【投稿】泥沼にはまった安倍外交

【投稿】泥沼にはまった安倍外交
-統一自治体選踏まえ野党共闘再構築を-

「さらば国際捕鯨委員会」
年も押し迫った12月26日、安倍政権は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明した。1960年代以降国際的に捕鯨は縮小していき、1982年にはIWCで商業捕鯨モラトリアムが採択され、日本も87年には南極海での商業捕鯨を停止した。
これに代わり開始された調査捕鯨も捕獲した鯨肉の一部は食品として流通していることから、事実上の商業捕鯨として国際的な非難を浴びてきた。
2014年には国際司法裁判所で日本の調査捕鯨を商業捕鯨モラトリアム違反とする判決が確定、同年9月のIWC総会でも調査捕鯨許可不発給勧告決議が採択されるなど、日本政府は窮地に立たされていた。
第2次政権成立以降この時まで、安倍は外遊のなかで反捕鯨国19か国を訪問し、経済援助を行うなど「買収」とも言える活動を進めていたが、これらの国々の態度を変えさせる事はできなかった。
そして業を煮やした揚句、ついに国際機関からの脱退と言う暴挙に出たのである。日本は自民党政権下においても、国際協調を基本とした外交を唱えてきたが、今回のIWC脱退はそうした原則の放棄を国際的に宣言する、象徴的な事件となった。
国民生活にとって死活問題ではない商業捕鯨を強行するために、国際協調を破壊する行為は自国第一主義そのものである。
政府の決定に対し、これを1933年の国際連盟脱退に擬える論調が多くみられるが、これを嚆矢として今後、アメリカの後を追うように国連人権理事会やユネスコからの脱退論も安倍周辺から噴出するだろう。
歴代政権は国連安保理常任理事国入りを目指してきたが、この間そうした主張は影を潜めている。
12月22日、国連総会第5委員会で合意された、19~21年の国連予算分担金比率で、日本は中国に抜かれ3位となったことが判明した。
これはGDPからも明らかなように、経済力の反映であるが、国連での発言力が低下するに伴い、国際協調からの離脱傾向は強まっていくだろう。こうした動きこそまさに安倍の言う「戦後外交の総決算」の一環であると言えよう。
安倍は自らの主張が通らず、意見集約が難しい国連のような形態よりも、共通の敵に対する同盟外交を志向している。それこそ「日独伊枢軸」への道であるが、現実は破綻の道を歩んでいる。
この間安倍は対中牽制をめざしているが、フランスとは「ゴーン問題」でギクシャクし、イギリスはEUブレグジットで混乱する中、あらたに捕鯨問題でオーストラリアなどの反発を買う形となってしまったのである。

フランスは素通り
とりわけフランスに関しては、「ゴーン容疑者」の拘留が長期化し、日本国内の刑事事件に止まらず、国際的な人権問題となりつつある。前近代的な日本の捜査機関、司法は、欧米に於いて中世の魔女裁判や江戸幕府のキリシタン弾圧を想起させるものとなっている。
こうしたなか、フランス検察は1月11日、東京オリンピック、パラリンピックの招致活動で贈賄があったとして、JOC会長竹田への捜査を本格化させたことが判った。
ゴーン逮捕以降の日仏捜査当局の微妙な動きについては先月号で触れたが、重大案件に急展開が起こったのである。これに対し安倍支持者からは「ゴーン逮捕に対する意趣返し」との非難が上がった。
時系列的には、東京疑惑については2年以上前から操作が進められており、直接の対抗措置ではないが、ブレストで行われた日仏外務・国防閣僚会議(日仏2+2)に公表のタイミングを合わせたことを考えるなら、ゴーン事件を意識していないとは言い切れないだろう。
日仏2+2ではこうした懸案事項は議題にならず、日本が対中牽制とするインド太平洋地域での軍事協力が論議され、日本側は世界で唯一核兵器を搭載する原子力空母「シャルル・ド・ゴール」との共同訓練を要請し合意された。
会議では重大な懸案事項は論議されず、河野、岩屋両大臣はマクロン大統領とも面会したが「表敬訪問」というセレモニーで終わっており、日仏協調を取り繕うための、及び腰での訪仏であったことは否めないだろう。
一方、安倍は9日から11日での日程でオランダとイギリスを訪問した。昨年11月のG20でマクロンから詰問された安倍は今回2大臣を身代りにし、フランスに降り立つことは無かった。訪仏を避けるため、オランダを利用したと思われても仕方がないだろう。
今回安倍はスルーしたが、フランス政府はルノーと日産の経営統合を要求していることが明らかとなり、いつまでも逃げおおせることはできないだろう。
安倍は10日イギリスでメイ首相と会談し、共同記者会見では合意なきEU離脱を避けるため、英政府の離脱協定案を全面的に支持すると大見得を切った。しかし協定案は15日、英議会に於いて2倍以上の圧倒的大差で否決され、安倍のスピーチは全く援軍にならなかった。
むしろ、多忙を極める時期での訪問は英政府に迷惑をかけただけだったのではないか。さらに17日には日立による原発計画が凍結され、トルコに続く計画の頓挫により原発輸出計画は失敗したが、一連の事案で安倍の外交力の程度が改めて露呈した。
今回日英はインド太平洋での軍事協力では合意したが、薄氷を踏む政権運営を強いられているイギリスに、フランスの様に計画通り空母「クイーン・エリザベス」をアジアに派遣できる余力があるかは未知数であり、日本の思惑通りには進まないだろう。

