【投稿】米・イスラエルのイラン攻撃と日本のエネルギー危機
福井 杉本達也
1 イラン最高指導者ハメネイ師の殺害
米・イスラエルは2月28日、イランへの大規模攻撃を開始した。イランの最高指導者アリー・ハメネイ師は同日早朝、攻撃で殺害された。また、国防会議議長アリ・シャムハニ氏とIRGC司令官モハマド・パクプール氏らイラン最高指導部の一部が殺害された。トランプ大統領はイランの体制転換を図ると公言したが、電撃戦は、イランの戦力を奪えなかった。
米・イスラエル連合軍は、200機を超える戦闘爆撃機を投入し、防空、ミサイル施設の破壊を目指したが、依然としてミサイルがイスラエルと中東米軍基地に着弾している。報復は始まったばかりである。
2 米の攻撃により「戦果」はあったのか
攻撃でイランの核開発は阻止されたのか。結果は、外交交渉の窓が閉まっただけである。核施設は破壊されたのか。現時点ではまだである。ミサイル生産は阻止されたのか。いいえ。問題は何ら解決されておらずより危険になった。
トランプ大統領は3月2日の公式演説で、対イラン作戦の当初の予定は4-5週間だが、延長も可能だとし、米国は「必要な分だけ」戦う覚悟だと語った。トランプ氏はイラン国民の反乱を呼び掛けたが、イラン現政権の転覆の可能性は全くない。9000万人もの人口を要し、ドローンや核開発も可能な国家であり、加えて広大な山岳地帯を持ち、総兵力も50万人以上である。地上軍による制圧は現実的ではない。地上軍による制圧が困難であれば、国民の反乱を煽っても犬の遠吠えである。
3 イランの継戦能力
RIA・ノーボスチ通信によると、イラン電撃戦には200機を超える戦闘機が投入された。 米軍は攻撃開始から最初の48時間で1250以上の標的を攻撃したと発表した。目的は、イランの防空、ミサイル施設等を攻撃し無力化を狙ったが、奏功しなかった。電撃戦の作戦は、2個の最新鋭の空母打撃群を投入した防空、ミサイル施設等の無力化であった。トランプ氏が更なる攻撃を言うのは失敗した証拠である。イラン革命防衛隊(IRGC、イラン軍の一部)は、テヘランが米空母「エイブラハム・リンカーン」に対し、弾道ミサイル4発による攻撃を開始したと発表した。イランの極超音速ミサイルの射程は1500キロに延伸された。リンカーンは、イランの攻撃により、その位置を離れ、インド洋へ向かわざるを得なくなった。
中国人民解放軍が公式SNSプラットフォーム「中国軍号」を通じて、8つの米軍基地の高解像度衛星画像を「監視下にある」として公開。 同時に民間衛星企業MizarVisionがWeibo上で、イスラエルのオブダ空軍基地にあるF-22ラプター1機1機に中国語でタグ付けした衛星画像を公開。中国がイランに衛星情報を提供してる構造。アナリストはこれを「目と拳」と表現してる。中国の500機以上の衛星群が情報基盤になり、イランの攻撃能力を支えてる。
イランのミサイルが、イスラエルと米国の防空網をすり抜けている。現在のペースでは、迎撃ミサイはすぐに枯渇し、イスラエルと米国の指導部にパニックが広がる。主要目標はイランの発射能力を大幅に削減することだが、その能力は依然として高く、わずか2日で約450発のミサイルと850機のドローンが準備可能である。このペースが続けば、防衛用弾薬は4~5日以上持たない(X―Patricia Marins 2026.3.2)。イランとその関連グループとの度重なる紛争により、中東における米国の防空兵器備蓄は急激に減少している。この問題は対空ミサイルだけでなく、トマホーク巡航ミサイルを含む他の精密誘導兵器にも関係している。アメリカの防空システムが逼迫しているため、米国はイランのミサイル部隊の撃破を急いでいる – WSJ。米国は、報復攻撃に対抗するための迎撃ミサイルが枯渇する前に、イランのミサイルおよびドローン能力を破壊しようとしている。イランの行動の成功により、米国と同盟国の防空の信頼性に疑問が生じていると、英国紙テレグラフが報じている。「テヘランの報復行動は、地域全体における米国と同盟国の防空の脆弱性について疑問を投げかけている」。イランはキプロス島の英国軍基地、アクロティリ基地を攻撃した。英国はキプロスから撤退するとした。英国スターマー首相は、3月3日、「イランとの戦争に参加しない」と述べた。早速、米国を見捨てて逃げ出した。
イランのアッバース・アラクチ外相は、テヘランへの攻撃は、米国とイスラエルに対するイランの軍事行動継続能力に影響を与えるものではないと述べた。また、分散化された多層防衛により、イランは軍事行動をいつどのように終わらせるかを自ら決定できると指摘した。
4 ホルムズ海峡封鎖と日本の石油危機
アメリカによるイラン攻撃について、日本政府は早々に支持を表明した。田中浩一郎慶応大学大学院教授はテレビ朝日:3月2日のモーニングショーで、「日本政府は、かつてその国連中心主義、それから法に則った秩序と、この場合には大きな国際法言ってる訳ですけどもそれを声高に言って、たとえば近隣ではですね中国、北朝鮮などの行為に対してもこれをぶつけてきたわけですね。しかし、このイランの攻撃については寧ろアメリカの対応を肯定している、そういう声明も出てきているわけでして。なんかやっていること、言ってることがちぐはぐでもあるし、ダブルスタンダードでもあると。この状態はもうしばらく続いているわけですし、また、ますます拡大しているというその事を考えると。東アジアに於ける我々の日本まさに弱い立場ですよね。ミドルパワーとしての力しかない我々の平時に於ける自分たちの主張をどうやって通していくのかって言う事が、もう完全に危ぶまれる状況になってきていると言えます」と述べている。
