【投稿】石油危機の今後の展開と高市政権の無為無策
福井 杉本達也
1 今のままではこの国はあと2ヶ月しか持たない。
境野春彦氏は「4月から中東がゼロで、中東以外が倍になるとして、輸入90(万kl)+原油精製110+在庫150=350で290の需要を満たせます。ここで60が在庫に回ります。5月も90の輸入が出来たとして、90+110+60=260で需要を満たせない。しかし、稼働率を落としてギリギリ何とか繋ぐとします。6月は在庫が無くなり、90+110=200で需要の2/3しか調達できない。ここで少なからぬ製造業が止まる。」「今のままではこの国はあと2ヶ月しか持ちません」(境野春彦:2026.4.3)と書いている。
「川上製品」・・基礎化学品【エチレン、ベンゼン、等】、「川中製品」・・中間化学品【ポリエチレン、ABS樹脂、等】、「川下製品」・・最終化学品【包装材、日用品、洗剤等】である。「川中製品」にもいくつもの種類があり、それぞれ需給バランスが全く異なる。これを一緒くたにして「川中の在庫が〇ヶ月分あるよ」というのは、全くの自己満足であり、国民に対する欺瞞である。
2 8か月はあるという高市のバカさ加減・現代版「人造石油」
高市首相は4月7日、石油は「年を越えて供給を確保できるめどがついた」と述べた。ホルムズ海峡を回避した中東産原油や米国産の代替調達が進むと説明した。「原油、石油製品は日本全体として必要な量は確保されている」とした(福井:2026.4.8)。
第二次世界大戦開戦時、時の政府は日本にはドイツから技術導入した「人造石油」があるから、米国に石油供給を停止されても戦えると開戦に踏み切った。しかし、「人造石油」というものはとても採算レベルの「石油」にはならなかった。高市政権のバカさ加減は石油がストップすることでの影響を全く計算できていないことである。「確保を指示した」・「調査している」・「直ちに供給が滞ることはない」と繰り返すが、どこにどう指示したのか、在庫量や供給見通しなどの数字は一切なく、具体的計画はなにもない。
経済産業省は6目、ホルムズ海峡を回避した中東産の代替原油の調達か5月以降に本格化するとの見通しを明らかにした(福井:2026.4.7)としているが、どこでどう調達するのか。仮に米国から運ぶ場合、パナマ運河は30万トン級のVLCCという大型タンカーは通過できない。アフリカ喜望峰回りでは150日もかかり、運賃=原油価格は大幅に高騰する。中南米産の原油など日本の製油所で精製できるものではない。口から出まかせで確保はなりたたない。
高市首相は「レアアース、2⽉になってうれしいニュースありましたよね。南⿃島の深い深い海の底6千メートル、そこからレアアース泥の引き揚げにようやく成功しました。」「だから⽇本は、これから今の世代も次の世代もレアアースには困らない」(朝日:2026.2.6)と衆院選期間中の2月4日に発言したが、このような能天気な政治家を国のトップに据えたことは日本の末路を示している。6千メートルの深海から泥を引上げ、さらに製錬するのにいくらかかるのか。とても資源として採算に乗る価格となはらない。それを、「日本は資源大国になる」とテレビで拍手する輩がいるのであるから世も末である。1938年から開発を始めた「1億総玉砕」の「人造石油」再びである。
3 早くもシンナーが・潤滑油が・住宅機器がなくなり、製造業が止まる
「TOTOは13日、住宅向けなどのユニットバスの受注を停止した。原油由来のナフサ(粗製ガソリン)からつくる素材を使う溶剤が不足しているため。イラン軍事衝突によるホルムズ海峡の事実上封鎖の影響が広がる。同日、受注停止を卸業者などに通知した。再開時期は未定としている。浴室の壁や天井にフィルムを接着する接着剤や浴槽のコーティング剤に含まれる溶剤が不足している。溶剤は原油を精製したナフサ由来だ。」(日経:2026.4.13)。もう家が作れない、マンションの工事も中断せざるを得ない。しかし、高市政権は全く動こうとはしていない。
潤滑油はナフサを原料とするものではないが、石油精製・石油化学の全体運転が調整される。結果、潤滑油の原料であるベースオイルの生産も制約される。潤滑油は、機械の機械要素間に働く摩擦を軽減するために利用される油全般を指し、一般には機械油とも呼ばれるが、機械油自体は切削油や伝熱材としての利用もある。切削油がなくなれば、工作機械は動かなくなり、日本の自動車産業をはじめ、全ての機械製造業はストップする。
4 そのうち、洗濯石鹸や紙おむつも
大多数の合成洗剤はナフサを出発原料とする石油化学製品が主成分である。界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩など)はナフサ由来のベンゼンをもとに製造される。洗剤を入れるプラスチックボトルもナフサ由来のため、容器コストと中身のコストが同時に上がる。
紙おむつの構造には、不織布(表面シート)・吸水性ポリマー(SAP)・テープ部のポリプロピレン・外装フィルムなど、複数のナフサ由来素材が使われている。三菱ケミカルは紙おむつ原料の値上げをすでに発表しており、最終製品への転嫁が見込まれる。生理用ナプキン・タンポン・産褥パッドも不織布・吸水材・包装フィルムがナフサ由来である。
