため、国が2014〜24年度に投じた総コストは、少なくとも8879億円に上る。このうち6割は「マイナポイント」などの普及のための費用だった。それでもマイナ保険証の利用率は9月末時点で13.87%にとどまる(東京新聞:2024.11.14)。

どこに在日米軍総司令部を首都のど真ん中の赤坂に置く「独立国家」があろうか(福井:2024.11.16)。そんなことは眼中になく、言われたままに石破内閣改造後の岩谷外相が早速出向いた先はウクライナ。バイデン政権はトランプ氏が大統領就任前に急いでお金を渡すことを日本に命令。ロシアの凍結資産を窃盗して30億ドルを拠出。支援総額は計121億ドル(1兆9千億円)となる。さらに日本は世界銀行を通じて55億ドル(8400億円)を財政援助。ウクライナが返済不能に陥った場合、日本がいわゆる「連帯保証人」として50億ドル(7600億円)分までは現金で債務を負担することとなる(Sputnik日本:2024.11.16)。

財務省は減税すると財源が足りないというが、取りやすいところから税金を搾り取り、大企業や補助金に巣食う電通など社会的寄生虫などの身内に偏った財政支出を行い、財源以上に放漫政策を行っている。米国の属国として長年飼いならされてきた官僚機構の劣化は深刻である。その最たるものが強欲を取り締まるべき裁判官による強欲なインサイダー取引である。税金を湯水のごとく使えば当然「財源」は足りなくなる。「慈悲深い」ではなく「欲深く、無能、しかも放蕩する専制官僚国家」をどう立て直すかが、いま国会で多数を握る野党に問われている。

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【投稿】トランプ勝利と日本の針路

【投稿】トランプ勝利と日本の針路
                         福井 杉本達也

1 日本のマスコミは米民主党の在日報道部
経済評論家の森永卓郎氏は11月5日のニッポン放送の「垣花正 あなたとハッピー!」において、「私だけじゃないんです。あの8年前にトランプを推した(フリージャーナリストの)木村太郎さんもフジテレビで同じようなことを言ってます」と卓郎氏。『あしたね、やっぱり日本の報道っていうのは中途半端で民主党寄りだったかなっていう空気がまん延して来て、あさって、ああみんなメディア間違えていたんだっていうことになると思います』と続けた。森永氏の予想どおりトランプが大勝した。
ネオコンのジャパン・ハンドラー芸人:パックンことパトリック・ハーラン氏は6日、BS-TBS「報道1930」にコメンテーターとして生出演し、「4年間、思い出して下さい。2回も弾劾されているんですよ?金正恩とラブレターを交換しているんですよ?プーチンともラブラブな状態になっているんですよ?権力を乱用しているんですよ?グローバルサウスを“クソダメ国家”と言っているんですよ?その人の未知数が今、知られているんです。グレーのところが白黒はっきりに見えているんです。僕から見れば真っ黒なんです」と思いをぶちまけ、「その真っ黒な人が、過半数の人に選ばれたことになりそうですね」と涙ぐみながら語った(スポニチ:2024.11.7)。
日経の7日の社説は「正確な情報や言論の自由が脅かされている現状は、その基盤によって立つ民主主義にとって危機的な状況だ。前回の大統領選の結果を否定し、連邦議会占拠事件のような暴動を招く言動をいとわない人物の復権は異常事態と言わざるを得ない。自由や法の支配を尊重してきた米国の民主主義は歴史的な転換点を迎えている。」と書いた。いかに日本のマスコミが米民主党よりの立場であり、民主党有利の情報を流していたかが分かる。我々は毎日毎日、米民主党の広報に洗脳され続けていたのである。

2 米民主党による2度のクーデターの失敗
今回の大統領選は最初からトランプ氏が優位とされていた。それをひっくり返そうと、民主党は2度にわたるクーデターを計画した。1度目は7月13日の米東部ペンシルベニア州バトラーで開かれた共和党のドナルド・トランプ氏の選挙集会での暗殺未遂事件である。
2度目は、バイデン大統領を無理やり大統領選から撤退させ、ハリス氏を選んだ、米民主党内の党内クーデターである。本来の民主党の大統領候補は、各州の予備選挙から勝ち上がってこなければならない。そうした、「党内民主主義の手続き」を一切無視して、バイデン氏を引きずり下ろし、ハリス氏を大統領候補としたことである。6月末のトランプ氏との討論会で、バイデン氏は言葉に詰まり、後4年間も大統領を務めるにはふさわしくないと思われた。民主党大会が行われる前のぎりぎりのタイミングである7月21日、バイデン氏はX(旧ツイッター)上で「大統領選を戦う党の候補者指名を辞退し、選挙戦から撤退すると表明した。後継候補にハリス副大統領を支持すると明らかにした」(日経:2024.7.23)。誰が、バイデン降ろしの背後にいるかは明らかである。イーロン・マスク氏はX上で、ジョージ・ソロス氏の息子で後継者のアレクサンダー・ソロス氏と仲良く写真を撮るハリス氏の写真に対し、「誰が次の操り人形になるか疑いを持たせないでくれてありがとう」と投稿した(Sputnik日本:2024.7.22)。

3 ウクライナ戦争はどうなるか
トランプ氏は「ウクライナ戦争を1日で終わらせる」とし、「ロシアとの関係を改善し、第三次世界大戦への転落を防ぐ」と公約していた。これに応えて「ロシアのプーチン大統領は7日、米大統領選で勝利したトランプ次期大統領と対話の用意があると表明した。トランプ氏も7日、米NBCテレビのインタビューで、『プーチン氏と話すことになると思う』と述べた(福井新聞=共同:2024.11.9)。現在は、冷戦後最悪の米ロ関係のあり、既にウクライナには米国の特殊部隊員も派遣されているといわれ、第三次世界大戦=核戦争の一歩手前までいっている。ここまで対ロ関係を悪化させたのは、NATOによる東方拡大にあり、オバマ=バイデン副大統領の時代に、ネオコンのヌーランドらが暗躍して、ウクライナ・ヤヌコビッチ政権をマイダン・クーデターで転覆したことにある。

4 軍産複合体・CIA・FBI官僚組織の一掃
トランプ氏は軍産複合体・CIA・FBI官僚組織を大統領になれば瞬時に一掃すると公言している。第一期トランプ政権の足を引っ張ったのは、こうした軍産複合体・ネオコンなどの組織である。トランプ氏はこれをディープ・スティトと表現している。共和党内の基盤の弱かったトランプ氏はこうした組織に妥協せざるを得なかった。金正恩氏と対話したものの、朝鮮戦争の終結もつぶされた。ハリス支持に寝返ったマイク・ペンス前副大統領や、根っからのネオコン:リズ・チェイニー氏、父親のディック・チェイニー元副大統領、ジョージ・ブッシュ(子)元大統領など軍産複合体を支える人脈は共和党内多々いる。トランプ氏は9日、新政権ではニッキー・ヘイリー元国連大使とマイク・ポンペオ元国務長官を起用しないと明らかにしたが(読売:2024.11.10)、どこまでこうした軍産複合体人脈を一掃できるかに、トランプ政権の成果がかかっている。

