<<対中・100%関税を追加>>
10/10、トランプ米大統領は、自らのSNSに中国がレアアースに関する輸出規制を強化しようとしている、「陰湿で敵対的な動きだ」と批判し、既に適用されている30%の関税に加え、中国からの輸入品に対して100%の追加関税を課し、より厳しい輸出管理を表明。発動の時期は11月1日、もしくはそれ以前だ、と対中貿易戦争再開の脅しを明らかにした。
さらに、トランプ大統領は記者団に対し、10月31日から11月1日まで韓国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に予定されていた中国国家主席との会談をキャンセルしたわけではないが、「再検討している」、習近平国家主席と会談する「理由はない」とまで述べ、これまで半年近くにわたって休戦状態(中国は米国からの輸出品に対する関税を125%から10%に引き下げ、米国は145%から30%に引き下げていた)が続いていた米中貿易戦争を、大幅にエスカレートする脅迫姿勢を鮮明にしたのであった。
10/12、これに対し中国商務省は、追加関税の脅しは「典型的な二重基準の例」だと非難し、アメリカが「長い間」、「国家安全保障の概念を拡大解釈し、輸出規制措置を乱用」して、「中国に対して差別的な慣行を採用してきた」と主張。トランプ氏がこの脅しを実行すれば中国は不特定の「対抗措置」を取る可能性があると警告し、中国は貿易戦争の可能性を「恐れてはいない」と表明したのであった。
商務省はまた、レアアースの新たな規制を「正当な措置」とし、最近の緊張の責任は米国側にあると主張。9月にスペインで行われた直近の協議以降、トランプ政権が複数の中国企業を輸出管理リストに追加するなど一連の制限措置を講じたことを指摘し、米国に対し、脅しではなく、交渉による解決を強く求めているのである。
10/10、米金融市場は直ちにこれを悪材料と判断、軒並み大幅な下落を記録、発表前に792ドルで取引されていたゴールドマン・サックスの株価は、トランプ氏の投稿から数分後に3.4%下落し、765ドルとなった。
銀行(KBW)指数は4.0%下落し、地方銀行は5.5%下落。「プライベート・クレジット」株は、このニュースに特に敏感に反応、KKRは序盤の取引で上昇したものの、その後5.5%下落した。アポロは4.2%、ブラックストーンは5.0%、アレス・マネジメントは5.2%下落した。
さらに、大手ハイテク株は信用不安の高まりに過敏に反応、軒並み、大幅な下落となった。MAG7指数(「Alphabet(Google)」「Apple」「Meta Platforms(旧Facebook)」「Amazon」「Microsoft」「NVIDIA」「Tesla」の7銘柄)は金曜日の取引で3.8%下落し(週間では2.7%下落)、4月16日以来の最大の下落率を記録。テスラは5.1%、Amazon.comは5.0%、NVIDIAは4.9%、Metaは3.9%、Appleは3.5%、Microsoftは2.2%、Alphabetは2.1%下落。NVIDIAの下落率は4月16日以来最大であった。
ダウ工業株平均は1.9%安、S&P500は2.7%安、ハイテク株中心のナスダックは3.5%安、アメリカの主要500社を追跡するS&P500種株価指数は2.7%下落して取引を終え、今年4月以降で最大の下げ幅を記録。仮想通貨市場は、文字通り、暴落している。日経平均先物も下落し 夜間取引で2420円安の4万5200円で終了した。
米シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P500株価指数を対象とするオプション取引の変動率(ボラティリティ)をもとに算出し、公表している、株式市場の「恐怖指数」として知られるVIX指数も、20を超えて、21.34に急上昇、危険信号を発している。
<<「中国のことは心配しないで、大丈夫だ! 」>>
ニューヨークの全国女性組織のメラニエさんは「トランプの中国に対する新たな100%の追加関税は、米国の平均的な世帯に最大2600ドルの負担をかけるでしょう。トランプは、ホリデーシーズン直前に、電子機器、おもちゃ、スニーカー、衣類、家電製品などを2倍以上の価格でアメリカ人に支払わせようとしています。これこそが本当の『クリスマスへの戦争』です」と投稿している。
こうした事態の進行に最も驚いたのは、トランプ氏本人であった。
10/12、慌てふためいたのか、トランプ氏はTruth Socialへの投稿で、冒頭、「中国のことは心配しないで、大丈夫だ! 」と述べ、「尊敬を集める習近平国家主席は、今まさに最悪の局面を迎えた。彼は自国が不況に陥ることを望んでいないし、私も望んでいない。アメリカは中国を助けたいのであって、傷つけたいのではない!」と書き込んだのであった。脅迫的発言から一転して、不本意ながらも融和的なおもねる姿勢を示し、事態を鎮める必要から、トランプ氏本人が弁解せざるを得ない事態に追い込まれてしまったのである。
またもや「TACO取引」=「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも土壇場で尻込みする)」の登場かと揶揄される事態であり、しかも今回は、これまでで最も速いTACO反転となってしまったのである。
今回の、トランプ政権の対中貿易戦争再開の脅しと、その後の事態は、結果として何を示唆しているのであろうか。
* トランプ大統領が提案した中国からの輸出品に対する100%関税は、単なる貿易戦争以上の事態、流動性危機やデリバティブ市場の崩壊など、世界的な金融ショックを即時に引き起こす可能性があることを明らかにした。
* 中国は世界のレアアース採掘量の約70%を占め、世界の処理能力の約90%を掌握している現実は、脅しや封じ込めではなく、対等平等な交渉によってしか成果が得られないことを明らかにした。
* 消費財、部品、機械製造、レアアース、テクノロジーに至るまで、米国は中国を必要としており、中国は米国を必要としている以上に中国を必要としていることをも明らかにした。
* 米国一極支配に対する、中国やロシア、BRICS+諸国の潜在的な報復は、米国の経済崩壊と世界的な地政学的再編を引き起こす可能性が、事実上、確実に進行していること、米国一極支配はすでに非現実化していることを明らかにした。
* 当然、ドルの準備通貨としての地位は大きく崩壊する可能性を示している。
* 脱グローバリゼーション、アメリカファーストの保護主義政策、連邦政府によるレイオフ、そして破壊的な関税政策は、市場の混乱を引き起こし、AIバブルに支えられた楽観的な見通しを覆す事態をもたらした。
トランプ政権の、中国製品への100%関税の脅しは、トランプ政権自身へのブーメランとして跳ね返り、その政治的経済的危機をより一層激化させ、「アメリカは中国を助けたい」どころか、まかり間違えば、アメリカ経済崩壊の引き金となる可能性があることを明らかにしたのだと言えよう。
(生駒 敬)