【書評】『失われた1100兆円を奪還せよ』吉田繁治著

【書評】『失われた1100兆円を奪還せよ』吉田繁治著 ビジネス社 2,530円

福井 杉本 達也

1 消費税は消費への懲罰税

イトーヨーカ堂が北海道・長野県の全店舗を閉店した。イオンの総合スーパー事業も昨年3月~11月期は192億円の赤字だった。日経は「実質賃金が伸び悩み、家計の生活防衛意識は高まっている。」「24年11月の実質賃金は前年同月比0・3%減り、2人以上世帯の実質消費支出も0・4%減と、ともに4カ月連続のマイナスだった。」ことが影響したと書く(日経:2025.1.11)。

個人消費の停滞の原因は何か。著者の吉田繁治は消費税にあるとする。「消費税は経済成長を抑圧する」「消費税は消費への懲罰税として経済成長を抑圧した」とし、「消費税は物価に含まれる10%部分である。」「平均賃金が上がらないないなかで、消費税分が付加された物価が上がると、商品需要が減るのは決まり切ったことだ」「増税は普通なら、世帯所得が成長しているときしか行えない。しかし日本では平均の世帯所得が減っているとき…実行された。」「GDPの55%を占める消費需要が増えないと、GDPは増えない。」と書く。

 

2 「五公五民」への不満が総選挙結果だが、野党に財源論がない

2024年の総選挙では自公政権が15年ぶりに過半数を割り、「103万円の壁」の撤廃を主張した国民民主党は議席を4倍に、消費税撤廃のれいわ新選組は共産党を抜いて9議席を獲得した。これを著者は「自分たちの所得が増えずに減った…平均で約10%の税と25%の社会保険料が源泉聴取で天引きされた手取り給料(65%)は、生活財を買うときの10%の消費税を引くと実質で55%になる。ここから赤字国債の国民負担の約5%を引くと五公五民になってしまう」と計算し、「日本の社会で税を含む格差の認知がひろがってきた結果」だが、野党第1党の立憲民主党は「これに気がついていない」と分析し、「いずれも減税を可能にする財源論がないので与党になる力を得ていない」とする。

3 10%の消費税の撤廃

著者は10%の消費税の廃止を主張する。消費税を撤廃すれば、「物価の10%低下→実質賃金の10%増加→①期待企業売上の増加(23兆円)→②人的生産性上昇(5%)→賃金の上昇(4%)→…⑥GDPの3%の増加→…⑧政府税収の増加(10兆円)→…」へとつながるという。財源論が問題となるが、23兆円の消費税の減収部分をどう補填するかについて、外貨準備金会計に目をつけ、「外貨準備は1995年までの資本規制時代(=外貨の購入規制)の遺物である」とし、「国会の審議を受けていない特別会計の外貨準備金(1.2兆ドル:174兆円)は今はもう必要がない」とする。財務省は外貨準備を自分の資産のように専有管理している」とし、国民にも政治家にも説明していない「隠れ預金」であると断言する。「外貨準備の174兆円を5年にわたって売れば、年間34.8兆円の国家のあたらしい財源になる。10%の消費税(23兆円の国庫収入)を撤廃してもおつりがくる」と提案する。

4 「空気は幻影ではない」:宮本太郎氏の論調から

宮本太郎氏は雑誌『世界』2025年1月号の「『103万円の壁』引き上げは若者を救うか」において、国民民主党の「『103万円の壁』打破に期待を寄せ、この政策を押し上げた空気をみることが大事である」と指摘し、「この空気を醸成したいちばん基層にある現実は、若者を含めて多くの国民が直面し呻吟してい、る物価高騰と生活苦である。このリアルな現実に、既存の社会保障と税さらには雇用の制度が機能していない、むしろ若者をつぶしているという感覚が折り重なり、ここから先はかなり単純化された解釈も混じった空気が広がっていく。すなわち、社会保障はもはや高齢者向けの給付に限られ現役世代は負担だけを強いられる。税はとられるだけで決して還つてはこない。雇用について様々な慣行や規制が中高年だけを守っている、等々。空気は幻影ではない。その根底には紛れもない現実がある」と書いている。玉木代表は、この国民のシグナルを感じ取り、「『103万円の壁』をめぐる施策が最適解であるという主張を演出しきった。」その手腕はこれまでの野党に欠落しがちだったもので、率直評価している。