5 朝鮮戦争の終結と極東の冷戦構造の解体
11月8日の日経新聞は、「韓国はトランプ氏が安全保障の懸念を無視して、北朝鮮と直接対話に乗り出す事態を警戒する」と書いている。なぜ、今日まで自民党が存在するのか。「逆コース」といわれるが、1949年の中華人民共和国の成立と国民党・蒋介石の台湾逃亡、1950年の朝鮮戦争の勃発によって、岸首相他戦犯・旧支配層の公職追放が解除され、米産軍複合体に身も心も預け「親米保守主義」という名前に変えて今日まで政権の座に居座り続けているのが実態である。もし、「朝鮮戦争終戦」になるならば彼らの居場所はない。そのため、「朝鮮戦争の終戦」に反対すること・極東における緊張を煽ることこそ彼らの目的であり立場を守ることなのである。極東の緊張緩和をさせたくないというのが今日までの日本政府の一貫した姿勢である。韓国は、この間、北朝鮮兵のロシア派遣・ウクライナ戦争への投入という話を何の根拠も示さずに垂れ流し、日本のマスコミもそれに輪をかけるように報道している。トランプ政権が誕生することへの焦りと、米ネオコンらの軍産複合体の圧力である。再登板するトランプ氏が軍産複合体の圧力に屈せず「朝鮮戦争終戦」となるならば、在韓米軍は撤退し、在日米軍の必要性もなくなり、国体としての対米従属も崩壊し、存在基盤を失った寄生政党としての自民党は完全に解体へと向かう。

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【投稿】米大統領選:バイデン/ハリス政権の敗北

<<「よりましな悪」の選択>>
11/5の米国大統領選挙は、「よりましな悪」の選択で、共和党のトランプ前大統領に勝利をもたらした。民主党候補のカマラ・ハリス副大統領がまだ敗北を認めていない段階で、7激戦州すべてでの勝利を確保し、トランプ氏は、「これは素晴らしい政治的勝利であり、アメリカを再び偉大な国にすることができるだろう」、「今こそこの4年間の分断を忘れて団結する時だ」と勝利演説を行った。
女性差別と人種差別、移民差別で分断を煽りに煽ってきた、その意味ではファシストと紙一重の本人が、「分断を忘れて」と言う皮肉

である。
同時に行われた435 の下院選挙、34 の上院選挙でも、トランプ・共和党の優勢が確実視されている。

ハリス候補は接戦でもつれ込むどころか、予想外の大差で引き離され、民主党・バイデン/ハリス政権の敗北が浮き彫りになったのである。
なぜ、こうした事態になったのか。

世論調査によると、投票の際の第一の問題は、経済であり、それはインフレ、不安定雇用の蔓延、レイオフの拡大である。バイデン政権の経済好調という宣伝は、その嘘が見抜かれてしまっており、過去 4 年間のインフレ率の 25~35% 上昇、過去 1 年間の民間部門の賃金と給与の雇用水準の低下、実質週給の 0.4% の低下、終わりのない慢性的な戦争、住宅価格の高騰、金利の上昇が、バイデン/ハリス政権の敗北をもたらした根本原因だと言えよう。

しかし、それ以上に問題なのは、ハリス氏が、バイデン氏に代わって登場し、刷新感もあり、女性候補として、妊娠中絶など女性の人権確立への期待も大いに高まり、支持率も上昇していたにもかかわらず、敗北したことである。ハリス氏は自ら進んで、バイデン氏との違いは何もないと明言し、バイデン大統領の単なる延長にしか過ぎない立ち位置を告白し、自滅してしまったのである。

ハリス氏は、バイデン氏の緊張激化・戦争政策の継続を明言し、より悪いことに元共和党の戦争犯罪者のディック・チェイニーとリズ・チェイニーと一緒に選挙運動をする、つまりは戦争政策の継続に意義を見出し、パレスチナの民間人の犠牲者を最小限に抑えたいと語りながら、「犠牲者を最大化する」政策を支持し続け、さらにはイランとの戦争拡大への道につながる行動を選んだのである。そして、ロシア・ウクライナ戦争について、泥沼の戦争に膨大な援助を行いながら、即時の和平交渉を提案することさえできない、むしろ核戦争の危機に限りなく近づく路線の続行に組みしたのである。
さらに、労働組合や進歩的な市民団体と連携を強化・拡大する代わりに、大企業・大資本の支援に期待し、媚びへつらう政策に同調し、トランプ氏を上回る選挙運動資金確保に精力を傾けたのであった。

<<「鼻をつまんで投票」>>
対してトランプ氏は、「外国での戦争はもうしない」と明言し、「カマラ氏があと4年間大統領を務めれば、中東は次の40年間炎上し、あなた方の子供たちは戦争に行くことになるだろう」と、ハリス氏批判の論点を突き付け、ハリス氏は「他国の戦争」を支援し資金援助し続けたいと考えているため、投票すべきタイプではないと批判し、これにハリス氏は具体的で有効な反論を何一つ行えなかった、行おうとしなかったのである。
トランプ氏の「外国での戦争はもうしない」との発言は、眉唾ものであることは間違いないであろうが、選挙戦においては、一つの重要な判断材料ではある。

 重要な激戦州の一つで、住民の54%強が中東または北アフリカ系であるミシガン州のディアボーン市のアブドラ・ハムード市長(Dearborn Mayor Abdullah Hammoud)は、11/4、米デモクラシー・ナウの番組で、トランプ氏との会談を拒否し、ハリス氏を支持しない理由を次のように語っている。
「私はトランプ大統領に騙されるような人間ではありません。ドナルド・トランプが問題に対してどのような立場を取っているかは、私たちは非常によく理解しています。彼はイスラム教徒入国禁止令を導入した大統領であり、ゴラン高原を併合した人物であり、議会予算からパレスチナの人道的活動と問題への資金提供をすべて排除した人物です。サウジアラビアに武器を提供し、イエメンで3万人以上の罪のない民間人を殺害した人物です。ですから、私はドナルド・トランプ大統領に騙されるためにここにいるわけではありません。ですから、私は原則としてドナルド・トランプとの会談を拒否しました。」
ハリス氏については、「ここ1年以上、私たちは停戦と適切な手段による停戦の実現を求めてきました。これまでの話し合いや停戦の実現方法に関する歴史的知識を踏まえると、大統領が電話を取り、戦争犯罪人ベンヤミン・ネタニヤフとその内閣に停戦の実現を要求する意志がなければなりません。また、武器禁輸措置を講じる意志もなければなりません。」「ハリス副大統領が打ち出した政策から私たちが見ていないのは、彼女がこれを達成するつもりがあるかどうか、あるいはどのようにそれを実行するのかということです。」「ガザ全域で行われ、今やレバノンにまで及んでいるこの大量虐殺を可能にし、資金提供することから目をそらすことを望まないのであれば、私たちが前に出てどの候補者を支持することも望まないでしょう。」と明確に答えている。

また、やはり激戦州のひとつであるペンシルベニア州の、No Ceasefire No Vote PA の主催者、リーム・アブエルハジ氏は、「私はパレスチナ系アメリカ人です。生まれてからずっとフィラデルフィアに住んでいます。18 歳になってからペンシルバニア州の選挙では毎回民主党に投票してきましたが、ガザでの大量虐殺を続けるイスラエルを継続的に支持している民主党候補に投票できないという立場に初めて陥っています。私たちは、ハリス副大統領と民主党、そしてバイデン・ハリス政権が有権者の間で極めて不人気な政策を継続的に支持していることを懸念する有権者の運動を代表しています。」とインタビュー(インターセプト 11/1 苦悩する未決定者The Anguished Undecided)で述べている。
アリゾナ州フェニックスのイスラムコミュニティセンター代表、ウサマ・シャミ氏は、同上のインタビューで、それでもハリス氏に投票するとして、「これは非常に困難でした。私は鼻をつまんでハリスに投票するつもりです。結局のところ、第三党の候補者に投票すると、ハリスは負けてトランプが勝つことになるとわかっているからです。それは起こってほしくないことです。」と述べている。

トランプ氏への投票と、その勝利も、おなじく、「鼻をつまんでの投票」であったと言えよう。こうした事態に追い込んだのは、まさにバイデン/ハリス政権であり、敗北をもたらしたものであろう。「よりましな悪」の選択しか提示しえないアメリカ政治の危機の表現でもある。
(生駒 敬)

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【投稿】総選挙結果について(福井の事例を含め)

【投稿】総選挙結果について(福井の事例を含め)

