【投稿】安倍1強政治のおごりと民主主義の危機 統一戦線論(50)
<<「憲政史上最悪の国会」>>
7/22に閉会した通常国会、その約半年間にわたった国会論議が事実上幕を閉じる最終日の7/20の衆院本会議で、立憲民主党の枝野氏は「この国会は民主主義と立憲主義の見地から憲政史上最悪の国会になってしまった」と、野党6党・会派で出した安倍内閣不信任決議案の趣旨説明を、不信任の理由は「数え切れないほどある」として2時間43分にわたって行った。そして同じ日、参議院参議院本会議場では、自由党の山本太郎、森祐子、両参議院議員、参院会派「沖縄の風」の糸数慶子氏ら3議員がカジノ実施法の採決の際、揃って「カジノより被災者を助けて」「カジノより学校にエアコンを!」などと書かれた垂れ幕を壇上で掲げて抗議。議事を妨害したわけでもない、有権者に分かりやすいアピールをした、議長自身も下を向いてやり過ごしていた、その行為を、伊達忠一参議院議長は、懲罰に値するとして参院懲罰委員会に付託することを決めたという。「合区」対象選挙区で公認漏れした自民党現職議員の露骨な救済策、党利党略丸出しの参院定数を6増する公職選挙法改正案の強行採決に続く暴挙であった。ろくに審議もしないで採決だけを強行する議長、安倍政権こそが懲罰の対象として糾弾されるべきところである。
数をたのんだ安倍政権の横暴の数々。年初来、学校法人「森友学園」「加計学園」を巡る問題で、公文書のねつ造、改ざん、廃棄、「ない」とされた文書の「発見」、答弁のうそが明らかになっても開き直り、うそにうそを積み重ね、誰も責任を取らない。疑惑がいよいよ動かし難くなってもシラを切る。過労死を招きかねず、大量のデータねつ造で立法根拠まで破たんした「働き方」改悪法も強行採決で突破。「成長戦略のため」などというごまかしが全く成り立たない、そもそも刑法が禁じる賭博を合法化し、ギャンブル依存症患者を増やすカジノ法まで強行採決。道路や鉄道、堤防が決壊した河川を所管する公明党の石井啓一国土交通相がカジノ法案にしがみつく姿は醜悪でさえある。かくして、モリカケ、ねつ造、改ざん、隠ぺいから始まってカジノに賭け、災害対策より賭博を重視する悪法オンパレードのとばく場と化した国会であったとも言えよう。
7/22付朝日新聞・社説は「安倍1強政治の果て 民主主義の根腐れを憂う」と題している。憲法が「国権の最高機関」と定めた言論の府の惨状は、「民主主義の根腐れ」の場と化し、国会のとばく場化が「憲政史上最悪の国会」をもたらしたのである。
もちろん、その間に緊張激化と軍拡のために北朝鮮の「脅威」をあおり、史上最大の5兆円超の軍事予算を計上する一方で、社会保障費を容赦なく削減している。
<<「赤坂自民亭」>>
すべて数で押し切り、安倍政権の横暴がまかり通り、国会が閉幕して、安倍首相はしてやったり、逃げ切れたとほくそ笑んでいることであろう。次は、三選だ、そして何としても改憲発議を可能にさせる、と。7/20の記者会見では、改めて改憲への意欲を強調し、自民党総裁選での争点化にも言及している。しかし、事態はそう甘くはない。
すでにこれまでも、これでいよいよ安倍政権も崩壊か、辞任に追い込まれるかという事態は何度かあった。内閣支持率が30%を切るまでの事態を招いていた。それども何とか持ちこたえ、支持率は下げ止まり、今はやや上昇の傾向さえ見せ、内閣支持率は平均40%以上を維持している。
しかし、今国会が召集された1/22、安倍首相は自民党の両院議員総会で、「結党以来、憲法改正を党是として掲げ、長い間議論を重ねてきた。いよいよ実現する時を迎えている」とその固い決意を披歴し、本来なら、今国会が憲法改正の発議へ踏み出す場になるはずだったのである。改憲派の議席が両院ともに3分の2を超えている千載一遇のチャンスにもかかわらず、その意気込みはとん挫し、会期中の発議を狙った改憲案づくりは宙に浮き、今国会中の憲法審査会の開催は、衆議院ではわずか2回、合計6分弱でしかなかった。今国家最終盤、1か月余の会期を延長してなお、憲法改正原案の発議はできなかったのである。改憲反対の世論の広がりと国会を取り巻く波状的な運動の高まりを前にして、その目論見は阻止されてしまったのである。
