【書評】『証言 原子力規制委員会は何をめざしたか』御厨貴監修

【書評】『証言 原子力規制委員会は何をめざしたか』御厨貴監修 2026.1.27 岩波書店 4400円

                                                                                            福井 杉本達也

原子力規制委員会は2011年3月の福島第一原発事故を受けて、民主党政権時代の翌12年に設立された。本書は設立初期の幹部8人の証言によるオーラルヒストリーである。特に初代委員長の田中俊一氏の証言は出色である。

1 原研と動燃

田中俊一元原子力規制委員長は、放射線物理学が専門で、旧日本原子力研究所の出身である。本書で、田中氏は「原子力ムラ」の主流ではない、「アウトロー」だと強調しているが、「ムラ」の主流であろう。しかし、同じ主流でも、田中氏が所属した現日本原子力研究開発機構(JAEA)は2005年に日本原子力研究所(原研)と核燃料サイクル開発機構(核燃機構—旧動燃)を再編統合して発足したものである。元々は原研は原子力研究全般を、核燃機構(旧動燃―発足時は原燃公社)は核燃料事業に関することであった。ところが、原研の労使紛争もあり、原子力開発の主導権を動燃に奪われていくことになった。田中氏は両者の統合を「体質が全然違いますよ。もう研究所の気概がなくなったから、人が育たない」と嘆く。「原子力安全員会や原子力委員会に動燃出身がいないというのは、そこでは人が育たないということです」とし、「橋本行革は最悪」だったとする。

2 高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止措置

「もんじゅ」は2015年に最終的に廃炉が決まった。田中氏は「高速増殖炉サイクルについて、私は個人的にには昔から大反対」だったと述べている。高速増殖炉に危険性については、「臨界事故の可能性がある。要するに、核暴走の可能性を持っている。そういう意味で非常にリスクが大きい」と述べている。また、原子炉を冷却するのに非常に扱いが厄介な液体ナトリウムを使用する「ナトリウム炉なんです」。世界中で米仏英が撤退した中で、「日本だけがしがみついている」と述べている。「『もんじゅ』をやめることになったときに、規制員会としては、『ナトリウムの中に燃料が入っている状態はリスクが大きいから、とにかく早く燃料を抜きなさいと言ったわけです。そうしたら、『燃料を抜くのに最低でも五年半かかる』といわれたんです』。「技術が実用とは縁もゆかりもないレベルですよ。それで1兆円を使ったわけ」と述べ、続けて「日本だけが燃料サイクルにこだわっていますが、『これにこだわっている限り、原子力は先がないよ』と言ってきました」と述べている。さらに、「日本はアメリカよりもプルトニウム蓄積量が多い」「プルトニウムというのは核不拡散上の重大な問題ですよ。じゃあ。そのプルを使う道はあるかというと、現状は全くない。」、「予算は限られているわけですよ。『もんじゅ』だけでも年間二・三百億円は使ってきたわけです。その分、今度は研究所とか大学に対する投資がゼロになった」。「日本の基礎研究が非常に弱っているのはそういうところですよ」と、話の内容はもっともだが、旧動燃に対する原研側からの恨みつらみが述べられている。

3 汚染水トリチウムと放射能除染

「汚染水のトリチウムを取り除く技術とか、出てきてはいますが、現段階では全く使い物にならない。」「6年間議論して、結局は海に捨てることになりました。その間、雨後の筍のように『技術でトリチウムを除去する』という話がでていますが、そんなものできないことはわかりきっている。6年間もすったもんだして、福島県民や漁民をごまかし続けたわけです」「その間に使われたお金は大変なものです」。「できないことをできると言うべきではない」と述べている。と正直に述べている。

除染については、飯館村の長泥地区では、「空間線量で時間当たり10とか15マイクロシーベルトで、高いところは70くらい」「そこにずっと住むわけにはいかないから、やはり住む家と家の周りぐらいは少しきれいにしない」と。農水大臣が「ヒマワリを植えるセレモニーをして、県民に期待を抱かせました。『そんなことをやったって効果がない。物理的に取るしかないよ』と言って、私は(除染の作業を)やったのです」。と述べている。しかし。除染で集めた土はどうするかである。除染とは所詮、右にあった放射能を左に移すだけであり、除染によって大量の除染土壌が生み出されている。福井新聞では「東京電力福島第1原発事故で拡散した放射性物質を取り除く除染は福島県内各地で行われ、作業で出た土などの廃棄物を中間貯蔵施設(岡県大熊町、双葉町)に搬入し始めて3月13日で10年となる。国は搬入開始から30年以内の2045年3月までに県外で最終処分すると法律で定めているが、搬出先の選定は難航が必至だ」(福井:2026.3.3)と書いている。大量に降り注いだ放射能を除染と言葉だけでごまかしてもごまかしきれるものではない。除染した住居地域から少し離れた空き地や、山間部は元のままである。放射能汚染土壌を全国にばらまいてどうするのか。ばら撒かれた放射能は物質の半減期の法則に従うしかない。この点、やはり、田中氏は「原子力ムラ」の一員であり、放射能の管理には非常に甘いと言わざるを得ない。

4 活断層の判断

原子炉下の活断層の判断について、「島崎さんにしろ、今の石渡明委員にしろ、ああいう人たちってなかなか決めないのです。判断しない。でも、決めないわけにはいかないのです。規制委員会というのは判断する組織ですから。でも、学者マインドを持った人がいると、往々にして決まらなくて時間が経過することがあります」と述べている。よほど、島崎氏や石渡氏のような地震学者が目の上のたんこぶだったのであろう。「学者の言うことが間違っていたということはあり得る。まちがっていたなら『間違っていました。ごめんなさい』と言うのが本来の学者のあるべき態度ですが」と述べている。では、最近、中部電力が浜岡原発3、4号機.の再稼働に向けた新規制基準適合性審査で、基準地震動の策定時、データを意図的に操作していたことが明るみに出た(福井:2026.4.1  等々)。こうした事例は枚挙にいとまがない。電力会社が肝心のデータを誤魔化したり、都合の悪いデータは審査に出さなかった場合はどうするのか。島崎氏や石渡氏の職務怠慢なのか。原子力ムラの住人として、やはり申請者である電力会社に甘いと言わざるを得ない。「なかなか決めない」ではなく、申請者が都合の悪いデータを隠すから「決められない」のである。科学的判断ができないのである。他の規制委員・規制庁幹部の証言にも目を通していただきたい。いずれにしても突っ込み処満載の証言集である。

 

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