<<トランプ氏「億万長者引き連れての北京訪問」>>
5/13-15の米中首脳会談に臨んだトランプ米大統領は、十数名もの億万長者を引き連れて北京に乗り込んだ。ウォール街とシリコンバレー、航空業界を代表する彼らの総資産は1兆ドルをはるかに超えている。同行したのは、テスラのイーロン・マスク氏、アップルのティム・クック氏、ブラックロックのラリー・フィンク氏、ブラックストーンのスティーブン・シュワルツマン氏、ゴールドマン・サックスのデビッド・ソロモン氏、NVIDIAのジェンセン・フアン氏など、アメリカで最も裕福なCEO十数名であった。公表された12名は以下の通りである。
1. イーロン・マスク, Tesla and SpaceX CEO
2. Jensen Huang, Nvidia CEO
3. Tim Cook, Apple CEO
4. Larry Fink, BlackRock CEO
5. Stephen Schwarzman, Blackstone CEO
6. Kelly Ortberg, Boeing CEO
7. Brian Sikes, Cargill CEO
8. Jane Fraser, Citigroup CEO
9. Larry Culp, General Electric CEO
10. David Solomon, Goldman Sachs CEO
11. Sanjay Mehrotra, Micron CEO
12. Cristiano Amon, Qualcomm CEO
トランプ氏が彼らを習近平氏に紹介した際、彼らを「アメリカ経済界の傑出した代表者」、「アメリカの偉大なビジネスマン/ビジネスウーマン」の「素晴らしい集まり」であり、「全員が中国を尊重し、高く評価している」と持ち上げたのであった。何のことはない、自らの支持基盤、権力基盤に中国側が特段の配慮をしてくれるよう、要請・懇願したわけである。習氏はこれに対し、中国でのビジネスの扉は「さらに大きく開かれるだろう」と応じている。
* マスク氏率いるテスラ・ギガファクトリー上海は、テスラの全世界の自動車販売台数の3分の1以上を生産しており、テスラで最も生産性の高い工場でもあり、2億ドルを投じたメガパックバッテリーの生産に特化した第2工場を開設、テスラのバッテリーサプライチェーン全体の約40%が中国企業に依存しているのが実態なのである。
* アップルのクック氏は、製造拠点のほぼすべてを中国に集約し、iPhoneの約90%は中国で組み立てられており、クック氏は、中国の高度な工具と製造における「比類のない」専門知識を活用していると説明している。
* シティグループのCEO、ジェーン・フレイザー氏、彼女の目標は、シティグループの中国におけるチームを拡大し、ハイテクおよび先端製造業における市場シェアを獲得することで、中国への投資を拡大することである。
* NVIDIAのCEOであるジェンセン・フアン氏の目標は、すべての輸出規制と取引禁止を正式に解除させ、中国企業によるNVIDIAチップの購入を承認させ、中国にNVIDIAのAIと先進的なH200プロセッサをさらに購入、拡大させることにある。制裁前には、中国がNVIDIAの収益の25%を占めていたのである。
* ボーイングは中国からの航空機の大量受注を何としても確保したい。
* ブラックロックは国際的なブロックチェーンデジタル通貨システムを求めており、フィンク氏はこれに中国を巻き込むことを課題としている。
トランプ氏は、「他にも多数」のCEOがおり、まだ公表されていないと述べているが、その中には、自分の息子エリック・トランプがちゃっかりと同行しており、彼が経営するトランプ・オーガニゼーションは、長年にわたり中国とのビジネス取引に関心を示し、エリックのアメリカのビットコイン会社は、中国の仮想通貨マイニング大手であるビットメインと直接取引を行っている。腐敗・賄賂親族の典型でもある。
要するに、彼らは中国に低コストで生産性の高い工場や研究施設を増設し、中国の人材を雇用することで、自分たちと株主の利益を増やすことこそが最優先事項であり、それをバックアップする金融資本は、BRICS諸国のドル経済圏からの離脱を妨げ、彼らの金融ネットワークにいかに中国を取り込むかが緊切の課題なのである。
対する中国は、トランプ氏の貿易戦争に対して、輸出市場の多様化、サプライチェーンの自立、反撃のための技術的優位性の確立に力を注ぎ、グローバル・サウス諸国、BRICS諸国に目を向け、トランプ氏の対中関税戦争を失敗に追い込み、レアアースの輸出規制が最終的にトランプ氏を関税戦争の撤退に追い込んだのであった。