安倍政権にとってのもう一つの読み違え、誤算は、朝鮮半島における歴史的な南北首脳会談、そして米朝首脳会談の実現であろう。そのキャンセル、緊張激化をもっとも強く望んでいた安倍政権にとって、意外な展開が次々と生じ、米韓合同軍事演習の中止から、さらには次の緊張緩和の事態が提起されかねないことは、安倍政権の改憲戦略、軍事化路線にとっても重大な阻害要因になりかねない。すでに地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備は、配備が予定された山口県と秋田県で、地方自治体の協調を求めたが、「配備は納得し難い」という冷静な反応に直面し、秋田では「県民感情逆なで」問題として釈明に追われている。安倍政権にとっては予期もしないところから、その路線のほころびと破綻が襲いかかってくるわけである。
気象庁が厳重警戒を呼び掛け、11万人の避難指示が出ていた7/5夜、自民党議員が「赤坂自民亭」と称する宴会を開き、安倍晋三首相や小野寺五典防衛相らが参加してどんちゃん騒ぎを繰り広げ、7/8まで非常災害対策本部の設置もせず放置していた。この「赤坂自民亭」、麻原彰晃・オウム真理教元代表ら一挙7人の死刑執行の前日であり、死刑執行書に署名した上川陽子法相が「女将(おかみ)」、「若女将」を小渕優子元経済産業相らが務めている。日刊ゲンダイは「安倍 批判殺到 死刑に乾杯」と報じている(7/9付)。安倍政権のおごりと傲慢さ、そのあわてぶりが如実に見て取れる。
おごるもの久しからず、で次に何が起こるかは、権力者ほどわからないものである。
<<「いま日本共産党綱領がおもしろい」?>>
問題は、それに対抗する野党の姿勢である。足並みがバラバラで主導権争いやそれぞれの独自党勢拡大に精力を傾けている限り、有権者の飛躍的な支持の拡大など、ありえないことは自明である。世論調査での政党支持率をみても、野党第1党の立憲民主ですらこのところ一ケタ台後半にとどまり、国民民主に至っては0~1%以下という数字である(NHK 7/10:自民党 38.1、公明 2.7、維新 0.8に対し、立憲民主 7.5、国民民主 0.7、共産 3.1、自由党 0.3、社民党 0.4)。自民は、野党合計(12)の3倍以上である。
この事態を打開するカギは、大胆な統一戦線戦略への結集であろう。
自由党の小沢一郎氏は「2009年の民主党(が政権交代を実現した)選挙の時には70%の投票率ですよ。その後はずっと50%。20%の人が棄権している。2千万票だ。このうちの6~7割は野党へ投票する人たちだと見て間違いない。ですから、その票が加われば圧倒的な野党の勝利であり、政権交代になる。安倍内閣と基本の問題で対決していく野党が形成されないと、いつまでもこの安倍政権1強多弱の状況は続く。そういう思いで、何とか野党の結集を図っていきたい。」と述べている。(朝日、7/16付)
一方、共産党の志位委員長の講演(7/11・党創立96周年記念講演)は「いま日本共産党綱領がおもしろい」と題するものである。「私たちの綱領は、共産党だけで社会を変えるといった独善的な考えとは無縁です。社会発展のあらゆる段階で、思想・信条の違いを超えた統一戦線――共同の力で社会を変革することを大戦略にしています。」と、述べる。「共闘にこそ政治を変える唯一の活路がある」。ここまではその通りである。しかし問題は、「それでは、統一戦線を発展させる根本的な条件はどこにあるでしょうか。強く大きな日本共産党をつくることこそ、統一戦線を発展させ、綱領を実現する最大の力であります。」と、論理のすり替えが行われている。統一戦線発展の決定的条件が「強く大きな日本共産党をつくることこそ」に変わり、次の参院選では、「過去2回のような一方的な対応は行わない」「本気の共闘」「あくまで相互推薦・相互支援の共闘をめざす」ことを、党の方針として決めています、と述べる。またもやセクト主義的な独自の党勢拡大運動こそが決定的となる。これではこれまで通り、党勢拡大自体が先細りとなろう。そもそも、共産党に結集したり、支持するのは、すでに過去形となった「党綱領がおもしろい」からではなく、現実の党の政策が時代の要請、人々の要求に明確に応え、政治を変えていく力に展望を見出せる、「民主主義の根腐れ」を許さない、統一戦線を発展させることができる、そのような「おもしろさ」があるかどうか、大胆で現実の政治課題に臨機応変、敏感に対応しているかどうかにかかっている。党内民主主義の不在とともに、共産党にもさらなる猛省が望まれる。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.488 2018年7月