【投稿】 衆院選の結果をめぐって 統一戦線論(41)
<<「安倍政権 大勝」なのか>>
安倍首相の姑息極まりない自己保身に徹底した「もり・かけ疑惑隠し解散」、党利党略解散の目論見が功を奏したのであろう、10/22投開票の衆議院解散総選挙の結果、自公与党で3分の2の議席を確保した。大手マスコミの見出しは軒並み「安倍政権 大勝」「自民党 圧勝」である。果たして本当にそうなのだろうか。
衆議院は、小選挙区289、比例代表176、計465議席であり、その3分の2は310議席である。自民党は選挙後に無所属3人を追加公認して公示前と同じ284議席を獲得。29議席(公示前34議席)の公明党と合わせて313議席となり、確かに衆院の3分の2を維持した。もちろん、各常任委員会の委員長ポストを独占したうえで過半数を握る絶対安定多数(261議席)を単独で超えてもいる。しかし公示前は自公両党で318議席であった。5議席の減なのである。
ただし、衆院選は今回から定数が10削減されている。自民党は2014年の前回選挙の291議席より7議席減らし、公明党は候補者を立てた9小選挙区のうち神奈川6区で敗北、比例代表は前回の26議席から21議席に減らしている。与党で合わせて12議席の減である。これでどうして圧勝と言えるのであろうか。せいぜいのところ、現状維持と言ったほうが正確であろう。確かに現状維持も困難なほどに、安倍政権の求心力が下落していたことからすれば、安倍首相個人からすれば、何とか巻き返したが、不安と不満が残る結果だと言えよう。それが安倍首相のさえない表情にも表れている。投票日の「出口」調査で「信頼していない」が51%(共同通信)にのぼるなどと突きつけられればなおさらであろう。
一方、野党のほうはどうであろうか。
前回73議席だった民進党が、前原党首の小池新党・希望の党への合流をめぐって混乱、分裂。希望の党に「排除」されたがために急きょ立ち上げられた立憲民主党は、公示前の15議席から55議席を獲得、野党第一党への様変わりを成し遂げた。逆に野党第一党として政権交代の受け皿を目指したはずの希望の党は50議席にとどまり、公示前の57議席にも及ばなかった。しかもその大半は、民進党前職であり、希望の党・小池党首の右翼・改憲路線には簡単に同調できるものではないし、少なからぬ議員が小池路線を公然と批判する事態である。お膝元の東京でさえ死屍累々で、小選挙区で勝ったのは元民進の長島昭久氏のみ。小池知事の地盤を引き継いだ側近の若狭勝氏は比例復活すらかなわぬ惨敗である。そして前原、小池両氏は、自民党に徹頭徹尾貢献することとなった戦犯として、すでにそれぞれの党首解任論まで現実化している。立憲と希望は小選挙区ではともに18議席。比例は立憲が37議席、希望が32議席であった。衆院選の比例代表東海ブロックでは、立憲民主党の獲得議席が立候補者数を上回り、候補者不足で立憲民主の1議席分が自民に回ってしまうという事態まで生じた。
共産党(公示前21議席)は小選挙区で1議席(沖縄1区・「オール沖縄」=赤嶺政賢氏)を維持したものの、比例代表では、前回20議席(得票606万票、得票率11・37%)から11議席(同440万票、同7・91%)へと後退、議席はほぼ半減。
日本維新の会は、公示前の14議席から11議席に後退。日本のこころは議席ゼロ。
社民党はなんとか踏ん張って2議席を死守。残念なのは滋賀1区では、反原発を掲げた嘉田由紀子前滋賀県知事=79,724票に対して、社民党候補=13,483票が割込み、自民党候補=84,994票、3人の対決で、自民の当選を許してしまったことである。社民党がこれでは、信頼を勝ち取れないであろう。
かくして、安倍首相が、野党の中でも改憲で期待してきた小池新党や維新が明らかに後退してしまったこと、立憲民主党が民進党の混乱・分裂からより明確に安倍政権と対峙する野党第一党に再編成されたこと、「改憲反対」「原発ゼロ」という明確な対立軸を掲げた政党が、たとえ短期間でも自公勢力をしのぐ力と勢いを獲得できることを明確に示したことが、安倍首相の最大の不安要因と言えよう。
<<「虚構の多数」>>
さらに今回の選挙の各党の得票実態を見ていくと、自民圧勝とは程遠い実態が浮かび上がってくる。
選挙翌日の10/23付朝日新聞「野党一本化なら63選挙区で勝敗逆転 得票合算の試算」がその実態を明らかにしている。野党が獲得した票が分散した最大の原因は、民進党の分裂であり、これが「立憲、希望、共産、社民、野党系無所属による野党共闘」が仮に成立していれば、事態は全く様相を異にしていたことを浮き彫りにしている。
