Assert Webの更新情報(2026-02-28)

【最近の投稿一覧】
2月28日【投稿】総選挙の結果に思う事
2月28日【翻訳】「長期にわたる計略は、中国に希土類元素を支配するのを許している。」
2月21日【投稿】トランプ関税:米最高裁で敗北--経済危機論(173)
2月12日【投稿】「推し活」・イメージのみの衆議院選挙で「知性」の時代は終わった
2月7日【投稿】悪質な人種差別画像投稿:トランプ氏、謝罪を拒否
2月5日【転載】「どこが停戦なのか ?」
1月25日【投稿】「トランプ崩壊の到来」:危険なエスカレート
1月21日【投稿】トランプ政権:暴走・制御不能で危険な段階
1月19日【書評】『管理職の戦後史―栄光と受難の80年』濱口桂一郎著
1月5日【投稿】東電の「現金が底をつく」―原発再稼働の論理
1月4日【投稿】無謀・トランプ:対ベネズエラ、資源・領土略奪戦争開始
12月31日【投稿】米・イスラエル:対イラン戦争へのエスカレート
12月31日【投稿】日米安保条約からの潜在的脱退・「戦略的独立」の提起
12月26日【投稿】米国の敗北による焦りー高市政権官邸幹部の核保有発言の支離滅裂
12月19日【投稿】トランプ:対ベネズエラ・帝国主義戦争開始宣言
12月14日【投稿】トランプ政権の新しい国家安全保障戦略と日本
12月3日【投稿】トランプ米大統領:一晩に「陰謀論」投稿、数百回
11月30日【投稿】高市政権の経済政策は円安から物価高騰を招く
11月22日【投稿】トランプ大統領:極まる独裁者・ファシストの叫び
11月19日【投稿】台湾有事で「存立危機事態」との高市答弁は日本に大損害をもたらす
11月15日【投稿】特定食品関税撤廃:トランプ関税の敗北--経済危機論(172)
11月06日【投稿】ニューヨーク市長選:トランプ脅迫路線の敗北
10月31日【投稿】トランプ関税:脅しの敗退--経済危機論(171)
10月31日【投稿】日本の5500億ドルで米国の電力(原発)などインフラを整備
10月19日【投稿】反トランプ・「ノー・キングス」全米大規模抗議デモ
10月18日【投稿】古色蒼然とした「安全保障」と「エネルギー政策」
10月13日【投稿】トランプ政権:対中貿易戦争再開の脅し--経済危機論(170)
10月12日【書評】「西洋の敗北と日本の選択」・エマニュエル・トッド著
10月11日【投稿】「下駄の雪」公明党の連立政権離脱と80年間もの米国支配
10月5日【投稿】「ガザ和平計画」:トランプ・ネタニヤフ政権の岐路

【archive 情報】
2023年5月1日
「MG-archive」に新しい頁を追加しました。
民学同第3次分裂

2023年4月1日
「MG-archive」に以下のページを追加しました。
(<民学同第2次分裂について>のページに、以下の2項目を追加。
(B)「分裂大会強行」 → 統一会議結成へ
(C)再建12回大会開催 → 中央委員会確立

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【投稿】米・イスラエル:対イラン、先制攻撃開始

<<米・イラン核協議は、戦争開始の隠蔽工作であった>>
イランと米国は2月上旬以降、イランの核開発を巡る協議を継続してきており、来週にも4回目の交渉の日程まで合意されていたのであった。
ところが、この2/28、日本時間で午後3時ごろ、米・イスラエルの対イラン先制攻撃が開始され、イランの首都テヘランをはじめ、イランの核施設、軍事施設を爆撃、

米国とイスラエルがイラン攻撃を開始、テヘランから煙が上がる

テヘランでは少なくとも5度、大規模な爆撃が実施され、首都以外の数都市でも空爆が行われ、米フォックスニュースは、米国の対イラン攻撃目標には国会議事堂、国家安全保障最高会議、情報省、イラン原子力庁が含まれていると、米国の目標リストを生放送で発表したのであった。イラン最高指導者のハメネイ師の公邸も攻撃を受けたが、同師は安全な場所に避難したということである。続いて、イスラエルのカッツ国防相はイランに対して「先制攻撃」を実施したと明らかにした。
 米戦争省は、これを「壮絶な怒り作戦」(Operation Epic Fury)と名付け、イスラエル・ネタニヤフ首相は、「轟くライオン作戦」(Operation Roaring Lion)と命名している。

同日さらに、トランプ大統領は、自身のソーシャルメディアで、イラン核開発問題の交渉で、米国の「忍耐は限界を超えた」ため、軍事作戦の開始に踏み切らざるを得なくなった、と表明した。そのビデオ演説で、米国は、イランのミサイル産業と海軍力を破壊し、さらにイランに忠誠を誓う勢力が中東情勢を不安定化しないよう配慮する、対イラン作戦の標的は核・ミサイル計画であると明言したのであった。
これは、明らかに、核協議に隠れただまし討ちであった、と言えよう。ロイター通信は、イスラエル国防省のスポークスマンが明らかにしたとして、今回の攻撃は数カ月前に立案され、実施日は数週間前に決定されていたと伝えている。テヘランとの合意など当初から求めていなかったのである。

<<米軍基地へのイラン反撃の拡大>>
イランは直ちに、米国は、「すべての国際法と交渉中」に違反したとして米国を非難、国連安全保障理事会に緊急会合の開催を要求していることを明らかにした。イラン内務省は、米国とイスラエルによる共同攻撃を非難し、イラン国営放送IRIBを通じて、「イスラム教イランの偉大な人々に、犯罪的敵が再びすべての国際法に違反し、交渉中に再び我々の愛する祖国を侵害したことを伝えたい」との声明を発表している。

同時に、イランはイスラエルに向けて数十発の大陸

 

道ミサイルを発射、イスラム革命防衛隊(IRGC)傘下のイランの半国営ファルス通信によると、イスラム革命防衛隊(IRGC)は、そのミサイルと無人機がバーレーンの米海軍第5艦隊司令部、カタールとアラブ首長国連邦の他の米軍基地、さらには「占領地域の中心にある軍事・治安センター」を標的にしたと発表している。革命防衛隊は、「イラン・イスラム共和国に対する敵対犯罪者の侵略に応じて、占領地に対するイラン・イスラム共和国による広範なミサイルと無人機攻撃の第一波が始まった」と述べている。

事態は、中東全域への戦争の拡大から、核戦争にまで発展しかねない、きわめて危険な展開に進展しており、米・イスラエルの無謀なエスカレートをストップさせ、孤立・包囲する闘いが要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】総選挙の結果に思う事

【投稿】総選挙の結果に思う事

<高市政権の登場>
 昨年の参議院選挙の敗北を受けて行われた自民党総裁選挙で、高市総裁が誕生し、維新との連立合意によって高市政権が誕生した。初の女性総理大臣は、官邸で深夜の答弁調整会議を行い、「働いて、働いて、働いて、働いてまいります」と発言。厳冬期の電気・ガス料金の補助、ガソリン暫定税率の廃止など、国民受けする政策を実施し、日韓・日米首脳会談でのパフォーマンスもあり、高い支持率を維持していた。
 公明党の連立離脱を受けた、維新との連立合意では、維新が求めた議員定数の削減、副首都構想実現法制の整備など、ほぼ維新の政策を丸飲みしてのスタートだった。

<高市自民党圧勝の要因について>
 2月8日投開票の衆議院選挙は、高市自民党が圧勝し、自民党の単独過半数、連立を組む維新も加えると、高市与党では352議席、衆院の76%を占めることとなった。
 さらに、小選挙区で自民党候補が軒並み当選したことで、比例区名簿が不足し、14議席を中道などの野党に振り分けるという異例の事態となった。
 与党圧勝の要因の第1は、憲政史上初の女性総理の誕生、さらに高い内閣支持率を背景にした異例の短期戦を強行したことによる。大きな賭けであったが、当事者の予想に反して、大きな支持を受けることになった。公示直前に、高市が「消費税減税」の検討を言いだし、野党と対決を回避したことの影響も大きい。
 第2は、異例の短期戦、突然の解散を受けて、準備も整わない中、立憲民主党と公明党が衆議院での新党結成で対抗しようとしたが、有権者への広がりに欠け、逆に従来の支持者の離反を招き、結果、大きく議席を失うことになった。
 第3は、昨年の参議院選挙では、大きく躍進した参政党だが、大幅な議席増となったが、昨年の参議院選挙での熱気程ではなかった。国民民主党は、その勢いを持続出来ず、大きな躍進とはならなかったこと。外国人排斥を売り物にした参政党は、高市政権の形ばかりの外国人政策に埋没し、「手取りを増やす」と政策重視で支持を拡大してきた国民民主党だが、政権交代の展望も描けない状況に、支持率は横這いとなった。
 第4には、共産党、れいわ、社民党など、いわゆる左派グループが、高市人気を前にして、「中道」への批判を強め、反高市陣営を分散化させたことだ。過去の「社民主要打撃論」的発想では、統一戦線に対する信頼も、自らの存在意義さえも失う結果となった。一方、政治資金の透明化と、消費税減税に異を唱えたチームみらいが、他と明らかに相違した政策への期待から、都市部の比例区の比例区で躍進した。「バラマキ合戦」と評される混乱の中、有権者の大きな選択肢となったことは、注目すべきであろう。
 
<高市政権の「責任ある積極財政」について>
 高市は、本来の右派的主張を事実上封印し、安倍元総理のアベノミクス路線を継承し「責任ある積極財政」と推進するとして、「日本列島を、強く豊かに。」をスローガンとした。
 それは、現在の超円安を容認し、成長への投資によって、日本を豊かにと唄っているが、大企業を中心とする輸出型産業への利益誘導、輸入物価の高騰を放置して、物価高にあえぐ国民生活に応える内容ではない。
 「責任ある積極財政」も、「バラマキ政策を責任をもって進める」ということであり、国債発行に歯止めをかけないというリフレ派の主張そのもの。
 物価上昇、インフレを意図的に起こし、国の借金を事実上目減りさせようという意図も見えるが、高市圧勝と共に、一層円安が進み、国債利率の上昇など今後の日本経済に対し、国際金融市場の動きは明らかに日本の先行きへの不安を表している。
 国民は、高い支持率に現れているように、まずは期待が先行していた。ガソリンの暫定税率の廃止や、給付金支給、そして極めつけが「消費税減税の検討」であり、短い選挙戦の中で、充分に批判、議論がされぬまま、投票日を迎えたのであった。
 
<稚拙な新党結成をどう考えるか>
 自民党との連立を解消した公明党。先の衆議院選挙、昨年の参議院選挙でも、新興政党と国民民主党の伸長を許し、野田を代表にせざるを得ないほど、人材と組織が枯渇した立憲民主党。急遽の総選挙を前に、保守・中道での「塊」を作り出す方策で、挽回を図りたい、そんな思惑が交差したのだろうか。しかし、中道改革連合という新党結成は、政策議論や国民への説明が充分ないまま、党中枢の決断によって進められた。政策においても、自公政権の流れを基礎にした公明路線に迎合し、安保自衛隊問題、原発再稼働問題も、旧来の立憲民主党路線から大きく右に舵を切った。立憲民主党に期待していた支持層の期待を裏切ったことは言うまでもない。
 労働組合を組織基盤とする立憲と、宗教団体を基盤とする公明党は、どのように党運営を行うのだろうか。地方組織や参議院では、立憲・公明の組織を維持するという方式も含めて、今後、まとまな政党として継続していけるのか、極めて疑問である。
 問題は、立憲民主党が、議員政党としての性格を強め、地域組織や党員の積極的拡大を怠ってきたこと、野田や安住、枝野などの中枢幹部だけで、これほど重要な決断を短期間に行うことができたこと、それ自体に大衆的政党としての基盤がない証左ともいえるのだが。
 
<有権者の動向>
 今回の総選挙における有権者の動向は、どうであったのか。
年代別の出口調査結果が公表されている。まず、自民党だが、どの世代からも高い支持を得ている。一方、中道は、若い世代、中堅層からの支持が薄く、極端に高齢世代に偏っている。
 一方、国民民主、参政、みらいは若年・中堅世代の支持が高く、共産党は、60代以下の世代からの支持が低い、という結果が出ている。
 中道は、結党の記者会見で、年配の男性ばかりが顔を並べて、5Gと揶揄される有様。中堅・若手へのアピール力では、他党と比べても期待すべくもない状況だった。世代交代、そして女性層への広がりを求めらる中、明らかに、そうした層への訴求力は考慮されていなかったではないか。
 
<公明党の評価>
 「中道改革連合」は、小選挙区は立憲民主党の候補、比例区は公明党の候補を優先する仕組みで闘ったが、期待はずれの新党は、小選挙区は総崩れ、比例区では優先的順位の公明候補がまず当選する結果となった。公明は、ほぼ勢力を維持することができた。彼らの戦略勝ちということか。公明党の連立離脱で、小選挙区自民党候補が、1~2万票を失い、立憲民主党系の候補に流れれば・・などという皮算用で考えられた方式ではあったが、完全に裏目に出た。公明比例票には、自民からのバーター票が隠れていたし、高齢化などで弱体化する公明の地方組織では、これまで敵対していた立憲候補支援の選挙行動も、躊躇があっただろう。形の上では、小選挙区で中道候補を応援する行動を行うが、本音は比例区重点ではなかったのか。こうした「中道」組織内での違和感は根強く、その払拭は容易ではない。
 せめて統一候補や、相互推薦などの、ゆるやかな野党連携とすることはできなかったのか、深刻な総括が求められている。
 
<憂慮すべき沖縄の事態>
 野党・左派グループの混迷を象徴するのが、沖縄であろう。沖縄県では、前回の選挙では「オール沖縄」で当選した現職の新垣議員が、昨年11月に社民党を離党したことを受け、総選挙では、社民党が別の候補を擁立。自民・オール沖縄・社民の三つ巴戦となって、オール沖縄候補が落選し、沖縄の4つの議席を自民党が占める事態となった。この過程で、社民党県議など8名が社民党からの離党を表明。沖縄で社民党県議はゼロとなってしまった。
 
<統一戦線の課題>
 新政権発足後、武器輸出の解禁を打ちだし、憲法改正に意欲を示すなど、今後の高市政権は、安定した政権基盤を背景に、じわじわと、そして大胆に平和・軍事の分野において、右より路線を強めることが確実である。選挙前には、政権幹部から、核武装必要論が出たことは記憶に新しい。
 自民・維新・参政の右派連合に対する、リベラル・左派の野党が一致して取り組める課題、「反インフレ政策、反核平和、ジェンダー政策」を軸に、反高市の統一戦線を作り、大衆行動を背景に右派政策に対抗する陣形の構築が求められている。
                              (佐野秀夫)
 

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【翻訳】「長期にわたる計略は、中国に希土類元素を支配するのを許している。」

【翻訳】「長期にわたる計略は、中国に希土類元素を支配するのを許している。」

The New York Times  International Edition、Dec. 31, 2025 ? Jan. 1, 2026

“ Long game allows China to dominate rare earths”
Wuxi, China (無錫、中国)
Generations of leaders invested heavily in the industry over six decades.
by Keith Bradsher [ 訳者:He is an American business and economics reporter and the Beijing bureau chief of the New York Times. ]

「長期にわたる計略は、中国に希土類元素を支配するのを許している。」
   指導者たちの幾世代が60数年に渡りこの産業に重点的に投資してきている。

 中国による rare earths への優位的支配の起源は、ある鉄鉱石鉱山 — モンゴルとの国境から50 mile ほどの中国北部 Baotou(包頭)の近く — に遡ることが出来る。 それは 1964年4月で中国の地質学者達が発見した。この鉱山が、また、幸運にも、今日の世界経済にとって不可欠な成分となっている17の元素金属がone set となっている rare earths(希土類元素) の世界最大の埋蔵量を有していたのである。
 Deng Xiaoping (鄧 小平) — その時は中国共産党の上級党員だった— は、当時、軍の製鉄所によって所有されていた遠隔地の砂漠にあるこの鉱山を訪れて、膨大なる貯蔵庫というべきところを視察、検分した。「我々は、鉄資源を開発する必要がある。同時に rare earthsも」と鄧氏は明言した。10数年後に彼は、最高位の指導者になっていることが明らかになる。
 
  [ご参考までに 17 の元素は以下の通りです。— 訳者 ]
  No. 元素番号 元素記号 元素名
  1  21   Sc   スカンジウム
  2  39   Y    イットリウム
  3  57   La    ランタン
  4  58   Ce   セリウム
  5  59   Pr   プラセオジム
  6  60   Nd   ネオジウム
  7  61   Pm   プロメチウム
  8  62   Sm   サマリウム
  9  63   Eu   ユウロビウム
  10  64  Gd   ガドリニウム
  11  65  Tb   テルビウム
  12  66  Dy   ジスプロシウム
  13  67  Ho   ホルミウム
  14  68  Er   エルビウム
  15  69  Tm   ツリウム
  16  70  Yb   イッテルビウム
  17  71  Lu   ルテチウム

