青年の旗 1987年9月1日 第127号
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【主張】 平和共存、反独占の予算国会包囲の闘いを職場・地域から!
—来年度予算概算要求決定—
<63年度予算の概算要求決定>
政府は七月三一日の閣議において、63年度予算の概算要求基準(シーリング)を決定した。一般歳出のうち、経常的経費は、五年連続で対前年比マイナス10%の枠を続けることになった。しかし、防衛費、政府開発援助費(ODA)は、例外的措置として扱われ、前者は六・二%増、後者は八・六%増の要求枠を認めこれまで通り優遇されている。一方、投資的経費は、五年ぶりにマイナス五%のシーリングを撤廃し、公共事業費は、事実上、前年比二〇%増となる。
そして、それを受けて、63年度予算の概算要求が、八月二二日締め切られた。その内容は、財政再建の旗を降ろすこともできずに、貿易黒字の累積を背景とする海外からの内需中心型の経済政策への転換の圧力の中、わずかにNTT株の売却益を財源とする公共投資の増加によって、積極財政へのポーズをとるという極めて不安定なものとなっている。
<公共事業型予算編成の中味>
一般会計の要求総額は、今年度当初予算比十二・五%の二ケタ増で、六〇兆八七〇五億円となり、初めて六〇兆円台にのせた。大平内閣の一般消費税導入が不発に終わった直後の55年度以来、実質横ばいを続けてきた公共事業の総要求額は、前年度比一六・四%増の約七兆八〇〇億円に達し、公共事業型予算編成の方向が一段と鮮明になった。
しかしながら、このことはNTT株売却収入を活用する一兆円の別枠要求が加わったため行えたものであり、「生活大国実現のため、21世紀を見すえた社会資本の整備」を基本理念とするところから、編成されたものではない。というのも、公共事業費は大幅に増加しているものの、その財源は「臨時・緊急の措置」である株の売却収入を活用しようとする考えであり、しかも、事業分野別要求額シェアは、従来とほとんど変わっていないからである。明確なビジョンに基づいた公共事業費の大幅増ではなく、緊縮財政下で加速された各省各局間の「既得権益固定化現象」を改めて浮き彫りにした。つまり、この期に及んでも今なお、既得権擁護の、独占のための公共事業を推進していく予算編成にすぎないのである。
<GNP比一%枠撤廃後の防衛費>
公共事業以外の項目を抑えることで、財政再建の旗印は守りたいという予算編成になっていると報道されているが、その一方で「対外配慮を重視する」という名目の下、はるか遠くまで見通せるOTH(超水平線)レーダーの設置や、最新鋭対空ミサイルシステム搭載のイージス艦の新規導入を盛りこんだ防衛費が、六・二%増、三兆七三五四億円の概算要求となっている。「防衛白書」で示されていた、初の本格的防衛体制ともいえる洋上防空体制の具体化が、予算要求面でも明確になっている。
GNP比一%枠が撤廃され、防衛力整備の新たな指針として、「総額明示方式」が打ち出されている。一月の閣議決定は、中期防衛力整備計画の期間中(86~90年度)の年度防衛費は、同計画が定める所要経費の枠内で決めるとしているのだが、この方式を91年度以降も採用していくというものである。五ケ年の所要経費を決めることが、GNP比一%枠にかわる新たな歯止めとなるはずがない。五ケ年計画は、政府が防衛力整備の目標と段取りを恣意的に決定できるものでありこれを政府決定として固定化することは、防衛費の先取りと聖域化をもたらすことになる。総額明示方式は軍拡目標を示すものにすぎない。
軍事に金をつぎ込むことは、再生産には一切貫献しないばかりか、マルクスが述べているように「海に金塊を捨てる」ようなものである。日本帝国主義が、平時においても軍需生産が日常的随伴物となる、帝国主義の最も腐朽的な性格を前面に出してきていると言えよう。そして、むしろこれまで他の帝国主義との闘争において有利な条件であったものを、自ら投げすてるものでしかない。
<生活関連予算の削減と膨らむ国債費>
こうした条件の下で、福祉・教育・社会保障関係の予算は、徹底的に削り取られている。年金、医療費などの当然増経費のため、来年度の社会保障費は、今年度七千億円増となるが、概算要求基準で四四〇〇億円しか、大蔵省は認めていない。差し引き不足分の二六〇〇億円について、財政当局は、老人の長期入院などを見直すことによって国庫負担を減らしたい意向であり、今後さらに年金・医療費を中心に削減されるのは必至の情勢である。
さらに今回より一層明瞭になったことは、国債費が一五兆四二〇〇億円、実に三六・一%増と、概算要求総額の約四分の一を占めていることである。この点において最も重視すべきことは、国債費の約七〇%、年間約十一兆円もの金が、金融・産業大独占資本に利子の支払いとして取り込まれていることである。緊縮財政のもとで、これら金融資本が最大の不労所得を得て円高不況のもとで最も不生産的な国際的金融投機に金をつぎこんでいるのである。
<政策論争の展開を>
社会党は「新宣言」を具体化し、円高・土地高騰などの現状から転換する二十一世紀プランとして策定していた、総合政策体系「もう一つの日本と世界」(二一世紀への社会経済転換計画)が、九月四日まとめられた。内容は、積極型財政を計画的に展開し、成長経済の中で財政再建を達成する。そして、下水道や住宅、大規模リゾート地の充実などの「生活財」倍増プランを、第一次五ケ年中期計画の課題とするものである。
今後、大蔵省は概算要求を、「六五年度をメドとした赤字国債依存脱却の原則は崩さない」との考えから一般歳出や国債費を厳しく見直し、五六兆円台にまで削減する方針である。どの予算が削られ、どの予算が認められるかは、勤労者を中心とする全ての反独占勢力の統一した闘いの強化が求められる。
具体的対案を提起し、それをもとにした国会包囲に結びつく、地域・職場での闘いが、今こそ求められている。