【投稿】米・イラン:2週間の停戦合意

<<イラン「歴史的な勝利を収めた」>>
4/7(日本時間4/8)、トランプ米大統領は、イランとの2週間の停戦合意を発表した。トランプ氏が「(イランの)文明全体を滅ぼす」、「イランは一夜にして壊滅させることができる…おそらく明日だ」と脅迫していた、その舌の根も乾かぬうちに、またもや豹変か、と疑われる事態である。
トランプ氏は、仲介役を務めるパキスタンのシャリフ首相の要請に応じ、「イランへの攻撃を2週間、停止することに同意する」と明らかにした。同時に、4/8、イランのアラグチ外相は、声明で「イランに対する攻撃が停止されれば、我々の強力な軍隊は防衛作戦を中止する」、「2週間の間、イラン軍との調整により、ホルムズ海峡の安全な通航は可能となる」と応じている。
一転した譲歩の理由として、トランプ氏は、米国側からの15項目の提案に対する、イランからの10項目提案を挙げ、これを米国にとっての大きな勝利と位置づけている。しかし、この10項目は、イランが数週間前から提示していたものであり、周知の事実である。トランプ氏は、これでは「不十分だ」として拒否していたものである。面目を保ちながらも、それでも譲歩に応じざるを得ない段階に追い詰められてきていたということであろう。

ニューヨークタイムズ紙

イラン国営メディアのプレスTVは、イラン最高国家安全保障会議の発言として、「イランは犯罪国家である米国に10項目計画を受け入れさせることで歴史的な勝利を収めた。米国はイランのホルムズ海峡支配権、ウラン濃縮権、そして全ての制裁解除を受け入れた」と報じている。

ただし、それぞれの提案には、今回の停戦合意に至る過程で、注目すべき、それぞれの譲歩が進行、反映していることが指摘できる。

米国が提案する15項目の提案
1. 米国はイランに対するすべての制裁を解除する
2. 制裁再開の脅迫はすべて停止する
3. イランの核開発計画は、定められた枠組みの下で凍結される。
4. 米国はイランの民生用原子力プロジェクトの開発を支援する
5. 濃縮ウランには監視下に置かれる制限が設けられる。
6. 米国はイランのミサイル計画については後日対処することで合意した。
7. イランの核開発計画は民生目的のみに限定される
8. イランは既存の核施設および核能力の開発を停止する。
9. イランはウラン濃縮能力のさらなる拡大を中止する
10. イラン国内で兵器級核物質の製造は行われない。
11. イランは合意された期限内にすべての濃縮物質をIAEAに引き渡す。
12. イランのナタンズ、イスファハン、フォルドゥの核施設は使用停止となる。
13. 国際的な監視および検証メカニズム
14. 実施は段階的に行われ、法令遵守と連動する。
15. 双方は地域および安全保障に関する追加的な問題について協議する予定。
この15項目には、これまでトランプ政権が要求していた、政権交代、民生用を含むすべての核物質の引き渡し、イランの弾道ミサイルおよびドローン計画の解体、イエメン、ヒズボラ、ハマスとの連帯の解消といった項目がもはや含まれていない、それらは停戦合意に障害、不必要という判断が含まれよう。

イランの現在の10項目提案
1. イランが二度と攻撃されないことを保証する
2. 戦争の恒久的終結、単なる停戦ではない
3. レバノンにおけるイスラエル軍の攻撃が終結
4. イランに対する全ての制裁措置の解除
5. イランの同盟国に対する地域紛争の終結
6. その見返りとして、イランはホルムズ海峡を開放するだろう。
7. イランはホルムズ海峡の安全通過に関する規則を決定する。
8. ホルムズ港の船舶1隻あたりの料金は200万ドル
9. イランはこれらの手数料をオマーンと分け合うことになるだろう。
10. イランはホルムズ海峡の通達を賠償金ではなく復興資金に充てる予定
このイラン側の提案でも、これまでの「一時的停戦」には応じないし、「反対」であるという立場を撤回し、現在は2週間の暫定的な停戦に同意している。また、以前から提案していた、米国が地域内の13の軍事基地すべてを閉鎖・撤退し、賠償金を支払うべきだという要求も撤回している。

<<実際は、米帝国の屈辱的な敗北>>
そうした前提で、今回の合意に至った理由について、ニューヨーク・タイムズ紙は、「イランの高官2人が、機密性の高い交渉について匿名を条件に語ったところによると」として、「提案にはイランへの再攻撃の禁止、レバノンのヒズボラに対するイスラエルの攻撃停止、そしてすべての制裁解除が含まれている。」、「その見返りとして、イランはホルムズ海峡を通る主要航路の事実上の封鎖を解除する。また、イランは船舶1隻あたり約200万ドルの通行料を徴収し、海峡を挟んで対岸に位置するオマーンと折半する。計画によると、イランはこの通行料の自国分を、直接的な賠償を要求するのではなく、米イスラエルの攻撃によって破壊されたインフラの復旧に充てる予定だ。」と報じている。

 いずれにしても、つい数日前まで、「イランとの合意は無条件降伏以外にはない!」、「(イランという)文明全体が滅び、復興することは決してないだろう。」と豪語していたトランプ政権の立場からすると、ここまでイランを後退させたのだから「勝利だ」と宣伝したとしても、うつろなものであり、実際は、屈辱的な敗北だと言えよう。イランは、不意打ちの先制攻撃に対して、強烈に反撃し、今や平和の条件を提示して、停戦交渉にまで持ち込んだのである。

もちろん、こうした事態の進行に楽観的になれるような状況では決してないことも強調されなければならない。むしろ悲観的にならざるを得ない状況がまさっているとも言えよう。
まず、トランプ氏は、いつまた豹変するか分からないほど、不安定であり、かつまた無責任でもある。
さらに、たとえ米国が合意に沿ったとしても、イスラエルが合意を妨害する、なきものにする可能性が常に存在している。イスラエルにたきつけられた、という側面も併せ持つ、今回の対イラン、米・イスラエル先制共同爆撃である。
イスラエルは、米・イラン交渉の結果に関わらず攻撃を再開する可能性は大である。現実に、トランプ大統領が停戦を発表したのと同じ日に、イスラエル議会の議長は、イスラエルがレバノン南部をリタニ川まで正式に併合し、イスラエル領とすると公に宣言している。

そして、最も重要な問題は、今後2週間の交渉が、実は、米国とイスラエルの軍事力を回復するための時間稼ぎをするための、単なる欺瞞とその場しのぎの戦術なのか、ということであろう。 実際には、米国はパトリオット、THAAD、トマホークなどのミサイルを著しく消耗、損傷しており、イスラエルが誇る「アイアンドーム」防空システムは、今やイランのミサイル攻撃を防止できない状態である。時間稼ぎが必要な段階に至っていたとも言えよう。

しかし、より巨視的に見るならば、今回のトランプ政権の対イラン先制攻撃は、米帝国の対外外交における米国の軍事的優位、その脅威の効力を相当程度に大きく失わせてしまう結果を招いてしまった。米国は依然として軍事的脅迫を行うことができるが、その威嚇力は大きく損なわれてしまったのである。

トランプ政権をさらに孤立させ、封じ込め、対イラン攻撃を再開させない、平和のための闘いこそが、事態を好転させる力となろう。
(生駒 敬)

 

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