 今日、先頭を行く供給者としての中国の立ち位置は、電気自動車や風力発電のタービンのようなクリーンエネルギー技術において大きな影響を与えている。世界中の会社は、これら製品に使われている高性能磁石を中国からの輸入に頼っている。希土類元素の中国への集中は偶然に起こったことではない。それは計画に基づいた数十年に渡る国内外への投資—時として党の最高レベルや政府からの指示による— の結果である。1970年代初期に、人民解放軍は rare earths の軍用への可能性を研究、開発すべく調査、研究計画を実行した。
 鄧氏は、引き続き Geologist (地質学者) Wen Jiabao (温 家宝) — 彼は後に2003 ~ 2013年中国の首席となる。— と共に 1980~1990年代 rare earth の開発を進めた。温氏の下で、小規模でバラバラの個人会社群を統合整理して堅実経営の中国政府の一部門とした。また温氏は、密輸業者の経営する鉱山を閉鎖させ、この産業の汚染/公害を根絶するよう手を尽くした。この分野は、規模が大きくなって専門知識や技術を蓄え、成長した。2019年、中国の最高指導者として 7 年の統治で Xi Jinping (習 近平)は、rare earthsを「重要なる戦略的資源」であるとその特色を述べた。数年前にも世界のsupply-chain における「締め技」(chokehold)として、また、トランプ大統領との貿易戦における強力なる手段として使うことを厭わない、という態度を示してきた。(2025年)4月と再び10月になって中国は新しく輸出制限法を制定した。Rare earthsとそれを使った磁石の供給/輸出を保留出来るもので、米国に輸入関税で妥協を勝ち取った。10月の供給制限では、財務長官 Scott Bessentをして、「全世界のサプライチェーンと産業基盤に、バズーカ砲を指し向けた」と、言わしめた。
 1973年後半と1974前半のアラブ諸国による石油禁輸は、米国に、重要鉱物の入手不能を体験させた。この禁輸は、世界の石油供給の1/3に影響を与えた一方で、中国は世界のrare earths とそれを使った磁石の90%を生産している事実がある。Rare earthsに関するこの一年の行動は、「明らかに地経学史(geoeconomic history)
と国際関係における重要な瞬間だった」と Mr. Nicholas Mulder, a historian of embargoes and sanctions at Cornnell University in upstate New York は述べている。

Early Role for China’s Military : 初期の中国軍への役割
 中国のrare earths 産業は、50年以上前の文化対革命での軍事作戦で大きく前進した。毛沢東の紅衛兵は、ほとんどの学校と大学を閉鎖した。この時期は技術の革新にとってふさわしくないように見えた。この産業の父と呼ばれている人は、Mr. Xu Guangxian (徐 光憲)で、背の高い細身の人で上海に近いShaoxing(紹興)の出身で囲碁を愛し武術小説にも熱中していた。第二次大戦後しばらくして、彼は Columbia University in New York にて化学の博士号を取得し、その後北京大学で教え、研究するために帰国し、ウラ二ウムを加工、処理する新しい方法を発見した。これは、中国の原子爆弾を作る奮闘における大発見であり、その後のrare earthsに役立つ前触れであった。
 その後の文化大革命時に、多くの知識人同様に彼も拘束された。しかし1971年、彼は政治的に復職を許され大学に戻った。人民解放軍は、rare earthsの純粋サンプルを精製する方法を発明する課題を与えた。軍は戦場でのレーザー光線を使う実験のためのサンプルを必要としていた。この精製は非常に難しい。初期には化学者達は、一つ一つ引き離し分離する難題のゆえに “rare” と名付けたほどである。
 北京大学にて、徐博士と妻、それに熟達の化学技術者達は研究室に閉じこもって研究した。そして、ついに革新的大発見をなした。Rare earthsは、高価でない hydrochloric acid (塩酸)と貯蔵タンク付きの設備で精製が出来た。混合されたrare earthsは片方の端から注がれて、特定の種類の元素は様々な溶媒に結合した後に、もう片方の出口より現れてきたのである。これは最初の精製ラインであり、粗末な装置ではあったが今日でも使用されている。徐博士の技術によって生産コストは大幅に下げることが出来た。この設備は最初に包頭にて設置され、関連化学プラントを上海にて立ち上げた後に、技術者を全国から集めて教育/訓練を開始した。

Deng Xiaoping takes charge : 鄧小平が指揮を執る。
 毛主席の逝去の後、鄧氏が科学技術に重点を置く経済計画にて権力の統合を始め、1978年にその計画を監督するために Mr. Fang Yi (王毅氏)を副首相に選任した。王氏は、関係する科学者/技術者を伴って包頭に向かいrare earths 産業を視察した。
鄧氏と王氏によって立案された 1981 ~ 1985 年の五か年計画には、「rare earth metals の生産を増強すべし」と指示されていた。中国の 100 以上の町や村は、1980年代にrare earths の精製所を建設した。それらの多くは国有化されていたが、ほとんどは有効な汚染処理設備を持っていなかった。1986年までには、中国はrare earths の世界最大の生産国となっていた。
 当時の外国の精錬所は、徐博士の精製技術を採用/借用していた。彼は、特許を取っていなかったので、特許使用料を徴収できず、それが頭痛の種だった。「我々は当時、秘密にしておくことの自覚がなかった。」と何年か後に徐博士は、雑誌のインタビユーで述べていた。
 Rare earths は、当時は high-tech. ではなく、low-tech. の製造工程で使われていた。すなわち、鉄の強度を上げることや、油の精製、ガラスに磨きをかけること、等々。しかし、米国のMichigan州や日本の研究所では、rare earths metal を、いかにして強力な磁石に変えるかという研究が進められていた。Rare earthは、正に、進化する製造業、革新の自動車、コンピューター、スマホの中心になろうとしていた。
1983年、General Motorsと日本の磁石メーカー:住友特殊金属(株)は、各々に強力なrate earth magnetを開発したと発表した。その磁石は、すぐに自動車産業や、さらにそれを超えて電気モーターに使用され始めた。中国は、その専門知識に欠けていた。

G.M. steps out, China steps in. : G.M は出て行き、中国が入る。
 General Motorsは、発明した磁石の製造をIndiana州にある子会社の Magnequenchという子会社に任せた。しかし、10数年後にGMは、部品の多くで自社生産を止める決定をした。Magnequenchは、1995年投資家の共同体に売却された。その投資家の中に二つの中国の会社が含まれていて、それらの会社は鄧氏の義理の息子である Wu Jianchang と Zhang Hong によって統括されていた。Bill Clinton 大統領の下、過半数の株主は米国人であるということで、米政府はこの取引を許可した。彼ら中国人は、投資家を説得して中国での低コスト生産へと導いた。Magnequenchは、2001年、Indiana州Valparaisoの工場を閉鎖してその設備を中国 Tianjin(天津)と Ninbo(寧波)に移設した。「Valparaisoの多くの設備は休止させられて、分解され船便で運ばれるようパレットに入れられた。」とMr. Jeff Calvertは述べている。(彼は、天津における工場の設備の据え付けに任命されたMagnequenchのManagerであった。)この移転は、中国にrare earth magnetをいかにして作るか、を教えた。
 磁石の生産が増加することで、rare earths 鉱山の汚染問題も大きくなり、北京政府も立ち向かう必要が出てきた。包頭にある精製所は、多量の放射性破棄物を保管場所に運び込んでいた。近くの大河川:黄河を汚染する恐れが強まっていた。2006年になって,時の首席:Wen Jiabao温家宝は、rare earth の輸出に年間割当量を課して、精製を制限し汚染を止めた。

China tests a trade weapon : 中国は通商の武器としてテストする。
 2010年9月、商務省の会議室にrare earth産業の20名ほどの経営幹部が招集された。中国は、台湾の北方の無人島(尖閣諸島のこと)をめぐって日本と対峙していた。同省高官は指示を出した:日本―最大の市場―にrare earths を輸出しない。日本に供給されると思われる他国にも輸出しない。この禁輸は公表されない。
 公式発表はなかったが、日本政府は、この領土問題で譲歩を示した。しかし、この禁輸措置は北京の弱みを曝すこととなる。中国の犯罪集団―この集団は中国rare earths生産の半分近くを統制下に置いている。―は、禁輸の間にも日本へ輸出し続けていた。温主席は、公安に命じ、その集団を捜査させ、当局は不法鉱山を襲って政府の管理下に置いた。
 それから15年たった今、このことは中国rare earth産業の転換点だった。産業活動の無法地帯だったこの分野は飼いならされて、政府の支配下となった。そして、北京政府は、この産業は geopolitical(地政力学)を強化し、商売/取引相手を不利にすることに使えることを学んだ。

Education and Research : 教育と研究。
 中国は、今日、他国に比べてより良く教育された研究者や技術者を多く生み出すことによって、rare earths における優位を固めている。Rare earthsの学習プログラムを国内39の大学に提供している。米国やヨーロッパの国々は、そのようなプログラムを持っていない。―アイオワ(Iowa) State Universityさえも。この大学はかって米国の技術者にrare earths について教えていた。Iowa州は、過去数年間に渡りrare earthsの教科を提供してきていない。しかし、ある一人の卒業生に独自にこの分野の勉強をさせていた。この大学は2026年にこの学科開く予定である。中国は今や、数百人にも上るrare earths技術の探求する科学者を擁している。上海の近くに有るWuxi(無錫)の精製工場の技術者たちは、rare earths の一つであるdysprosiumを高純度に精製するための実験/研究に7年間も要した。この工場は、今では、この元素を精製する唯一の工場であり、この元素はコンデンサー—電流をコントロールする小さな装置— に使われていて、Nvidia(エヌビディア)の人工知能半導体 ”Blackwell” にも使われていることが分かっている。
 この精製所の大半の株式は、2025年まではCanadaのNeo Performance Materials—2005年にMagnequenchを所有した会社—が所有していた。しかし、2025年4月1日に中国のある国有企業がこの会社の大半の株式を買った。そして4月4日、北京政府は dysprosiumと他の6種のrare earthsの、米国とその同盟国への輸出を中断した。中国は、技術上の優位を保持することを決意したのである。政府はその精製設備をも輸出することを休止した。さらに技術者が価値ある情報を持って出国することを防止する為に、passportを取り上げている。 昨年 11月に無錫の工場を訪れた際に、門には、公安部のよく磨かれたスチールの銘板が掲げられていた。

     “Caution : Key Confidential Unit”
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Li You : Contributed research
                                [ 訳:芋森 ]

カテゴリー: 歴史, 科学技術, 経済 | コメントする

【投稿】トランプ関税:米最高裁で敗北--経済危機論(173)

<<トランプ氏:「ひどい」判決、「国家の恥辱」>>
2/20、米最高裁は、トランプ大統領が国際経済緊急事態権限法( International Emergency Powers Act (IEPA))に基づき世界の大半の国々に広範な関税を課したことは憲法上の権限を逸脱したとの判決を下した。6対3の判決を下し、トランプ大統領が同法に基づく関税の正当性を主張する根拠は「大統領の正当な権限を超えている」と判断し、関税権限は議会にあることを再確認したのであった。ただし、この判決は、トランプ大統領が課した全ての関税を撤廃するものではなく、アルミニウムと鉄鋼への関税はそのまま残るものの、他のほとんどの関税を撤廃するものである。

 この裁判は、昨年8月、連邦巡回控訴裁判所が、国際緊急経済権限法を用いて関税を課したことは憲法違反であるとの判決を下したことを受け、最高裁判所に持ち込まれていたものであった。当初、トランプ大統領が最初の任期中に任命した保守派判事3名によって審理され、圧倒的多数派を占める保守派判事によって、トランプ氏に有利とみられていたのであるが、トランプ氏が任命したエイミー・コニー・バレット判事とニール・ゴーサッチ判事までもが多数意見に賛同し、トランプ氏にとって決定的に不利な判決が下されたのである。

判決文は、関税は基本的に課税の一形態であると強調し、憲法第1条第8項を引用し、憲法起草者が関税や税金を課す権限を意図的に議会にのみ付与したことを強調し、「関税を課す権限は明らかに課税権の一部である」と述べ、行政機関の規制権限には、規制手段としての課税権は本質的に含まれない」と判断し、規制権限と課税権限の間に明確な線を引くことで、最高裁は経済権限の一極集中を防ぐことを目的とした憲法の中核原則を再確認したのであった。
ジョン・G・ロバーツ最高裁判所長官は、「大統領は、無制限の金額、期間、範囲の関税を一方的に課すという特別な権限を主張している。この主張された権限の広範さ、歴史、そして憲法上の文脈に鑑み、大統領はその権限を行使するための明確な議会の承認を得なければならない」「大統領が一方的に関税を課すことを可能にする条項は何も存在しない」と判決文で述べている。

 同日、トランプ大統領は、この「ひどい」“terrible”判決を激しく非難し、緊急記者会見で、最高裁を「国家の恥辱」“disgrace to our nation”と批判し、関税措置を無効とした判事たちは「外国の利益に左右されている」、「極めて非愛国的で、憲法に不忠実だ」とまで極言する事態である。

トランプ氏は、へし折られた大統領権限の返す刀で、新たな関税、「大統領令により新たに10%の全世界関税を課す」と発表、この新たな関税は、現在も適用されている既存の関税に上乗せされると述べている。しかし、この1974年通商法第122条に基づく新たな関税は150日間しか継続できないが、それでも、他の権限を用いて高関税を維持する方法を見つけると主張している。トランプ政権が、たとえ代替的な貿易権限を追求したとしても、それらの手続きはより遅く、より制限的とならざるを得ないのが現実であろう。たとえ関税を継続する方法を見つけたとしても、これは重大かつ、決定的な敗北であることは間違いない。

<<米国商工会議所「企業と消費者にとって朗報」>>
トランプ氏はいら立ちを募らせているが、判決は米国商工会議所から歓迎され、「企業と消費者にとって朗報」と報じられている。また、欧州議会の国際貿易委員会のベルント・ランゲ委員長は、この判決は「法の支配にとって前向きなシグナル」だと評価している。

この判決がもたらす現実は、すでに、米国貿易裁判所では、数百件の関税還付訴訟が係争中であり、還付額は1750億ドルを超えると推定されており、既に徴収された還付金について膨大な不確実性を生み出し、さらにこれまで交渉されてきた既存の貿易協定そのものが改めて問い直され、複雑化させることが避けられないことである。
この最高裁の判決により、関税を賄うために多額の費用を支払わなければならなかった大手小売業者に対し、政権は手数料の返還を迫られる可能性も避けられない。業界団体はすでに「完全、迅速、かつ自動」の返金手続きを求めており、中小企業は不法に奪われたと主張する資金の回収に長期間の法廷闘争を強いられる余裕はないと主張している。もちろん、平均的な米国の家庭がは1,700ドル以上の関税コストを負担してきたと推定されているが、高いコストを支払った消費者がそのような救済措置を受けられるかどうかは、全く明らかではない。不法関税の返還を求める今後の訴訟は、大混乱を招くことは必至である。
 アトランティック誌のスタッフライター、デビッド・フラム氏は、「関税導入後の訴訟は悪夢のような事態になりそうだ。不当に課税された原告は、不法に奪われた金の返還を求めて訴訟を起こすだろう。では、顧客は不当な課税によって生じた価格上昇分の一部を請求できるだろうか?トランプ政権の混乱はさらに続くことになるだろう。」と予測している。

 2/20、ダラス経済クラブで講演したベッセント財務長官は、4月以降、政府が不法に徴収した1750億ドルの関税収入をめぐって「フードファイト」が起こると予想しているかと問われて、アメリカの企業や消費者が関税の払い戻しを受ける可能性を軽視、無視して、「アメリカ国民はそれを目にしないだろう」と述べている。

トランプ大統領にとって、この判決は、貿易相手国に圧力をかけ、経済報復の手段として多用してきた関税という脅迫手段を失わせることが明らかであり、関税はもはや引き返すに引き返せない伝家の宝刀である。新たな関税を次から次へと繰り出さないわけにはいかないところへ自らを追い詰めている、それが実態であろう。
そして、関税を押し付けられてきた各国は、今や、米国大統領が交渉において何の権限も持たないことが明示されたため、関税還付や新たな関税は混乱と不透明性を招くことが明らかである。

この判決の直接的で実際的影響は、深刻な不確実性とも言えよう。一夜にして、トランプ氏が自慢にしていた巨額の歳入の穴が開いてしまい、緊急代替関税発動に振り回され、経済的政治的危機をさらに増大させるリスクを深化させてしまったのである。

大胆な政策転換で、関税戦争から脱却する緊張緩和と平和的な道こそが問われているが、今や独裁者・暴君と化し、内外ともに孤立化しているトランプ氏にとっては、一層危険極まりない戦争経済への危険性が差し迫っているとも言えよう。
(生駒 敬)

 

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【投稿】「推し活」・イメージのみの衆議院選挙で「知性」の時代は終わった

【投稿】「推し活」・イメージのみの衆議院選挙で「知性」の時代は終わった

                            福井 杉本達也

1 自民圧勝・中道惨敗

2月8日に行われた衆院選挙は、高市首相の個人的人気に支えられ当初の予想通りに、自民党単独で316議席と議席の3分の2以上を占め圧勝となった。反対に中道は49議席と改選前から123議席も減らし惨敗となった。これは、小選挙区制という特有の事情もある。中道は小選挙区ではわずか7選挙区でしか勝てなかった。当初の中道の皮算用では旧立憲民主党の候補も小選挙区で「一定数が勝ち残ると算段していたが、高市人気という暴風雨に、創設者の枝野幸男氏や安住淳中道共同幹事長・岡田克也元外相、小沢一郎氏など、ほとんどの有力議員が落選し、ぺんぺん草も生えない「焼け野原」となってしまった。