                            福井 杉本達也

1 歴史的総選挙だったが、投票率は低く

日刊ゲンダイは「想像を絶する自民党の大惨敗だ。自公の与党で計215議席。公示前から64議席減らし、過半数の233を18議席割り込んだ。裏金事件の真相究明をウヤムヤにして、選挙で幕引きにしてしまえ、という姑息に、全国の有権者が怒りの鉄槌を下した形だ。石破首相の変節という裏切り、政治とカネへの反省ナシ、裏金非公認候補への2000万円支給……。日を追うごとに墓穴を深めた腐敗堕落政党の歴史的末路である」と書いた((日刊ゲンダイ:2024.10.29)。

しかし、投票率は小選挙区で53.85%、比例代表は53.84%で、前回衆院選をさらに下回り、戦後3番目に低い水準にまで落ち込んだ。元朝日新聞記者の佐藤章氏は「注目されていたのになぜ投票率が低かったのか? 自民党の集票システムがぶっ壊れたからである。インボイス導入で地方の中小土建業者が塗炭の苦しみを味わい、国内農家を無視したアメリカ農産物の輸入増加によって農家・JAが打撃を受けた。自民党への投票者はもういない!」とXに投稿した(2024.10.29)。また、明治大学の井田正道教授は「自民支持層が自民に嫌気を差して寝る行動に出た。野党にも入れたくないので『政治からの退出』を選択したと言えます」(井田正道:日刊ゲンダイ:2024.10.29)と分析する。立憲民主党は小選挙区で自民に競り勝ったが、比例代表の得票数をみると、立憲支持が広がったわけではない。これは、野田代表が「政権交代」を掲げながら、代表選から2週間あったにもかかわらず、各政党間との具体的提携協議をしなかったことにある。目標が示されなければ国民は動かない。

2 政党としての大義を失った公明党

「下駄の雪」と揶揄される公明党は、9月末に就任したばかりの石井啓一代表(埼玉14区)が落選、維新とすみ分けてきた大阪では、佐藤茂樹副代表(大阪3区)を含む4人全員が小選挙区で議席を失い、佐藤副代表は落選した。選挙区事情を優先して、西村康稔元経産相(兵庫9区)や三ツ林裕巳前議員(埼玉13区)ら35人を推薦した。選挙区が隣接する石井らとの票バーターが目的であり、自民党を上回る腐りきりであった。佐藤章氏は「公明党はすでに政党としての大義を失っている。憲法違反の集団的自衛権を導入しアメリカから高額兵器を買い続けた安倍政権にあれだけ協力し、唯一の存在理由だった『平和の党』を投げ捨てた。創価学会婦人部はやる気を失い戦闘能力激減。無能力・石井啓一の落選は自明の理」と書いた(佐藤章:上記)。

3 他党・他国批判しかない共産党

田村共産党委員長は「裏金を最初に報じたのは赤旗だ」と訴えた。また、選挙中、自民党本部が、裏金事件で非公認になった候補者側に活動費2000万円を支給していた問題をスッパ抜いたのも「赤旗」だった。しかし、こうした行動は共産党の票には結びつかなかった。日本共産党は冷戦時代末期から中国やソ連は社会主義ではないと主張。中国やキューバなどの現存する社会主義国が共産主義社会を目指す方向性とは全く異なる。他国の悪口、中ロを遅れた国と解釈し、西側を高度に発達した資本主義先進国と見立てる。長年にわたり「共産主義」を掲げながら、日本においてどのような社会主義制度を描くのか明確ではない。我々の生活を改善するのかどうか。宗文洲氏は「日本社会における共産主義的所有制度、法治体系及び産業政策について全く研究も言及もせず、単なる自民反対、民主反対、中国反対、ロシア反対…労働せず反対でご飯を食べている」だけだと批判している(X:2024.10.28)。これでは、党員の高齢化とともに衰退するだけである。

4 福井2区では立憲民主党・辻英之氏が当選、1区は同・波多野翼氏が比例復活当選

福井2区は敦賀市(もんじゅ・敦賀原発)・おおい町(大飯原発)・高浜町(高浜原発)を抱える原発銀座である。この原発銀座に長年君臨してきたのが、自民党の高木毅氏である。毅氏の父親の故高木孝一敦賀市長は石川県志賀町の講演会で、「(1981年4月の敦賀発電所放射性廃液漏出事故について)マスコミがなぜ騒ぐのかまったくわからない」「電源三法交付金や原発企業からの協力金でタナボタ式の街づくりができるから(原発を)お勧めしたい」「(放射能汚染で)50年後、100年後に生まれる子どもがみんな片輪(原文ママ)になるかわからないが、今の段階では(原発を)やったほうがよいと思う」等と述べた」(Wikipedia)。こうした関電や日本原電などの原発企業をバックに、高木氏は2021年9月に国対委員長にまで上り詰めたが、裏金事件が発覚し、総額が1019万円あったということで、国対委員長を辞任・党員資格停止となり、今回は自民党非公認で出馬した。

安倍派5人衆の1人ということで、何としても対抗馬を出さなければと模索したが、候補者がなかなか決まらず、立憲民主党県連が辻英之氏(青森大教授・54歳)擁立を決めたのは7月30日である。選挙の2カ月半前であり、ぎりぎりのタイミングであった。福井2区では英之氏の父親である故辻一彦氏が合区前の旧福井3区で旧民主党から当選しており、兄も挑戦していた。知名度不足・準備不足の中ではあったが、選挙事務所に関電副社長が陣取る高木毅氏に2万票以上の大差をつけて当選した。

福井1区はさらに混迷した。それまで、予定候補としていた女性が9月末に党運営を不満として突然離党してしまった。総選挙まで2週間を切る中、10月7日に越前市職員の波多野翼氏(39歳)を擁立するというドタバタ劇であった。候補者の地元は150軒ほどの集落であるが、地元出身でもなく、勤務地が30キロも離れた越前市ということもあり、本人を知るものは誰もいなかった。それでも、自民党裏金への批判とSNSを駆使した情報拡散・自治労や連合の応援もあり、裏金候補・元防衛大臣の稲田朋美氏に1万6千票差まで肉薄した。福井は比例は北陸信越ブロックであり、新潟選挙区では立憲民主党が独占するなどしたため、波多野翼氏は比例で復活当選した。何としても自民党の腐敗政権を倒さなければならないという強い風が、ぎりぎりのタイミングでの候補者擁立と2名の当選に繋がったといえる。

5 今後の展開

自公は政権維持のため国民民主党の取り込みに躍起である。立憲民主党も具体的な構想を示さねばならない。経済学者の植草一秀氏は、「野党陣営が『消費税率の5%への引き下げ』で足並みを揃えれば政権交代が実現する。」と提案する。野田佳彦氏は2009年総選挙で消費税を引き上げないとの公約したにもかかわらず、2012年に消費税率を10%に引き上げる法律制定を強行し、小沢一郎氏らが離党し、民主党政権を大敗北に導いた「戦犯」である。今回、小沢氏が代表選で野田氏を支持したこともあり、野党結集ができるかどうか。いずれにしても、インフレで実質賃金は連続して下がっており、エンゲル係数は上昇し続けており、生活を守るには、トリガー条項程度の小手先ではどうにもならない。

また、国際的には米大統領選が11月11日に迫っており、共和党・トランプ氏の大統領返り咲きが濃厚となっている。トランプ氏が返り咲けば北朝鮮との関係も大きく変わる可能性がある。韓国からの米軍撤退もあり得る。極東の情勢が大きく変われば、これまで自民党を支えてきた「朝鮮戦争」という中ロなど大陸と無意味な緊張状態を作りだし政権を維持してきた重しもなくなる。「米民主党日本支部」としての自民党はいよいよ再編せざるを得なくなる。いずれにしても歴史的末路は迫っている。