遠のく「北方領土」
この間の安倍外交の破綻を如実に物語っているのが日露交渉である。安倍は年頭会見で「北方領土のロシア住民には帰属が変わると言うことを理解してもらわないといけない」さらに「ロシアに対し元島民への賠償を求めない」(読売1/8)などと先走った発言をした。
さらに1月9日には自民党の河井外交特別補佐がワシントンで「日露提携は中国の脅威に共同対処するためにも有効」と発言した。
安倍はロシア人が居住する島が日本領になることを既成事実のように述べたうえ、内政干渉に等しい要求を行ったのである。河井に至ってはアメリカに対するリップサービスのつもりであったのだろうが、現在の中露関係を理解せず、ロシアを手駒の様に扱った。
安倍政権の平和条約交渉に臨む姿勢は、74年間にわたり強弱はあるけれども、常にロシアが優位であという現実を直視せず「領土はこれくらい(歯舞、色丹)にしといたるわ」という吉本新喜劇のセリフのような、滑稽と言うほかない対応を続けているのである。
こうした上から目線の発言に対しロシアは態度を硬化、早速9日にロシア外務次官が駐露大使を呼び出し抗議、11日の声明で「クリル諸島は第2次世界大戦の結果ロシア領になったことを認めよ」と重ねて要求した。
こうした雰囲気のなか、14日モスクワで開かれた日露外相会談は当然のことながら領土問題に関する進展はなく、次回の会談が決まっただけだった。
さらにロシアは日本側が会談後の共同記者会見を拒否したと暴露、日本側は「会談ではなく『交渉』だったから会見は開かないのが普通」と詭弁を呈して、会談の内容を隠蔽するのに躍起になった。
ラブロフ外相は会談後の記者会見で「大きな不一致があったことは隠せない」としたうえ「日本が北方領土と呼ぶことは受け入れられない」とも述べ、日本側に「第2次世界大戦の結果を認めなければならない」と伝えたことを明らかにした。
北方領土への米軍配備問題については、9日に在日米軍のマルティネス司令官が記者会見で「現時点で戦力を配備する計画はない」と明言したように、三沢に米軍が展開している現状では、軍事的に必要性のないことは明確である。
また、プーチンとトランプが直談判すればそうしたことは、案外簡単に合意できるかもしれない。それでもプーチンが安倍にトランプから証文をとって来いと求めるのは、踏み絵を踏まそうとしているのである。

国会から自治体選、参院選へ
安倍は外交的なアクションを起こす毎に「敵」を拡大しているようなものである。韓国とは国交回復後最悪の状況となっている。徴用工判決、慰安婦財団解散、と相次ぐ問題提起に対しては「解決済み」との硬直した姿勢を変えず、この間の「レーダー照射問題」については官邸が防衛当局を飛び越えて政治問題化させた。
以前ならオバマが、トランプ政権でもマティスがいれば「留め男」として登場したかもしれないが、1か月以上経過した今での着地点は見えていない。
安倍は国軍保持と言う原理主義的改憲も、北方4島も簡単に見限るポピュリストであるが、「韓国」と「沖縄」=「リベラル」に対してはイデオロギーを超越した生理的な憎悪感を抱いて忌み嫌っているようである。
安倍の周辺は、文大統領が新年会見でNHKの記者に「あなたを指名したのではない」と言ったことに無礼だと批判しているが、文は質問に答えており、河野太郎のほうがよほど悪質だろう。
安倍外交が泥沼にはまる中、通常国会は1月28日召集され、2月24日沖縄県民投票、4月7,21日統一自治体選、沖縄補選、6月26日国会閉会、7月21日参議院選という政治日程がほぼ固まった。
安倍政権は新年早々に発覚した勤労統計捏造問題の早期収拾に躍起になっている。野党は幕引きを許さず、安倍政権に有利なように操作されている疑念がある各種統計を徹底的に精査させるべきである。
増税の前提条件は瓦解しつつあるが、理路整然と政府の経済政策を追求し、消費増税の中止を求めていくべきである。
さらに引き続き新入管法の問題点を洗い出し、政府の思惑を超える共生社会への具体策を確立させ、それらが不可能であれば施行の延期も求めていかなければならない。
大阪W選、衆参W選という不確定要素はあるものの、限られた時間のなか、野党共闘の再構築は最重要、喫緊の課題となっている。そのためには統一自治体選挙の結果を参議院の候補者調整に反映させなければならないだろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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