2025参院選比例代表得票と衆院選比例得票との比較では、自民2100万(+820万)、中道(立民・公明の合計との比較)1040万(-220)、国民560万(-210)、 維新490万(+60)参政430万 (-320)、みらい380万(+230)、共産250万(-30)、れいわ170万(-220)、保守150万(-150)であり、中道も減らしたが、参政・国民らも同様、あるいはそれ以上に票を減らしており、小選挙区での旧立憲議員らの自力のなさが浮かび上がる。

2 イメージの高市人気「サナ推し」・日本の選挙で知性の時代は終わった

篠田英朗東京外大教授は、日本を取り巻く国際環境は厳しく、「高市首相は、こうした困難な事情を全て捨象し、自分はトランプ大統領と親密で、日米同盟さえあれば中国との関係が悪化しても大丈夫だ、という『世界の真ん中で咲き誇る日本外交』イメージ戦略で、選挙を乗り切ってしまった。ある意味で狡猾だった。だが、内実の乏しいイメージ選挙を行ってしまうことの責任の重さを感じ取るタイプの人物」ではないと評している(「アゴラ」2026.2.9)。また、小幡績慶応大教授は「『知性』対『感性』の戦いで感性が圧勝した。消費税を巡る発言のぶれなどの批判も支持には影響せず、イメージだけで勝ち切った。日本の選挙で知性の時代は終わった」(日経:2026.2.10)と酷評した。

歴史作家の八幡和郎氏は高市首相が「女性であることと、率直な政治家臭くないものいいがゆえに高市さんはクリーンだとか悪いことしないというイメージがあり、そのイメージで個々の候補者が裏金議員であろうが、旧統一教会と本当に密接な関係を持ってきたとしても大目にみてしまった。」と書く(「アゴラ」2026.2.9)。

日経は2月11日で、前回の衆院選や昨年の参院選までは、氷河期世代対策や外国人政策など、それでも政策があった。「一方、高市早苗首相を支えたネットの熱気からは政策すらも消え去った。あるのはわかりやすい構図に支えられた『サナ推し』という『推し活』 だ。…政治家と有権者の関係は間接民主主義における『負託』でもなく、成果や見返りへの「期待」でもなく、ファンから推しへの『貢献』となる。逆境下のヒロインへの批判や抵抗が強まれば強まるほど『かわいそう』と推し活が加速する無敵の構図生まれた」と書く。

3 中道惨敗の要因

共同通信の世論調査によると、中道の敗因は「最近まで争っていた二つの党が合流したから」・35.6%で最多。「結党直後で準備不足だったから」・23.0%、「野田佳彦.斉藤鉄夫両共同代表に魅力がなかったから」・21.4%となった(福井:2026.2.11)。新聞の出口調査からは10代~40代の有権者には全く魅力に欠け、国民民主党や参政党・れいわなどにも大きく引き離されている(福井:2026.2.9比例代表北陸信越投票先出口調査)。

先記の八幡氏も自民党内の「自公連立復帰派と公明党を潰したいという狙いの抜き打ち総選挙を打たれれば、それに対抗するには禁じ手はない…(が)…用意周到さに欠けた。党名も…立憲民主党の支持者を引きつけられなかった。また、国民民主党に…秋波を送るべきだった。公明党がすべての小選挙区から撤退というのも極端…民主党時代の大物はさすがに賞味期限切れ」と厳しい。そもそも、「中道」とな何か、政策が何かが示されなかった。イメージ選挙の「感情」の暴風雨に対して、せめて政党としての「知性」を発揮すべきであった。また、共同代表はあまりにも新鮮さに欠ける。「昔の名前で出ています」である。SNS上では5G(爺)と揶揄された。

4 本当の対立軸―「社会」を否定する新自由主義者・高市首相

作家の佐藤優氏は、日本の政治には理念対立があるとし、①『甲型』と②『乙型』に分け、①『甲型』=「国家と個人を直結させる傾向が強い」、②『乙型』=「国家と個人の間に社会を挟み、社会を強化することが国家の強化につながると考える…社会の中核を形成するのは…中間団体である。中間団体には、農業協同組合、生活協同組合のような協同組合、医師会、弁護士会のような職能集団、労働組合、宗教団体などがある」。①「甲型は、大統領型の首相による政治主導で国家機能を強化することが重要と考える。…社会よりも個人や個別企業が強くなり競争力をつけることで国家が強くなると考えている」②「乙型は、国家機能強化の前提になるのが社会的結束と考える…外交による対話と妥協を重視する。(また)社会的コンセンサスを得るために時間をかける必要があると考える」(佐藤:東スポ:2026.2.5:同:『東洋経済』2026.2.14)と書いている。

今回、高市首相は、国会での論戦を避けて通常国会冒頭での解散を行った。しかも、解散から投票までも最短で政策の議論の余地をわざとなくし、「国論を二分するような問題に取り組めるように信任をもらいたい」と、国家の命運を決めるような問題を、その内容も示さず、白紙委任を求めた。予定されたNHK日曜討論などの政策論戦の舞台となる場は欠席し、徹底してイメージ中心の短期の選挙戦を主導した。この作戦の対象は、大統領型の首相と中間団体に属さないアトム化された個人しかない。徹底したアングロサクソン型の個人主義=新自由主義がある。個人がバラバラとなることは、最も強い金ある個人が国家を乗っ取ることとなる。金融寡頭制である。米国では資産50兆円といわれるXのマスク氏やアマゾンのベゾス氏などがビリオネアといわれる。金融寡頭制の下では、金に任せて新聞やテレビ等のマスコミの買収やネットの買収が行われ、相互に相談することのない、バラバラの個人の情報操作が行われる。

5 中道は旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻にどう向き合うか

「手取りを増やすには社会保険料の引き下げを優先すべきだ」と訴えたチームみらいが今回の衆院選で11人が当選し存在感を示した。最新版では、医療費の自己負担について高齢者も含めて「一律3割とすることをめざす」と記載した。また、維新は、医療費を年4兆円減らし、現役世代の保険料を1人当たり年6万円引き下げることを掲げていた。2月6日に総務省が発表した2025年の家計調査によると、2人以上の世帯が使ったお金のうち、食費に充てた割合を示す「エンゲル係数」が28・6%に上昇した。1981年以来41年ぶりの高水準となった(福井:2026.2.7)。低所得層ほど家計の中で食費の。負担が増して生活が苦しい。国民の生活水準が低下しており、租税と社会保障費は1980年には所得の30.5%であったが、2025年には46.2%にもなった。財政赤字2.6%を入れた潜在国民負担は、48.8%となっている。

宮本太郎中央大学教授は雑誌『世界』2025年1月号において、「基層にある現実は、若者を含めて多くの国民が直面し呻吟している物価高騰と生活苦である。このリアルな現実に、既存の社会保障と税さらには雇用の制度が機能していない、むしろ若者をつぶしているという感覚が折り重なり…社会保障はもはや高齢者向けの給付に限られ現役世代は負担だけを強いられる。税はとられるだけで決して還つてはこない。雇用について様々な慣行や規制が中高年だけを守っている、等々。空気は幻影ではない。その根底には紛れもない現実がある」と書いている。

国家は何のためにあるのか。佐藤氏の②乙型モデルでは、「慈悲深い専制君主モデル」としての「税や社会保険料という形でいったん預かり、今必要な人たちに集中的に所得を再分配することにより、社会の厚生を高める」モデルであるが、現実の衰退する国家の制度は収奪的であり、一部の社会エリートが富を独占し、と同時に青天井の企業献金が容認され、金権政治がまかり通ている。包括的だったはずの日本の社会制度は、いつの間にか収奪的な社会に向かっている。社会分断が進み、中間団体が衰退する中、非正規雇用や就職氷河期世代として呻吟する20代~50代層にどう向き合うかが問われる。

6 「責任ある積極財政」は意味不明・体系的考えもなく・頭は空っぽ

高市首相の『責任ある積極財政』は、全く意味不明である。体系的な考えのある経済政策はない。1月31日、高市首相は選挙応援の演説で、「円安でもっと助かっているのが、外為特会っていうのがあるんですが、これの運用、今ほくほく状態です」と述べた。みずほ証券の⼭本雅⽂チーフ為替ストラテジストは「歴史的な円安の現状への危機感は皆無で、むしろ円安が経済にとって好ましいという高市首相の持説が変わっていないことが露呈した」と解説する。「米当局は円金利の上昇が米金利上昇を通じた『米国売り』につながることを危惧している(Reuters:2026.2.1)。

「本来であれば、厳しい安全保障環境を鑑みて、中国との関係維持にも細心の注意を払う精緻な外交術こそが、求められるように思われる。しかし、高市首相は、むしろ逆に、中国を嫌う国民感情に訴える戦術をとった。困難な事情を捨象し、自分はトランプ大統領と親密で、日米同盟さえあれば中国との関係が悪化しても大丈夫だ、という『世界の真ん中で咲き誇る日本外交』イメージ戦略で、選挙を乗り切ってしまった。」(篠田英朗:「現代ビジネス」2026.2.11)。

7 高市政権の下、日本はどんどん「収奪される同盟国」に転落していく

カナダのカーニー首相はダボス会議において「ルールに基づく国際秩序は衰えつつある。『強者はしたいことをして、弱者はそれを耐え忍ぶ』」「私たちはこの『ルールに基づく国際秩序』の物語が部分的に虚構だと知っていた。強大な国は都合の良いときに自らをルールの適用外にする。貿易ルールは非対称的に執行される。国際法がどれほど厳格に適用されるかは、被告や被害者が誰かによって異なる。」「大国は単独で行動できる。市場規模、軍事力、条件を抑し付ける影響力を有している。中堅国家は覇権国との2国間でやっていくために弱い立場で交渉しなければならない。提示された条件を受け入れ、最も譲歩する国になるよう中堅国家間で競い合うことになる。」と演説した(日経:2026.1.24)。

「覇権国が優位性を利用して弱い立場にある同盟国を搾取する」日本はどんどん「収奪を受ける同盟国に転落」していく(日経:2026.2.11)。米国債38 兆ドル(5890 兆円)が、公的年金と社会保障費と軍事費のため、毎年、2 兆ドル増える。国債の利払いも、1.2 兆ドルに増える。加えて対外純債務(純借金)も26 兆ドルに増えていて、これも毎年2 兆ドル増える。対外純債務の増加の2 兆ドル/年は、外為市場で2 兆ドルのドル買いの超過がないと、米国の資金がショートする。2026 年度は、満期が来る国債が9 兆ドルもあるところに、新規債を2 兆ドルを加え、合計11 兆ドルの国債を発行し、金利を上げずに内外の金融市場に売却しなければならない。売れないければ、米国は「デフォルト」である。しかし、市場に買い手がいない。中国は買わない。むしろ米国債を減らしてきている。日本に強制的に買わせるぐらいである。金融機関がもつ米国政府の資金繰りは「どん詰まり」に来ている(吉田繁治:2026.2.2)。「中国の規制当局は、集中リスクや市場の変動性を懸念し、米国債保有を抑制するよう金融機関に助言しています。当局は銀行に対し、米国国債の購入を制限し、高リスクエクスポージャーを持つ者には保有資産を削減するよう指示しました」(Bloomberg:2026.2.9)。日本は覇権国家の衰退とともに奈落の底に沈んでいく。その負担はインフレ・実質賃金の減少・増税・社会保険料の増・社会保障費の削減・年金の削減・公共資本の劣化・NISA対外投資の棒引きによる大損といった形で、全て日本国民が引き受けることとなる。

ここにきて、スターマー英首相や李韓国大統領、カーニー・カナダ首相、そしてフランス、アイルランド、フィンランド首脳などの北京訪問が相次ぎ、貿易協定を締結している。中国の国際関係専門家であるビクター・ガオはマスコミの質問に「イギリスを中国のライバルと見なすべきではないと思う。中国はそうではない。中国は事実だ。中国はイギリスが共に生き、付き合っていくべきメガトレンドだ。戦争を煽るのではなく、平和を築こうではないか。」と答えた(「耕助のブログ」2026.2.10)。中国は日本の産業を締め上げるのにミサイルなんて必要ない。書類仕事を使えばいい。2025年4~5月、レアアース磁石の日本への輸出が91%急落した。禁輸なんてない。発表もない。記者会見もない。ただただ「処理の遅れ」。工場が停止。ジャストインタイムの物流が崩壊。防衛生産が凍りついた(参照:X:Richard 2026.2.12)。自民党・安倍政権時のアベノミクスで異次元緩和と称して、500兆円の円を増発した結果、ハワイのラーメンは3000円、スイスのラーメンは5000円となった。世界の通貨の加重平均に対して、円の指数(購買力)は1995年には150であったが、現在は60に下がり、円はなんと40%の価値に下がってしまった(「ビジネス知識源」:2026.2.12)。これではインフレになるのも当たり前である。その結果責任は問われることなく、「円安ほくほく状態」・イメージのみで、全く経済の知識もなく国際情勢も読めない高市政権は空中分解しかない。

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【投稿】悪質な人種差別画像投稿:トランプ氏、謝罪を拒否

<<「オバマ夫妻を猿に見立てる」>>
2/6、トランプ米大統領が自らのソーシャル・メディアTruth Socialに、元米大統領バラク・オバマとミシェル・オバマ夫妻を猿に見立てた、悪質極まりない人種差別的な画像を含むビデオを投稿し、これがたちまち大問題となり、一夜にして炎上、与党共和党陣営からさえ厳しい批判を招き、反発の高まりに耐え切れず、撤回・削除に追い込まれる事態を引き起こしている。
 ただし、トランプ氏自身は、謝罪を拒否している。

ニューズウィーク誌は2/6、「トランプ米大統領のTruth Socialアカウントに投稿された動画には、トランプ大統領が「ジャングルの王」に、対してバラク・オバマ夫妻を猿に見立てた人種差別的な描写が含まれていた。投票機に関する62秒の動画の最後に、ザ・トーケンズの曲『ライオンは眠る』が流れる中、猿の体にオバマ夫妻の顔が約1秒間映し出される」と報じている。

Axiosの報道によると、この動画は2/5木曜日の夜にトランプ大統領のアカウントとして投稿され、翌2/6、12時間近くにわたってオンライン上に残っていたものであるが、現在は削除されている。
ホワイトハウス報道官のキャロライン・リービット氏は2/6、この反発を「偽りの憤り」と一蹴していたのであるが、抗議の高まりに抗しきれず、動画の削除に追い込まれ、「スタッフが誤って投稿した」と責任転嫁の姿勢に変更。つまりは、現在のところ、トランプ政権は、トランプ大統領の許可なく動画を投稿した匿名の「スタッフ」のせいだと責任を転嫁している。

しかし、問題の「スタッフ」は匿名のままであるが、この責任転嫁も実は、トランプ氏自身の発言と矛盾しているのである。2/6にSemaforが報じた記事によると、トランプ氏は、Truth Sociaの自身のアカウントにアクセスできるのは自分と広報担当補佐官のダン・スカヴィーノだけだと述べていたのである。「彼は私の番号を知っている唯一の人物だからだ。」と。

トランプ大統領自身は、記者団の質問に対し、この件について距離を置き、直接の関与をあいまいにし、「謝罪するかどうか」を問われると、トランプ氏は「いいえ、間違いは犯していません」と謝罪を拒否。「動画の内容を非難するかどうか」問われると、「もちろんです」と答え、「動画の最後に、人々が好まないような映像があったと思います。私も好まないでしょうが、見ていません」と逃げの弁解に終始している。

<<「トランプ氏の周囲に、真実を告げる勇気のある人物はいるのか?」>>
ガーディアン紙は、「アメリカ史上初の黒人大統領とファーストレディであるオバマ夫妻を人種差別的に描写したこの動画は、投票集計会社ドミニオン・ボーティング・システムズが2020年大統領選でトランプ氏から不正選挙を盗んだという、虚偽かつ反証済みの主張を助長する1分間の動画の最後に登場している、と報じている。同社は2023年、画期的な名誉毀損訴訟でFox Newsを相手取り7億8750万ドルで和解している」と報じた。2月6日の投稿で、経済学者でPAICEのCEOであるラース・クリステンネン氏は、「これがアメリカだ。アメリカ国民の皆さん、しっかりしてこの男を排除すべきだ。恥ずべきことだ」と投稿した。

 共和党のティム・スコット上院議員は、この動画を「ホワイトハウスで見た中で最も人種差別的な行為」と非難し、「これが偽物であることを祈る。ホワイトハウスから出たものの中で最も人種差別的なものだからだ。大統領はこれを撤去すべきだ。」と手厳しい。

さらに、ペンシルベニア州選出の共和党議員、ブライアン・フィッツパトリック氏は、この投稿は「重大な判断ミス」に当たると述べ、「明確かつ明確な謝罪」を求めている。

トランプ支持派の牧師マーク・バーンズ氏(Mark Burns) は2/6、Xに長文の声明を投稿し、人種差別的な動画を投稿したスタッフを解雇するよう大統領に強く求めている。「大統領は私に、この投稿はスタッフによるものであり、彼自身によるものではないことを明確に伝えました」と述べ、「私は大統領に直接、そして断固とした勧告を行いました。そのスタッフは直ちに解雇されるべきであり、大統領はこの行為を公に非難すべきです。」と。

