【投稿】暴投連発の安倍「全員野球」内閣
-総裁選、沖縄知事選で既に1アウト状態-
暑く長い9月終わる
9月20日行われた自民党総裁選は、安倍が3選を果たしたものの、石破の予想外の善戦により圧勝の目論見は崩れた格好となった。
国会議員票は安倍329票、石破73票と圧倒したが、それでも20票程度の「造反」が発生し、党員票に至っては224対181と石破に45%が集中した。
2012年の総裁選では「新人」同志の闘いであったため、党員票は石破が上回ったが、2015年には他者の立候補を許さないまでに、安倍の権力基盤は強固になったかに見えた。
しかし3年の間に森友、加計事件に代表される、腐敗堕落した政権の体質が露わになり支持率は低迷、経済政策でも地方、庶民置き去りのアベノミクスの本質が明らかとなって、党員の不満は鬱積していた。
大阪では安倍11813対石破7620と勝利したものの、地方議員の2連ポスターから、安倍の顔が消えると言う事態が現れている。大阪では安倍支持と維新支持が重なっており、旧来の自民党員は憂いているのが実情である。
沖縄でも安倍1753対石破1086であったが、投票率は38,94%と平均の61,74%を大きく下回り全国最低(全国最高は鳥取の83,38%)となり、故翁長知事を支持した保守層の自民離れと極右・カルト支配が露呈し、10日後に行われた知事選の結果に大きな影響を与えた。
安倍は開票後の記者会見で「党員票は前回の2,5倍だ」と虚勢を張った。しかし現職総裁が、災害対応を始めとする総理としての公務を蔑ろにしながら、恫喝、締め付けをなどなりふり構わない選挙戦を展開したにもかかわらず、圧勝できなかったことは「民意に対する敗北」と言っても過言ではない。
この結果にから目を背けるように、9月23日安倍は訪米の途に就いたが、本来なら総裁選勝利の余勢をかって、沖縄知事選の応援に駆け付けるべきであった。
しかし知事選は菅に丸投げ状態であり、6月23日の沖縄戦戦没者追悼式以降、訪れることはなかった。この時も安倍は県民から怒号を浴びたが、知事選で応援に入ればより厳しい批判を受けることに怖気づいたのだろう。
各種世論調査では「玉城リード」であり「捨てた」との評価もあるが、「僅差」「佐喜真が追い上げ」という状況の中、21日には鈴木宗男や「北海道女将の会」と面談する暇はあったのである。
「汚れ役」を引き受けた形となった菅は再三沖縄入りし、表では「携帯通話料4割値下げ」と低次元の利益誘導を行い、裏では建設業界、各種団体の引き締めに血道をあげた。
9月16日には「総裁選を忘れるぐらい」とアピールし、同行した小泉進次郎を前面に押し出したが、効果は無く来沖するたびに票を減らしたのではないか。同日引退した安室奈美恵の「翁長知事の遺志を受け継ぎ」という言葉の前には、耐えられない軽さとして空虚に響くのみであったと言える。
菅は17日には「沖縄に吹いている(政権からの)大きな追い風を受け止めのるは佐喜真」と石垣島で絶叫したが、相次ぐ大型台風の前ではシャレにもならなかった。
その台風24号の被災が続くなか行われた知事選の投票率は、63,24%と前回比-0,89ポイントの微減にとどまった。災害対応に追われつつ投票所に足を運んだ沖縄県民に敬意を表さなければならない。
台風、地震、厳しい残暑と相次ぐ天変地異に見舞われた今年の9月は、自民党総裁選の辛勝、沖縄知事選の大敗と安倍にとっては、寒風吹きすさび身も凍る最後で終わったのである。
アメリカでも寒風
総裁選の結果に落胆し沖縄知事選の展望も見えないまま、気も漫ろの状況で訪米した安倍を待っていたのは、トランプからの猛吹雪のお見舞いだった。
23日に行われた非公式の夕食会で、トランプはいきなり通商問題を切り出した。日本側は本格議論は26日の首脳会談で行う考えだったが、冒頭からアメリカのペースに乗せられた格好となった。
シナリオが突然変わったため、24日午後に予定されていた日米閣僚級貿易協議は先送りとなり、アメリカ側がより強硬に対日貿易赤字の削減を求めてくることが必至となった。
予想通り25日の茂木-ライトハイザー会談で日本側は、アメリカに2国間通商協議の開始を迫られ拒絶しきれなくなった。窮地に立った日本政府は苦肉の策として「日米物品貿易協定(TAG)」という新なスキームを編み出し、これは関税問題に限定した内容で、包括的なFTAとは違うものとして26日の首脳会談で合意したのである。
首脳会談での日米共同声明について日本側は、農業分野の対米関税はTPPの水準以下に引き下げないとする日本の立場をアメリカは尊重する。協議中は日本車、部品への追加関税措置などは行わない、などと日本の主張が認められたかのような説明を行った。
安倍も現地での記者会見でTAGについて納得のいく説明を避け、話を内閣改造と党役員人事にそらし、翌27日午前、逃げるように政府専用機に乗り込んで帰国した。