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【投稿】衆院選:自公政権の大敗と流動化

<<「自公過半数割れ」の実態>>
10/27 投開票の衆院選の結果は、投票率53.85%で戦後3番目に低く 低投票率で有利であったはずが、自民単独過半数どころか、自公過半数さえも達成できず、自公政権は大敗した。
主要政党の得票結果をそれぞれの増減でまとめると、以下の通りである。

◆衆院選比例代表の政党得票数の増減
【得票増】
前回 → 今回
立民  1149万票 → 1156万票(7万票増)
得票率   19.9% → 21.1%
国民  259万票 → 617万票(358万票増)
得票率    4.5% → 11.3%
れいわ 221万票 → 380万票(159万票増)
得票率   0.9% → 3.3%

【得票減】
自民     1991万票 → 1458万票(533万票減)
得票率  34.6% → 34.6%
公明   711万票 → 596万票(115万票減)
得票率  12.3% → 10.9%
維新    805万票 → 510万票(295万票減)
得票率 14.0% → 9.3%
共産 416万票 → 336万票(80万票減)
得票率   7.2% → 6.1%
社民    101万票 → 93万票(8万票減)
得票率   1.7% → 1.7%

◆衆院選小選挙区の政党得票数の増減
自民  2781万票 → 2085万票(696万票減)
得票率   48.4% → 38.4%
立民  1721万票 → 1574万票(147万票減)
得票率   29.9% → 29.0%
国民   124万票 → 234万票(110万票増)
得票率     2.1% → 4.3%
維新  480万票 → 605万票(125万票増)
得票率    8.3% → 11.1%

議席を256から191へ大幅減の自民は、比例区で1991万票から1458万票で533万票の減。小選挙区ではさらに696万票の大幅減である。
議席を32から24へ減の公明も、比例区で711万票から596万票で115万票減。公明は、2005年の衆院選では、比例で898万票の最高記録を出していたが、1996年以降の現行制度で過去最少記録となった。党首交代したばかりの石井代表は落選し、辞任する事態である。

小選挙区を含め議席を98から148へ大幅に増やした立憲民主党は、比例の得票数は前回の1149万票から1156万票で7万票の微増であった。小選挙区では、147万票も減らしている。

議席が7から28と4倍増となった国民民主党は、比例で259万票から617万票で358万票の大幅増。小選挙区でも110万票増で、得票率も倍増させている。

議席を43から38へ減らした維新は、805万票から510万票で295万票の大幅減である。ただし小選挙区では、大阪では全選挙区を制覇、125万票の増である。維新の得票率は、比例区では、得票率 14.0% → 9.3%への減少であるが、小選挙区では、得票率 8.3% → 11.1%への増である。

れいわ新選組は、前回の221万票から380万票で159万票増え、議席も3から9に3倍増を獲得している。
対して、共産党は、比例区で416万票から336万票で80万票も減らし、得票数380万票のれいわを下回る結果となった。裏金問題暴露で共産党に追い風が吹いていたにもかかわらず、議席もれいわを下回り、小選挙区を含め10から8への減となった。次々と明らかになった党の非民主的体質への固執、裏金だけの共闘はあり得ないと立憲との共闘を拒否して、野党で唯一議席を後退させた共産党の責任は大である。即刻、指導部は辞任し、党の抜本的改革に着手するべきであろう。

<<石破政権、いつ倒れてもおかしくない>>
石破首相は、勝敗ラインに「自公過半数」を掲げていたにもかかわらず、大敗してなお、辞任どころか、「連立拡大なのか、閣外協力なのか。いろんなやり方がある」と述べ、政権居座りを決め込み、政権維持のための野党取り込みに躍起である。
対する野党勢力は、数の上では過半数を獲得したものの、野党各党はバラバラで、過半数の力で野党連合政権を形成する意志や機運は全く存在しない状況である。
むしろ、国民民主と維新は、“第二自民党”とも言われるとおり、両党とも、いわゆる「部分連合」(パーシャル連合)に色目を使い、それぞれに個別に機会を狙っている、というのが現実と言えよう。

したがって、当面は、石破政権は「少数与党政権」として発足しなおし、局面局面で個別協議、個別取引で事態を取り繕っていく公算が大であろう。

しかし問題は、そうした事態はむしろ政局の危機的状況を次から次へと積み上げ、石破政権はいつ倒れてもおかしくない、何がきっかけになっても危機的局面を迎えてしまう事態を作り出していく、追い込まれていくことが確実であろう。何よりも、避けがたいのは、来年夏の参院選をこのような状態で迎えた場合、自公勢力は再び大敗してしまうという現実に直面することである。

石破首相は、10/28の記者会見で、「結果を真摯に受け止め、心底から反省し、生まれ変わる」と表明しながら、「選挙期間中、中国、北朝鮮、ロシアの軍事活動が拡大、活発化した。日本の安全保障環境がいかに厳しいか訴えてきた。防衛力の抜本的強化に引き続き取り組む」、さらに「憲法改正の発議を目指す」ことまで言及し、「生まれ変わる」どころか、まさに「軍事オタク」路線を前面に打ち出した。
こうした路線に対して、生活諸要求とともに、反戦・反軍拡・軍事費削減、緊張緩和と平和外交の広範な統一戦線を改めて再構築することが求められている。
(生駒 敬)

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【投稿】総選挙結果について

【投稿】総選挙結果について

 10月27日に行われた衆議院選挙は、石破新総裁の下、自民党が歴史的大敗を喫し、立憲民主党・国民民主党が躍進する結果となった。過去であれば「保革伯仲」とでもいう状況が出現したわけだが、どうもそういう雰囲気ではない。
 自民党大敗の原因は、パーティー収入の派閥からのキックバックを収支報告書に記載せず「裏金」として政治資金化した疑惑に対する国民の強い反発であるのは明かであろう。
 自民党の低迷は、公明党にも大きな影響を与え、自公与党の過半数割れを結果し、立憲民主党を中心とする「野党連立政権」の可能性も浮上させている。
 11月11日とも言われる特別国会に向け、自民党の一部野党への連立取り込みの動きと、立憲民主党による他の野党への働きかけが焦点となっている。
 しかし、今回の選挙結果、特に比例区選挙の得票状況を詳しく見ていくと、与党を過半数割れに追い込んだとは言え、野党側にも多くの問題が指摘できる。以下に選挙結果、特に比例投票結果に見られる特徴について考えてみたい。
 (筆者による選挙結果分析は、比例区分析表を基本としている。
  2024年10月総選挙の分析表 2021年10月総選挙の分析表を参照されたい) 
 
<裏金疑惑議員の多くが落選した小選挙区選挙>
 自公与党の過半数割れを生み出した大きな要因は、小選挙区にある。公認を得られなかったり、比例重複立候補も認められなかった「自民党候補」は44人。その内、27人が小選挙区で落選。ほとんどで立憲民主党など野党候補が議席を確保した。
 小選挙区の前回当選と今回の当選者数の比較は以下のとおりである。
 自民党 189 → 132 (57議席減)
 公明党   9 → 4    (5議席減)
 立憲民主党 57 →104 (47議席増)
 維新の会  16 →23   (7議席増)
 国民民主党  6 →11   (5議席増)

 小選挙区では、与党が62議席減少したのに対して、野党3党は59議席を増やした。
自公政権はここで大敗北を喫したのであり、裏金問題に対して国民は明確にNOを突きつけた。

 この結果は、無党派層が自民党から離れたことが最大の要因であり、自民党支持層の一部が投票に行かなかったなども考えられる。一方、自民党支持層に「自民党にお灸を据えたい」という選択もあっただろう。比例区でも、同様の傾向が見られると考えられる。
 
<比例区では、違った特徴が現れている>
 一方、比例区の各党の得票状況では、少し違った傾向が見られるのである。
 比例区の前回当選と今回の当選者数の比較は以下のとおりである。
 自民党  72 → 59 (13議席減)
 公明党  23 → 20  (3議席減)
 立憲民主党 39 →44  (5議席増)
 維新の会  25 →15  (10議席減)
 国民民主党  5 →17  (12議席増)
 共産党    9 →7   (2議席減)
 れいわ  3 →9 6議席増
 参政党  0 →3 3議席増
 保守党 2議席増
 
