【投稿】中台緊張と日本—「台湾海峡波高し」—
3月23日の台湾総統直接選挙をピークに、近辺地域の軍事的緊張が高まった。
中華人民共和国は昨年秋以降、対岸の福建省や近隣海域で、大規模な軍事演習を繰り返し、台湾に対し恫喝をかけ続けている。
こうした一連の軍事力によるデモンストレーションのクライマックスとして、3月8日からのミサイル演習と引き続く実弾演習、上陸演習が展開された。
こうした中国の度を過ぎた一連の行動に対して、台湾も昨秋から軍事演習を展開し、3月に入ると、最大限の警戒体制を敷いた。そして、アメリカも空母2隻を中心とした艦隊の派遣で、中国への「警告」を発している。
純軍事的に見るならば、よく指摘されているように中国は量的には軍事大国であるが、個々の兵器の質などを見れば、未だ近代化の途上であり、本質的には中越戦争の水準にあると考えてよい。
そのことからして現在、中国軍の台湾上陸作戦成功の可能性は、ほとんど零に近いし、中国軍もそうした自滅行為に走ることはないであろう。
考えられる最大限の行動は、台湾本島への限定的なミサイル攻撃か、金門島などへの侵攻であるが、いくら抑制されたものであるといっても、軍事力の行使には違いはないのだから、周辺諸国にとっても黙認できるるものではない。
対応せまられる日本
この周辺諸国にはもちろん日本も入るのであって、3月8日からのミサイル演習時には、台湾と日本を結ぶ空路が変更されたし、基隆近海のミサイル着弾地域東南端と沖縄県与那国島との距離は、わずか六十キロなのだ。
こうした中国の行為は、直接日本を対象としたものではないが、尖閣諸島という火種を抱えた日本が、まったく中国の意識の外であるなどとは、考えないほうがよい。
しかし、あくまでも公海上の通常=非核軍事演習であり、中国と台湾の問題である限り、日本政府としては、不快感の表明や、自制を求めることはできても、それ以上のことはできないだろう。
ただ今後も、こうした軍事演習が度重ねられ、漁業や通商に深刻な影響が生じた場合には「厳しい抗議」や「経済制裁」、そして、先島の住民が大さな不安を抱いた場合は、よりエスカレートした行動をとる必要に迫られるだろう。
先の大戦時、日本軍は、米軍が上陸するのは沖縄より台湾が先と考え、防御も台湾の方が厳重だった。しかし、実際は沖縄が戦場になったのに対し、台湾近辺の島々は戦禍からまぬがれた。
そうした海域への軍事的プレゼンスは慎重を期さなけらばならないし、現実的にも、当初は海上保安庁の任務となるだろう。すでに10数年前、尖閣諸島を巡って、一時中国との摩擦が表面化した時、直ちに近海へ巡視船(といっても、40ミリ機関砲とヘリコプターを搭載、臨検要員は自動小銃で武装した、実質上のフリゲート艦である)が派遣された。
しかし、小規模でも中台の交戦が行われた場合は、米軍とは別に、軍隊である自衛隊が警戒体制を敷かざるを得ない。その場合でも、九州、沖縄に配置された部隊の運用で事足り、大規模な動員、陸自にあっては師団単位の連用も不必要だろう。そしてこれらはあくまで、一部で主張される米軍の後方支援と遠い、独自の、領土、領海内の行動であるので、憲法や集団的自衛権問題の制約は、受けないのである。
ところが、このような行動を進めるにあたって、最大の障壁となるのが、政権与党である社民党の対応である。社民党はただ「穏便に」と唱える以上の、提起も行動もしていない。中国共産党を未だに友党だと思っているなら、北京に乗り込んで忠告くらいすれば良いのである。
中国にしてみれば、香港への庄力にしても、今回の台湾問題にしても、失地回復の一環である、との思いであるし、国内の分離独立や民主化への威嚇でもあるのだろう。
しかし、それはやはり時代錯誤であって、非混住型多民族国家=「帝国」は解体の流れにあるのである。
日本も過去の経緯を踏まえたうえ、有効なメッセージを送るべきであり、「大地の子」の感動とは別問題なのである。 (大阪 0)
【出典】 アサート No.220 1996年3月23日