<<マスク氏「選挙妨害用宇宙レーザーは効果がなかった」>>
トランプ政権与党・共和党は、下院のみならず、上院でも多数派を確保できなかった。広く流布されていた当初予測以上の、地滑り的敗退であった。
有権者は、トランプ氏とその背後に群がる億万長者たちに強烈な「ノー」を突きつけ、彼らに手痛い打撃を与えたのであった。
その象徴は、トランプ氏に入れあげてきた「世界一の富豪」イーロン・マスク氏であろう。彼は、7~9月だけでも、約2億7600万ドル(約436億円)をトランプ氏と共和党の勝利のために献金してきたとされる。
とりわけ、自身が率いる電気自動車大手のテスラや宇宙企業スペースXの本拠地があるテキサス州上院選に、資金を集中させてきた。マスク氏は数年前、カリフォルニア州の民主党政治から逃れるために、わざわざ事業拠点をこのテキサスに移転させてきたのであった。
そのテキサスは、共和党の牙城であったにもかかわらず、トランプ氏が強力に支援したケン・パクストン氏は、民主党のジェームズ・タラリコ氏に敗北。実に、38年ぶりにテキサス州で民主党候補が上院選で共和党に勝利したのであった。
マスク氏は、自身のX(旧ツイッター)に、民主党が上下両院で過半数を得たことについて、「私の選挙妨害用宇宙レーザーは、今回は効果がなかったようだ」と投稿している。この開き直りは、選挙妨害を自認して恥じない、その傲慢さは指摘するまでもないが、止められない敗北の流れに対して、あきらめか、それとも自覚していたのであろう。

さらに、このテキサスでは、同時に行われた州知事選でも、民主党・女性のジーナ・イノホサ氏が、強硬保守の現職を打ち破り、初のラテン系州知事に当選したのであった。
ジェームズ・タラリコ、ジーナ・イノホサ、両氏の当選は、彼らがAI(人工知能)の即時規制やデータセンター建設の一時停止を求め、選挙の争点にしてきたことからも、マスク氏にとっては、手痛い敗北である。
この中間選挙で敗北したのは、もちろん、トランプ大統領だけではない。マスク氏に限らず、トランプ政権にたかり、甘い汁に群がり、トランプ氏を支えてきた億万長者者たちもまた敗北したのである。
その敗北の背後には、圧倒的多数の庶民が、トランプ政権の戦争政策・経済政策によってインフレ負担に苦しむ一方で、記録的な利益を上げた巨大企業、かつてないほどの選挙資金(実質的には合法化された賄賂)をアメリカの政治に注ぎ込んだ大口献金者やスーパーPAC(政治活動委員会)、巨大テック企業、石油資本、金融資本の億万長者たちの存在に対して、怒りが噴出したのである。
そしてトランプ氏が、このテキサス州を含めて、強力に支援してきた国内最大の4つの上院選挙で、共和党候補を自ら選んだ、その4人全員がそろって敗北したことも、トランプ氏自身の敗北を象徴するものであろう。
* サウスカロライナ州:トランプ氏は故リンジー・グレアムの妹ダーライン・グレアムを支援し、民主党のアニー・アンドリュースが議席を獲得し、1998年以来の同州民主党上院勝利となった。
* ノースカロライナ州:トランプ氏の選んだマイケル・ワットリーは元州知事ロイ・クーパーに大敗した。
* ミシガン州:マイク・ロジャースはアブドゥル・エル=サイードに敗れ、後者は上院初のムスリム議員となる。
<<「敗北の一因はイラン戦争にある」>>
トランプ氏は、「敗北の一因はイラン戦争にある」と、ウォールストリートジャーナルのインタビューで語っている。不法・不当な対イラン戦争を一方的に開始した責任を一部認めているかに聞こえるが、そして報道では、見出しだけが先行しているが、とんでもない。実際は、戦争そのものよりも、原油価格の上昇が最大の政治的責任だと考えていると述べ、「その責任については考えていません。私は正しいことをしました。もう一度同じことをしていたでしょう」とまで開き直っている。その責任は明らかであるにも関わず、あきれ果てた強弁である。
CNNの出口調査では、約74%の有権者が「戦争」が投票の決定的な要因、あるいは主要な要因だったと回答している。また87%がガソリン価格を懸念していると答えている。『エポック・タイムズ』が引用したAAA(米国自動車協会)のデータによると、ガソリン価格は1ガロンあたり平均約4.15ドルに達し、選挙日としては過去最高を記録したのであった。トランプ氏は、この現実、対イラン戦争とインフレに敗北したのである。
