【投稿】日米・円買い介入の深刻な内実--経済危機論(174)

<<ベセント財務長官の「ToDo」リスト>>
7/31、金曜日、スコット・ベセント米財務長官は、キャンプ・デービッドで開かれたトランプ大統領の閣議中に「ToDo(やるべきこと)」リストをさらしていたことが、撮影されたロイターの写真で明らかになった。撮影されたそのメモ帳には、下線が引かれた「To Do」という言葉に続き、「Buy Japanese Yen (JPY) $5-10 bil.(日本円(JPY)を50億~100億ドル購入)」と記されていたのであった。常識的には、100億ドルにも及ぶ大規模な為替介入を、定例会議のメモ帳に書き留めて、さらすようなことはありえない。「漏洩」、過失ではなく、意図的リークであろう。事実、これに先立ち、米財務省が複数の銀行に対し、同日に円市場へ介入する可能性があると通知していたとロイターが報じていたのである。

そして実際に、7/31、市場が閉まっているのに乗じて、ニューヨーク連銀がゴールドマン・サックスおよびモルガン・スタンレーを通じ、財務省に代わってユーロを売却し円を購入、日本側も米財務省と協調して円買いの為替介入を実施。日銀が7/31に公表したデータによると円買い介入の規模は6.4兆円―9.6兆円規模だったと報じられている。この大規模な介入により、円は対ドルで40年ぶりの安値圏から脱し、2月以来の大幅な週間上昇を記録する動きを見せ、一時1ドル=163.65円まで下落していた円が、156円近辺まで上昇している。片山財務相は、米財務省との緊密なコミュニケーションを維持しているとした上で、「今後、さらなる協調介入を実施することも躊躇しない」と述べ、市場をけん制している。
右上の図が示すように、介入の48時間で、日銀や米財務省による円高誘導を狙った介入の試みが少なくとも5回確認されている。もっとも、その後、円は159.22円と、上昇分の多くを帳消しにしているのが厳しい現実である。

8/2、トランプ大統領は、恩着せがましく、米国が日本による円?相場の下支えを支援しているのは友好の証で、世界経済を支援するためだと述べ、なぜ米国が円相場の支援に動いているのかと記者に問われ、「日本の通貨は弱含んでおり、少し支援を求めていた。われわれは常に日本の味方だ」と語っている。

だが実際は、「ベセントはパニックモードに入っています…彼は円を支えるために介入しました。日本がさらに米国資産を売却するのを防ぐため、彼は日本と共同で大規模な協調介入に参加しました。しかし、USDを売却する代わりに、米国はEURを売却しました。この戦争を続けていくため、米国は米国資産の主要保有者を救済しなければならず、彼らが売却するのを防がなければなりません…特に国債です。米国はこの戦争を単純に続けられないのです。それが、市場が閉まっているときにしかエスカレートしない理由です。」―― これが実態なのである。

<<次のドミノの到来>>
この日米の協調した為替介入で、浮き彫りなったのが、円買い介入の購入資金を調達するために、ユーロの準備金を売却していることである。つまりは、ユーロ圏の通貨を犠牲にして、日本の債券売り浴びせの影響からドルを救おう、というわけである。
米国自身が引き起こした、無法で破綻寸前の対イラン戦争によって、今や米軍撤退以外に、制御不能なエネルギーコストの上昇と重圧によって、構造的に破綻している日本の金融システムはより一層弱体化しており、その事態を回避し、円を支えるために、欧州の資産を売り払っている、それが今回の実態なのである。

日本が電力供給を維持するために輸入しなければならないLNGの価格は、前年比ですでに77.5%も上昇している。インフレ圧力は強まりこそすれ、弱まる気配は一切なし。円が対ドルで15年ぶりの安値に暴落してきたのは、トランプ政権の無謀な政策に追随してきた、当然の結果でもある。
日本政府、ならびに日銀は、円を守るために利上げすれば自国財政が破綻し、利下げすれば円が暴落するという、ジレンマに引きずり込まれている。

こうした事態で、トランプ政権にとって、最も懸念されることは、日本が米国債の最大の外国保有国であり、1.1兆ドルを超える米国債を保有していることである。円が下落しすぎると、損失を補填するために日本が米国債を売却せざるを得なくなることを、米国は最も恐れている、それが実態なのである。数十年にわたって低金利の円を借り入れて高利回りの米国資産を購入してきた日本を含む内外の金融資本、投資家も、今や歴史的な規模の追証に直面している。円が下落しすぎると、損失を補填するために米国債を売却せざるを得なくなる事態である。

日本が米国債を大量に売却すれば、当然のこととして米国の金利は急上昇に直面する。米国の金利急騰は、米国経済を直撃することが避けられない。住宅市場、株式市場、連邦予算はすべて同時的に危機に直面する。そうした事態を回避するためには、円を支えざるを得ない。だから協調介入せざるを得なかったのである。トランプ氏の「われわれは常に日本の味方だ」は、大ウソなのである。

ただし、米国は、自国のドル資産で円介入をしているわけではない。ユーロ圏の通貨を犠牲にして、ドルを救おう、としたのである。

EU諸国ならびに欧州中央銀行は、当然ながらこうした犠牲転嫁を無視することはできないであろう。欧州がすでにエネルギー危機、工業生産の崩壊に直面している時に、ユーロを弱体化させることは受け入れられるものではない。
欧州中銀・ECBが報復として、ユーロを守るために、ドル資産の売却に着手すれば、米・EU・日、間の内戦は激化し、より深刻で大規模なな金融危機・経済危機に直面することは必至となるであろう。次のドミノの到来である。

以下、起こりうる事態を列挙すれば
* 円介入の継続:これは、しばらくは効果があるかもしれない。しかし、日本は現在の為替レートではエネルギー輸入を賄えないという問題は解決されない。
* ECBの報復リスク:介入の脅し、あるいはドル売りという形で直接対応せざるを得なくなれば、中央銀行間の公然たる対立へと発展する可能性。
* キャリートレードの巻き戻し:これは、米国株と債券への売り圧力の増大、そして利回り上昇圧力の増大を招く。
* 米国債の売却:いずれ、日本の大手機関投資家(年金基金、銀行、保険会社など)が、証拠金不足に対応するため、相当量の米国債を売却せざるを得なくなる。

このような事態の進行は、米国の対イラン戦争が、燃料と弾薬が枯渇している、同盟国であったはずの中東湾岸諸国が次から次へと米国への従属を拒否し、いまや、軍事作戦を維持できない段階が迫りつつある、それと同時進行的に、ペトロダラー秩序・ドル一極支配が崩壊し、米国は信用・金融システムを維持できない段階に追い込まれている、その同時進行的な危機の進行を顕在化させている。

(生駒 敬)

 

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