【投稿】上海協力機構首脳会議と抗日戦勝80周年記念式典―日本はどこへ

【投稿】上海協力機構首脳会議と抗日戦勝80周年記念式典―日本はどこへ

福井 杉本達也

1 天津で上海協力機構首脳会議

中国・天津でSCO(上海協力機構)の首脳会議が開催され、24カ国と9国際組織の首脳が参加した。注目はロシア、中国、インドの結束である。9月1日付けの日経新聞は「中印『対トランプ』で協調演出」との見出しで、習近平主席とナレンドラ・モディ印首相の会談を「両国は202 0年、国境係争地で軍事衝突し関係が悪化したが、一方的な関税引き上げを繰り返すトランプ米政権に対抗する思惑から接近。関係を発展させる姿勢を演出した。」と報じた。また、ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相が同じリムジンに乗って移動するなど親密さをアピールした。

インドはこれまで、アメリカ、オーストラリア、日本とクワッドを編成、軍事的な連携を強めているように見えたが、トランプ関税の圧力がかえって、アメリカの服従することを拒否した。トランプ政権のインドに対する圧力は逆効果となった。トランプ大統領は年内にインドを訪問する計画をキャンセルせざるを得なくなった。

8月28日、「英海軍の空母『プリンス・オブ・ウェールズ』が東京国際クルーズターミナルに入港した。海上自衛隊などと共同で訓練し、米軍横須賀基地(神奈川県)で整備を受けた。海洋進出を強める中国を念頭に、英軍の主力装備が極東アジアで活動できる能力を示した。」(日経:2025.8.30)。5月にスエズ運河からインド洋に入り、マラッカ海峡を抜けて日本に来たものだが、中国のエネルギー供給ルートを遮断する目的を持っていると思われるが、肝心のインドが中国に接近する中では、浮かぶ棺桶となろう。

一水会の木村代表は「米国の流れに引きずられて、日本が過度に敵対的になることは、国益を失います。上海協力機構に参加する国々は日本の周辺に多く存在しています。ロシアや中国、さらにインドという国々がこの機構にいるわけですから、地政学的な視点とそれらの国々の経済発展の流れを我々も受け止めて見なければなりません。」「私の視点で言えば、米国との関係を強化するだけではなく、上海協力機構にも足場を築く必要があり、同じような間隔で見ていくということも必要です。日本は主体的に戦略を考えていかなきゃいけない。政治においても、経済においても、さらには文化においても、戦略的に考えていかなきゃいけないと思います。」と語っている(Sputnik日本2025.8.3)。

 

2 「抗日戦争勝利80年」記念式典

中国は9月3日、北京市中心部の天安門広場周辺で抗日戦争勝利80年を記念する軍事パレードを実施した。式典にはロシアのプーチン大統領・北朝鮮の金正恩総書記、そして、プーチン氏の横にのプラボウォ・インドネシア大統領が首都が騒乱状態であるにもかかわらず駆け付けた。マレーシア首相夫妻も出席。韓国は国会議長を派遣。台湾最大野党の国民党の洪秀柱元主席も出席した。イラン大統領も出席した。しかし、日本は出席どころか他国に出席しないよう工作した。これは日本が日中戦争の誤りを受け入れないというメッセージを中国側に送ったことになる。日本外交の大失態である。鳩山由紀夫元首相が列席したのはせめてもの救いである(日経:2025.9.4)。鳩山氏の出席を邪魔しようとした国民民主党の玉木雄一郎は完全に米ネオコンの使い走りである。

ところで、今回、金正恩氏が習近平氏・プーチン氏と演壇に並んだということは、北朝鮮が世界の孤児から国際的表舞台に完全に復帰したことを意味する。これは、朝鮮戦争の終結にも影響する。これに対し読売新聞は「中国とロシア、北朝鮮の首脳が北京に結集し、米国に対抗する姿勢を誇示した。戦後80年にわたって世界の安定を支えてきた国際秩序の転換を図る試みにほかならない。」としつつ、「戦後の国際秩序を主導してきた米国の影響力が相対的に低下したことが、中露朝を勢いづかせているのは間違いない。特にトランプ大統領は『米国第一』を掲げ、自由貿易や法の支配を軽視する姿勢が際立っている。高関税政策で同盟・友好国に厳しい要求を突きつける一方、ロシアや北朝鮮などの独裁的な指導者との『取引』にも前向きだ。」(読売:2025.9.4)と書いている。戦後80年たっても、過去の侵略を「反省」もせず、アジア大陸諸国や東南アジア諸国に背を向け、孤立を深めるのは日本ではないか。

 

