【投稿】「推し活」・イメージのみの衆議院選挙で「知性」の時代は終わった

【投稿】「推し活」・イメージのみの衆議院選挙で「知性」の時代は終わった

福井 杉本達也

1 自民圧勝・中道惨敗

2月8日に行われた衆院選挙は、高市首相の個人的人気に支えられ当初の予想通りに、自民党単独で316議席と議席の3分の2以上を占め圧勝となった。反対に中道は49議席と改選前から123議席も減らし惨敗となった。これは、小選挙区制という特有の事情もある。中道は小選挙区ではわずか7選挙区でしか勝てなかった。当初の中道の皮算用では旧立憲民主党の候補も小選挙区で「一定数が勝ち残ると算段していたが、高市人気という暴風雨に、創設者の枝野幸男氏や安住淳中道共同幹事長・岡田克也元外相、小沢一郎氏など、ほとんどの有力議員が落選し、ぺんぺん草も生えない「焼け野原」となってしまった。

2025参院選比例代表得票と衆院選比例得票との比較では、自民2100万(+820万)、中道(立民・公明の合計との比較)1040万(-220)、国民560万(-210)、 維新490万(+60)参政430万 (-320)、みらい380万(+230)、共産250万(-30)、れいわ170万(-220)、保守150万(-150)であり、中道も減らしたが、参政・国民らも同様、あるいはそれ以上に票を減らしており、小選挙区での旧立憲議員らの自力のなさが浮かび上がる。

 

2 イメージの高市人気「サナ推し」・日本の選挙で知性の時代は終わった

篠田英朗東京外大教授は、日本を取り巻く国際環境は厳しく、「高市首相は、こうした困難な事情を全て捨象し、自分はトランプ大統領と親密で、日米同盟さえあれば中国との関係が悪化しても大丈夫だ、という『世界の真ん中で咲き誇る日本外交』イメージ戦略で、選挙を乗り切ってしまった。ある意味で狡猾だった。だが、内実の乏しいイメージ選挙を行ってしまうことの責任の重さを感じ取るタイプの人物」ではないと評している(「アゴラ」2026.2.9)。また、小幡績慶応大教授は「『知性』対『感性』の戦いで感性が圧勝した。消費税を巡る発言のぶれなどの批判も支持には影響せず、イメージだけで勝ち切った。日本の選挙で知性の時代は終わった」(日経:2026.2.10)と酷評した。

歴史作家の八幡和郎氏は高市首相が「女性であることと、率直な政治家臭くないものいいがゆえに高市さんはクリーンだとか悪いことしないというイメージがあり、そのイメージで個々の候補者が裏金議員であろうが、旧統一教会と本当に密接な関係を持ってきたとしても大目にみてしまった。」と書く(「アゴラ」2026.2.9)。

日経は2月11日で、前回の衆院選や昨年の参院選までは、氷河期世代対策や外国人政策など、それでも政策があった。「一方、高市早苗首相を支えたネットの熱気からは政策すらも消え去った。あるのはわかりやすい構図に支えられた『サナ推し』という『推し活』 だ。…政治家と有権者の関係は間接民主主義における『負託』でもなく、成果や見返りへの「期待」でもなく、ファンから推しへの『貢献』となる。逆境下のヒロインへの批判や抵抗が強まれば強まるほど『かわいそう』と推し活が加速する無敵の構図生まれた」と書く。

 

3 中道惨敗の要因

共同通信の世論調査によると、中道の敗因は「最近まで争っていた二つの党が合流したから」・35.6%で最多。「結党直後で準備不足だったから」・23.0%、「野田佳彦.斉藤鉄夫両共同代表に魅力がなかったから」・21.4%となった(福井:2026.2.11)。新聞の出口調査からは10代~40代の有権者には全く魅力に欠け、国民民主党や参政党・れいわなどにも大きく引き離されている(福井:2026.2.9比例代表北陸信越投票先出口調査)。

先記の八幡氏も自民党内の「自公連立復帰派と公明党を潰したいという狙いの抜き打ち総選挙を打たれれば、それに対抗するには禁じ手はない…(が)…用意周到さに欠けた。党名も…立憲民主党の支持者を引きつけられなかった。また、国民民主党に…秋波を送るべきだった。公明党がすべての小選挙区から撤退というのも極端…民主党時代の大物はさすがに賞味期限切れ」と厳しい。そもそも、「中道」とな何か、政策が何かが示されなかった。イメージ選挙の「感情」の暴風雨に対して、せめて政党としての「知性」を発揮すべきであった。また、共同代表はあまりにも新鮮さに欠ける。「昔の名前で出ています」である。SNS上では5G(爺)と揶揄された。

 

