【投稿】日本発の国際金融危機
<「株価急落の主犯」>
先月号で指摘してきた「3月経済危機」説の現実的可能性が、当たり前のことではあろうが筆者の指摘もむなしく、回避されることもなく進行し始めた。3月に入ると2日には日経平均株価が、前日比419円86銭安の1万2261円80銭と、85年7月以来の低水準に急落、そのスピードと規模がこれまでにない様相を呈し始めたのである。そして3/14のニューヨーク株式市場の暴落は、ついにニューヨークダウ平均株価が1万ドルの大台を割り込み、9973.46ドルで終了、ヨーロッパからアジア、中南米にまで至るパニック的な売り一方の展開となり、この連鎖的な株価の急落の「主犯」に日本の金融不安が上げられる事態となったのである。
欧州系格付け会社のフィッチが日本の銀行19行の格付を引下げる方向で見直すことを発表し、大和や中央三井信託など破綻する銀行名まで具体的に取り沙汰され、「日本発の国際金融危機」不安説が現実化し始めたのである。もちろんその背景には、いまや「死に体」と化してしまった森内閣、自公保三党連立政権にたいする失望、焦眉の政治・経済の問題解決能力を示すことが出来ないばかりか、その存在自体がマイナス要因と化しているにもかかわらず、政権交代さえままならず、緊急事態を打開する能力さえ示し得ない日本の政治経済への失望売り、根深い不信が横たわっているといえよう。
3/16のニューヨーク株式市場はさらに9900ドル台も割り込み9823.41ドルの終値で取引を終え、円は1ドル=123円台まで続落している。ここにきてこれまでのいいかげんな経済専門家やエコノミストたちの「V字型」や「U字型」回復の希望的観測が実にいいかげんな根拠薄弱なものであり、実際にはアメリカはバブル経済の清算過程に突入し始めていること、バブルに依存し、バブルに希望を託してきた世界、とりわけ日本がこの連鎖的な危機の波及にいかに対処できるかが問われ、なすすべさえ示し得ない否定的現実に世界が大きく動揺しだしたのである。
<「破局」財務相の放言>
「1万3000円割れで大半の銀行、生保に含み損が発生する」(都銀幹部)といわれているのに、3/12には1万2171円までさらに大幅下落、3/14には1万1500円割れの場面まで出現、ここまでくると兆単位の含み損を抱え、ほとんどの銀行・証券・生損保等の大手金融機関にとっては「倒産株価」そのものの事態である。ほんの一握りを除いて全滅の恐れすらあり、その規模、破壊的影響、連鎖倒産の危機はこれまでの山一、長銀、日債銀の比ではない、戦後最大、未曾有の経済恐慌の事態を招きかねい「危機の淵」である。いまのところ、株価は1万2000円台に行きつ戻りつしているが、金融・株価パニックはいわばまだ始まったばかりである。これからが本格的な危機の到来が控えているともいえよう。すでに「株価1万円割れ」「1ドル=140円」「国債暴落」という予測までささやかれだしている。
さらに、益出しや帳簿操作、さらには再々度の公的資本注入でこの3月危機をなんとかしのいだとしても、4月から導入される時価会計は、9月の中間決算から具体的な数字となって表面化される。ここで減配、無配、赤字決算が続出する事態となれば、市場の選別は容赦なく、資金繰りさえつけられない9月危機が待ち構えているのである。
3/15になって、政府与党はようやくのところで、緊急経済対策本部の初会合を開いたが、その緊急対策の中身は、一時的な損失隠しにしかすぎない「株式買い上げ機構」や、「銀行優遇税制」など、問題先送り、論議も内容も粗雑で小手先の当面を取り繕う弥縫策ばかりである。つい先日、「わが国の財政はやや破局に近い」と発言したばかりの宮沢財務相が「(株式買い上げ機構で)仮に損失が生まれるとしたら、財政で面倒を見ることも考えたらどうか」と、無責任な公的資金の投入を示唆し、一時株価が反発したが、問題だらけの株価対策にたちまち失望売りが浴びせられている。
<森訪米「時間の無駄」>
問題は、この重要な危機的情勢に対応できる政治体制が存在し得ていない、むしろ危機を深化させているという深刻な事態である。世界同時株安の連鎖的波及で日本問題が急浮上してきた3/13、コメントを求めるマスコミに森首相は「お話はしない」と一言、まるっきりすねた子供のダンマリを決め込み、緊急対策の必要性にも思いが及ばず、その夜には自粛だったはずの高級料亭の宴席に繰り出し、遊びほうけ、飲みほうける始末である。与党3党はこんな首相を担いで不信任案を否決し、訳の分からない「総裁選前倒し」というだけの辞意表明でお茶を濁し、首相本人は辞任など言った覚えはないと開き直り、それは「マスコミが書き、報道されていること」、「言わないことを言えといったって、それは無理な話だ」とはぐらかし、真顔で「(森政権は)死に体とおっしゃられたが、この通り極めて健康体だ」と茶化し、おどけて何の恥じらいさえ感じないありさまである。
3/14付ニューヨーク・タイムズは「政治と経済が同時にメルトダウンしている日本」の苦境と混乱、無能ぶりを掲載、その中で「森首相と会談するのは時間の無駄。だが外交儀礼は必要」とのホワイトハウス当局者のコメントを紹介している。英エコノミスト誌は「日本の森首相は辞任すべし」という特集を組み、「ミスター森が総理の座にいる限り、日本は困難と災難に巻き込まれるだろう」「人々が記憶する限り、ミスター森は史上最低の首相である」とまで酷評している。
ところが森首相本人は、3/19の訪米に引き続き、25日の訪ロ、4/21の首相主催の“桜を見る会”や24日の叙勲の閣議決定、5月ゴールデンウイークのアフリカ訪問まで計画しているという。
<「負の悪循環」>
日本経済のデフレスパイラル、物価下落→企業収益の悪化→倒産・失業の急増→個人消費の悪化→物価下落がようやく認識され出し、政府も認めざるを得なくなってきたのであるが、この「負の悪循環」の最大のものが実は政治そのものであり、自公保3党連立政権の存続そのものがデフレスパイラルを引き起こしているともいえよう。
3/5の、森内閣への不信任案を否決した国会の茶番劇は、腐敗・堕落したこの国の政治を典型的に象徴している。表の国会議場で信任しておいて、その直後からすぐさま引き摺り下ろす算段に全精力を傾ける、この国の政治は完全に“密室政治”を公然と横行させても平然としておられるほど腐敗・堕落しきってきたのであろう。野党がこのような事態の横行を許し、国会審議に応じ、決め手も迫力も欠いた質疑に終始し、与党の日程に野党が引きずりまわされ、審議拒否も出来ずに予算審議に付き合っている姿はあわれでさえある。本来なら現政権を葬り去る絶好のチャンス到来である。野中か小泉か、暫定政権か大穴政権かといったのんきな論議が出来ない事態に追い込める対抗政権構想を明示し、直接大衆に訴えかけ、組織し、現政権打倒の行動にこそ立ち上がるべきであろう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.280 2001年3月24日