 元共和党下院議員でネバー・トランプ派の保守派であるデビッド・ジョリー氏は、オバマ夫妻の投稿は共和党のより広範な問題を浮き彫りにしていると主張し、「皆さん、今回の選挙はもはや政策の問題ではなく、私たちの国民的アイデンティティ、私たちが何者であるかの問題です。大統領はオバマ夫妻を猿のように描き、フロリダ州知事候補は反ユダヤ主義を扇動し、それを支持した。また別の候補者はイスラム恐怖症を煽り立て、ICE(移民税関捜査局)の捜査官はウサギの耳とスパイダーマンのリュックサックを背負った5歳児を拘束し、エプスタイン事件のファイルにおける信憑性のある疑惑を隠蔽した…。これは本当にひどいことです」と投稿している。

CBSニュースとFOXニュースの両方で活躍するゴールドバーグ氏は、ザ・ヒル紙の記事で、トランプ氏が移民税関捜査局(ICE)を使って米国内の移民や抗議者を標的にしていることは、ますます不評になっていると指摘し、さらに、アメリカ人の68%、共和党支持者の48%がそう感じていると指摘し、「これは一つの疑問を投げかける。トランプ氏の周囲に、真実を告げる勇気のある人物はいるのだろうか? 」

おべっか使いの閣僚ばかりを選び、彼らに取り囲まれたトランプ氏には、そんな人物がいないことはすでに実証済みのことであろう。

ウクライナでボランティア活動をしたことで知られるロンドン在住のリチャード・ウッドラフ氏は、「アメリカ合衆国のクソ大統領が、黒人アメリカ人はみんな自分にとって猿だと何気なく投稿したばかり…路上でアメリカ人を撃ち殺し、今度はオバマ一家をクソ猿呼ばわりしている。クソトランプ。アメリカよ、今日中に何か行動を起こせ!!!」とツイートしている

今や、まだ任期が3年近くもあるというのに、トランプ政権の存続そのもが、全世界で問われている事態である。
(生駒 敬)

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【転載】「どこが停戦なのか ?」

イスラエルのガザ爆撃で23人死亡、そのほとんどが女性と子供

以下は、2月4日のコモン・ドリームズからの転載である。(生駒 敬)

<<「スローモーションの虐殺」>>
約2万人のパレスチナ人が治療のためにガザを離れることを禁じられている中で、活動家ムハンマド・シェハダ氏はこれを「スローモーションの虐殺」と呼んだ。

病院関係者やその他の保健当局によると、2/4水曜日の夜明け以降、イスラエルによるガザ全域への爆撃で少なくとも23人のパレスチナ人が死亡し、少なくとも2人の乳児も含まれている。

「停戦はどこだ? 仲介者はどこだ?」と、ガザ市シファ病院のモハメド・アブ・サルミヤ院長は問いかけた。同病院は、イスラエル軍がガザ北部の建物に発砲し、死亡した11人の遺体(ほとんどが同じ家族)を受け入れた。

イスラエルは、ハマス戦闘員がイスラエル兵に発砲し重傷を負わせたことへの報復として、今回の攻撃を行ったと発表した。AP通信によると、死亡したパレスチナ人の中には「両親2人、生後10日の女児ワティーン・ハバズちゃん、そのいとこで生後5ヶ月のミラ・ハバズちゃん、そして子供たちの祖母」が含まれていたという。

南部の都市ハーン・ユニスでは、テントへの別の攻撃でさらに3人が死亡した。遺体を受け入れたナセル病院によると、遺体には12歳の少年も含まれていたという。また別の攻撃では、当時勤務中だったフセイン・ハッサン・フセイン・アル・セミエリという救急救命士を含む5人が死亡した。

ガザ保健省によると、一連の攻撃で合計38人のパレスチナ人が負傷した。

<<「全く停戦ではない」>>
昨年10月10日に「停戦」合意が発効して以来、ガザ政府メディア局によると、イスラエルは少なくとも1,520件の違反を犯し、少なくとも556人(子供、女性、高齢者288人を含む)を殺害し、1,500人を負傷させた。

パレスチナ人権活動家ムハンマド・シェハダ氏はアルジャジーラへのコメントで、停戦協定がこれほど頻繁に破られるのは「全く停戦ではない」と述べた。

「(この合意は)せいぜい、ある種の穏やかな外交的牽制と言える程度だ」とシェハダ氏は述べた。「世界の注目が他の場所に向けられると、イスラエルは過激化を加速させる」

2023年10月にガザ地区におけるジェノサイド戦争が始まって以来、約7万2000人のパレスチナ人が殺害され、17万1000人が負傷したと、ガザ地区保健省は発表している。イスラエル国防軍(IDF)は2年以上にわたる否定の後、最近になって同省の数字が正確であることを認めた。独立した推計によると、実際の死者数ははるかに多いと示唆されている。

2/4水曜日の猛攻撃は、イスラエルがガザ地区への主要な出入国地点であるラファ検問所を徐々に開放し、深刻な医療を必要とする人々が退避できるよう対応し始めた矢先に発生した。

ガザ地区の病院は、2年間にわたる容赦ない爆撃と、ガザ地区への医療物資の流入を長期間にわたって封鎖してきたことで、ほぼ機能不全に陥っており、住民の半数以上が医療を受けられなくなっている。

世界保健機関(WHO)は先週、1万8500人のパレスチナ人が海外で医療を必要としており、その中には数百人が緊急治療を必要としていると発表した。

エジプト当局によると、この検問所から毎日50人の患者が入国する見込みだった。しかし、現地のアルジャジーラ記者によると、月曜日には治療のためにガザを出国することを許可されたパレスチナ人はわずか5人、火曜日には16人だった。

治療を待っている人のうち約4,000人は子どもだ。保健当局によると、そのうちの1人、7歳のアンワル・アル=アシ君は水曜日、待機リストに載っていた際に腎不全で死亡した。

<<ラファ検問所は、苦痛と屈辱を与える「通過点」>>
一方、検問所を通過しようとする人々は、目撃した記者から「屈辱的」と評される扱いを受けている。イスラエル軍は患者を全裸検査や尋問の対象とし、中には目隠しや両手縛りをされた患者もいた。

「ラファ検問所は、苦痛と屈辱を与える、残酷で厳しく制限された『通過点』であり続けている」と、パレスチナの政治家で活動家のハナ・アシュラウィ氏は述べている。 「これは、捕虜の人々の苦痛を意図的に操作することに基づく、多面的な侵略戦争であり続けている」

サルミヤ氏は、イスラエルが彼らの退去を許可しているペースでは、「すべての患者が退院するまでに平均約5年かかるだろう」と述べた。彼はイスラエルの行動を「危機管理であり、危機の解決策ではない」と批判した。

2/3火曜日、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「ラファフ検問所を含む、大規模な人道支援物資の迅速かつ円滑な通過を促進すること」を求めた。

グテーレス氏はさらに、イスラエルが最近、国境なき医師団、オックスファム、セーブ・ザ・チルドレンを含む数十の援助団体を停止したことは、人道原則に反し、脆弱な進展を阻害し、民間人の苦しみを悪化させるものだと付け加えた。

シェハダ氏は、自身と家族が渡航制限の解除を待ち望んでいると述べ、アルジャジーラに対し、「イスラエルは(制限を)中身も意味もなく空洞化した」と語った。むしろ、「これは基本的にスローモーションの大虐殺だ」と彼は言った。

 

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【投稿】「トランプ崩壊の到来」:危険なエスカレート

<<「トランプ氏の精神の崩壊」が世界的な「崩壊」を招いている>>
1/23日付、ニューヨークタイムズ紙の社説は、「トランプ崩壊の到来」( The Coming Trump Crackup )と題して、ブルックス氏( David Brooks )が、「トランプ氏の精神の崩壊」が世界的な「崩壊」を招いている、と警鐘を鳴らしている。
 「出来事の軌跡を辿れば、我々は何らかの崩壊に向かっていることは明らかだ」、「我々は少なくとも4つの崩壊の真っ只中にいる。戦後の国際秩序の崩壊。移民・関税執行局(ICE)の職員が軍靴を脱ぎ捨てる場所では、国内の平穏の崩壊。FRB(連邦準備制度理事会)の独立性への攻撃、そして民主主義秩序のさらなる崩壊。そして最後に、トランプ大統領の精神の崩壊だ。この4つの中で、トランプ大統領の精神の崩壊こそが主要なものであり、他のすべての問題につながっている」、その「精神の崩壊」によって、米国内外で「暴力に訴えることがますます加速している」と厳しく警告している。
トランプ氏個人自身が、「専制政治の弧は堕落へ」と向かっており、「専制君主は概して自らの権力に酔いしれ、それが次第に自制心を減らし、特権意識と自己中心性を強め、リスクテイクと自信過剰を助長し、社会的な孤立、腐敗、そして防衛的なパラノイアをエスカレートさせるのだ。」とまで断じている。
本稿筆者が、前回の投稿(1/21)「トランプ政権:暴走・制御不能で危険な段階」で指摘した通り、そのエスカレートはますます危険性を帯びてきているのである。

 トランプ氏の「専制君主」としての異常さは、ニューヨークタイムズ紙の警告後の1/24、自らのソーシャルメディア・Truth Socialに投稿した「カナダに100%の関税を直ちにかける」という脅しにも端的に表れている。わざわざ、冒頭でカナダの首相・カーニー氏を、「首相」(Prime Minister Mark Carney)とは呼ばず、知事カーニー(Governor Carney)と呼んで、さげすんでいるつもりなのである。カナダを米合衆国に併合する、「州知事」と以前にカナダのトルドー前首相を揶揄したあの論法の再現である。

<<「NATOに米国に派遣させ、南北国境を守らせる」>>
対するカーニー氏は、1/21、トランプ氏も出席した、スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)での演説で、冒頭、「カナダ国民は、地理的条件や同盟国であることが自動的に繁栄と安全保障をもたらすという、古くからの安易な思い込みがもはや通用しないことを理解しています。}と述べた後、「過去6ヶ月間で、四大陸で12の貿易・安全保障協定に署名しました。ここ数日では、中国およびカタールと新たな戦略的パートナーシップを締結しました。インド、ASEAN、タイ、フィリピン、メルコスールとは自由貿易協定の交渉を進めています。」と述べ、さらに、「北極圏の領有権に関しては、グリーンランドとデンマークをしっかりと支持し、グリーンランドの将来を決定する両国の独自の権利を全面的に支持します。」と述べたのであった。そして、「ハードパワーの台頭に惑わされてはならず、正当性、誠実さ、そしてルールの力は、共に行使することを選べば、依然として強力であり続けるという事実を見失ってはなりません。」、「強国には力があります。しかし、私たちにも力があります。それは、偽りの自分をやめ、現実を直視し、国内で力を築き、共に行動する力です。」と結んだのであった。
同会議での、トランプ氏の饒舌な発言とは対照的に、カーニー氏の発言は、演説後、スタンディングオベーションを受けるほどのものであった。トランプ氏にとっては怒り心頭であったことは間違いない。

こうした事態の展開に、アメリカの特権意識と思い上がり、自己中心性が、カーニー氏やそれに同調する諸国に対する憎しみとなって表出したのであろう。トランプ氏は、1/22の夜に帰国し、1/23 の「午前0時40分から午前1時30分までの50分間」に実に70回以上もTruth Socialに投稿し、最後には、狂気に満ちた復讐心に燃え、カーニー氏に賛同する連中や「NATOに米国に派遣させ、南北国境を守らせる」ことで、米国は「NATOを試すべきだった」と示唆する、異常な精神状態を吐露するにまで至っている。それが、これまでカーニー氏には言ったことがなかった、「知事カーニー」投稿となったのであった。ヨーロッパ諸国はこれまで、トランプ氏をなだめ、おだてて、同調してきたのであったが、もはやそれが通用しない段階を思い知らされた、と言えよう。

 トランプ氏は、世界経済フォーラムで、グリーンランドを奪取するために「武力行使」はしないと明言したが、ワシントンへの引き渡しに向けた即時交渉を要求し、「彼らには選択肢がある。イエスと言えば我々は非常に感謝する。ノーと言えば我々は忘れない」、最後に「ワシントンはグリーンランドを武力で奪取することができ、それは『止められない』だろう」とまで付け加えている。
1/24、米ホワイトハウスのXページは、グリーンランドには生息していない一羽のアデリーペンギンが、トランプ氏が氷に覆われた平原を手と翼でつないで、グリーンランドの国旗が掲げられた山へと向かうAI生成画像を公開している。もう片方の翼にはペンギンがアメリカ国旗を持っている。キャプションには「ペンギンを抱きしめて」と書かれている。トランプ氏個人どころか、政権全体がトランプ独裁におもねっているのである。「トランプ氏の精神の崩壊」はここまで進んでいる。

「トランプ崩壊の到来」と、その危険なエスカレートに、米国はもちろん、全世界がそれを食い止めるための闘いが要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】トランプ政権:暴走・制御不能で危険な段階

<<グリーンランドばかりかカナダも米国領土>>
1/20に、トランプ氏が自らのソーシャルメディア・Truth Socialに公開したAI生成画像は、「グリーンランドは米国領。2026年設立」(GREENLAND – US TERRITORY EST.2026)と書かれた看板の横で、J・D・ヴァンス副大統領とマルコ・ルビオ国務長官と共に、トランプ氏自身が星条旗を地面に突き立てている画像を、これ見よがしに誇示している。

さらに同じ1/20、トランプ米大統領は、やはりTruth Socialに、グリーンランドばかりか、カナダ、ベネズエラ、キューバが星条旗の色で覆われ、米国領土であることを示す巨大な地図を前にして、フランスのマクロン大統領、英国のキア・スターマー首相、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長など欧州各国の首脳らに演説する、大統領執務室での様子の画像を投稿した。もちろん、この写真も、昨年8月のウクライナ和平交渉際の実写写真を勝手に都合よく編集した、でっち上げの編集画像である。
こうしたでっち上げ画像は、「ノー・キングズデイ」に対して、上空から糞便をデモ隊に垂れ流す画像と本質的に同類であろう。怒りを制御できず、客観的現実を冷静に判断できない、トランプ氏個人、ならびにその政権の本質的欠陥を象徴している。

 これに先立つ1/18、トランプ大統領は、2月1日からデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、フィンランドに10%の関税を課すと一方的に発表している。「この関税は6月1日から25%に引き上げられます。米国がグリーンランド購入で合意するまで関税は継続される。」、「デンマークが恩返しをすべき時が来た」とトランプ氏は一方的に関税引き上げを通告している。そしてさらに、1/20には、スイスのダボスで開かれる会合について、トランプ氏は、「グリーンランドに関して、NATO事務総長マーク・ルッテ氏と非常に有意義な電話会談を行いました。スイスのダボスで関係者による会合を開くことに同意しました。皆様に明確に申し上げたとおり、グリーンランドは国家と世界の安全保障にとって不可欠です。後戻りはできません。この点については、皆様もご同意ください。アメリカ合衆国は、地球上で圧倒的に最強の国です。その理由の多くは、私の最初の任期中に軍の再建を進めたことによるもので、その再建はさらに急速に進んでいます。私たちは、世界の平和を確保できる唯一の力です。そして、それはまさに、力によって実現されるのです。」と断言、交渉の余地などなし、という決意表明である。

これらが冗談ではなく、本気で、狂気のごとく暴走せんとして脅迫している、トランプ政権の現状を全世界にさらけ出しているのである。それは同時に、こんな投稿をしても、何の恥じらいも感じない、現実から乖離した異常な精神状態をも明らかにしている。その意味では、トランプ政権の現段階は、その暴走が制御不能で危険な段階に達しつつあることを明らかにしている。

<<帝国主義的資源略奪、領土要求としっかりと結びついている>>
こうした徴候は以前から確かに存在はしていたのであるが、拍車をかけたのは、ノーベル平和賞問題であることを、トランプ氏自身が明らかにしている。
トランプ氏は、ノルウェー首相(ヨナス・ガール・ストーレ氏)にあてた手紙で、「ヨナス様:貴国が、8つの戦争以上を阻止したという理由で私にノーベル平和賞を授与しないことを決定されたことを踏まえ、私はもはや純粋に平和について考える義務を感じません。平和は常に最優先事項ではありますが、今はアメリカ合衆国にとって何が善であり、何が適切であるかを考えることができます。
私はNATO創設以来、誰よりもNATOのために尽力してきました。そして今、NATOはアメリカのために何かをすべきです。グリーンランドを完全かつ全面的に支配しない限り、世界は安全ではありません。ありがとうございます!大統領、DJT」と書いている(本物だと確認されている)。ノーベル賞は、ノルウェー首相が決めるものではないことさえ理解しておらず、完全な八つ当たりである。