4 本当の対立軸―「社会」を否定する新自由主義者・高市首相

作家の佐藤優氏は、日本の政治には理念対立があるとし、①『甲型』と②『乙型』に分け、①『甲型』=「国家と個人を直結させる傾向が強い」、②『乙型』=「国家と個人の間に社会を挟み、社会を強化することが国家の強化につながると考える…社会の中核を形成するのは…中間団体である。中間団体には、農業協同組合、生活協同組合のような協同組合、医師会、弁護士会のような職能集団、労働組合、宗教団体などがある」。①「甲型は、大統領型の首相による政治主導で国家機能を強化することが重要と考える。…社会よりも個人や個別企業が強くなり競争力をつけることで国家が強くなると考えている」②「乙型は、国家機能強化の前提になるのが社会的結束と考える…外交による対話と妥協を重視する。(また)社会的コンセンサスを得るために時間をかける必要があると考える」(佐藤:東スポ:2026.2.5:同:『東洋経済』2026.2.14)と書いている。

今回、高市首相は、国会での論戦を避けて通常国会冒頭での解散を行った。しかも、解散から投票までも最短で政策の議論の余地をわざとなくし、「国論を二分するような問題に取り組めるように信任をもらいたい」と、国家の命運を決めるような問題を、その内容も示さず、白紙委任を求めた。予定されたNHK日曜討論などの政策論戦の舞台となる場は欠席し、徹底してイメージ中心の短期の選挙戦を主導した。この作戦の対象は、大統領型の首相と中間団体に属さないアトム化された個人しかない。徹底したアングロサクソン型の個人主義=新自由主義がある。個人がバラバラとなることは、最も強い金ある個人が国家を乗っ取ることとなる。金融寡頭制である。米国では資産50兆円といわれるXのマスク氏やアマゾンのベゾス氏などがビリオネアといわれる。金融寡頭制の下では、金に任せて新聞やテレビ等のマスコミの買収やネットの買収が行われ、相互に相談することのない、バラバラの個人の情報操作が行われる。

 

5 中道は旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻にどう向き合うか

「手取りを増やすには社会保険料の引き下げを優先すべきだ」と訴えたチームみらいが今回の衆院選で11人が当選し存在感を示した。最新版では、医療費の自己負担について高齢者も含めて「一律3割とすることをめざす」と記載した。また、維新は、医療費を年4兆円減らし、現役世代の保険料を1人当たり年6万円引き下げることを掲げていた。2月6日に総務省が発表した2025年の家計調査によると、2人以上の世帯が使ったお金のうち、食費に充てた割合を示す「エンゲル係数」が28・6%に上昇した。1981年以来41年ぶりの高水準となった(福井:2026.2.7)。低所得層ほど家計の中で食費の。負担が増して生活が苦しい。国民の生活水準が低下しており、租税と社会保障費は1980年には所得の30.5%であったが、2025年には46.2%にもなった。財政赤字2.6%を入れた潜在国民負担は、48.8%となっている。

宮本太郎中央大学教授は雑誌『世界』2025年1月号において、「基層にある現実は、若者を含めて多くの国民が直面し呻吟している物価高騰と生活苦である。このリアルな現実に、既存の社会保障と税さらには雇用の制度が機能していない、むしろ若者をつぶしているという感覚が折り重なり…社会保障はもはや高齢者向けの給付に限られ現役世代は負担だけを強いられる。税はとられるだけで決して還つてはこない。雇用について様々な慣行や規制が中高年だけを守っている、等々。空気は幻影ではない。その根底には紛れもない現実がある」と書いている。

国家は何のためにあるのか。佐藤氏の②乙型モデルでは、「慈悲深い専制君主モデル」としての「税や社会保険料という形でいったん預かり、今必要な人たちに集中的に所得を再分配することにより、社会の厚生を高める」モデルであるが、現実の衰退する国家の制度は収奪的であり、一部の社会エリートが富を独占し、と同時に青天井の企業献金が容認され、金権政治がまかり通ている。包括的だったはずの日本の社会制度は、いつの間にか収奪的な社会に向かっている。社会分断が進み、中間団体が衰退する中、非正規雇用や就職氷河期世代として呻吟する20代~50代層にどう向き合うかが問われる。

 

6 「責任ある積極財政」は意味不明・体系的考えもなく・頭は空っぽ

高市首相の『責任ある積極財政』は、全く意味不明である。体系的な考えのある経済政策はない。1月31日、高市首相は選挙応援の演説で、「円安でもっと助かっているのが、外為特会っていうのがあるんですが、これの運用、今ほくほく状態です」と述べた。みずほ証券の⼭本雅⽂チーフ為替ストラテジストは「歴史的な円安の現状への危機感は皆無で、むしろ円安が経済にとって好ましいという高市首相の持説が変わっていないことが露呈した」と解説する。「米当局は円金利の上昇が米金利上昇を通じた『米国売り』につながることを危惧している(Reuters:2026.2.1)。