3 都合の悪い過去の敗戦の歴史を消そうとする日本

日本は第二次世界大戦をいつ終えたか。日本が戦っていた相手の首脳、英国のチャーチル首相、米国のルーズベルト大統領、ソ連のスターリン等は1945年9月2日の降伏文書に日本側、連合国側が署名した時を持って敗戦という。したがって、中国は翌日の9月3日に「抗日戦争勝利80年」記念式典終戦記念日を行ったのである。「8月15日」というのはごまかしであり、トリックである。戦争には当然相手がある。相手が正式に認めもしていない日を持って戦争が終結するわけではない。「敗戦」を「終戦」という言葉に置き換え、80年も経過してしまったのが現在の日本である。

石破茂首相は、戦後80年を踏まえた先の大戦への見解に関し、日本が降伏文書に調印した9月2日の表明を見送った。これまで、国際法的に戦争が終結したのは1945年9月2日だとたびたび言及していた(福井:2025.9.3)。石破首相は言葉にしたことを一つも実行することなく、9月7日には辞任を表明し、侵略戦争を肯定する保守層の圧力に屈してしまった。

保阪正康は「終戦と敗戦という言葉の混乱は、日本人が戦争を理解するある種の知的な能力を持っていなかったことの証拠」であるとし、「大衆は二重、三重に」・「戦争中もなめられ、戦争が終わったときもなめられ、戦後もなめられ」ている。「日本人はこうした状態から抜け出て、自立していかなければならない」と書いている。これに白井聡は「米中対立が対決にまで発展するかもしれない」、「実際に武力衝突ということになると、日本は強制参戦することに」なると応えている(『「戦後」の終焉』白井聡×保阪正康:朝日新書:2025.8.30)。

 

4 シベリアの力Ⅱ

9月2日、ロシア、中国、モンゴルの三カ国3カ国は「パワー・オブ・シベリア2(POS2)」パイプラインに関する法的拘束力のある覚書に署名した。全長約2,600km、推定費用約136億ドルのこのパイプラインは、年間500億立方メートルの天然ガスをモンゴル経由で中国北部の工業地帯へ輸送する。「検討中の米中LNGプロジェクトにとって、これは大きなマイナスとなる。長期的な成長のために米国のLNGは必要ないという中国政府から米国政府へのシグナルとして捉えており、両国関係が悪化する中で送られたメッセージである」(RT:2025.9.2)とブルームバーグは書いた。単価の異常に高い米国産LNGなど一考に値しない。ましてや、日本が5500億ドルの投資の一部でアラスカ産LNGに参画するという投資詐欺とは比べようもない。

日本もそろそろインドの様に米国と縁を切る時期に来ている。サハリン2やアークテック2の事業を推進すべきである。サハリンから海底パイプラインで北海道を経て本州まで運べはガスの価格はLNGの1/3である。エネルギー価格は劇的に下がる。当然、ガス火力発電による電気料も劇的に下がり、産業の国際競争力は大きく改善する。ドイツ経済の生産性が高かったのはロシアからの天然ガスパイプラインに依存していたからである。そのパイプラインの破壊を許したため、ドイツ経済はいまがたがたである。「ヨーロッパの⼤製造業⼤国であるドイツは、パンデミック以来停⽌しています。国内総生産は5年間停滞している。ドイツの実質企業投資は、ユーロ圏全体よりも深刻に落ち込んでいる。ドイツの実質家計消費は打撃を受けている。ドイツ政府は⻄側諸国の政策に奴隷的に従ってきた。ロシアからの安価なエネルギーへの依存を終わらせ、重要なノルドストリーム‧ガス‧パイプラインの爆破にも同意した。その結果、ドイツの家庭のエネルギーコストが⾼騰しました。しかし、ドイツ資本にとってより重要なのは、製造業者のエネルギーコストの上昇です。経済から⼒が消えた。ロシアから輸⼊された安価な化⽯燃料は、制裁とウクライナ戦争をめぐるロシアとの決別の⼀環として廃⽌された。アメリカ産の⾼価なLNGに 取って 代わられたため、電気代が⾼騰している。ドイツ商⼯会議所(DIHK)は 、『エネルギー価格の⾼騰は、企業の投資活動、ひいてはイノベーション能⼒にも影響を及ぼします。産業企業の3分の1以上が 、エネルギー価格の⾼騰により、現在、中核的な運⽤プロセスへの投資が減っていると述べています。』」(『CADTM』 マイケル・ロバーツ:2025.2.22)。防衛産業に軸を移しロシアとの戦争経済を推進するというが、またまた破滅への道を進むこととなる。

残念ながら、日本の与野党にはロシアとの外交を改善すると公約する政党は一つもない。対米従属に「安住」する政党ばかりである。

カテゴリー: 平和, 政治, 杉本執筆, 歴史 パーマリンク