平和賞をもらえないなら、もう平和には興味がない、グリーンランドの占領だ、占領を拒否するなら、関税の引き上げと軍事力の行使だ、一見、実に単純である。

しかし、ものごとはそう単純ではない。その背後には、アメリカの巨大独占資本の帝国主義的欲求が、トランプ氏のグリーランド占領要求と深く結びついていることが見逃されてはならない。
グリーンランドは、地球の他の地域よりも はるかに速いペースで温暖化 、氷河が急速に後退し、氷河が後退するにつれ、劇的な変化にも直面、漁業や狩猟といった伝統産業が脅かされ、貴重な鉱物資源が露出しだしているのである。逆に言えば、これらの貴重な鉱床へのアクセスが容易になっており、2023年の欧州委員会の調査によると、グリーンランドには、重要原材料に分類される34種類の鉱物のうち25種類が埋蔵されており、世界最大級のニッケルとコバルトの鉱床があり、その鉱物埋蔵量は米国の埋蔵量にほぼ匹敵すると言われている。
マーク・ザッカーバーグ氏やジェフ・ベゾス氏といった米テック界の大物たちは、すでにAIブームに不可欠な材料をグリーンランド西部で採掘することを目指すスタートアップ企業にどんどん投資しており、KoBold Metals社は 、政府資金による地質調査などのデータを解析し、重要な鉱床を特定。同社は現在、 ディスコ・ヌースアーク・プロジェクトの51%の権益を保有 、すでに銅などの鉱物の探査を行っている。KoBold Metalsは 最新の資金調達ラウンドで5億3700万ドルを調達し、評価額は30億ドル近くに達している。
昨年12月にトランプ大統領が、テック界のパートナーであるケン・ハウリー氏をデンマーク大使任命を発表し 、その際、「アメリカ合衆国はグリーンランドの所有権と管理権が絶対に必要だと考えている」と表明したのである。

 つまりはトランプ氏のグリーンランド占領は、単なる狂気の沙汰ではなく、ベネズエラと同様、帝国主義的資源略奪、領土要求としっかりと結びついていること、その根底に厳然として存在していることが見抜かれなければならないのである。

いずれにしても、トランプ政権の帝国主義的資源・領土略奪要求は、きわめて危険な段階に至っており、その危険性を何よりもまず、抑え込むことこそが要請されている。
1/20、グリーンランドに関する討論会で、デンマークの欧州議会議員がドナルド・トランプ米大統領を罵倒する発言を行い、EUは北極圏の自治島であるグリーンランドに対する米国の新たな主張に対抗していないと非難し、演説の冒頭で、「皆さんにも理解していただけるように言いましょう。大統領、くたばれ」と述べている。この声こそが、トランプ氏に突き付けられなければならない。
(生駒 敬)

 

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【書評】『管理職の戦後史―栄光と受難の80年』濱口桂一郎著

【書評】『管理職の戦後史―栄光と受難の80年』濱口桂一郎著・朝日選書950円+税

                          福井 杉本達也

1 はじめに

『ジョブ型雇用社会とは何か』などにおいて、欧米・アジアとは異なる日本の雇用システムの特徴を「メンバーシップ型雇用」と定義してきた著者が、今回はその日本型雇用システムにおける管理職の問題に迫った。通常の新書は200~250ページであるが、本書は340ページもある非常に分厚いものとなっている。厚くなったのは、著者が原資料を大幅に引用して、専門的な議論を紹介しているからであるが、そのため読み込むには若干苦しい。特に、ホワイトカラーエグゼンプションの部分は、規制改革会議や経団連の提言、労政審答申など、通常読む機会のない資料を多数紹介しており、経緯を把握するには便利であるが、かなり専門的ではある。

著者は小咄として、大企業の部長経験者が面接に来て、「あなたは何ができますか?」と聞かれて、「部長ならできます」と答えた笑い話である。欧米のジョブ型雇用社会ならば、これは笑い話でもなんでもない。しかし、日本では「私は管理という『仕事』のできる人ですというレッテルをぶら下げて」「これがいかに日本の雇用社会の現実と乖離しているか」「ジョブ型雇用社会というのは、この日本では完全に現実離れした建前でしかないものが、現実社会を支配するルールとして社会的に存在している社会」であると説く。

2 女性管理職の時代

著者は「戦後確立した経営秩序においては…女性管理職の存在する余地はなかった…ホワイトカラー女性が管理職に昇進することは全く想定外」であったと書く。それを大きく変えたのが、1985年に成立した男女雇用機会均等法であった。これを受け、1986年、私の所属組合でも人事課長との団体交渉が行われた。団交参加者は女性専門職の多い職場が中心だったが、そこに本部・総務課・会計課などの若手女性職員が多数押し掛けたのである。その日の朝、管理職の机を拭き掃除したり、お茶を出したりしていた女性職員が団体交渉に参加したのである。当時、キャリア職はもちろん、ノンキャリア職を含め、男性職員の95%は管理職に登用されて退職するといわれていた。一方、女性職員の管理職は専門職などのごく一部であった。人事課長は、団体交渉の場で組合の男性役員に対し、もし、女性管理職を増やすと、男性の管理職への登用は60%まで落ち込むが、それでもよいのかとつぶやいた。当時、団体交渉に参加した女性職員の多くが、いま定年を迎えたが、部長職・課長職で退職している。

3 管理職手当を要求した団体交渉

著者は終戦直後の「管理職がリードした労働運動」において、「産業報国会と工場ソヴィエトのアマルガムのような従業員組合が戦後日本の労使関係の出発点」になったとし、「『俺たちと奴ら』という社会学的対立構造の中にはめ込まれている欧米型雇用社会とは全く異なるもの」であると説く。終戦直後からはかなり時のたった私的な経験であるが、労働組合側から管理職手当を要求するというはどうであろうか。1993年の団体交渉では組合側から管理職手当を要求した。当初、技術専門職の職場では、高度成長前期に採用した職員から順に管理職に登用されていたが、管理職のポストが限られており、年齢順にポストがあてがわれていた。いわゆるキャリア採用の団塊の世代が管理職の年代に差し掛かっていたが、管理職のポストがない、このままでは管理職にもなれないと不満を募らせていた。しかし、労働組合から管理職ポストを増やせなどとはいえない。当時、管理職は部長級のA級、次長級のB級、課長級のC級、課長級スタッフ職のD級に分類されていた。労働組合としては課長級スタッフ職D級の管理職手当相当を管理職年代に差し掛かった団塊の世代に配分せよと要求した。結果、D級管理職手当よりは若干手当額は低く、もちろん超過勤務手当はなくなるが、管理職ではなく組合員として処遇するポストが新設された。交渉後、人事課長は、これまでの人事管理に不備があったと組合役員に詫びた。

4 超過勤務

バブル期はともかく仕事が多かった。あるプロジェクトの担当として15億円の事業費を1人で抱えることとなった。当時、月150~200時間の超過勤務を行った。深夜1・2時、土日もないとなると少し体調も崩した。笑い話であるが、深夜2時にFAXを東京のある事業所に送って、今日の仕事はこれで終わりだと課員とともに帰宅した。翌日、FAXが返っていたので時刻を確認するとAM3の文字があった。

著者は「時間外・休日労働の上限規制」において、「普通の一般ホワイトカラー労働者が、法律上時間外・休日労働の制限もなく、会社から与えられた膨大な仕事をこなすために無限定の長時間労働を強いられていることこそが問題」と主張してきた。それが、2018年の「日本の労働時間法制の歴史上、成人男子の時間外、休日労働に初めて明確な上限規制を導入した」とし、著者が「かつて孤立無援で主張していたことが法改正の本丸にまで出世したという意味でも、まことに感慨深い」と述懐している。

著者は、しかしそこに「大きな忘れ物があった」とし、「管理監督者については、これらの上限規制は一切適用される余地はありません」と書く。そして、企業現場への影響として、「残業が月間40時間を超えると、本人と上司のところへアラートがいく。60時間になるとさらに上の上司までアラートがいく」「部下の時間外労働時間が月40時間を超えると、上長の人事評価に影響する」等々が例示されている。さらに「部下の健康管理、とりわけメンタルヘルスの管理も管理職の責務」である。

私的な経験としてはメンタルヘルスで休職していた職員が復職する場合が大変である。200人程度の本部と支所の人事を統括していると、人事課から10人程度の復職者の受け入れを迫られる。本人と直接会話することもなく、復職可能とする医師の診断書のみで判断せざるを得ない。復職後、月曜の朝に「今日は休ませて欲しい」という電話がかかってこないかどうかドキドキである。

先日、ある元職員と話をする機会があったが、元職員の退職理由は、時間外労働時間が月40時間を超えるにも関わらず、上司がそれを認めず時間外労働時間を削るように指示していたからだという。超勤時間を全て記入するよう通知されてから30年以上経つが、いまだに闇超勤が行われていることは実に嘆かわしい。採用者よりも中途退職者が多いとも聞く。職種によっては求人を出しても全く応募者がいない。元職員は退職後、士業を志して、今は士業で働いている。

本書はどこから読み進めても非常に味のある構成となっている。是非、一読をお勧めしたい。

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【投稿】東電の「現金が底をつく」―原発再稼働の論理

【投稿】東電の「現金が底をつく」―原発再稼働の論理

                             福井 杉本達也

1 「倒産企業」東電の資金繰り難で柏崎刈羽原発再稼働

東電はもうすぐ「現金が底をつく」と日経新聞は1月5日付で報道した。元々、2011年3月の福島第一原発事故以降、東電は倒産企業である。それを、政府や各電力会社の持ち寄りによる財政支援と電気料金への転嫁などの「点滴」により、無理矢理・形式上生きながらえてきたゾンビ企業に過ぎない。しかし、そのゾンビ企業も、「点滴」も入らないほど衰弱しており、明日の現金(キャッシュフロー)さえ尽きかけているのが現状である。いつ不渡りを出してもおかしくない。政府もこれ以上東電を支える財政余力はない。また、LNGなど輸入エネルギー物価の高騰によりこれ以上電力料金に負担をかけることもできない。そこで、政府は是が非でも柏崎刈羽原発を再稼働をせよと命じ、東電は柏崎刈羽原発6号機を1月20日に再稼働させると公表したのである(日経:2025.12.23)。

福島第一事故対策もままならぬ状態で、「事故後初めて原発を再稼働させる。柏崎刈羽原発ではテロ対策の不備が相次いで発覚。安全性確保や避難計画の実効性に対する住民の懸念は根強い」(福井:2025.12.23)。11月6日に新潟県は柏崎刈羽原発の再稼働に関する県民の意識調査結果を公表したが、「原発から半径30キロ圏の9市町村別の集計で、立地する刈羽村を除く8市町では、再稼働の条件が現状で整っていないとの回答が53~64%と多数を占めた」と報道された(福井:2025.11.7)。こうしたことを全く無視して、11月21日、花角英世新潟県知事は、6,7号機の再稼働を容認するとした。これは、政府の強力な再稼働圧力と、東電が柏崎刈羽原発1、2号機を廃炉とし、「新潟県に1000億円規模の資金も拠出する」(日経:2025.10,17)ことで、新潟県の買収を図ったからである。

これに便乗しておこぼれを預かろうと、北海道の鈴木知事は泊原発3号機の再稼働について、原子力規制委による審査合格からわずか4カ月で地元同意に応じた。「二番煎じと思われでも構わないと腹を決め、流れに乗った」のである(福井:2025.12.11)。

2 経済性の全くない原発

日本では、原子力発電は「安価な電力」であるとされている。電力会社は止まったままでは莫大な不良資産に過ぎない原子力発電を再稼働したがる。そこには、国民には見えない形で莫大な国家資金が流し込まれている。電力会社は国家資金によって利益が保証され、実際の原価を大きく割り込んだ発電価格で販売を行っている。将来的な廃炉や高レベル放射性廃棄物処理などの管理費も免除される。これは市場経済ではない。原子力経済という全く別の原理の閉鎖市場が動いている。

3 原発は脱炭素には貢献しない

政府は2025年8月に再生可能エネルギーや原子力といった脱炭素電力の発電所の近くに、半導体関連などの産業を集める「GX戦略地域」を創設すると表明した。風力・太陽光などの再生可能エネルギーや原子力といった脱炭素電力を使う企業を対象に、先進技術への設備投資の支援に乗り出すという構想だが(日経:2025.10.4)、原子力を脱炭素というのは詐欺も甚だしい。

化石燃料にしても、鉱物を採掘するために工業的なエネルギーの投入が必要である。したがって、採掘された化石燃料の持つ熱量の一部は自家消費される。原子炉燃料(5%濃縮の6フッ化ウラン(UF₆))を得るために投入されるエネルギーは電力であり、原子炉の熱出力は核分裂による高温蒸気であり、高温蒸気によって発電機のタービンを回して電力を取り出している。高価な電力を投入して、核分裂熱を取り出している。大量の電力を投入して別の形態の熱を得るためエネルギー的価値は低下している。近藤邦明氏の計算によれば火力発電の熱出力は投入した電力の熱量の3倍程度と考えられる。この場合、火力発電所で投入された化石燃料に対する235U濃度5%のエネルギー産出比は2.4/3=0.8<1.0となる(「環境問題を考える」2025.10.7)。ウラン燃料の製造は化石燃料を浪費している。原発は「化石燃料由来の電力」を大量に消費して燃料を準備する。結果、全体のエネルギー効率では火力発電より劣る。エネルギー供給技術としての合理性は存在しない。

4 ゾンビ企業=東電は解体すべき

Wikipediaの説明によれば、東京電力ホールディングスは「福島第一原子力発電所事故の復旧および損害賠償のために、日本国政府による公的資金が注入され、認可法人である原子力損害賠償・廃炉等支援機構が議決権の過半数超(潜在的には3分の2超)を有する大株主となっている。同機構は実質的に国の機関であり、当社は同機構を介して国有企業化され、日本国政府の管理下にある」「同機構による東京電力への出資金(1兆円の優先株引き受け)や、10兆円強におよぶ資金援助の原資は、日本国政府が交付もしくは日本国政府保証により同機構が借り入れたものであり、同機構は管理運営・財政において実質的に国の機関である。したがって、東京電力は同機構を介して半国有化され、日本国政府の管理下にある」。東電は、2011年11月以降、「機構(実質は日本国政府)より、毎月数百億から数千億円規模の資金援助を受けており、2024年度末現在で累計13兆4058億円に達している。当社は機構からの交付資金を特別利益として会計処理しており、交付された資金と同額を特別損失として賠償金に充てている。」。「これにより、当社は損益計算書上の赤字決算と貸借対照表上の債務超過を回避」していたのだが、このスキームが破綻しかかっている。

これは、水俣病の補償のために原因企業であるチッソを存続させたスキームを踏襲したもので、菅直人民主党政権下—枝野幸男官房長官―海江田万里経産相時代に作られたが、水俣病とは規模も社会的影響も解決の不可能さも全く異なる。政府の責任逃れの策であった(「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」(2011.5.13閣議決定)。無理矢理、福島第一原発の廃炉ロードマップ作成し30~40年と決めているが、全くの絵に描いた餅であり、いったいいくらかかるのか、本当にできるかも明らかではない。というか廃炉は全く現実的ではない。原発事故補償・廃炉費用など、年間に兆単位の金がかかる。民間企業のレベルの話ではない。国家予算にも大きな負担がかかっている。いくら、柏崎刈羽原発を再稼働しても、ゾンビ企業=東電の近々の破綻はまぬかれない。もうこれ以上国民を誤魔化すことは諦めて、経産省はまともなスキームを発表すべきである。

立憲民主党の枝野幸男元代表は12月20日の講演で「古い原子炉を廃炉にしてリプレースし、最新鋭にした方が安全性は高まる」と主張したが(福井:2025.12.29)どこに反省の弁はあるのであろうか。

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【投稿】無謀・トランプ:対ベネズエラ、資源・領土略奪戦争開始

<<トランプ「大規模な攻撃を成功裏に実施した」>>
1/3、新年早々、トランプ米大統領は、自身のソーシャルメディアで「米国はベネズエラとその指導者、ニコラス・マドゥロ大統領に対する大規模攻撃を成功させた。マドゥロ大統領は妻と共に拘束され、国外に連行された。この作戦は米国の法執行機関と連携して実施された」と投稿した。
さらにトランプ大統領は、マドゥロ大統領がカリブ海に停泊中の強襲揚陸艦イオージマに連行され乗艦している写真まで投稿している。

南米アメリカ大陸で、これほど大規模な米軍の軍事作戦、直接的な軍事介入行動が実施されるのは、冷戦以来初めてのことであり、トランプ政権の無謀さが際立つ事態の展開である。

同じ1/3、ベネズエラの国営テレビはロドリゲス副大統領のメッセージと、パドリノ・ロペス国防相の声明を伝え、軍隊を直ちに全国に展開すると表明、ベネズエラに対する「過去最悪の侵略」を前に、国民が連帯して抵抗するよう呼びかけ、政府は「マドゥロの命令」に従い全軍を配備する」、「我々は決して屈服しない」と強調している。ベネズエラ外務省も米国による攻撃を断固非難するとの声明を発表した。ロドリゲス副大統領は、「ベネズエラは決していかなる国の植民地にもならない」付け加えている。ベネズエラ最高裁判所は、直ちにロドリゲス副大統領を大統領代行に任命している。
 ベネズエラのイヴァン・ヒル外相は「今朝、コロンビア、ブラジル、南アフリカ、ナミビア、ロシアの外務省から電話がありました。私たちは複数の支援表明を受けており、世界中から電話を受けています」と述べている。