宮本氏はそこで、しかし「政治の本領が発揮されるべきはさらにその先で、その根底にあるリアルな困難にいかに立ち向かい、事態を打開するかである」とし、『103万円の壁』の引き上げだけでは、年収200万円で8万円、年収800万円で22万円程度の減税額となる。つまり低所得者支援の効果は限定されるという。そこで、宮本氏は持論である『給付付き税額控除』(たとえば10万円を税額そのものから控除することを決め、低所得で税額が10万円を下回る人に対しては、控除しきれない額を現金給付する仕組み)を提起するが、「所得捕捉などのインフラ整備が必要なことに加えて、説明がなかなか難しい施策である」と述べる(宮本:同上)。

しかし、所得応じて現金を給付する仕組みは所得捕捉の問題もあり、また市町村の事務負担があまりにも大きく現実的ではないのではないか。消費税10%減なら、スーパーのPOSシステムをちょっといじるだけで簡単に減税ができる。

5 官僚の財布である「特別会計」に切り込む

著者は「政府の政策とは一般会計と特別会計の予算額である。予算額にたいして議会で承認を受けて官僚が実行する。」ところが、財務省は議会で審議されない一般会計との重複を除く純額で207・9兆円(予算上は436.0兆円:2024年度)の収入と支出がある特別会計の予算をもっている。国債整理基金(国債の償還と利払いの基金)で動くマネーは255兆円もある。単なる国債の借換えの会計だけではなく、財務省の財布としての脱炭素移行債など投資的経費が含まれている。また、外為準備金会計1.2兆ドルは前上のとおりである。「財務官量は政治家よりも財政への専門的な知識をもち、予想する言葉の能力で上回っている。」政治家は財務官量にあやつられてきた。

6 「異次元緩和」の売国政策

黒田総裁は2013年4月から「異次元緩和」を始めたが、中身は金利ゼロと日銀の国債買いであり、言い換えれば円紙幣の増加発行500兆円であった。結果、円は2012年末の78円/1ドルから、2024年には148円にまで切り下がった。増発されたゼロ金利の円は、3%の金利差のつくドルに400兆円が流れこんだ。「日本はバカなことをしてきた。米国物価上昇との関係における円の価値の下落である。『日本は現金になった経済力を自国では使わないで米国に貸し付けた』。これが異次元緩和だった。」「円安は世界標準のドルにたいする国民の実質賃金と商品価格の切り下げである。」1ドル150円台の円安は輸入物価を上げて国内物価に遡及する。日本は1年に100兆円の必需の資源・エネルギー・食品を輸入する。賃金の上昇が十分ではない日本では、物価の上昇は商品の購買力である実質賃金を下げて、食品と必需生活財、電力、ガソリンなどを買う国民の生活を苦しくする。この売国政策を進めたのが財務官僚であり日銀である。結果、ガソリン補助金や電気・ガス補助金という本末転倒な何兆円もの補助金で財政をさらに肥大化して自らの権限を拡大している。

本書は消費税として30年で300兆円、預金ゼロ金利で800兆円の国民の所得が国に回り、国民生活を疲弊させているというばかげた政策を暴露する良書である。

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【書評】『失われた1100兆円を奪還せよ』吉田繁治著 への1件のコメント

  1. うんこ のコメント:

    バカげてるんですかね
    どんなバカだってこんな政策は取れないはずです、意図しない限り

    日本は属国だ属国だ騒ぐ左の人たちが、なんで役人性善説、政策失政説を信じるんですかね
    矛盾してますよ

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