複数の野党候補(野党系無所属を含む)が競合した「野党分裂型」226選挙区のうち、約8割の183選挙区で与党候補が勝利をおさめているが、その選挙区の各野党候補の得票を単純合算すると、このうち3割超の63選挙区で勝敗が入れ替わり、与党120勝、野党106勝となっていたのである。63選挙区のうち、圧倒的に多いのが、希望と共産が競合するパターンで、49選挙区にのぼる。また、立憲と希望が競合したのは19選挙区。東京では、「野党分裂型」のうち、与党勝利の19選挙区を試算すると、14選挙区で野党勝利に逆転。萩生田光一・自民党幹事長代行、下村博文・元文部科学相、石原伸晃・前経済再生相はいずれも「立憲・希望・共産」候補の合計得票数を下回った。また、野党統一候補が実現していれば、閣僚経験者も議席を脅かされる試算となった。野党候補の合計得票数は上川陽子法相、江崎鉄磨沖縄北方相の2閣僚の得票数を上回ったほか、金田勝年・前法相も「希望・共産」候補の合計得票数には届いていない。これが実態なのである。
さらに筆者が、立憲と共産が競合し、本来避けてしかるべき同一選挙区で相争うパターンを調べると、東京4、8、9、10、11、13、19、22、24、25区、千葉2、7、13区、神奈川2区、山梨2区、静岡1、7区、大阪1、5、8、13区、福岡1区と、ざっと上げただけでも22の小選挙区に及んでいる。その内、2選挙区では両者得票数合計が、当選を許した自民を上回っている。僅差で迫り、統一していれば勝てる選挙区も2選挙区ある。勝てたものを逃がしているのである。
共産党の中央委員会常任幹部会声明(10/23)が言うように、自民党が得た比例得票は33%(有権者比17・3%)なのに、全議席の61%の議席を得たのは、もっぱら与党有利に民意をゆがめる選挙制度がもたらしたものであり、「虚構の多数」にすぎないのである。
自民大勝の実態は、野党分裂による“棚ぼた勝利”にすぎないし、その最大の功労者は小池百合子と前原誠司、両氏と言えよう。どちらも「排除いたします」「それも想定内」という差別的な独断専行と先走り、その徹底した軽薄さが有権者から見放され、自民党に漁夫の利をもたらしたのである。
<<「ぶれない」>>
さて、問題は野党共闘である。共産党の志位和夫委員長は開票センターでの会見で、「議席を減らしたのは自分たちの問題。立憲民主党が野党第1党になれば、これは大事な結果。安倍総理も野党第一党の意向を無視して改憲はできないと言ってきた。野党共闘には大きな意味があった」とコメント。先に紹介した共産党の幹部会声明は「立憲民主党が躍進し、市民と野党の共闘勢力が全体として大きく議席を増やしたことは、私たちにとっても大きな喜びです。共闘勢力の一本化のために、全国67の小選挙区で予定候補者を降ろす決断を行い、多くのところで自主的支援を行いました。今回の対応は、安倍政権の暴走政治を止め、日本の政治に民主主義を取り戻すという大局にたった対応であり、大義にたった行動であったと確信するものです。全国のいたるところで「共闘の絆」「連帯の絆」がつくられ、私たちはたくさんの新しい友人を得ることができました。これは今度の総選挙で私たちが得た最大の財産であると考えます。日本共産党は、この財産を糧として、市民と野党の共闘の本格的発展のために引き続き力をつくすものです。」と述べている。この路線、方針こそが徹底されることが望まれる。
共産党は、全国289小選挙区のうち249での野党候補の一本化のために、83選挙区で候補者を擁立しない対応をとり、共闘勢力の前進に貢献し、83選挙区のうち32選挙区で野党候補の勝利に導いたことは高く評価されるところであろう。さらに、立憲、社民と無所属の一部との間で競合する67小選挙区で候補者を降ろしたが、「自民の補完勢力」と位置づけた希望が候補者を立てた選挙区のほとんどには独自候補を擁立した。さらに先に述べたとおり、立憲の候補とも相争う選挙区が22も存在した。その結果、小選挙区で議席を得た沖縄1区を除き、選挙区あたり数万程度ある共産票は事実上「死票」となり、大いに自民党候補の勝利にまたもや貢献してしまったのも厳然たる事実である。
自公政権を退陣に追い込むためには、現在の野党共闘をさらに一歩も二歩も進めて、市民連合や広範な諸勢力が支え、原動力となる、野党共同政党、ないしは野党統一会派にまで進め、「統一名簿方式」で闘えるところにまで進展させることを真剣に追及すべきであろう。
共産党のポスターには「市民+野党でぶれない」と書かれているが、統一戦線政策の不徹底は現実であり、及び腰なのである。当面の小手先の戦術ではなく、戦略としての一貫した統一戦線政策が根づいていないのである。それは、「わが党こそが唯一、一貫して正しい」というセクト主義を克服すること、中央集権主義的党運営を根本的に、本来あるべき草の根民主主義に作り替える、党名をも含めた党のあり方そのものの改革とも密接不可分なものであろう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.479 2017年10月