ロドリゲス副大統領

以下、米軍軍事介入に対する反応を列挙すると、
* メキシコ外務省は、米国の介入を強く非難し、「地域の安定を深刻に脅かす」ものであり、ラテンアメリカ・カリブ海地域は「平和地帯」であり続けなければならないと強調した。
* 中国外務省は声明で、「中国は、主権国家に対する米国の露骨な武力行使と大統領に対する行動を強く非難する」、「米国のこのような覇権主義的な行為は、国際法とベネズエラの主権を深刻に侵害し、ラテンアメリカ・カリブ海地域の平和と安全を脅かすものだ。中国は断固として反対する」、「我々は米国に対し、国際法と国連憲章の目的と原則を遵守し、他国の主権と安全保障の侵害を停止するよう求める」と強調している。
* ロシア外務省は、米国指導部に対し、マドゥロ大統領夫妻の釈放を強く求めたと発表。
* ブラジルのルラ・ダ・シルバ大統領は、声明の中で、ベネズエラにおける米軍の行動を「国際社会全体にとって極めて危険な前例」として強く非難した。
* フランスのジャン=ノエル・バロ外相は、「マドゥロ氏の拘束につながった軍事作戦は、国際法の根底にある武力不行使の原則に違反している」と述べている。さらに、「永続的な政治的解決は外部から押し付けられるものではない」とし、「主権を有する国民のみが自らの未来を決定できる」と付け加えた。
* スペインのペドロ・サンチェス首相は、攻撃への対応として国際法と国連憲章の遵守を求めた。
* 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、米国の攻撃は「危険な前例となる」、「国際法のルールが尊重されていないことを深く懸念している。」と警告している。
* ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長は、トランプ米大統領に直接電話をかけ、「連邦法および国際法に違反する政権転覆の追求」に反対する意向を表明したと述べた。米ニューバーグ空軍基地の外では、ベネズエラにおける米軍の行動に抗議するデモが行われた。

ベネズエラ政府は声明で「アメリカが首都カラカスなどの民間・軍事地域に対して行った極めて重大な軍事侵略を国際社会に対して、拒否し、非難し、告発する」とする声明を発表し、「この行為は、国連憲章の明確な違反である。このような侵略は、国際的な平和と安定、特にラテンアメリカおよびカリブ海地域の平和と安定を脅かし、何百万人もの人々の生命を深刻な危険にさらしている」と強調し、非難している。声明は、この首都カラカスへの攻撃が「ヴェネズエラの戦略的資源、特に石油と鉱物を奪取する」こと、そして「国家の政治的独立を強制的に破壊する」ことを目的としていると非難している。

「我々は負けてはいない」 ― ベネズエラ内務大臣は、「国内は完全に平穏だ。彼らは攻撃を試みたが、国民は敗北するだろうと考えたのかもしれない。だが、現実はそうではない」と、ベネズエラのディオスダド・カベジョ内務大臣は、米軍によるベネズエラ攻撃後の声明で述べている。
そして現実に、ベネズエラ市民が、米国の軍事的攻撃に反対し抗議するため、街頭に繰り出し、「マドゥロを返せ」と要求している行動が報じられている。

<<トランプ「米国当局が無期限にベネズエラを運営する」>>
1/3、トランプ大統領は、フロリダの氏の別荘、マール・アー・ラーゴでの記者会見で、ベネズエラへの地上部隊派遣を躊躇しないと表明し、「米国当局が無期限にベネズエラを運営する」と発表した。まさに、「一体、どこの何様か?」、露骨極まりない帝国主義者の、思いあがった暴君の発言である。
「彼らはいつも『地上部隊』と言いますが、まさにその通りです。必要なら地上部隊を恐れることはありません。実際、昨夜も非常に高いレベルの部隊が地上に派遣されました」、「言うのは構いませんが、ベネズエラが適切に運営されるように確実にするつもりです」、さらに「必要であれば、第2次、より大規模な攻撃を行う用意はある」とまで発言している。

メキシコシティの米国大使館前で抗議する人々

 以下、会見での重要ないくつかのキーポイントを列挙すると、
* 米軍の軍事作戦を声高に支持している、ノーベル平和賞を受賞したベネズエラの野党指導者マリア・コリーナ・マチャド氏について問われると、「彼女が指導者になるのは非常に難しいだろう。国内では支持も尊敬も得られていない。彼女はとても良い女性だが、尊敬されていない」と切り捨てている。
* では、ベネズエラの政権を誰が担うのかと問われると、トランプ大統領は両脇に座るピート・ヘグセス国防長官とマルコ・ルビオ国務長官を指さした。「まあ、しばらくの間は、私のすぐ後ろにいる人たちが主に運営することになるだろう」、「我々が運営することになる」
* 地上部隊について問われると、「何かは必要になるかもしれないが、それほど多くはないだろう」と答え、地上に展開するアメリカ人のほとんどは石油・ガス業界関係者だろうと示唆した。
* 近隣諸国への影響について問われると、マドゥロ大統領の主要同盟国であるコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領への批判を強め、「彼にはコカイン工場があり、コカインを製造する工場もある」、「彼は自分の尻拭いをしなければならない」と、次なる侵略目標を示唆した。
* 大統領はまた、キューバ問題については「いずれ議論の的になるだろう」と述べ、ベネズエラと同様に、この「破綻しつつある国」の「国民を支援」したいという意向を示唆した。
* 「石油に関しては、ベネズエラにプレゼンスを維持することになる」として、ベネズエラの石油埋蔵量に言及し、米国の占領は「何の費用もかからない」、なぜなら、米国は「地中から湧き出る資金」から補償を受けるからだ。ベネズエラの米軍によって破壊されたインフラは、米国の監督下で米国のエネルギー企業が再建すると述べた。

これほど露骨で、何の取り繕いもない、資源と領土に対する帝国主義的野望に取りつかれた会見内容は、あきれるばかりである。全世界が、あらためてトランプ政権の危険に満ち満ちた、本質を思い知らされ、確認させられたのである。

関税攻撃に始まった経済戦争は、今や軍事攻撃を仕掛けることに何の躊躇もなく、戦争を拡大させるトランプ政権の実体を見せつけたのである。

米国から距離を置き、独自に独立した経済・外交政策を追求する動きを、平和と緊張緩和の政策を一層加速させる、具体的な政策と行動の必要性を、トランプ政権はあえて指し示したのだとも言えよう。
(生駒 敬)

 

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【投稿】米・イスラエル:対イラン戦争へのエスカレート

<<トランプ大統領「イラン攻撃に青信号」>>
12/30、イスラエルの大手ヘブライ語新聞・Yedioth Ahronoth イェディオト・アハロノトは、一面トップ記事で「トランプ大統領、イラン攻撃を承認」と大きく報じている。その英字ニュース・ynetnews は、「イラン攻撃に青信号」と報じ、イスラエルが待ち望んでいたイランへの青信号であり、これは、「トランプ大統領はイランのミサイル増強に対するイスラエルの行動を支持し、核問題への米国の介入を誓った。これは、イスラエルが先制攻撃を仕掛けるのか、それともイランが次のラウンドを形作る最初の一撃を放つのかという疑問を提起する。」と述べた後、その詳細を以下のように報じている。(ynetnews 2025/12/30)

* 「今、イランが再び勢力を拡大しようとしていると聞いている。もしそうなったなら、我々は彼らを打ち倒さなければならないだろう。徹底的に叩きのめしてやる。だが、そうならないことを願っている」とトランプ大統領は語った。
* イランが弾道ミサイル戦力の再建や核開発計画の再開を試みた場合、米国は介入するかとの質問に対し、トランプ大統領は前者については「イエス」、後者については「直ちに」と答えた。
* トランプ大統領は、珍しく率直な言葉でイスラエルへの支持を肯定し、イランの長距離重精密誘導ミサイルによる脅威を認め、中国がテヘランを支援している可能性が高いとの認識を示したものの、具体名までは言及しなかった。彼は、イランの能力を弱めることを目的としたイスラエルの計画された作戦を公的に承認するところまで行った。

POTUS – アメリカ合衆国大統領

12/30のネタニヤフ首相とドナルド・トランプ大統領の会談の結果は、同盟国間の通常の協議といったものから、対イラン戦争拡大、さらなる壊滅的な地域戦争拡大への転換点となり得る、危険極まりないものである。

イスラエルのネタニヤフ首相にとっては、トランプ氏をイランとのより広範な戦争に引きずり込むことに自己の政権継続の命運をかけてきたのであるが、いわば一歩前進であろう。 なにしろ、イスラエル国内でのネタニヤフ政権支持率は、今や、イスラエル在住のユダヤ系住民のわずか4分の1、イスラエル在住のアラブ系住民のわずか17%強でしかない。エルサレムの超党派のイスラエル民主主義研究所(IDI)が実施した直近の世論調査では、ユダヤ系イスラエル人の67.5%、アラブ系イスラエル人の76%が、自分たちの意見を的確に代表できる政党は存在しないと回答するという驚くべき結果であった。12月下旬に実施された別のIDI世論調査でも、ネタニヤフ首相の続投を望むイスラエル人はわずか15%という、末期症状である。
ともに支持率の低下に悩まされ、翻弄されている、トランプ、ネタニヤフ両氏は、危険な戦争政策推進で事態の転換を計ろうとしているわけである。

<<イラン:「全面戦争に突入している」>>
同じく12/30、このような危険な事態の進展に対して、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領は、イランが米国、イスラエル、そして欧州と「全面戦争」に突入していると宣言し、新たな攻撃に対してより断固たる対応を取ることを明確に表明している。同時に、イランは、一貫して核兵器開発の追求を否定し、核開発計画は平和目的であることを明確にしている。

 「イラン・イスラム共和国は、いかなる侵略と抑圧に対しても厳しい対応を取り、後悔させるだろう」とペゼシュキアン大統領はXニュースで表明している。

この表明には、今年6月の「12日間戦争」と呼ばれるイスラエルの奇襲攻撃に対して、イランのミサイルが猛烈にイスラエルに降り注ぎ、イスラエルのミサイル防衛システムがあと1日で尽きる寸前という状況に陥いらせ、多くの国々がイランに圧力をかけた結果もあり、イランは「停戦」に同意したのであったが、その際、イランは、「イスラエルが再びイランを攻撃すれば、再び停戦は行われない」と明言していることを想起させるものであり、それが「厳しい対応を取り、後悔させるだろう」という表明となっている。

イランと同盟関係にあるロシアのプーチン政権は声明で、「イランとその核開発計画をめぐる緊張の高まりを控え、2025年6月に彼らが犯した致命的な過ちを繰り返さないよう呼びかける。この過ちは、イランにおけるIAEAの検証活動に深刻な悪影響を及ぼした」と述べている。(スプートニク 2025/12/30

ここ数週間、トランプ政権はカリブ海域で国際法に明確に違反して、各国の商業タンカーを拿捕しているが、拿捕された船舶の一つ、ベラ1号はイラン産原油を積んでいたと報じられている。12/17、トランプ大統領は、「ベネズエラに出入りするすべての制裁対象石油タンカーの全面封鎖」を発表し、「この包囲は今後さらに拡大し、彼らにはかつて見たことのないような衝撃が降りかかるだろう。彼らがかつて我々から奪った石油、土地、その他の資産をすべてアメリカ合衆国に返還するまでは」とまさに露骨な帝国主義戦争の開始を宣言している。

そしてまた、台湾への大規模な武器移転など、トランプ政権の戦争挑発のさまざまな同時行動は、イランと中国両国に対するより広範なエスカレーションを示唆しており、トランプ政権のあがきとも言える強硬路線を露呈させている。

年明け早々の、危険な展開が危惧される事態の進展である。緊張緩和と平和への外交・経済政策の全面的転換こそが喫緊の課題であり、要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】日米安保条約からの潜在的脱退・「戦略的独立」の提起

【投稿】日米安保条約からの潜在的脱退・「戦略的独立」の提起

                             福井 杉本達也

1 米国の覇権が急速に崩壊しつつあるとの時代認識

アレック・ラッセルは『FINANCIAL TIMES』(日経:2025.12.31)紙上において、「米国が数十年担ってきた世界の監督者としての役割を放棄するなか」、「長年に及んだ覇権が急速に崩壊」し、「長きにわたって超大国として覇権を握ってきた世界が揺らいでいる。」と書いている。また同紙上において、既に、インドのジャイシャンカル外相が2025年春に、「世界秩序が変わり、各国が発言力を高める時代が『ようやく訪れようとしている』とし、さらに『古い秩序の価値は誇張されている』」と付け加えたとも指摘している。

また、ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授は2025年12月30日付けの『YouTube 』「Japan Breaks Free: How Strategic Independence Could End American Dominance in Asia |John Mearsheimer」において、「地域のダイナミクスの変化は、これまでの数十年間にわたるアメリカの覇権的支配下では存在しなかった日本の戦略的独立の機会を生み出しました。韓国がアメリカの戦略的指導から独立性を高めていることは、主要なアメリカ同盟国が自律的な安全保障政策を追求する前例を提供しています。」とし、「中国の台頭は、日本が孤立や脆弱性なしに戦略的独立を確保するための代替的なパートナーシップの機会を生み出しました。」と述べている。

2 時代錯誤の高市首相の認識

韓国の『中央日報』紙は12月31日付けで佐橋亮・東京大学教授のインタビュー記事を載せ、「日本の専門家の間で、高市首相について、自ら後継者を自任した安倍晋三元首相とは違い、精緻な外交戦略が不足しているという評価が出ている。」とし、「高市首相の発言について『米中関係の好転など、日本外交が直面する国際政治状況を理解していなかったように思える』とし、首相の発言は米国による台湾有事への介入を前提にしていたが、米国は戦略的曖昧性を維持している。米中関係は非常に改善しており、中国は自信を持っている。こうした国際情勢など、日本外交が置かれた状況を理解していたとは思えない。日本と中国の関係は複雑であり、強硬一辺倒で進むのがよいとも限らない。首相のアジア外交ビジョンには不明確な点がある」と指摘したとしている。

また、遠藤誉中国問題グローバル研究所所長は、12月19日、「台湾の林中斌・元国防部副部長(民進党の陳水扁政権時代)が<トランプと習近平は両岸平和統一に関して合意する>と指摘した」とし、林氏は「アメリカは、アジア太平洋地域における軍事力が中国本土の軍事力に遅れをとっていることに既に気づいており、そのため、中国人民解放軍に軍事力を用いて対抗することを、できるだけ避けようとしている。」と述べ、「中国文化は『戦わずして勝つ』戦術を提唱しており、中国人民解放軍の行動から判断すると、習近平は『決裂するやり方ではなく、政治的・経済的・心理的など超軍事的手段』を用いている。」とコメントしたことを紹介した。.さらに林氏は、「現在の障害は、台湾の頼清徳政権が強硬で、中国大陸側と交流しないことだ。しかし、『アメリカが(頼清徳政権に)背後から圧力をかければ』、両岸の政治対話や社会交流は自然に進むだろう。」と述べたことを紹介している。(猿渡誉「Yahooニュース:2025.12.26」。高市首相の外交は現在の情勢からズレまくっていることを如実に示している。

3 対米従属からの日本の「戦略的独立」を提唱するミアシャイマー教授

上記『YouTube』において、ミアシャイマー教授は、日本の日米安保条約からの潜在的脱退を示唆する。「戦略的独立。私は、アメリカの保護によって莫大な恩恵を受けてきた大国にとって、これほど劇的な方向転換が戦略的に理にかなっている状況を目にしたことはありません。日本がアメリカと決別する可能性は、単にアジアの地政学を再構築するだけではありません。それは同盟関係の連鎖的な離反を引き起こし、わずか十年のうちにアメリカの世界的支配の全構造を崩壊させる可能性があります。最も重要な同盟国が、あなたの安全保障の保証が利益よりもむしろ負担になっていると結論づけた」と大胆にも提唱した。教授は続けて、「日本の独立計算を推進する戦略的な数学は、基本的に変化しており、アメリカとの継続的な同盟を経済的には非合理的に、軍事的には逆効果にしています。中国は日本の最大の貿易相手国となっています。日本の貿易の23%を占めています(アメリカは18%)。日本の経済回復は、ますます中国の消費、中国のサプライチェーン、中国の投資に依存するようになっています。同時に、アメリカの安全保障は、中国の軍事力の増大により、信頼性が低下しています。」と述べている。

また、「アメリカとの同盟関係による政治的主権の制約は、国内の緊張を生じさせ、日本の民主主義を損ない、日本の戦略的能力を制限している。潜在的に危険な軍事作戦への日本の参加に対するアメリカの要求は、憲法上の危機や政治的分裂を生み、日本の統治力を弱める。沖縄の基地問題は、アメリカの戦略的要請が日本の民主的プロセスや地域社会の利益とどのように対立するかを示している。」と述べている。

4 「戦略的独立」のためミアシャイマー教授は核武装の可能性を選択肢とするが

「戦略的独立は、日本の領土に対する脅威を抑止するために特化した核兵器開発を意味する可能性」を指摘し、「日本の技術力は、政治的な判断がこの選択肢を支持する場合、核兵器の開発を迅速に進めることを可能にします。あるいは、日本は他国を脅かさずに領土の征服を非常に高コストにする防衛的自給方針に依存することで、核兵器開発なしに戦略的独立を追求することも可能です。」(同上)と述べている。同時にミアシャイマー教授は「日本の地理的な位置は、技術の発展によって劇的に強化できる自然の防衛上の利点を提供します。島嶼防衛は水陸両用の攻撃に対して異なる能力を必要とし、広範な距離にわたる戦力投射とは異なります。日本は、世界的な同盟義務のために必要な高額な戦力投射能力を維持せずとも、最適な防衛システムを開発することが可能です。」(同上)とも述べていて、必ずしも独自核武装論だけではないようである。人類絶滅兵器としての核武装には100兆円以上の負担がかかるともいわれ、戦略的独立を達成するにはあまりにも負担が大きい。また、15年目を迎える福島第一原発事故において自力での核事故の収束に失敗し、一時は6000万人避難かとなったものの、偶然も手伝ってかろうじて最悪事態をまぬかれた日本の核管理の脆弱性も考慮する必要がある。