 比例区では、自公与党が16議席減に対して野党は26議席を増やしている。ただ、野党である維新の会は、10議席減となっている。議席を増やしたのは、立憲民主党、国民民主党、れいわ、参政、保守の各党である。
 比例区の得票数も見てみよう。
 自民党  1985万票 → 1358万票 (627万票減)
 公明党  709万票  → 596万票 (113万票減)
 立憲民主党 1146万票 →1156万票 (10万票増)
 維新の会  793万票  →510万票  (282万票減)
 国民民主党 257万票  →617万票  (359万票増)
 共産党   415万票  →336万票  (79万票減)
 れいわ   221万票  →335万票  (114万票増)
 参政党 → 187万票
 保守党 → 114万票 
 
 自民党、公明党は、合計740万票を失っている。立憲民主党、国民民主党、れいわ、参政、保守は、合計597万票を増やした。維新の会は、282万票を失っている。
 全ての増減数の合計が、前回票と合わないのは、投票率の減少が原因と考えられる。
 自民党は、明らかに「裏金疑惑」の影響を受けて前回より約630万票を失い、比例区議席を13減らし、公明党も113万票を失った。公明党の比例区票は近年減少の一途を辿っており歯止めが掛からない状況が続いている。学会員の高齢化や減少が原因であろう。
 今回の比例区の最大の特徴は、360万票余りを増やした国民民主党の躍進である。マスコミは、SNSを駆使した選挙戦術や、「若者の所得を増やす」というスローガンで、若者の票を獲得できたと解説している。しかし、筆者はむしろ自民党から逃げた票の受け皿の面も否定できないと推察する。さらに、比例区の政党略称問題の影響は、この数字から読み取れない。実は、投票所に掲げられた政党略称名は、立憲民主党も国民民主党も同じ「民主党」であった。各政党から届けられた略称がそのまま記載される。民主党とだけ書かれた票は、2党の得票数に応じて配分される。この影響が国民民主党の獲得票にどれだけ寄与したかは、発表資料がないため不明である、という前提でこの文書はお読みいただきたい。
 そして、旧来の野党に対して、新興勢力でもある、れいわ、参政、保守は、合計で417万票を増やした。自公・立憲・国民という「旧勢力」に飽き足らない層が、新興政党を選択したと言える。
 共産党は、野党共闘路線を方針変更し、小選挙区213選挙区に候補者を擁立した。比例票の積み上げを期待した作戦であったが、効果はなく、比例票79万票を失う結果となった。一部の県では、野党共闘が継続され、全小選挙区で自民党に勝利した。「野党共闘」路線が修正を余儀なくされているとは言え、小選挙区での自公与党との対決の構図を鮮明にして勝利した事実は貴重な教訓であろう。野党各党の事情があるとはいえ、大半の選挙区での野党乱立という判断を行った野党各党には猛省を促したい。この有様では、政権交代などありえないし、国民の信頼も得られないだろう。
 次は、急速に勢いを失った維新の会である。大阪の特殊事情は別として、今回の選挙で野党第1党を目指していたはずの政党だが、比例区票で約300万票を失った。「国民政党」として再起できるのか、予想される大阪万博の失敗と更なる予算投入、兵庫県知事問題、度重なる各級議員の不祥事など、何一つ好材料はない。大阪での「成功体験」は他府県では通用しないという事が理解できないようでは、この政党には「第2自民党」という以外には選択肢は残っていないと思われる。
 
<敵失のみの政権交代は危うい>
 最後に立憲民主党である。比例票では、全比例区で前回総選挙とほとんど獲得票数は変わらない。1150万票前後が、この党のコアな支持層ということになる。比例票では、自民党→立憲民主党への票の移動は少ないという事実。自民党から逃げた票は、国民民主党と参政、保守党、そして投票回避に流れたと見ていいと思う。
 比例区では、政権交代を予測されるような票の流れはなかったということ。自公与党で比例区票は750万票余りが減少し、立憲民主党は前回同様の得票でも獲得議席が増えたに過ぎない。小選挙区では、分かりやすい「裏金候補」から立憲民主党へという流れはあったが、比例区では起きなかったということは、「躍進」に浮かれる立憲民主党関係者には是非とも確認しておいて欲しい。「敵失」のみで政権交代を期待してはいけないのである。
 自民党支持層にとっては今回の選挙で十分に「お灸を据えた」ことになり、次回の総選挙では、何も変わらなければ、自民党に回帰することは確実と見なければならない。ただ、自民党も旧安倍派が勢力を失い、極右勢力が「保守党」となって党外に出たこと。アベノミクスの失敗が明かとなり、「成長戦略」なる幻想が薄れていく中で、新たな保守政策の確立と国民の支持が前提になる。
 立憲民主党にあっては、政権交代などの浮かれ話に乗ることなく、最大野党の役割をしっかり果たし、国民の支持を受ける政策の確立と地方組織の強化、政策宣伝の改善などを通じて、足元を固めることが必要であろう。
 筆者は、敢えて言えば立憲民主党の中道左派支持者とも言えるので、そういう色眼鏡をかけた選挙分析になっていると思う。ご意見をコメント参加でいただければ幸いである。
(佐野秀夫) 

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【書評】『大阪市立大学同級生が見た連合赤軍 森恒夫の実像』

【書評】『大阪市立大学同級生が見た連合赤軍 森恒夫の実像』伊福達彦編著

                            福井 杉本達也

コラムあり、新聞あり、党派機関紙・ガリ版あり、外伝あり、自伝あり、年表ありで、どこからどう読むべきか、なかなか難しい一冊である。「コラム8」において関連資料の豊富な大阪府立中央図書館を紹介しているが、コピーは1万ページを超え、コピー機が壊れ、買い替えたと書いており、散逸した資料集めの苦労が推察される。しかし、本書の構成が最初にグラフティから始まるのはいかがなものか。60年前の当事者でなければほとんど理解不可能である。むろん、全てに解説をつけるなどということは野暮でであるが、冒頭にこそ著者の意見が欲しいところである。

学生運動は70年安保闘争やベトナム反戦運動もあり高揚したが、連合赤軍のあさま山荘事件と、その後公安から暴露されることになったリンチ殺人事件は当時の日本社会に強い衝撃を与え、運動が退潮する契機となった。

編著者の伊福達彦は、「まとめ」において「日本の左翼の伝統である批判と自己批判は、下部統制の手段であった。自己批判の成否の判定権は上部に独占されている。基準がないのだ。…同じことが何度も繰り返されることとなる。…連合赤軍連続粛清の事件は、共産主義組織の査問、粛清体質の縮図である。ブントでは指導部の絶対権限への服従が当たり前とされた。赤軍派の無責任体質が、逃亡3カ月の森を指導部に押し上げた。…森恒夫の『査問』『総括』『共産主義化』は継承することはできない」と書き、「査問とは何か」において、「森だけでなく。マルクス・レーニン主義を看板とする党派は自分たちが前衛だと信じていた。前衛がいるなら中衛、後衛もいることになる。聖職者のような知識人がすべてを代行するという理論だ。前衛という心地よい言葉はエリートの心をくすぐる。…倒錯した世界であった」「その組織論からは当然党の指導者は下部を統制でだけでなく査問の権利も有すると理解された。…森の粛清を他人事としてみている同じ目が、自分たちの組織で有事に査問、粛清に転嫁する」と書いている。