イランはクウェート上空での米戦闘機3機やMQ-9リーパー無人機を撃墜し、ホルムズ海峡では米英のタンカー3隻が攻撃され炎上している。ホルムズ海峡閉鎖により、産油国、またそれらの国から石油・LNGを輸入している日本を含む多くの国は厳しくなるのを避けられない。
高市首相は3月2日の衆院予算委で、ホルムズ海峡の事実上封鎖に関連し、国内の石油備蓄は254日分あると明らかにした。木原稔官房長官は2日の記者会見で、米国とイスラエルによるイラン攻撃を巡り、国内の液化天然ガス(LNG)の備蓄量について「電力・ガス会社が日本全体の消費量の約3週間程度の在庫を有している」と明らかにした。しかし、世界最大のガス供給業者のカタールエナジーは、ドローン攻撃を受けて全施設で液化天然ガス(LNG)の生産停止を発表。2025年、日本はカタールから359万トンのLNGを輸入している(Sputnik日本-X:2026.3.2)。
5 出光・日章丸、オイルショックのアラブ外交を忘れ去った日本
1951年、イランのモザディク政権は石油の国有化を宣言し、イラン国営石油会社(NIOC)がアングロ・イラニアン社の資産を接収すした。反発したイギリスは中東に軍艦を派遣、イランへ石油の買付に来たタンカーは撃沈すると国際社会に表明する。イラン国民の貧窮と日本の経済発展の足かせを憂慮した出光興産社長の出光佐三は、イランに対する経済制裁に国際法上の正当性は無いと判断し、極秘裏に日章丸を派遣。4月にガソリンと軽油を積んだ日章丸は、国際世論が注目する中、イランを出港。イギリス海軍の裏をかき海上封鎖を突破して5月9日に川崎港に到着した(Wikipedia)。
また、1973年10月6日に第四次中東戦争が勃発。これを受け10月16日に、OPEC加盟産油国のうちペルシア湾岸の6カ国が、原油を70 %引き上げることを発表した。翌日10月17日にはアラブ石油輸出国機構(以下OAPEC)が、原油生産の段階的削減を決定した。またOPEC諸国は、イスラエルが占領地から撤退するまでイスラエル支持国(米国など)への石油禁輸を相次いで決定した。日本は米国と軍事同盟を結んでいたため、イスラエル支援国家とみなされる可能性が高く、田中角栄首相は副総理の三木武夫を急遽中東諸国に派遣して日本の立場を説明して、支援国家リストから外すように交渉した(Wikipedia)。
高市政権は、右派・反中・軍事的タカ派の層を強力な支持基盤とし、それをテコに今回の衆議院選挙で圧勝した。中国との関係を大きく悪化させ、ロシアに対しても敵対的姿勢をとり続けている。反中・反ロ感情、対米依存の心理に流され、日本の国力が低下している現実を直視せず、厳密な費用対効果の分析を回避しているが、日本の国益計算を怠ってはならない(篠田英朗:2026.3.2)。
ホルムズ海峡からは日本の原油の96%が輸入されている。もし封鎖されれば、日本経済の破綻は確実である。今、早急に日本はロシアとの関係を改善すべきである。エネルギー共同開発プロジェクトであるサハリン1・2の石油・天然ガスやアークティックLNG2をしっかりと確保すべきである。
6 円安で石油買い負けも
LNGの価格が急騰している。3月2日のアジア向け価格は、先週末に比べて約40%急騰したほか、ヨーロッパで指標となる価格も35%上昇した。一方、3日の日経平均株価 終値5万6279円(前日比-1778円)今年最大下げ幅を記録した。下げ幅が拡大した理由については、ホルムズ海峡の封鎖が長期化する懸念が高まるなか、アメリカのトランプ大統領の過激な発言で不安が強まり、売りが売りを呼ぶ状況だと指摘している(テレ朝:2026.3.3)。日本総研・栂野裕貴研究員の試算によると、中東からのエネルギー輸入が途絶え、約260日分の国内備蓄も底を突いた場合、日本のGDPは最大で2.9%減少するという(Sputnik日本-X 2026.3.3)。そこで、外国為替市場では円安傾向となっている。また、「安全資産」の金の価格は3日も上昇している(日テレ:2026.3.3)。高市首相は衆院選期間中に、⾜元の円安傾向のメリットを強調し、「外為特会というのがあるが、これの運⽤が今ホクホク状態だ」と演説したが(日経:2026.1.31)、どこに自国通貨の下落=国家の貧乏化を歓迎するトップがいるのか。バカな指導者を選んだ国家は今後、さらに衰退せざるを得ない。このまま、トランプ大統領の思惑を超えて戦闘が続き、ホルムズ海峡の封鎖が長引けば、石油・LNG価格は高騰し、中国やインドといった通貨が相対的に強い国に買い負けることは必定である。円の実効実質為替レートは30年で1/3になってしまった(日経:2026.2.21)。円安の貧乏国日本には何カ月も1滴の石油・LNGもはいってこない。国会答弁で「ただちに石油が上昇することはない」という能天気な答弁を繰り返す高市首相にはあきれるばかりである。さらに輪をかけるのは野党である。国民民主党は政府に対し、「イランおよびイランから攻撃を受けた周辺国における邦人保護に万全を期すとともに、…アメリカやイスラエルを含む国際社会との連絡・連携を強化…イランの周辺国に対する攻撃を非難」するという。日本はカスミを食い、ロウソクの明りで生活するつもりか。