5 「戦略的独立」から東アジア経済統合への夢を語るミアシャイマー教授

「中国、タイ、カンボジアの3カ国の外相会談が29日、中国雲南省で開かれた。タイとカンボジアの停戦合意を着実に実行すべきだと強調する文書を発表した。地域の平和維の推進や相互交流の再、政治的信頼の再構築も盛り込んだ。中国外務省が発表した」(福井=共同。2025.12.30)。先の7月のトランプ氏の仲介よる停戦に比較すると新聞の扱いは非常に軽いが、東南アジアへの中国の経済的影響力は極めて大きい。今回の停戦仲介はその大きさを示す。カンボジアは2010年代から、日系企業の進出が盛んになってきた。特に自動車産業はタイが東南アジア最大の集積地で、同国に部品を供給する企業がカンボジアトに多く進出する。タイとカンボジアの供給網が一体化が進んでいる。カンボジアからタイに自動車部品などが輸出され、矢崎総業やミネベアミツミなど多くの日本企業が進出しており、中国が主導する停戦合意は地域の安定化をもたらす。

ミアシャイマー教授は東アジアの経済統合について、「日本が戦略的独立を追求しつつ、中国との経済的統合と地域パートナーシップの発展を進めることで生まれる。東アジアの経済統合は、アメリカの政治的干渉や制裁の脅威がなければ、急速に進む可能性がある。」「日本の中国や他のアジア諸国との経済関係は、アメリカ市場に代わる十分な選択肢を提供する可能性がある。制裁の効果は対象国の孤立に依存するが、中国のような主要経済国が代替関係を提供すると、孤立は不可能になる。中国との経済的統合によって支持される日本の独立は、アメリカ中心のシステムに代わる実行可能な選択肢を持つ国に対する制裁の限界を示すことができる。」「日本がアメリカと決別する可能性は、アジアの地政学を再編するだけでなく、アメリカ覇権の時代が終わり、多極化世界が始まったことを確認するものです。最も忠実な同盟国が、依存よりも独立が自国の利益に適うと判断したとき、同盟の持続性やアメリカの不可欠性に関するあらゆる前提は根本的に見直される必要があります。アジアにおけるアメリカ支配の時代は、軍事的敗北によってではなく、同盟国が継続的な従属が戦略的に非合理的になったことを認識することによって終わります。」と述べている(上記『YouTube』)。全く情勢を読めない「戦略的に非合理的」な高市外交の早期の転換が必須である。また、対米従属・情勢ボケの野党やリベラル派の外交姿勢の転換も必要である。

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【投稿】米国の敗北による焦りー高市政権官邸幹部の核保有発言の支離滅裂

【投稿】米国の敗北による焦りー高市政権官邸幹部の核保有発言の支離滅裂

                         福井 杉本達也

1 高市政権官邸幹部の核保有発言

12月18日、官邸幹部が記者団の取材で「日本は核保有すべきだ」と語った。だが、大手マスコミはオフレコ発言だとして、いまだ発言者名を明らかにしていない。しかし、『週刊文春』の取材で、尾上定正総理大臣補佐官であることがわかった。「発言をしたのは〈核軍縮・不拡散問題担当〉の尾上定正総理大臣補佐官です。元航空自衛官で、2023年から防衛大臣政策参与を務め、高市早苗政権で補佐官に。首相と同郷の奈良出身のお友だちで、防衛問題のブレーンです。本音では核を持つべきと考えている人物を核軍縮担当にしている時点で、適材適所には程遠い。首相の任命責任も問われる事案で、本来は更迭され得る発言ですが、その距離の近さから斬れていないのが現状です」と書いた(『文春オンライン』2025.12.24)。日本のマスコミは一部を除き腐り果てている。

 

2 背景には米国の敗北による焦りと対米自立

米国は日本が核攻撃を受けたからと言って、必ずしも相手国に核反撃を行うなどとは一度も言ってはいない。東洋人のために自国民を核報復の危険にさらすようなことはしない。『文藝春秋』2026年1月号で、用田和仁元陸将×神保謙慶大教授×小黒一正法政大教授の対談「高市首相『持ち込ませず』見直しでは甘い…中国には核保有も選択肢だ」において、神保は「日本が直面する安全保障環境を考えれば、核を含む抑止のあり方を正面から点検し直すことは、もはや避けて通れない課題」とし、「米国は自国のみならず同盟国が核攻撃を受けた場合、報復として核を使用する『拡大抑止』で国際秩序と地域の安定を保ってきました」が、「米国の核の傘の信頼性をめぐる国際環境は不確実性」を増しているとし、小黒も「日米同盟と米国の核の傘で日本は守れるかと疑問を持つようになり、その危機感は強まるばかりだ」と応え、用田は神保・小黒に同意する形で、「米国から見て日本は、黙っていても大切だから守ってやるという状況ではない」そこで、「中国を封じ込めるための通常戦力が米国に十分にないことが明らかになりつつある今、日本などの核保有が問題の解決策になり得る」と、日本の核武装を公然と求めている。これは、米国は敗北しつつあり、覇権が縮小しつつあることを実感している同盟国からの焦りの発言である。しかし、そこには、米国に従属しながら、核武装を考えるという甘さがたっぷりの発想である。また、用田は陸将という立場にあったにもかかわらず軍事知識に乏しく「核保有するにしても、米中露のような大量保有は不用で、最小限の核抑止力で十分」だと、核抑止力に対する理解も浅く、核戦争というものの結果に甘々と言える。

一方、同誌で、エマニュエル・トッドは佐藤優の対談「米国の敗北を直視して核武装せよ」において、米国はウクライナにおいて敗北しつつあり、日米同盟の「核の傘」というものは幻想であるから、日本が核武装して対米自立すべきであるという主張であり、「私は多くの日本人の代わりに、日本の核保有を提案した…敢えて口にしないことを私が言葉にした」と述べる。

3 核の抑止理論―相互確証破壊(Mutually Assured Destruction, MAD)」

米ランド研究所の軍事歴史家、バーナード・プロディーは核兵器によって戦争を抑止する「核抑止」の概念を生みだした。「従来は軍事体制が掲げる最大の目的は戦争に勝つことだった。これからは戦争を回避することが最大の目的になる」(プロディー)。プロディーは核の数や運搬手段で勝っていても、核戦争において勝利は保障されないと考えた。「たった一つの爆弾だけで想像を絶する破壊をもたらせる事実…敵国から先制攻撃を受けても報復する能力を身に付けなければならない。」「報復を恐れなければならないとすれば、先制攻撃を仕掛ける意味はない。敵国の都市を破壊しても、自国の都市が数時間後か数日後に破壊されるのだから」「アメリカがソ連の先制攻撃によって致命的な打撃を受けても、なお十分に反撃する軍事能力を持っていると分かれば、ソ連はよほどのことがない限り核兵器を使用しようとは思わないはずだ」と(『ランド・世界を支配した研究所』アレックス・アベラ)。

核の抑止理論は、どちらかが先制攻撃を行えば必ず自分も壊滅的な報復を受けるため、理論上は先制攻撃を思いとどまらせる効果がある。しかし、その要件は①十分な核兵器を保有し、報復攻撃の能力(第二撃能力)が確実に保証されること。②報復能力の非脆弱性と残存性が必要で、核搭載戦略爆撃機の常時待機や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)など、探知や迎撃を困難にする手段が求められる。③発射の早期探知と迅速な報復指令の遂行が可能な体制が不可欠となる。(参照:コトバンク・Wikipedia )

尾上定正は日本は核保有すべきだと発言したが、上記の条件を考慮しているとは思えない。このような者を核戦略の助言者として官邸に置くとは、日本の自滅を招く。危険極まりない。

4 原発への攻撃

3.11の福島第一原発事故以降、全ての原発が停止したが、その後、再稼働が進み、関電の高浜原発や九電の川内原発など13基が稼働中である。さらに、今後、東電の柏崎刈羽原発6号機や北海道電力泊原発3号機も再稼働することとなる。しかし、稼働中の原発がミサイルで攻撃された場合は防ぎようがない。ウクライナ戦争ではザポリージャ原発への攻撃がしばしば行われてきた。100万Kw級原発が稼働中に攻撃された場合、広島型原爆1000発分の放射能がまき散らされる。現在関電高浜原発は4基の原発が稼働中であるが、4基とも制御不能に陥る恐れが高く、日本は壊滅状態となる。原発を考えずに核武装のみを考える尾上はとても核問題のブレーンとはいえまい。

5 核輸送手段の進歩

ロシアはウクライナで最大射程5500kmの中距離極超音速弾道ミサイル「オレシュニク」を実戦に投入している。オレシュニクは複数の独立標的再突入体(MIRV)を搭載可能な中距離弾道ミサイル(IRBM)であり、高精度の複数標的攻撃を可能にする。極超音速推進システムに組み込まれており、音速の10倍にあたるマッハ10まで速度に達することができ、パトリオットやTHAADのような従来のミサイル防衛システムによる迎撃が困難となる。飛行時間をわずか数分に短縮しながら防空網を突破し、敵に反応する時間をほとんど与えない。このようなミサイルを迎撃することなど全く不可能である。

一方の日本の核運搬手段のミサイルは、12月22日に失敗したH3・8号機など、全く技術的に不安定である。ミサイルや原潜などの運搬手段を含めると核武装には100兆円もかかるという。尾上は「空将」の軍事知識で高市首相にアドバイスするのではなく「空想」で高市首相を煽っている。核実験場もなく運搬手段も考えずに核保有を宣言しても袋叩きにあうだけである。

日本は「独自核武装」で核保有超大国のロシアや中国、そして北朝鮮と対決するのではなく、平和外交で核を持たずとも安全を守れる体制を模索していく現実的な道を選ぶべきである。その中で、米国の属国から、いかに自立した外交に踏み出せるかが試される。

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【投稿】トランプ:対ベネズエラ・帝国主義戦争開始宣言

<<「石油、石油、石油、石油、石油だ」>>
12/17、トランプ米大統領は、自らのソーシャルメディア・Truth Socialで「ベネズエラに出入りするすべての制裁対象石油タンカーの全面封鎖」を発表し、「ベネズエラは南米史上最大の艦隊に完全に包囲されている。この包囲は今後さらに拡大し、彼らにはかつて見たことのないような衝撃が降りかかるだろう。彼らがかつて我々から奪った石油、土地、その他の資産をすべてアメリカ合衆国に返還するまでは」と述べ、「私は本日、ベネズエラに出入りするすべての認可済み石油タンカーの完全かつ完全な封鎖を命令します。」と宣言した。
 「以前我々から奪った石油、土地、その他の資産の全て」を米国に返還するまで継続する、と表明して恥じない、あからさまな帝国主義戦争開始宣言である。

トランプ氏は、記者会見で、「彼らは我々の石油権を奪った。我々はそこに豊富な石油を持っていた」、「彼らは我々の企業を追い出した。我々はそれを取り戻したい」と述べ、ベネズエラがかつてアメリカ企業が保有していた資産を掌握することを可能にした、過去の米政権の弱腰をも非難したのであった。トランプ氏は、前日12/16の投稿で、石油、石油、石油、石油、石油、と5回も石油利権を繰り返していたのである。

この宣言で決定的に重要なことは、国際法に違反してまで、これまでカリブ海域でベネズエラの麻薬密輸船とされる船舶への爆撃で100人近くも殺害してきたのであるが、真の目的は、麻薬密売とは何の関係もない、「石油利権を取り戻す」という、対ベネズエラ戦争の真の自国帝国主義の目的を露骨に表明したことである。これまでの対麻薬戦争は、単なる口実で、ウソとでっち上げに過ぎないことを自ら認め、その空虚さ、アメリカの外交・戦争政策の本質的目的とその欠陥を自らさらけ出したことである。

20年以上も前、ベネズエラの故ウゴ・チャベス大統領の下で行われた大規模な石油産業の国有化、これによってエクソンモービル、コノコフィリップス、BP、トタル、シェブロンといった石油エネルギー大手の国有化、2000年代初頭のボリバル革命による国有化、これを絶対に忘れることも、許すこともできない、とトランプ氏は宣言したのである。

 ベネズエラは、世界最大の確認済み原油埋蔵量を保有し、2024年時点で約3030億バレルと推定されており、なおかつ、中国、ロシア、インド、BRICS諸国と緊密な経済関係を維持しており、これも許しがたい、というわけである。

歴史を20年以上も前に逆転させ、1999年以来、米国の支配から独立した道を歩んできたベネズエラ政府を打倒し、ベネズエラ政府を米国企業の支配に友好的な傀儡国家に置き換える、それこそがこの戦争開始宣言の真の目的であることを明らかにしたのである。
ベネズエラどころか、ラテンアメリカを含む南半球の資源は自分たちの所有物だと本気で信じ、行動してきたトランプ政権のあきれ返るほどの時代錯誤であるが、それがまかり通っているのが、トランプ政権である。トランプ氏はベネズエラ以外のラテンアメリカ諸国への攻撃も否定してはいない。「必ずしもベネズエラである必要はない」とまでのべている。

<<「今や誰もが真実を目の当たりにしている」>>
12/17、ベネズエラのマドゥロ大統領は、首都カラカスでの演説で、「これは単なる好戦的で植民地主義的な見せかけに過ぎない。我々は何度もそう言ってきたが、今や誰もが真実を目の当たりにしている。真実は明らかにされたのだ」、「トランプ政権の目的はベネズエラの政権交代であり、傀儡政権を樹立し、憲法、主権、そしてすべての富を手放し、ベネズエラを植民地化することにある。そんなことは決して起こらない」と強調。
 同じく、ベネズエラのロペス国防相は、ベネズエラが米国から石油、土地、その他の資産を奪ったという「錯乱した」主張を強く非難し、ロドリゲス副大統領は「我々はエネルギー関係において自由かつ独立した立場を維持する。マドゥロ大統領と共に、祖国を守り続ける」と述べている。

12/17現在、ベネズエラ産原油の輸送経歴がある石油タンカーは、少なくとも34隻が現在カリブ海を航行している。国際貿易情報会社Kplerの船舶位置情報データによると、これらのタンカーのうち少なくとも12隻はベネズエラ産原油を積載している、とされる。ロシアのタンカー「ハイペリオン」は12/17、カリブ海に入ったところである。
なおかつ、2025年には、中国はベネズエラが輸出する原油の約76%を購入しており、中国政府は、ベネズエラによる国連安全保障理事会会合の要請を支持し、一方的な圧力戦術に反対することを明確にし、カラカスが主権と正当な利益を守る姿勢を支持すると述べ、王毅外相は、ベネズエラ外相に対し、中国は米政権の「国際的な脅迫」を拒否すると伝えている。

 12/17、トランプ政権与党のトーマス・マシー下院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、トランプ大統領が米国議会の承認なしにベネズエラに対していかなる軍事行動も取るべきではないと主張し、「(合衆国憲法の)起草者たちは、戦争遂行権限が一人の人間に集中するほど、自由は消滅するという単純な真理を理解していた」と述べ、 イラクやリビアといった政権転覆戦争におけるアメリカの過去の失敗を例に挙げ、南米で同様の事態を起こすべきではないと警告し、「歴代大統領は、存在しない大量破壊兵器のために戦争をしろと命じてきた」と大量破壊兵器について述べ、「今は同じやり方だ。ただ、麻薬が大量破壊兵器だと教えられているだけだ。もし麻薬が問題なら、メキシコや中国、コロンビアを爆撃するだろう」、もしトランプ大統領が本当に米国への違法薬物の流入を懸念しているのであれば、2024年に400トンのコカインを米国に密輸した罪で有罪判決を受けたホンジュラスの元大統領、フアン・オルランド・エルナンデス氏を恩赦しなかったはずであると、トランプ氏の最も痛いところを明確にし、「これは石油と政権転覆の問題だ」とマッシー氏はトランプ氏を痛烈に批判している。

トランプ氏は、明らかに孤立しており、歴代大統領で最低の支持率への転落という事態で、その孤立はより一層鮮明になりつつある。その孤立を挽回するために、この時期に緊張を激化させ、戦争事態に突入させれば、関税や国内経済政策の失敗や、社会保障費削減に伴う差し迫った医療危機等々から、都合よく目を逸らすことができるだろう、という敗者の論理が透けて見えている。
つまりは、今回の事態は、アメリカの強さの象徴ではなく、アメリカ帝国の疲弊の兆候、政治的経済的危機の象徴である、と言えよう。

問題は、こうした客観的評価とは別に、事態を放置すれば、危険極まりない戦争拡大が現実のものとなる可能性が差し迫っていることであり、そうした事態を食い止める闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】トランプ政権の新しい国家安全保障戦略と日本

【投稿】トランプ政権の新しい国家安全保障戦略と日本

                         福井 杉本達也

1 「ロシアの脅威」という表現は時代の遺物

米国の新しい国家安全保障戦略(National Security Strategy of the United States of America November 2025 ・NSS)の序文は「冷戦終結後、アメリカの外交政策エリートたちは、アメリカが世界全体を永続的に支配することが我が国の最善の利益であると自分たちに信じ込んだ。しかし、他国の問題は、彼らの活動が我々の利益を直接脅かす場合にのみ我々の関心事である。」と述べている。これは悪名高いウルフォウィッツ・ドクトリン(1992年~)の終焉を意味する。