「聖職者のような知識人がすべてを代行する」というのは何も「日本の左翼」だけの専売特許ではない。荒谷大輔は、ルソ―の「自由」は、共同体の一般意志に従うことにほかならないとする。共同体が定めるルールに従うのが「自由」だと。「近代社会」に参加する人は、社会契約において共同体の一般意志を自分自身の意志にしなければならない。理想の社会を作るためには共同体の「一般意志」をみなで共有しなければならない。一般意志は唯一のものでなくてはならず「ある人々はこう考えるが別のある人は違う意見をもっている」などと分裂した状態になってしまうと上手く機能しない。結果、「一般意志」は「独裁」を導き、フランス革命においては、ルソーの「平等」思想を真摯に追求したロベス・ピエールは、「かつての盟友を含め反対者を次々にギロチン台に送り続け…妥協を許さない『平等』の追求は、その意志を共有できない人間を『正義』のために殺すことを厭わないものになった」。その後、「マルクスの『プロレタリアート独裁』は、レーニンによる革命の実践の中で共産党の『一党独裁』へと結実…共産党が『労働者階級』を代表し、労働者を『指導』する立場に立つことになった」と書いている(荒谷大輔『贈与経済2.0 GIFT ECONOMY』2024.4.15)。

また、鷲田清一は『所有論』において、イタリアの思想家:ロベルト・エスポジトの『自由と免疫』の論攷を紹介し、近代社会が西洋でたどった過程は、「『自由』を各個人の『安全』や『保護』に結びつけ…個人を他者たちから隔離する過程」であるとし、「個人が彼が属する共同体の安定性と存続を脅かすもの…境界線を揺るがせ侵犯してくるものへの防御」であり、反汚染=「内に異物、つまり不純なものを含まないこと…内部の純粋性」であるが、「そのもっとも危ういところは、それが異他的なものの排除にとどまらず、自己自身をも排撃する」と述べている(鷲田清一:『所有論』:2024.1.30)。「伝統」は神の権威を否定し「神のような超越的な第三項を導入しない」、「人民の人民による統治」、「主権者(たち)の『自己自身との契約』」(鷲田:同上)という西欧近代の「社会契約論」にまで遡る。

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【投稿】戦争挑発拡大と米大統領選--経済危機論(151)

<<イスラエルの「イラン核施設攻撃計画」の漏洩>>
10/18、Telegramチャンネル「Middle East Spectator」で、米国防総省と国家安全保障局(NSA)から漏洩された極秘の米軍諜報文書が暴露された。同時に、米国家地理空間情報局(NGA)が10月16日に出した2つ目の文書も暴露され、NGAのアナリストらがイスラエル軍のイラン攻撃準備を探知できたことにどれほど自信を持っているかが記載されている。Axiosは、今週「イランと関係がある」とされるTelegramアカウントが、イスラエルのイランへの差し迫った攻撃計画の詳細を記した米国の諜報文書2件を漏洩した、と報じている。

 この漏洩文書が明らかにしているのは、イスラエルがイランの核施設を標的にすることを計画しているが、「イランへの攻撃の規模と範囲を明確に予測することはできないし、そのような攻撃はGEOINT(地理空間情報)によるさらなる警告なしに発生する可能性がある」と文書は述べている。さらに、「10月16日にはジェリコII中距離弾道ミサイル(MRBM)のいかなる活動も観測していない」と述べ、「イスラエルが核兵器を使用する意図があるという兆候は観測していない」とも述べている。
そしてこの文書が明らかにしている重大なことは、イスラエルの核兵器配備能力について具体的に言及されており、その「核兵器を使用する意図」に言及し、事実上、イスラエルの核兵器の存在をも確認していることである。
これまで米国政府は、イスラエルが核兵器を保有していることを公に認めることを拒否しており、公式には、イスラエルには核兵器計画や核兵器備蓄は公表されていない。しかし、これは公式の見解であり、イスラエルと米国政府はどちらも存在を認めたり確認したりしないという協定を結んでいるのである。
この文書の漏洩の性質と動機はいまだ不明であるが、米国政府は、内部調査を行っていると主張しているが、下級職員による意図的漏洩であろうとも、報じられている。

 いずれにしても、イスラエルはイランの核施設を標的にすることを計画しており、その結果、イランがイスラエルの核施設に対して報復の反撃を繰り返す可能性があり、核兵器の使用を伴うイスラエル対中東の大規模戦争が勃発する可能性さえ現実化しかねない段階である。核戦争をも招きかねないきわめて危険な段階、大規模な中東戦争に直面していると言えよう。

10/21、イラン外務省は、「核施設を攻撃するとの脅迫は国連決議に反しており、非難されるべきである」との声明を発表している。

<<ハリス、イランこそ米国の「最大の敵」と発言>>
問題は、このイスラエルの対イラン報復攻撃計画に、バイデン/ハリス政権が深く関与していることである。
すでに、10/13、米国は、バイデン大統領の指示により、終末高高度防衛(THAAD)砲台(Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) system.)と関連米軍要員をイスラエルに派遣すると、国防総省報道官が発表。ニューヨークタイムズへのフォローアップ声明で、THAADシステムがイスラエルに送られ、約100名の米軍がそれを操作することを確認している。
 このTHAAD砲台は、貨物車両に搭載された6台の発射装置、48発の迎撃ミサイル(発射装置1台につき8発)、およびそれを操作する95人の兵士で構成され、さらに、各砲台には移動式監視レーダーと管制レーダー、戦術射撃管制および通信装置がある。すでに、続いて2回目のTHAADシステム派遣も明らかにされている。このシステム 1 台あたりの費用は、約 8億ドルから10億ドルと言われている。そして、このシステムが依存するレーダー AN/ TPY -2 は、実際にはすでに 2008 年からイスラエル南部に配備されており、米軍によってすでに運用されてきたのである。今回、THAADシステム総体として、直接、米軍が運用する事態へと突入しているのである。バイデン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相に対し、対応は「釣り合いの取れた」ものでなければならないと述べ、米国はイスラエルに対し、イランの油田や核施設を標的にすべきではないと伝えた、と言うが、完全な二枚舌である。
国防総省は、議会の承認なしに、米軍が直接激化する海外の戦争地帯に外国防衛のために入っているという明白な事実をこれまでは避けようとしてきたのであるが、「米軍は今や、この戦争に直接的に深く関わっている。ネタニヤフは、米国にイスラエルに代わってイランと戦わせるという究極の願いに、これまでで最も近づいている」段階に到達しているのである。
イラン側がすでに、敵対行為がエスカレートすれば、米軍要員が多数派遣されるイスラエルにあるこの対空砲台が攻撃を受けると警告していることからすると、これは明らかに米軍が紛争でより直接的な役割を果たすことを示している。

 そしてこうした事態に照応するかのように、ハリス副大統領は、トランプ候補との激戦の最中にある米大統領選の候補者として、イランこそ米国の「最大の敵」だと発言している。10/7のCBSN EWSの60 Minutes のインタビューで、米国の「最大の敵」はどこだと思うかと聞かれたハリス氏は、「明らかに頭に浮かぶのはイランだ」と答えた。これまで、米国はロシアと中国を米国の最大の敵だと見なしていたはずであるが、この答えである。
ハリス氏はさらに、「イランは米国の血を流している。そして、イスラエルへの今回の攻撃、200発の弾道ミサイルに関して我々が目にしたように、イランが核保有国になる能力を決して獲得しないようにするために我々が何をする必要があるか、それが私の最優先事項の1つだ」とまで述べている。これでは、米国の対イラン戦争である。
バイデン/ハリス政権は、今や11/5の大統領選で、トランプ氏に支持率で劣勢に立たされ、「最優先事項の1つ」として、危険な戦争拡大への賭けに身をゆだねている可能性が大なのである。