「本来であれば、厳しい安全保障環境を鑑みて、中国との関係維持にも細心の注意を払う精緻な外交術こそが、求められるように思われる。しかし、高市首相は、むしろ逆に、中国を嫌う国民感情に訴える戦術をとった。困難な事情を捨象し、自分はトランプ大統領と親密で、日米同盟さえあれば中国との関係が悪化しても大丈夫だ、という『世界の真ん中で咲き誇る日本外交』イメージ戦略で、選挙を乗り切ってしまった。」(篠田英朗:「現代ビジネス」2026.2.11)。

 

7 高市政権の下、日本はどんどん「収奪される同盟国」に転落していく

カナダのカーニー首相はダボス会議において「ルールに基づく国際秩序は衰えつつある。『強者はしたいことをして、弱者はそれを耐え忍ぶ』」「私たちはこの『ルールに基づく国際秩序』の物語が部分的に虚構だと知っていた。強大な国は都合の良いときに自らをルールの適用外にする。貿易ルールは非対称的に執行される。国際法がどれほど厳格に適用されるかは、被告や被害者が誰かによって異なる。」「大国は単独で行動できる。市場規模、軍事力、条件を抑し付ける影響力を有している。中堅国家は覇権国との2国間でやっていくために弱い立場で交渉しなければならない。提示された条件を受け入れ、最も譲歩する国になるよう中堅国家間で競い合うことになる。」と演説した(日経:2026.1.24)。

「覇権国が優位性を利用して弱い立場にある同盟国を搾取する」日本はどんどん「収奪を受ける同盟国に転落」していく(日経:2026.2.11)。米国債38 兆ドル(5890 兆円)が、公的年金と社会保障費と軍事費のため、毎年、2 兆ドル増える。国債の利払いも、1.2 兆ドルに増える。加えて対外純債務(純借金)も26 兆ドルに増えていて、これも毎年2 兆ドル増える。対外純債務の増加の2 兆ドル/年は、外為市場で2 兆ドルのドル買いの超過がないと、米国の資金がショートする。2026 年度は、満期が来る国債が9 兆ドルもあるところに、新規債を2 兆ドルを加え、合計11 兆ドルの国債を発行し、金利を上げずに内外の金融市場に売却しなければならない。売れないければ、米国は「デフォルト」である。しかし、市場に買い手がいない。中国は買わない。むしろ米国債を減らしてきている。日本に強制的に買わせるぐらいである。金融機関がもつ米国政府の資金繰りは「どん詰まり」に来ている(吉田繁治:2026.2.2)。「中国の規制当局は、集中リスクや市場の変動性を懸念し、米国債保有を抑制するよう金融機関に助言しています。当局は銀行に対し、米国国債の購入を制限し、高リスクエクスポージャーを持つ者には保有資産を削減するよう指示しました」(Bloomberg:2026.2.9)。日本は覇権国家の衰退とともに奈落の底に沈んでいく。その負担はインフレ・実質賃金の減少・増税・社会保険料の増・社会保障費の削減・年金の削減・公共資本の劣化・NISA対外投資の棒引きによる大損といった形で、全て日本国民が引き受けることとなる。

ここにきて、スターマー英首相や李韓国大統領、カーニー・カナダ首相、そしてフランス、アイルランド、フィンランド首脳などの北京訪問が相次ぎ、貿易協定を締結している。中国の国際関係専門家であるビクター・ガオはマスコミの質問に「イギリスを中国のライバルと見なすべきではないと思う。中国はそうではない。中国は事実だ。中国はイギリスが共に生き、付き合っていくべきメガトレンドだ。戦争を煽るのではなく、平和を築こうではないか。」と答えた(「耕助のブログ」2026.2.10)。中国は日本の産業を締め上げるのにミサイルなんて必要ない。書類仕事を使えばいい。2025年4~5月、レアアース磁石の日本への輸出が91%急落した。禁輸なんてない。発表もない。記者会見もない。ただただ「処理の遅れ」。工場が停止。ジャストインタイムの物流が崩壊。防衛生産が凍りついた(参照:X:Richard 2026.2.12)。自民党・安倍政権時のアベノミクスで異次元緩和と称して、500兆円の円を増発した結果、ハワイのラーメンは3000円、スイスのラーメンは5000円となった。世界の通貨の加重平均に対して、円の指数(購買力)は1995年には150であったが、現在は60に下がり、円はなんと40%の価値に下がってしまった(「ビジネス知識源」:2026.2.12)。これではインフレになるのも当たり前である。その結果責任は問われることなく、「円安ほくほく状態」・イメージのみで、全く経済の知識もなく国際情勢も読めない高市政権は空中分解しかない。

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