さらにトランプ氏は、投票日当日になって、米国がイスラエルに対する年次軍事支援を年内に終了すると表明したのであるが、これも胡散臭いまやかしが潜んでいる。トランプ氏は、フォックス・ニュースの電話インタビューの中で、イスラエルのネタニヤフ首相と数カ月前に合意に達していたと述べ、年間約40億ドルにのぼるイスラエルへの軍事支援を終了させるというものであった。これも、イスラエルによるガザでの「ジェノサイド(集団殺害)的」な攻撃を支持していることをめぐり、共和党が激しい批判にさらされる中で、選挙当日のタイミングで行われた責任回避の言い訳として表明されている。これも、米軍のイスラエル軍との一体的軍事運用・軍拡政策への予算移行を、「すり替え」るものであることが報じられている。
しかしこれらは、いずれにしても、後手後手であり、敗北必至の情勢を巻き返せるものではなく、要するにトランプ氏個人の責任回避の言動にしか過ぎないものであったと言えよう。
最後に、トランプ氏は、投票日直前まで、「投票用紙に私の名前が載っていると想像して投票してほしい」と訴えていたにもかかわらず、敗北が鮮明になるや、「私は投票用紙に載っていなかったし、もし載っていたら、私たちは圧倒的勝利を収めていただろう!」などと言明している。ただただ、あきれ返る言動であろう。
<<トランプ「拒否権発動の達人(ミスター・ベト)」になる>>
今後の焦点は、民主党が上下両院を掌握する中、トランプ氏が2期目の任期の残り2年間を、政治的影響力の低下した「レームダック(死に体)」の大統領としてどのようにふるまうのか、絶えず嘘をつき、恐怖を煽り、憎悪を焚きつける大統領、巻き返しのために何をしでかすのか、危険極まりない存在である。
まずは、対イラン戦争の拡大への動きを、民主党は止められるのか、トランプ氏は、上下両院多数派となった民主党に対して、徹底して拒否権を行使すると脅している。
すでに11/3、トランプ氏は、民主党が下院または上院を制した場合、双方が合意に至るまでの間、拒否権を駆使して政権運営を行う意向を表明、自身が「ミスター・VETO(拒否権の男)」になると語っている。「まあ、そうなったら、私は『拒否権発動の達人(ミスター・ベト)』になるだろうね」と述べ、さらにこう続けた。「いずれにせよ、どこかの段階で取引をすることになるはずだ。これまでもそうだったし、今回が初めてというわけでもない」、「彼らが法案などを送ってきたら、拒否権を行使する。そうして1~2か月間、すべて拒否権で突き返していれば、やがて彼らが歩み寄ってきて、取引をすることになる。おそらくそうなるだろうが、まあ、そんなことを心配しなくて済むのが一番だね」と高をくくっているのである。
「これまでもそうだった」とトランプ氏に指摘されているように、民主党執行部のチャック・シューマーやハキーム・ジェフリーズをはじめとする、企業に密着・隷属した民主党内のヒエラルキーの存在が、ここで改めて問われてくる事態であろう。共和党と同様、民主党に資金を提供し、同党を支配している巨大献金者、ロビイスト、億万長者の存在そのものに立ち向かわなければならない事態が、民主党にも問われているのである。
11/4、イランのモハンマド・バーゲル・ガーリーバーフ国会議長は日、今回の選挙を通じて、米国の人々はイランとの戦争を拒絶したと述べ、米政府は再びイランを攻撃することで世論を無視すべきではないと主張。 「アメリカ国民は戦争を拒否した。我々もこの意思を支持する。もし米政府が、国際的な出資者や脅迫者たちの言いなりになるために国民の意思を裏切るようなことがあれば、我々の『ノー』が悪夢を伴うものだということを思い知ることになるだろう」と――カリバフ氏はX(旧ツイッター)に投稿している。
戦争の悪夢から、インフレ、経済政策、社会保障政策、日々深刻化している「真の脅威」――気候変動、所得・富・政治的権力の格差拡大、規制なきAI、これらの悪夢に対して問われているのは、トランプ政権だけではない。民主党にも問われているのである。そしてもちろん、トランプ政権にべったりで、対中緊張激化と軍拡にいそしむ高市政権にも問われているのである。
(生駒 敬)