そして、実際にイスラエルがイランを攻撃すれば、即刻、ホルムズ海峡の混乱が経済崩壊の第一波となる可能性が大である。世界の石油輸送に不可欠なこの戦略的な水路が封鎖され、石油価格が急騰し、広範囲にわたる経済混乱を引き起こすことが明らかである。インフレ、サプライチェーンの混乱、軍事紛争のさらなる拡大など、世界市場は動揺し、一挙に世界的な政治的経済的危機が激化するであろう。
こうした危険な事態をストップさせる広範な闘い、包囲こそが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】被団協・ノーベル平和賞受賞 vs. 石破首相「核共有」

<<「論外。怒り心頭だ」>>
10/12、2024年のノーベル平和賞に選ばれた日本原水爆被害者団体協議会は、東京都内で記者会見を開き、田中熙巳代表委員(92)は、米国の核兵器を共同運用する「核共有」に石破茂首相が言及していることについて、「論外。怒り心頭だ。核の恐ろしさを知っているなら考えなさいと言いたい」と批判。首相からの面会の申し出に応じたという田中さんは「会って徹底的に議論してあなたは間違っていると説得したい」と語気を強めた、と、報じられている。

和田征子事務局次長(80)も「日本政府は『唯一の戦争被爆国』といつも言うが、核共有をして米国の指示で使うことになれば、被害国であったのが加害国になるかもしれない。私たちは許すことはできない」と訴えている。

また和田さんは、「これまで核兵器が使われてこなかった。核の抑止力ではなく、私たちの行動こそが抑止力だ」と強調している。

石破茂首相は、首相就任直前に米シンクタンク・ハドソン研究所への要請に応じた寄稿文で、米国との「核共有」や「核持ち込み」を主張 、石破氏は持論の「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」創設に合わせて、米国の核兵器の共有やアジア地域への持ち込みを検討する必要があるとの見解を披露している(9/27)。
その中で日本の「非核三原則」そのものを踏みにじる、米国の核兵器の持ち込みを検討すべきだと主張し、「アジア版NATOの創設」で、中国とロシアと北朝鮮の「核連合」を抑止する必要があると主張、「アジア版NATOで米国の核シェアや持ち込みも具体的に検討しなければならない」とまで主張しているのである。

<<平和賞 vs. 核軍事演習>>
このノーベル平和賞受賞発表と同じ日の10/11、石破氏が持ち上げるNATOは、10/14から開始予定の核兵器軍事演習を発表している。
その2週間の軍事演習「ステッドファスト・ヌーン」は、8つの空軍基地から2,000人の兵士と、西ヨーロッパ上空を飛行する「核兵器搭載可能なジェット機、爆撃機、戦闘機護衛、給油機、偵察および電子戦能力のある航空機」60機以上が参加すると発表されている。
NATO事務総長マーク・ルッテ氏は、「核抑止力は同盟国の安全保障の要である」述べ、「ステッドファスト・ヌーンは同盟国の核抑止力の重要なテストであり、NATOがすべての同盟国を保護し防衛するという明確なメッセージを敵国に送ることになる」と声明で述べている。この軍事演習に反対する軍縮推進派のベアトリス・フィン氏は、平和賞受賞の日に実に「タイミングが悪い」ニュースであり、「この演習は「都市を破壊し、生存者を毒殺する」兵器で「数十万人の民間人を抹殺する」ための訓練であると強く抗議している。

平和賞受賞が発表された最初の報道で、広島県被団協の箕牧智之理事長は「本当に夢の夢です」と喜ぶと同時に、「今、世界は複雑な情勢だ。私たちもさらに磨きをかけてやっていかなければならない。戦後、原爆孤児で育った子どもたちがたくさんいる。ガザで子どもが被害を受けている」と訴え、涙を流しながら「ガザでは、血を流す子どもたちが(親に)抱きかかえられています。80年前の日本のようです」と続けて語り、10/11 の米デモクラシー・ナウでこの場面が放送され、被団協の「代表が、現在のガザを原爆投下後の日本、そしておそらくイランの核施設を爆破するというイスラエルの脅迫と比較したと発言したのは、非常に興味深いことです」と紹介されている。

核戦争の危険性が迫る中、まさに、「軍事オタク」とまで揶揄されてきた石破氏の危険な本質が、今回の被団協・ノーベル平和賞受賞で浮き彫りになったと言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】米/イスラエル:中東全面戦争への共謀--経済危機論(150)

<<「正義の尺度」>>
9/28、バイデン米大統領は、イスラエルがレバノン南部の人口密集地帯の高層ビルを米提供の強力なバンカーバスター爆弾で重爆撃し、6棟のアパートを破壊し、抵抗武装勢力ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師を爆殺したことを、「当然の報い」「正義の裁きだ」だとしてイスラエル擁護し、「正義の尺度」(Israeli airstrike is a measure of justice)として称賛する声明(Statemen from President Joe Biden on the Death of Hassan Nasrallah)を出すに至った。さらに声明は、「米国は

ヒズボラ、ハマス、フーシ派と、その他イランの支援を受けるすべてのテロ団体に対するイスラエルの防衛権を全面的に支持する」ことを明確にした。
大統領選を闘っている、カマラ・ハリス氏も「ハッサン・ナスララ氏は、アメリカ人の血を流したテロリストだった。何十年にもわたり、彼が率いたヒズボラは中東を不安定にし、レバノン、イスラエル、シリア、そして世界中で無数の罪のない人々の殺害につながった。今日、ヒズボラの犠牲者たちは一定の正義を得た」と述べている。
だが、両者とも、人口密集地域でイスラエルの爆撃で殺害された1,000人以上のレバノン人の男性、女性、子どもたち、これら「無数の罪のない人々」については一言も語っていない。もちろん何十万人ものレバノン人が避難を余儀なくされ、街区全体が破壊されたことについても一言も語ってはいない。この住宅密集地を巨大爆弾で破壊することのどこに「正義」があるというのであろうか。完全な無差別爆撃であり、国際法にも違反するジェノサイド攻撃である。
バイデン氏とハリス氏は「休むことなく停戦に取り組んでいる」のではなく、大量殺人と大量虐殺に加担し、今や明確な共犯関係に至っている。

<<戦争で儲ける企業の株価が急騰>>
そして10/1、イランの限定的と言われる報復・反撃行為が実行され、急激に中東全域への戦争拡大が懸念される事態に突入している。
イランはイスラエル南部と中部に約400発以上と推定される弾道ミサイルを発射、イランの革命防衛隊(IRGC)は公式声明で、この攻撃はイスラエルによるハマス政治局長イスマイル・ハニヤ、ヒズボラのハッサン・ナスララ事務局長、IRGC司令官のイランのアバス・ニルフォロシャン准将の殺害に対する報復であると述べている。IRGC

は、イスラエルが攻撃に反応すれば、さらに破壊的な攻撃が続くと警告し、イスラエルが報復したり「さらなる悪意ある行為」を行えば「徹底的な対応」をすることを明確にしている。
イスラエルのメディアは、イスラエルがヒズボラ指導者ハッサン・ナスララを暗殺したことに対する報復攻撃として、500発以上のミサイルがイスラエルに向けて発射されたと報じている。しかしこの報復攻撃から約45分後、イスラエル国防軍はイスラエル全土で防空壕や避難所から出るのは安全であると発表。イランは強硬姿勢を見せつつも、限定的な反撃にとどめている可能性が高いと言えよう。
しかし、イスラエルにとっては、イランとの全面戦争、中東全域への戦争拡大への転機となる可能性が高く、バイデン/ハリス政権がこれに加担・共謀する危険性も増大している。

10/2、WTI原油は、中東の緊張が高まり紛争が広がるとして、直ちに反応、4%上昇している。
特徴的・象徴的なのは、戦争で儲ける企業の株価が急騰していることである。「今日は市場全体が下落している」にもかかわらず、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、RTX(旧レイセオン)の株価が急騰している。そして要注意なのは、「少なくとも50人の議員またはその家族が防衛請負業者の株を保有しており、これらの企業は議会が作成した国防総省の歳出法案から毎年数千億ドルを受け取っている」「連邦議員や防衛関連企業による株式保有総額は1090万ドルに達する可能性がある」現実である。彼らは、バイデン/ハリス政権が戦争拡大に突き進むことを期待していることはは言うまでもないであろう。
しかし、戦争拡大は、政治的経済的危機打開を破綻させるものでしかない。緊張緩和と平和への努力こそが要請されており、それ以外に危機打開の道はないのである。
(生駒 敬)