医療機関が使用する消耗品の多くがナフサ由来のプラスチック製であり、医療コストが上がる。点滴バッグは軟質ポリ塩化ビニル(PVC)製が主流で、ナフサ由来の素材であり、供給が滞ると医療現場に直接影響する。採血管(血液を採取するガラスまたはプラスチック管)・点滴チューブ・カテーテルなどもナフサ由来のプラスチック素材が使われている。
石油化学素材は現代の生活のあらゆる場面に使われ、エネルギー・食品・衣料・建材・医療・農業・物流・サービスと、ほぼすべての分野に時間差を伴いながら波及していく。(yuta:「ナフサ不足で値上がりする日用品・製品・サービス一覧|暮らしの影響を分野別に解説」2026.4.7)
5 トランプのホルムズ海峡「逆封鎖」は中国との対決となる
ホルムズ海峡を「逆封鎖」し、イラン原油の積み出しを禁止するということは、原油の購入先である中国への宣戦布告となる。中国は米国に対し、「我々の事柄に干渉しないように」と警告し、「イランとの貿易およびエネルギー協定がある」と指摘した。制裁対象となっている中国関連タンカーは、米海軍の海上封鎖にもかかわらずホルムズ海峡を通過した。中国は公海上の海賊行為を絶対に許さないであろうことは目に見えている。米国は何らかの形で中国に降伏せざるを得ない。
なぜ「逆封鎖」なのか。それは、イランの核施設の破壊(あるいは濃縮ウランの奪取)に失敗したからである。イラン側がアメリカのF-15Eを撃墜し、脱出に成功した2人の空軍兵士の救出に向けた大規模な作戦が進行中だという報道が出た。米国がこれまでの戦闘作戦で失った数少ない機体の一つである。特にA-10地上攻撃機もすぐに撃墜されたと報告された。この作戦に20億ドルもの資金を投入したが、米軍は大規模な損失を被り、大型輸送機、ヘリコプター、大型ドローンを含む12機の航空機を破壊された。これらの損失の性質と規模には、非常に大型のC-130貨物機2機も含まれており、単純な救助活動とはいえない。この作戦には100人以上の特殊部隊地上部隊を投入したとされており、撃墜された空軍兵を一人救出するだけでは意味はない。撃墜されたF-15Eのパイロットは大佐だといわれ(通常は中尉などの若手将校)、放射線の専門家として作戦の指揮を執っていたのではないかといわれる。イラン側による待ち伏せ攻撃を受け、濃縮ウランの奪取に失敗し、トランプ自身の屈辱的な軍事的惨事となったとダグラス・マクレガー大佐や元海兵隊情報将校のスコット・リッター氏あるいはジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授も分析している。イランの防空能力を過小評価したことが、作戦の失敗であり、もう、海兵隊による上陸作戦や特殊部隊による攻撃は不可能であり、それが「逆封鎖」というばかげた行為になったのである。
6 日本は何としてもロシア産原油の確保を
トランプ氏は12日、「この海峡は日本にとって極めて重要だ——彼らはその通過で石油の約93%を入手している。韓国は約45%だ。しかし、これらの国々は我々に本当の意味で助けを提供していない。」と投稿したが、石油の93%を入手しているのもかかわらず、何の手段も打っていないの日本だけである。韓国はイランとも交渉し、ロシア産ナフサ・2.7万トンを輸入し、またロシア産原油の輸入も検討している。他の東南アジア諸国も同様である。台湾は元々・ロシア産ナフサの大量輸入国である。親日のイラン外相からの折角の秋波にもかかわらず、手をこまねいているのは日本だけである。
月刊誌『選択』で、先月の日米首脳会談に際し、高市首相はトランプ米大統領の要請に応じ、事実上封鎖されているホルムズ海峡に自衛隊を派遣する腹積もりだったという。これに、安倍政権で首相秘書官を務め、“影の総理”と呼ばれた元経産官僚の今井尚哉・現内閣官房参与が猛反対。高市首相に対し「あんた、何考えているんだ。どうなるか分かっているだろうな!」と“恫喝”に近いけんまくで迫ったと報じた。記事によると、周囲の反対もあり、結果的に高市首相は翻意。しかし、今井氏の“恫喝”の傷が癒えない高市首相は先月24日夜、「あいつに羽交い締めにされた。許せない。切るつもりでいる」と息巻いているという内容である。高市首相、4月7日の参院予算委員会で、立憲民主党の杉尾議員の質問に「事実ではない」と否定したが(日経:2026.4.8)、エネルギー危機の前に、官邸はトランプ氏に抱き着くばかりでなすすべもなく既に崩壊状態である。
高市首相は米国産原油を確保したと啖呵を切ったが、「スプリント・キャピタ一ル・ジャパン(東京・港)の山田光社長は『国内製油所は中東産に特化しており、米国産などを扱う設備がない』と指摘する。中東産の原油は硫黄分を比較的多く含む。国内の製油所はこうした比重の重い原油を精製してガソリンや重油、灯油、ナフサなどの石油製品をつくる。米国産などは硫黄分が少なく比重が軽いため、国内の製油所での精製に向いていない。軽い原油の精製には新たな設備投資が必要になる。」と話す。また、ある元売りは「設備改修には数年単位の時聞がかかる。国内需要が落ちる中で多額の投資は考えにくい」としている(日経:2026.4.12)。現場を全く見ない、机上の空論の連続である。高市首相は、全く考えていないことが明らかである。
これに対し、ロシア産原油はウクライナ侵攻の4年前まで8~10%程度を輸入しており、国内の製油所も十分対応できる。早急な対応を求めたい。野党は何をしているのか。ホルムズ海峡危機が続けば6月には原油タンカーと共に日本も沈没である。エネルギーがなければ、日本の12000万人は自滅である。