訪米中安倍は、9月18~20日に行われた南北首脳会談の成果を踏まえ、韓、米首脳との会談で北朝鮮問題に関する成果を得ようとしたが叶わなかった。文在寅からは「金正恩は適切な時期に日本と対話の用意があると言っていた」と伝えられたが、それが何時なのかなど具体的な提示は無かった。
トランプとの会談でも拉致、ミサイル問題は貿易協議によって、脇に追いやられた形となったのである。今回はさすがにゴルフをする余裕もなかった様だが、コースに出た場合、厳しいアゲインストに見舞われる中、今度は自ら池に落ちるぐらいのパフォーマンスが必要だったであろう。
10月に入り弥縫策ははやくも綻びだした。1日アメリカ政府は、メキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)見直しで、新協定に為替条項が導入されたことを明らかにした。
そして13日にはムニューシン財務長官が日本との2国間交渉でも、為替条項の導入を求めていくことを明らかにした。これに対して茂木は14日のNHK「日曜討論」で為替の話は入っていないとしながら、「為替問題は財務大臣同士の話」と、麻生にお鉢を回し逃げをうった。
4日にはパーデュー農務長官が農産物の関税について、日本側にTPPの水準を上回る引き下げを求めていくと表明するなど、日米の認識の違いが次々と明らかになり、TAGの実態が暴かれてきたのである。
国内でも10日には国民民主党の玉木代表が「TAGは政府が意図的に誤訳し捏造した」と指摘、立憲民主党や共産党も追及していく構えを見せており、臨時国会の重要な論点となる。
安倍は常日頃、薩長政権を憧憬しているが、日本政府の対応はアメリカの開国要求に対する徳川幕府の狼狽ぶりと同様である。自民党も「押し付け協定」には断固反対すべきであろう。
スリーアウトを目指して
沖縄知事選敗北の衝撃も冷めやらぬ中、10月2日第4次安倍改造内閣が発足した。麻生、河野、世耕と公明党の石井らを留任させ、後は派閥均衡の結果、74歳の原田環境相など12人が初入閣すると言う、当初から勢いに欠ける布陣となった。
また党人事でも、不祥事で表舞台から消えていた甘利や稲田を復権させるなど、相変わらずの側近政治を性懲りもなく続けている。
組閣直後の報道各社の世論調査では、内閣支持率は上向かず、総裁3選と内閣改造による政権浮揚効果は無かったことが明らかとなった。そればかりか早速、片山さつきが安倍の期待通り、2人分3人分のマイナスパワーを発揮するなど、新任閣僚による問題発言、不祥事が相次ぐ事態となっている。
「在庫一掃内閣」「閉店セール内閣」と揶揄される改造内閣であるが、店先に並べた商品から不良品が続出したのである。
新内閣が出だしから躓く中、安倍は10月15日、来年10月の消費税引き上げを明言した。今回は「リーマンショック並み」云々との前提条件を付けず、自ら退路を断った形となった。
昨年の総選挙における、増税分を教育無償化などの財源とすると言う、その場しのぎの公約のツケが回ってきたのである。安倍は漫然とリフレ政策を続けてきたが一向に効果が表れず、ここに来て白旗を掲げることとなった。
安倍は全世代型の社会保障を充実させると言いながら実際は、年金支給開始年齢の引き上げ、そのための「70歳定年制」導入、医療、介護保険料、負担割合の引き上げなど高齢者の負担を増大し、社会保障政策の破綻を糊塗しようとしているのである。
政府は増税の負担軽減策として、中小小売業でのキャッシュレス決済に限った2%の1年限定のポイント還元などを検討している。しかし個人店舗の経営者や客層を鑑みるなら、このような姑息な手法では焼け石に水となるのは明らかである。
10月24日から始まった臨時国会で野党は、暴投を連発する「全員野球内閣」への追及を強めるとともに、経済、社会保障政策の対案を提示し、安易な消費増税を追及しなければならない。
さらに、外交、安全保障についても日米通商問題を筆頭に、韓国、ロシア、北朝鮮との関係改善が停滞している。安倍は中国との関係改善に活路を見出そうとしているが、対中軍拡、挑発行為は継続しており、26日の首脳会談でも領土、歴史問題の具体的進展は無かった。日本の孤立化を阻止するため、安倍外交の総決算が求められている。
沖縄に対しても12日の玉城新知事との会談から5日後に、県の辺野古埋め立て承認撤回に対する対抗措置を強行するなど、知事選の意趣返しともいうべき対応を進めている。
強硬姿勢を変えない安倍政権であるが、総裁選、沖縄知事選の打撃で既に1アウト状態と言ってもよいだろう。安倍は起死回生策として、三度増税を延期するのではないかとの観測も流れているが、来年の統一自治体選挙で2アウト、そして参議院選挙で3アウトをとり、チェンジさせなければならないのである。
【出典】 アサート No.491 2018年10月