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【投稿】バイデン/ハリスの大量虐殺加担--経済危機論(149)

<<ネタニヤフ「すべての住宅が軍事目標である」>>
9/27、イスラエルのネタニヤフ首相は国連総会の演説で、レバノンのヒズボラは「学校、病院、アパート、レバノン市民の個人宅にロケットを保管している。彼らは自国民を危険にさらしている。彼らはあらゆる台所にミサイルを、あらゆるガレージにロケットを置いている」と強弁し、「事実上、すべての住宅が軍事目標である」ことを確認し、レバノンには民間人居住地などなく、「イスラエルにはそれをすべて破壊する権利がある」と主張、「事実上、すべての住宅が軍事目標である」として、レバノンへの大量無差別爆撃を合理化するに至った。これは、明らかな100%大量虐殺、ジェノサイド犯罪である。
 この演説に抗議して、ネタニヤフの演説中に大量の各国代表が退場し、「バイバイ、ビビ(ネタニヤフ)」の意思を示した。アメリカ・イスラム関係評議会のニハド・アワド事務局長は声明で、「極右であからさまに人種差別主義を掲げるイスラエル政府がガザでの大量虐殺を続け、レバノンの民間人にも国家テロ活動を拡大する中、戦争犯罪者ベンヤミン・ネタニヤフ首相の国連演説中に行われたこの大規模な退席は、国際社会が大量虐殺を拒否していることを示している」と強調している。

イスラエルはレバノンをこの1週間連日、大量爆撃しており、イスラエル国防軍(IDF)はこれを「北の矢作戦」と呼んでいる。レバノンのアビアド保健相は、9/26夕方時点で、このイスラエルの爆撃作戦で1,300人以上が死亡、約7,000人が負傷したと語っている。同保健相によると、イスラエルは通信機器の爆発から始まり、爆撃作戦を続けるなど「民間人に対する無差別攻撃」を続行しており、「これらの無差別攻撃の主な目的は、恐怖の雰囲気を広め、大量脱出を引き起こすことだと思う」と述べている。

 ニューヨークでは、9/26、ネタニヤフ首相の国連総会演説を前に、同首相の車列の予定ルートを妨害したとして、20人以上のパレスチナ人とユダヤ人の活動家と支持者が逮捕されている。抗議活動を共催したユダヤ人平和の声(JVP)は、「我々はネタニヤフ首相のレバノン攻撃とガザでのパレスチナ人虐殺を強く非難する」、「米国政府がイスラエルへの武器供与をやめ、パレスチナ人が当然の自由と尊厳を持って暮らせるようになるまで、我々は反対の声を上げ続ける」ことを明らかにしている。

一方、イスラエルに加担するアメリカに関しては、Axios は同日、「情報筋によるとバイデン氏は内心ネタニヤフ氏に怒っている」と言う記事を配信し、停戦提案の拒否とエスカレーションの激化をめぐって、大統領はイスラエル首相に対して「苛立ち」、「屈辱」、「激怒」といった形容詞を感じている、と報じている。しかしこれも、バイデン/ハリス政権が実際上は、この虐殺行為を承認し、自発的に参加している実態を覆い隠すものであることは言うまでもない。「休戦に向けて精力的に取り組んでいる」と言いながら、大量の武器・弾薬を供給し、こうした流血行為に進んで加担していることは、彼らの「心優しき言葉」やねじまげ、見せかけのホワイトハウスのプレスリリースではなく、実際の行動そのものが立証していることである。本当に戦争を止めたいのであれば、軍事援助や軍艦派遣・軍事支援を直ちに停止すれば、イスラエルは戦争継続が不可能なのである。
カマラ・ハリス大統領候補が、現政権が「休戦に向けて精力的に取り組んでいる」と保証する一方で、イスラエル国防省は米国からさらに87億ドルの軍事援助を新たに確保したと発表しているのである。これが大量虐殺への加担ではなくて、何なのであろうか。すでに有権者からは見透かされているであろう。

<<「バイデンは何度も騙されているだけ」>>
9/26、イスラエル国防省は、ガザでの大量虐殺とレバノンでのイスラエルの劇的なエスカレーションを意味する「進行中の軍事活動」を支援するために、米国から87億ドルの軍事援助を確保したと発表。このパッケージには、すでにイスラエルに送金されている「必須の戦時調達」のための35億ドルと、防空のための52億ドルの助成金が含まれている。その大部分は同国の枯渇した防空兵器の補充に充てられるとイスラエル国防省は9/26の声明で述べている。

そしてこの最新の軍事支援パッケージ発表から1日も経たないうちに、米国のロイド・オースティン国防長官、英国のジョン・ヒーリー国防長官、オーストラリアのリチャード・マーレス国防相は、イスラエルとヒズボラの21日間の停戦を共同で呼びかけている。
「我々は今、全面戦争、新たな本格的な戦争のリスクに直面しており、それはイスラエルとレバノンの双方に壊滅的な打撃を与える可能性がある」とオースティン氏は述べている。
続いて、同じ9/26、米国、欧州連合、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などの首脳は、イスラエルとレバノンの国境で即時21日間の停戦を求め、同時に、イスラエルとレバノンは、この取り組みの枠組み内で合意には至っていないことを明らかにした。
フランスのマクロン大統領は「この21日間で首相が和平を約束し、チャンスを与えることができる時間は、まだあると私は信じている。米国は今、イスラエル首相にそうするよう圧力を強めなければならないと信じている」、「イスラエル軍がレバノンで地上作戦を行うことは大きな過ちであり、エスカレーションの大きなリスク」になると指摘している。また、マクロン氏は、ヒズボラが停戦の用意があると表明しているため、全世界がネタニヤフ首相の決断を待っていると付け加えている。

ところが、イスラエルはレバノンへの爆撃作戦の拡大を止める意志などさらさら持ち合わせてはいない。米当局者らは、ネタニヤフ首相は公式にはこの計画を「歓迎する」と述べると理解していた、しかしネタニヤフ首相はニューヨークに到着すると方針を変え、戦闘は続くと述べた、と弁明している。ネタニヤフ首相の事務所は、停戦が進展しているという報道を否定する声明をわざわざ発表し、レバノンへの激しい攻撃を継続し、ガザへの猛攻を続けることを明らかにしている。「停戦に関する報道は誤りだ。これは米仏の提案であり、首相はこれに対して反応すらしていない」と声明は述べている。
ホワイトハウスは、「レバノンの一時停戦に関する発表は、イスラエルと調整して発表された」ものであると述べているが、そもそも、米国はイスラエルへの軍事援助を継続しており、イスラエルは新たな87億ドルまで獲得し、状況が悪化した場合はイスラエルを守ると請け合ってくれており、ネタニヤフ首相には中東戦争拡大を止める動機がないのである。9/26、ネタニヤフ首相はレバノンで停戦はないと断言したことで、こうした停戦案は吹き飛んでしまったのだと言えよう。
こうした事態について、シンクタンクのクインシー研究所のトリタ・パルシ氏は「ネタニヤフがバイデンを騙しているわけではない。バイデンがネタニヤフに何度も騙されているだけだ」と、述べている。今回に限らず、これまで大いに

宣伝されたガザ停戦に関しても一貫したパターンであり、停戦は一度も実現していない。

中東戦争の危険な拡大は、直ちに石油価格の急騰をもたらしている。バイデン/ハリス陣営は、戦争・経済両面での危機解決政策を提示できず、苦戦に陥らざるを得ないであろう。

(生駒 敬)

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