NSSは「ロシアがヨーロッパやアメリカ合衆国にとって脅威ではないという現実、ロシアが何十年も前から人工的にそのような脅威として描かれてきたこと、そしてこの誤った解釈の結果がヨーロッパにとって全くの大災害であり、アメリカ合衆国の国家安全保障に対する脅威であった」と書く。

スコット・リッター元米軍情報将校は、「トランプ政権は、これが本質的に不安定化をもたらす政策であることを認識しており、さらに『極めて危険』であることも指摘している。なぜなら、ロシアとの対立は『最終的には核戦争を意味する』からだ。」と指摘している。「この新たな地政学的計算において、現在のヨーロッパの軌跡はロシアよりも自ら、米国、国際平和と安全保障にとってはるかに大きな脅威である」と主張している(Sputnik日本:2025.12.5)。欧州のロシア政策は米国の国家安全保障目標と「両立しない」。

2 NATOは終わった

スコット・リッターはさらに、「新しいNSSは、NATO加盟に関するウクライナの非現実的な期待と、ウクライナがいつかNATO加盟国になるかもしれないというヨーロッパの同様に非現実的な期待に終止符を打ち、心臓部に杭を打ち込む」と述べ、アメリカは「いいえ、あなたは終わりだ」と言います。さらに、あなた方の進む軌道はアメリカの国家安全保障と両立しないと述べ、もしヨーロッパがロシアと戦争を始めた場合、アメリカは救済をしないと。「NATOが真に防御的な同盟に変貌しない限り…NATOが存在する正当な理由はない」。「NATOは死んだ。NATOは決して復活しない」と述べる(Sputnik日本:2025.12.5)。

3 ウクライナ戦争の終結

NSSはウクライナ戦争について「米国の核心的関心は、ウクライナでの敵対行為の迅速な停止を交渉し、ヨーロッパ経済の安定化を防ぎ、戦争の予期せぬエスカレーションや拡大を防ぎ、ロシアとの戦略的安定を再確立し、ウクライナの戦後の再建を可能にして国家としての存続を可能にすることです。」と述べている。これは実質的な当事者である米国の敗北宣言である。とにかくウクライナの泥沼から早く撤退したいのであるが、米国の覇権への打撃をできるだけ少なくしたいがために、あたかも第三者として交渉しているかのように装っている。さらに、NSSはウクライナ戦争に対するヨーロッパの好戦的政権を批判し、「トランプ政権は、不安定な少数政権に支えられた非現実的な期待を持つ欧州の当局者たちと対立している。これらの政権の多くは民主主義の基本原則を踏みにじって反対派を抑圧している。大多数のヨーロッパ人は平和を望んでいますが、その願いが政策に反映されていないのは、その政府が民主的プロセスを歪めている」からだと述べている。

4 中国は対等な競争相手

NSSでは、中国はもはや主要脅威、「最も重要な挑戦」、「ペース設定脅威」等の表現で定義されていない。中国を同盟国やパートナーとして定義していないが、主に1) 経済競争相手、2) サプライチェーンの脆弱性の源泉、3) 地域支配を「理想的には」拒否すべきプレーヤーとして扱っており、それは「米国の経済に重大な影響を及ぼす」からであるとする。そこにはイデオロギー的な次元が一切ない。民主主義対独裁の枠組みも、守るべき「ルールに基づく国際秩序」も、価値観に基づく十字軍もない。中国は、敗北させるべきイデオロギー的敵対者ではない。彼らは「世界の諸国と良好な関係および平和的な商業関係を求め、彼らの伝統と歴史から大きく異なる民主主義や他の社会的変革を強制しない」。 そして、彼らは「我々の統治システムと異なる統治システムを持つ国々と良好な関係を求める。」と述べる。また、2017年に始まった関税アプローチが中国に対して本質的に失敗したことを認めている。これに「中国は適応」してしまい、逆に「サプライチェーンへの支配を強化した」と書く。

5 台湾問題

NSSは「台湾に大きな注目が集まっているのは当然である。半導体生産で台湾が圧倒的な地位を占めていることも理由の一つだが、より重要なのは、台湾が第二列島線への直接的なアクセスを提供し、東アジア(北東アジアと東南アジア)を二つの明確な戦域に分断している点である。世界の海上輸送の3分の1が南シナ海を通過していることを踏まえれば、これは米国経済にとって重大な影響を及ぼす。」と書く。米国の関心は「米国経済」への影響である。「したがって、台湾をめぐる紛争を抑止すること、できれば軍事的優勢を維持することによってそれを実現することが最優先事項となる。また、台湾に関する米国の長年の声明政策も維持する。つまり、米国は台湾海峡の現状をいかなる一方的な形でも変更することを支持しない、という立場である」と書く。

高市首相は、台湾有事の際、米国が防衛しようとするが、それは「日本の存立危機事態になり得る」ので、日本も軍事介入するとの答弁をしたが、これは「現状維持」を望むトランプ政権としては看過しがたい。高市首相は中国を挑発し、いまだに悪名高いネオコンのウルフォウィッツ・ドクトリンの思考線上にあるが、NSSはそれを否定する。米国が介入するかどうか(できるかどうか)は米国経済への影響による。結果、壊滅的な損失を被るのは日本国民である。高市首相は二階に上がって梯子を外されたどころか、最初から梯子をかけられてもいない。

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【投稿】トランプ米大統領:一晩に「陰謀論」投稿、数百回

<<「一体何が起こっているんだ?」>>
12/1、トランプ大統領は月曜日の夜、自らのソーシャルメディア・Truth Socialに、一夜にして1時間に「数百」回、「10秒ごとに新しい投稿を1時間も続け、合計約400件の投稿があった」という。常軌を逸した、通常では考えられない異常さである。

CNNのエグゼクティブ・プロデューサー、ヴォーン・スターリング氏は「昨夜は一体何が起こっていたんだ?」と疑問を呈している

しかもその投稿の大部分は、「陰謀論」で占められており、「ミシェル・オバマが『バイデンのオートペンを操っていた』とか、バイデンの大統領令は実際にはミシェル・オバマによって発令されていた」、オバマ大統領の毎週の『殺害リスト』といった、何の裏付けもない、実証しようとさえする気のない、得手勝手な主張を矢継ぎ早に連射しているのであった。挙句の果てに、「バラク・オバマが軍事法廷にかけられることを保証する」と宣言する投稿までしている。

 さらには、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領がトランプ氏に屈服し、トランプ氏がベネズエラを支配していると主張するAIビデオまで投稿、おまけに、マドゥロ氏は「ジョー・バイデン前大統領が彼らのカルテルのリーダーだと自白したことを認めた」とまで主張。さらに、カナダが不正選挙に関与していたという投稿までしている。2020年大統領選挙に関する嘘、翌年、自らが煽り立てた1月6日の議会突入占拠事件を、民主党下院議長ペロシ氏のせいにする、民主党を扇動者呼ばわりする、イルハン・オマル氏、ティム・ウォルツ氏への怒りなど、

要するにトランプ氏の気に入らない人々に片っ端から当たり散らし、自らの被害妄想に基づいた「陰謀論」を、立て続けに投稿したのであった。完全な精神異常状態をさらけ出したものと言えよう。

トランプ氏の、追い詰められた精神状態がもたらしたものとはいえ、これらは、まだほんの一部であり、「明らかに精神的に衰弱しかけており、頭に浮かんだことを何でも投稿していた。今後さらに悪化するだろう」と指摘される事態の進行である。

<<「トランプ氏の完全な失敗」>>
こうしたトランプ氏の異常な事態の進行は、彼に追従し、付き従うことしかできない取り巻きを除いては、かつてないほど孤立していることの反映にほかならない。

 そして今や、これまでのトランプ支持者自身からさえ孤立しつつある。
アトランティック誌のジョナサン・レミア氏によると、縮小する支持基盤の支持を集める代わりに、トランプ氏は「海外旅行、個人クラブでのゴルフ、裕福な友人、ビジネスリーダー、大口献金者との会食」を選んでいるという。「集会以外では、トランプ大統領は就任1年目と比べて、演説、公のイベント、国内旅行を大幅に削減している」。「そして、有権者との定期的な接触の欠如は、共和党員とホワイトハウスの支持者たちの間で、トランプ氏が孤立しすぎていて、国民が大統領に何を求めているのか分からなくなっているのではないかという懸念を強めている」、さらに、「トランプ氏の鈍感さは、彼の側近たちをも動揺させ始めている」と指摘している。

ガーディアン紙のモイラ・ドネガン記者は、共和党への影響力が低下するにつれ、「トランプ大統領の権力の衰退は無視できなくなっている」、「政府閉鎖の間、彼はマール・アー・ラーゴでギャツビー・パーティーを開いている。ほとんどの時間を舞踏室の建設に費やしているようだ。それに、イースト・ウィングの破壊は、一部の人が予想していなかった象徴的な打撃を与えたかもしれない」、「トランプ大統領はある程度の個人的な衰退に陥っているように思われ、その衰退は無視できなくなっている」とも指摘している。

12/2、深夜の「Truth Social」での異常な投稿の連発の直後、トランプ大統領は火曜日にテレビ中継された閣議を招集。冒頭、まずはバイデン前大統領を攻撃し、自らのホワイトハウス復帰以来、アメリカ経済は急成長を遂げていると、またもや大嘘を繰り返し主張、「電気料金が下がっている」と、現実とかけ離れた虚をつき、「有権者のコスト上昇に対する懸念は、すべて彼らの空想に過ぎない」と、インフレを「空想」だと言い募り、「『手頃な価格』という言葉は民主党の詐欺だ」と断言、「彼らはそう言って、次の話題に移り、皆『ああ、物価が安かったんだ』と思うんです。いいですか、住宅価格の高騰という問題は、民主党が仕掛けた作り話です。民主党が価格問題を引き起こしたのです。」と開き直っている。

 12/3、シルビア・ガルシア下院議員(テキサス州選出、民主党)は、「トランプは「手頃な価格は民主党の詐欺だ」と言う。億万長者で、食料品と電気代のどちらかを選ばなければならなかったことがない人には、簡単に言えることだ。テキサスの労働者家庭は、本当の詐欺が彼の関税、彼の保険料の高騰、そして住宅危機に対処したり、実際に価格を下げるためのいかなる計画も提供しない彼の完全な失敗であることを知っている。」と、手厳しく批判している。

トランプ氏は、今や窮地に追い込まれつつある、と言えよう。追い詰められた政権が危険な賭けに打って出ることを、封じ込める政策、闘いの戦略が要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】高市政権の経済政策は円安から物価高騰を招く

【投稿】高市政権の経済政策は円安から物価高騰を招く

                            福井 杉本達也

1 高市政権の積極財政

高市首相は「責任ある積極財政」を唱えるが、実態は。11月5日付けの日経新聞によれば、「高市氏は自民党総裁選の勝利後、デフレでなくなったと安心するのは早い」と早期利上をけん制し、金融政策について『政府が責任を持つ』と唱えた。」(日経:2025.11.5)。しかし、高市首相の「デフレ」という意識は完全に現実とは乖離している。2022年以降の世界的なインフレの波は、日本においてもインフレによって生活苦が高まっている。もうデフレではない。金融緩和や野放図な財政出動に依存しないインフレ抑制的な経済政策をとるべきである。

 

2 日本経済停滞の主因は大企業による労働者の収奪にある

BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、日本経済の長期停滞の主因は、大企業が利益を内部にため込み、賃上げや人的資本投資、国内按買に対して消極的なことにあると指摘する。実質賃金の低迷を指摘すると、多くの人は生産性の低さを理由に挙げる。しかし、河野によると、1998年から2023年の間に日本の生産性は30%上昇しているが、実質賃金は横ばいで、この間のインフレにより2%減少している。生産性が上がっても賃金が引き上げられていない。賃上げを抑えて労働分配率をどんどん下げてきたのである。しかも定期昇給の枠外にある非正規労働者をどんどん増やしてきたのである。かつては包摂的だった日本の社会制度は収奪的社会に向かっている。労働者から絞りとっで、配当と内部留保を増やしている。結果、大企業の利益剰余金は600兆円にも積み上がっている(河野龍太郎『日本経済の死角』)。

 

3 「アベノミクス」への反省が全くない

11月21日に閣議決定された高市政権の総合経済対策は財政支出21・3兆円、事業規模41・8兆円という大型のものとなった。また、28日には18.3兆円という大型の補正予算も組むとした。日経新聞11月27日付けのコラム『大機小機』は「季節は外れのアベノミクス」と題して、アベノミクスの結果は犯罪的であったことを上げている。①積極的な財政も緩和的な金融もデフレからの脱却には効果が小さく、長期的な成長率を引き上げることには無力だった。②為替レートはアベノミクス直前の11~12年の円の対ドルレートは80円前後だった。これが「異次元緩和」によって円安に向かった。ここ数年は140 ~150円へと円安が進むことで、輸入物価の上昇を通じて物価情勢を一段と困難なもとしている。③金利のある世界に入った近年では、財政赤字の累積は国債費を増加させ、今後の財政運営をさらに厳しくなる、と総括している。

高市政権発足後、金融市場ではこの1か月間で警戒感が一気に強まり、国債と円を売る動きが加速している。円は157円台と1カ月で7円も円安となった。10年物国債利回りは1.835%と17年半ぶりの高水準になった。東短リサーチの加藤出氏は「市場には円安が止まりづらくなることでインフレ率も高止まりするとの予想」もあるとし、「足元のインフレは円安で押し上げられ…食料も顕著に値上がりしており、家計は圧迫されている。」とし、「円安を放置したまま、財政で物価高に対応してもきりがない」と高市政権の経済対策に全く否定的である(日経:2025.11.28)。

4 「インフレ税」をとる高市経済政策

島澤諭氏は「物価高で財政が改善するのは、インフレにより所得税率の適用区分を超える人が増える『ブラケットクリープ』や名目額で固定された債務を目減りさせる『インフレ税』のためだ。」それにより、「意図的な財政健全化を行わずともインフレ税によって財政再建が自動的に進む」。また、「インフレ税は、所得税や消費税のように法律によって決められたわけではなく、特定の税率があるわけでもない」から財政民主主義の破壊でもあると書いている(日経:2025.11.24)。

政府には①「支出を減らす」か、②「税収を増やす」か、③「インフレを進める」の3つの選択肢しかない。①と②は国民の抵抗が大きいので選択が難い。そこで、高市政権は③の「インフレ税」を選択し、家計への負担はどんどん重くなる。増税せずに、インフレによって「家計から政府へと所得が移転する」現象が起きている。物価が上がると生活費が増えるので、これまでためていた預金などを取り崩して、モノやサービスの購入に回す。国民はインフレのせいで、今までよりも控えめな量や質での財やサービスの購入を強いられ、国民の可処分所得は減って消費を手控える。所得や貯蓄の少ない人、つまり社会的に最も弱い立場の人々ほど、その影響を受ける(河野龍太郎×唐鎌大輔『世界経済の死角』)。

今の高市政権の経済政策は③の「インフレ税」である。野党も給付金や減税要求のみで「インフレ」や「円安」の効果についてはよく理解いていない。しっかりと批判しなければ、いつの間にか国民はさらに貧しくなっていることになる。

 

5 円安で物価は上がるのに、賃金が上がらないスタグフレーションに

トヨタなどの大手輸出型企業の海外事業では、円安で為替差益が利益となる。しかし、国内経済は円安ではインフレになり、国民の所得(賃金+年金)の上昇はインフレ率より低いので、スタグフレーションになってきている。貿易のほとんどが、ドル建てで行われている。95%以上を輸入に頼る資源・エネルギー、30%しか国内自給率のない食品は、価格がどんどん上がっても輸入しなければならない。

2012年末からの安倍内閣による「異次元緩和」で、日銀による国債の買い→円の増刷(約500兆円)が行われたが、膨らんだ資金は国内には投資されず、マイナス金利となった円が売られて、2%から4%の金利差のあるドルが買われ(円が売られ)円安が進んだ。さらに、2020年からは、コロナ危機の財政対策で100兆円もの国債が発行され、それを日銀が買い、円を増刷したため、1ドルは150台の超円安になってしまった。2023年:23兆円、2024年:27兆円、2025年:30兆円のペースで、「円売り/外貨買い」の超過がある。日銀の短期政策金利は0.5%であるが。インフレ率は約3%であり、本来は2.5%程度の政策金利でなければならない。しかし、それでは、安倍→菅→岸田の自民党政権下で積み上がった1300兆円の国債残高があり、国家財政が支払金利で破綻してしまうので金利を上げられない。低い金利を嫌って、海外の高い金利の通貨に資金が移動し、さらなる円安を引き起こし物価は高騰する(参照:『ビジネス知識源』吉田繁治:2025.11.29)。

高市政権にはアベノミクスの大失態の責任を問われているが、全く反省することなく、また同じことを繰り返そうとしている。失態の負担はインフレとして国民の肩に重くのしかかる。消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は3割にもなり、国民は必要な消費を削減せざるを得ず、日本経済の低迷と国民の苦痛はさらに続く。発足1カ月・マスコミは高市政権を盛んにもてはやすが、「死神」でもあり、「貧乏神」でもある。

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