【投稿】高市政権の経済政策は円安から物価高騰を招く
福井 杉本達也
1 高市政権の積極財政
高市首相は「責任ある積極財政」を唱えるが、実態は。11月5日付けの日経新聞によれば、「高市氏は自民党総裁選の勝利後、デフレでなくなったと安心するのは早い」と早期利上をけん制し、金融政策について『政府が責任を持つ』と唱えた。」(日経:2025.11.5)。しかし、高市首相の「デフレ」という意識は完全に現実とは乖離している。2022年以降の世界的なインフレの波は、日本においてもインフレによって生活苦が高まっている。もうデフレではない。金融緩和や野放図な財政出動に依存しないインフレ抑制的な経済政策をとるべきである。
2 日本経済停滞の主因は大企業による労働者の収奪にある
BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、日本経済の長期停滞の主因は、大企業が利益を内部にため込み、賃上げや人的資本投資、国内按買に対して消極的なことにあると指摘する。実質賃金の低迷を指摘すると、多くの人は生産性の低さを理由に挙げる。しかし、河野によると、1998年から2023年の間に日本の生産性は30%上昇しているが、実質賃金は横ばいで、この間のインフレにより2%減少している。生産性が上がっても賃金が引き上げられていない。賃上げを抑えて労働分配率をどんどん下げてきたのである。しかも定期昇給の枠外にある非正規労働者をどんどん増やしてきたのである。かつては包摂的だった日本の社会制度は収奪的社会に向かっている。労働者から絞りとっで、配当と内部留保を増やしている。結果、大企業の利益剰余金は600兆円にも積み上がっている(河野龍太郎『日本経済の死角』)。
3 「アベノミクス」への反省が全くない
11月21日に閣議決定された高市政権の総合経済対策は財政支出21・3兆円、事業規模41・8兆円という大型のものとなった。また、28日には18.3兆円という大型の補正予算も組むとした。日経新聞11月27日付けのコラム『大機小機』は「季節は外れのアベノミクス」と題して、アベノミクスの結果は犯罪的であったことを上げている。①積極的な財政も緩和的な金融もデフレからの脱却には効果が小さく、長期的な成長率を引き上げることには無力だった。②為替レートはアベノミクス直前の11~12年の円の対ドルレートは80円前後だった。これが「異次元緩和」によって円安に向かった。ここ数年は140 ~150円へと円安が進むことで、輸入物価の上昇を通じて物価情勢を一段と困難なもとしている。③金利のある世界に入った近年では、財政赤字の累積は国債費を増加させ、今後の財政運営をさらに厳しくなる、と総括している。
高市政権発足後、金融市場ではこの1か月間で警戒感が一気に強まり、国債と円を売る動きが加速している。円は157円台と1カ月で7円も円安となった。10年物国債利回りは1.835%と17年半ぶりの高水準になった。東短リサーチの加藤出氏は「市場には円安が止まりづらくなることでインフレ率も高止まりするとの予想」もあるとし、「足元のインフレは円安で押し上げられ…食料も顕著に値上がりしており、家計は圧迫されている。」とし、「円安を放置したまま、財政で物価高に対応してもきりがない」と高市政権の経済対策に全く否定的である(日経:2025.11.28)。
4 「インフレ税」をとる高市経済政策
島澤諭氏は「物価高で財政が改善するのは、インフレにより所得税率の適用区分を超える人が増える『ブラケットクリープ』や名目額で固定された債務を目減りさせる『インフレ税』のためだ。」それにより、「意図的な財政健全化を行わずともインフレ税によって財政再建が自動的に進む」。また、「インフレ税は、所得税や消費税のように法律によって決められたわけではなく、特定の税率があるわけでもない」から財政民主主義の破壊でもあると書いている(日経:2025.11.24)。
政府には①「支出を減らす」か、②「税収を増やす」か、③「インフレを進める」の3つの選択肢しかない。①と②は国民の抵抗が大きいので選択が難い。そこで、高市政権は③の「インフレ税」を選択し、家計への負担はどんどん重くなる。増税せずに、インフレによって「家計から政府へと所得が移転する」現象が起きている。物価が上がると生活費が増えるので、これまでためていた預金などを取り崩して、モノやサービスの購入に回す。国民はインフレのせいで、今までよりも控えめな量や質での財やサービスの購入を強いられ、国民の可処分所得は減って消費を手控える。所得や貯蓄の少ない人、つまり社会的に最も弱い立場の人々ほど、その影響を受ける(河野龍太郎×唐鎌大輔『世界経済の死角』)。
今の高市政権の経済政策は③の「インフレ税」である。野党も給付金や減税要求のみで「インフレ」や「円安」の効果についてはよく理解いていない。しっかりと批判しなければ、いつの間にか国民はさらに貧しくなっていることになる。
5 円安で物価は上がるのに、賃金が上がらないスタグフレーションに
トヨタなどの大手輸出型企業の海外事業では、円安で為替差益が利益となる。しかし、国内経済は円安ではインフレになり、国民の所得(賃金+年金)の上昇はインフレ率より低いので、スタグフレーションになってきている。貿易のほとんどが、ドル建てで行われている。95%以上を輸入に頼る資源・エネルギー、30%しか国内自給率のない食品は、価格がどんどん上がっても輸入しなければならない。
2012年末からの安倍内閣による「異次元緩和」で、日銀による国債の買い→円の増刷(約500兆円)が行われたが、膨らんだ資金は国内には投資されず、マイナス金利となった円が売られて、2%から4%の金利差のあるドルが買われ(円が売られ)円安が進んだ。さらに、2020年からは、コロナ危機の財政対策で100兆円もの国債が発行され、それを日銀が買い、円を増刷したため、1ドルは150台の超円安になってしまった。2023年:23兆円、2024年:27兆円、2025年:30兆円のペースで、「円売り/外貨買い」の超過がある。日銀の短期政策金利は0.5%であるが。インフレ率は約3%であり、本来は2.5%程度の政策金利でなければならない。しかし、それでは、安倍→菅→岸田の自民党政権下で積み上がった1300兆円の国債残高があり、国家財政が支払金利で破綻してしまうので金利を上げられない。低い金利を嫌って、海外の高い金利の通貨に資金が移動し、さらなる円安を引き起こし物価は高騰する(参照:『ビジネス知識源』吉田繁治:2025.11.29)。
高市政権にはアベノミクスの大失態の責任を問われているが、全く反省することなく、また同じことを繰り返そうとしている。失態の負担はインフレとして国民の肩に重くのしかかる。消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は3割にもなり、国民は必要な消費を削減せざるを得ず、日本経済の低迷と国民の苦痛はさらに続く。発足1カ月・マスコミは高市政権を盛んにもてはやすが、「死神」でもあり、「貧乏神」でもある。