【投稿】住専問題の混迷と「追加措置」

【投稿】住専問題の混迷と「追加措置」

<<「政府案に賛成」はたったの1%>>
住専をめぐる国会の状況は正に泥沼化した日本の政治情勢を象徴しているかのように見える。朝日新聞が3/11,12に行った緊急全国世論調査によれば、政府の住専処理案には54%が削除、21%が凍結を求め、政府案支持は12%にすぎない。国会審議についても88%の人が「まだ不十分」とみなし、橋本内閣支持率は2ヶ月前の61%から36%へ急落し、不支持率は20%から43%へ急増しているのである。同時期に行われた日経の調査でもほとんど同一の結果が出ている。
回答者の94%が「政府は説明不足だ」と言い、87%が税金投入に反対しており、NHKの調査では「政府案に賛成」と答えた人はたったの1%という事態である。京都市長選の結果はその端的な現れでろう。対立候補が共産党より幅広く柔軟性があれば、完全に逆転していたであろうことは間違いない。
これを受けて立つ側の政府並びに与党3党は、今やなすすべもなく、方向転換もままならず、橋本首相に至っては「国民になお理解されていないことを知りながらも、この道しかない」と、事態の成り行きを傍観しているにすぎない存在と化している。そして国会議決の最終局面にいたってあたふたとまとめた「追加措置」が、さらに事態を悪化させたともいえよう。朝日の調査によれば、この「追加措置」についても、「評価しない」が73%で、「評価する」は13%にすぎなかったのである。一方、住専問題での新進党の印象変化について、「よくなった」が9%に対して、「悪くなった」が28%という結果は、彼らの表面上の変化が見透かされているともいえよう。

<<まやかしの「追加措置」>>
問題は、3/4に発表された「追加措置」である。これは、政府の住専処理策のいいかげんさ、泥縄ぶりをよりいっそうきわだたせた。「追加措置」によれば、民間銀行と系統機関は、今後7年間のリストラ等によって収益を増やし、それぞれ法人税について約5000億円と約1800億円の納税増加を図り、6850億円の財政支出分を穴埋めする、というものである。6850億円という数字へのまったくのつじつま合わせである。
今回の住専処理策の柱は、農林系統金融機関の負担から「系統機関の負担の限界」と称する5300億円を差し引き、残りの部分に6850億円の財政資金を投入するというものであった。ところが「追加措置」によれば、その系統機関が実は今後7年間のリストラで6000~7000億円もの収益を増やし、1800億円もの納税増加を図れることとなり、そもそも今回のような住専処理策の必要性がなくなってしまうのである。納税増加云々以前に、6000~7000億円の収益増加分を、住専処理の負担にまわせば解決してしまい、「負担の限界」は5300億円から、一挙に1兆1300億~1兆2300億円になってしまう。つじつま合わせの馬脚がはしなくも暴露され、自ら墓穴を掘って、政府案そのものを破綻させたともいえよう。

<<自作自演の「金融不安」>>
政府、大蔵省は口を開けば、「農協系が破綻する」、「周辺金融機関にも波及し、金融システムが崩壊する」などとむしろ金融不安を自ら煽り立ててきた。3/9に開かれた社民党大会では、地方組織代表が「こんなに不評の住専処理策を通したのでは、総選挙が戦えない」「凍結を大胆に提案してほしい」「世論の反発は消費税以上」「国民世論はわが党に非常に厳しい。50年培ったすべてを失いつつある」と訴えたのに対して、佐藤幹事長までが「このまま放置すると、農協や金融機関がばたばたつぶれる。皆さんの預金は返ってこない。凍結論を受け入れるわけにはいかない」と危機感を煽っている。
しかし昨年来の事態の推移が明らかにしたことは、金融不安はむしろ政・官・財一体となった護送船団方式が今や破綻しており、それを無理矢理取り繕う責任回避と泥縄式後追い行政こそが作り出しているということである。そしてこうしたことが続けられる限り、確かに金融不安は拡大するであろう。不良債権は一部信用組合や住専だけではないし、むしろこれから浮上するであろう二次損失、ノンバンク系を含めると膨大な額に膨れ上がる現実的可能性が存在している。
しかし「追加措置」が明らかにしたように、空前の低金利で今や潰れかかっていた金融機関までが息を吹き返し、住専の母体行など大手21行は4兆円を超える史上空前の業務純益を出している。農協系金融機関についても、6850億円程度であれば、自己資本が6兆円もあり、預金量が30兆円ともいわれる農林中金が十分負担できる額で、それだけをとってみれば金融不安など起きるはずがないのである。

<<「どういう経緯で決まったか知らない」>>
ことここに至って、久保蔵相までが「農林系の負担がどういう経緯で決まったか知らない」と言い出している。とすれば久保蔵相は事態の真相を徹底的に追及し、その責任をも含めて公開すべきであろう。大蔵省と農水省が3年前に交わした「密約」、農協系金融機関が住専に貸し込んだ元本を保証する覚書、これらは課長や局長レベルの法的にも越権行為であり、実際、蔵相にも報告されなかった。もちろん、内閣、国会に対しても秘密にされた。「場当たり」「ルール無視」「秘密主義」「密約の断行」が、今回はしなくも公然化したのである。公然化せざるを得ないほど、窮地に追い込まれたとも言えよう。同時に政治の無力さ、政党のふがいなさもきわだたせた。同じく官僚達が隠し通そうとしていた薬害エイズの責任、加害者の責任をきわだたせた菅厚生大臣とは対照的である。
住専問題での加害者は、日銀・大蔵省・金融資本が一体となった日本の金融行政そのものであり、その弊害と腐敗の必然的な結果なのである。そしてかれらの独占支配・情報非公開・「護送船団」方式こそが日本の金融不安をもたらしているのである。国会運営の混迷はあきれるばかりであるが、この際、政府案を全面撤回して、大蔵省の分割・解体を含めた日本の金融行政の分権自治・情報公開・民主的コントロール方式への大胆な転換こそが真剣に論議されるべきであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.220 1996年3月23日

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