以上のことが明らかにしていることは、トランプ氏が仕掛けた関税戦争がもはや継続できるどころか、完全に破綻し、「アメリカ・ファースト」によるデカップリング(Decoupling)=分離・切り離し、「中国に対する強硬姿勢」は事実上ここに終焉を迎えた、ということであろう。その象徴が、億万長者引き連れての北京訪問であった。
ここに、明らかに米中会談の主導権は、会談が始まる前からすでに中国側に移行していたのである。
3/14、その事態を端的に示したのが、ボーイング株の下落であった。トランプ大統領が、ボーイング社が中国から200機の「大型」ジェット機を受注したと誇らしげに発表するや、本来上がるはずのボーイング株が4%超下落したのである。発注数が、同社が500機以上の売却で合意に近づいているとする事前報道を大幅に下回ったからであった。発注数が抑えられたとしても、それでも中国が米国製の民間航空機を購入するのは約10年ぶりのことである。
<<習近平氏「トゥキディデスの罠」発言>>
「中国に対する強硬姿勢」の終焉は、台湾問題でも顕著に露呈する事態となった。
台湾問題について、習主席はトランプ大統領に対し、もしトランプ大統領が台湾に関する北京の要求を無視すれば、米中関係は「極めて危険な局面」に陥ると率直に警告した。「もし対応を誤れば、両国は衝突、あるいは激突に至り、米中関係全体を極めて危険な状況に陥れるだろう。」
この発言に対するトランプ氏の反応は、沈黙であった。対応できなかったのである。当面はとにかく穏便にやり過ごす。後でまた、ひっくり返せばいいさ、という対応であるが、これまでの経緯からすれば、明らかな後退である。
ニューヨークタイムズ紙の編集委員会は、「トランプ氏の対中政策はアメリカを弱体化させた」(Trump’s China Policy Has Weakened America)と題して、多数の億万長者を同行させても、一人の中国専門家も同行させなかったのは「衝撃的な事実であるはずだ」、「よくあることだが、トランプ氏は戦略的な規律をほとんど示さず、国家の利益よりも自身の個人的および政治的な利益を優先した。」と指弾している。
習近平氏は、国賓晩餐会の場の冒頭発言で、「トゥキディデスの罠」(Thucydides’s Trap)に言及し、新興大国が急速に台頭し、既存の覇権国の地位を脅かす時、両者が戦略的不信頼により、戦争へと向かう可能性が高まる状況を警告し、メディアの注目を浴びているが、「中国が優位に立っている」、「私は上昇し、あなたは下降する」とも示唆される、挑発的な発言である。
この発言に対してトランプ氏は、「習近平国家主席が米国を非常に上品に、衰退しつつある国かもしれないと表現したとき、彼は眠たいジョー・バイデンの4年間に我々が被った深刻な損害を指していた…しかし今、米国は世界のどこよりも最も熱い国だ」 と言い逃れている。
対イラン戦争についても、トランプ氏は中国へ出発する前に、「我々はイランを完全に掌握している…我々は合意に達するか、さもなければイランは壊滅するだろう。どちらにせよ、我々が勝つ」と主張し、また中国への石油供
給に圧力をかけてきたのであるが、実際は、米国がホルムズ海峡で膠着状態に陥り、出口を見出せない混迷に陥り、国際水路の開放を維持するためにも習近平氏に協力を求めざるを得ない立場に追い込まれている。
しかし、フォックスニュースの司会者から「習近平氏と中国のイラン支援について話し合いましたか?」と問われて、トランプ氏は、「話しました。『イラン支援』と言うとき、彼らは我々と戦争しているわけでも、そういうことをしているわけでもありません。彼はイランに軍事装備を供給しないと言いました。それは重大な発言です。しかし同時に、彼はイランから大量の石油を購入しており、それを続けたいと言いました!」、と中国側から、トランプのイランからの石油購入中止の要求を拒否されている。

イランの核問題についても、トランプ氏は、「私は習近平主席に、イランは核兵器を持つことはできないと伝えました。」、しかし「彼はかなりクールな男だから、『おお、それはいい指摘だ』なんて言わないよ。」と、合意も協力も得られなかった現実を明らかにしている。
こうした現実の進行の中でも、トランプ氏のイランにおける壊滅的な誤算と、敗北の必然性を認めようとしない姿勢、そして「我々が勝つ、さもなければイランは壊滅する」というトランプ氏の暴言は哀れで、常軌を逸しているが、しかし同時に、行き詰まれば核兵器の使用をも示唆するこれまでの発言からして、きわめて危険な瀬戸際にトランプ氏が追い込まれていることをも示している。
トランプ氏を封じ込める、全世界の平和への圧力こそが要請されている。
(生駒 敬)