【コラム】ひとりごと —郵政民営化の混乱に思うこと—
○6月19日の国会会期末を控えて、なにやら国会がおかしい。郵政民営化法案の行方である。○小泉改革の目玉として、首相は何がなんでも成立を図ろうとしているらしいが、一向に世論がついてきていない○読売新聞の世論調査では、61%が法案の早期成立に異論を持っているという。さらに自民党支持層の49%が「郵政法案最優先」の小泉首相の姿勢に納得していないという結果である。確かに、何が変わるのか、分かりやすい説明は行われていない。○自民党の郵政族を中心とする強力な反対派には、玉虫色の条文を書き加えたものの、依然反対論は燻り続けている。○「法案否決なら解散だ」と首相飯島秘書官が叫べば、「法案に反対する議員の選挙応援はしない」と公明党幹部。「再度修正すれば、党議拘束は当然」と久間総務会長。すでに与党が国会に上程した法案についてである。何かおかしい。○民主党も主戦論派と、模様眺め派が並存して、分かりにくい。○当初は、国営の金融機関が膨大な資金を保有し、財政投融資を通じて、無駄な公共事業に投入するシステムが問題にされた。官業が民業を圧迫してはいけない、という「市場原理主義」的改革論からのスタートだったと記憶している。○ここから、郵便・保険(簡易保険)・郵便貯金の三事業の分離・民営化議論となり、まず「郵政公社」化された。○民営化というなら、不採算部門は切り捨てるのが本道であるが、郵便事業については、都市・過疎地を含めた全国一律の事業展開など不可能となる。○ネット社会が進むにつれて、郵便は益々不採算部門化していくのは目に見えている。都市部では、郵便でなくとも宅配が結構利用できるが、地方では、まだまだ不便な実態に変わりはない。民営化で何が変わるのか、見えてこない。○貯金については、ずさんな顧客管理で、一人1000万円という枠は守られていないらしい。民間ではすでに始まっているネットバンキングも、郵政では殆んど進んでいない。この分野は怠慢の世界であろうか。○官業が民業を圧迫しているという議論も、民間金融機関が不良債権問題で沈んでいた時なら理解もできたが、民間銀行が「ゼロ金利」政策の継続のおかげで、肥え太った現在では、何の説得力もない。○最後に残るのが、小泉首相の「悲願」「政治信条」を形だけでも実現するのか、どうか、などと言う「私事」に近い世界になってきているのである。国民が理解しようにも、できるはずがない。(佐野秀夫)
【出典】 アサート No.331 2005年6月18日