【投稿】深まる金融・経済恐慌とG20
<<G20第2回金融サミットに向けて>>
3/14-15、ロンドンで開かれた主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明を発表し、「世界の成長を回復し、貸し出しを支えるためのさらなる行動と、世界の金融システムを強化する改革に合意した」と成果をうたい、世界的な経済危機に対するG20としての対処方針を明らかにした。その骨子は、
・各国は成長を回復するまであらゆる必要な行動をとる
・保護主義に対抗し、自由な貿易や投資を維持する
・財政出動の速やかな実施と、国際通貨基金(IMF)による評価
・各国の中央銀行は必要な限り金融緩和を続ける
・ヘッジファンドや格付け会社を登録制にし、情報も開示する
というものである。
今回の会合は、4月2日にロンドンで開かれるG20の首脳会議(金融サミット)に向けた準備会合と位置づけられ、全世界を襲う未曾有の金融危機と大不況に対するG20としての対処方針を示すことにあった。
第1回G20緊急サミットは、昨年11月にワシントンで開かれ、(1)市場の透明性と金融機関の説明責任を強化(2)市場の適正な規制と監視の強化(3)各国の規制当局の連携(4)新興国の発言権の拡大などを含む国際金融機関の改革――などが盛り込まれ、優先度の高い項目を「行動計画」として規定、実施状況を協議するため、2009年4月30日までに再度会合を開くことを決めたのであった。しかしこんなことは07年以来のサブプライムローン破綻問題以来自明のことであって、具体策こそが求められていたが、それが皆無であり、総花的で即効性はなく、「サミットは何もなかったに等しい」と酷評され、市場からは完全に無視されたものであった。これを議長を務めたブッシュ前米大統領が「大成功だった」と自讃し、Goodbyeと宣言発表会見を結んで事実上サヨナラし、麻生首相は「歴史的なものと後世、評価される」と大見得を切って、第2回金融サミットについて「日本は開かれる場所としてふさわしい」と自己の保身・延命策丸見えの東京開催案を提起したがまったく相手にされなかったいわくつきの会合であった。
<<米経済はがけから落ちた」>>
この第1回金融サミットから四ヶ月、その二ヶ月前の金融危機の発端となった昨年9月のリーマン・ショックから半年、事態は改善されるどころか、世界的な金融恐慌の進展が、いよいよ実体経済へと波及し、日米欧、先進諸国はほとんどすべてマイナス成長に陥り、世界経済は09年の今年、戦後初めてのマイナス成長に転じ、世界の貿易量の減少幅も過去80年間で最大になることが確実視され、さらにそのマイナス成長が長引く「大不況」(ストロスカーン国際通貨基金〈IMF〉専務理事)、1929年恐慌を上回る経済恐慌への危機感が募りだしている。
しかもこの間、世界的な金融不安は収束していないばかりか、欧米金融機関の経営危機が再び深刻さを増してきている。07年の10月には1万4000ドルを超えていたニューヨークダウ平均株価が、この3/9には6500ドル台まで下落し、金融関連株はリーマン破綻直前と比較して、シティ17ドル→1.7ドル、JPモルガン・チェース41ドル→23ドル、バンク・オブ・アメリカ33ドル→5.7ドルと、下落率はシティが9割、バンカメが8割、JPモルガンでも4割に達する下落であり、シティ株の一時1ドル割れは歴史上初めての最安値であった。東京株価も07年の7月には1万8000円台であったものが、この3/10には、日経平均7,054.98円と6000円台目前にまで下落している。
3/3にはオバマ米大統領がブラウン英首相との会談後、米国株は今が「買い時」、「長期的な視点に立てば、株を購入するのは得策だ」との見解を示したにもかかわらずこの有様である。オバマ氏は「株式市場の日々の乱高下は気にしない」と強調したが、市場は大統領肝いりの金融安定化策に対する失望売りで応えたのであった。著名投資家のウォーレン・バフェット氏が「米経済はがけから落ちた」と発言する事態である。この間、米欧金融機関への公的資金の注入や政府管理下に置いたりする動きが一挙に広がり、政府の財政負担も急膨張しているにもかかわらず、金融危機収束の展望はまったく見えてはいないのである。
そして実体経済への影響は深刻さをさらに増している。3/6に米労働省が発表した2月の雇用統計によると、失業率は前月より0.5ポイント高い8.1%と、約25年ぶりの水準に悪化し、非農業部門の雇用者数は1949年10月以来、約59年ぶりの大幅な落ち込みとなったことも明らかになった。雇用者数の減少は14カ月連続であり、雇用減は昨年1月からの合計で約440万人に達し、米雇用情勢は戦後最悪のペースで悪化が続いている。毎月60万人を超すペースで雇用が失われていることからすれば、年内には1000万人以上の雇用喪失となってしまう事態である。
<<GDP比2%目標>>
G20財務相・中央銀行総裁会議は、経済規模で世界の85%を占めるG20が、直面する危機克服策でいかなる対処方針を打ち出し、いかに足並みをそろえられるか、先進国と新興・途上国間の利害対立をいかに調整できるか、それが焦点であった。共同声明は「世界の成長を回復し、貸し出しを支えるためのさらなる行動と、世界の金融システムを強化する改革に合意した」と成果をうたい、各国の経済対策について「需要を刺激する上で力強く、抜本的」と評価した。
会議でガイトナー米財務長官は、「世界が一緒に動かないと、米国も深く長い景気後退に直面する可能性がある」との懸念を表明し、G20諸国が足並みを合わせ、国内総生産(GDP)の2%に相当する財政刺激を来年まで毎年実施する「2%目標」を呼びかけたのであった。しかし現実にG20各国が表明・実施中の景気対策で、GDP比2%以上を満たすのはサウジアラビア3.3%、スペイン2.3%、豪州2.1%、米国と中国各2.0%の5カ国にとどまり、日本は1.4%、独1.5%、英1.4%、仏0.7%、伊0.2%という現実であった。このため米国側には「主要20カ国の中には、今後の景気刺激のために十分な資金を出していない国々がある」との不満がくすぶるが、ユーログループは、G20を前に「欧州勢に追加の財政努力を求める米国の呼びかけは好ましくない。我々は回復策を先に進める準備を整えていない」(議長のユンケル・ルクセンブルク首相)と不快感を表明。ドイツのシュタインブリュック財務相も追加策に必要な「新たな資金はないだろう」と発言、フランスのサルコジ大統領は「問題は歳出を増やすことでなく、危機の再発を防ぐ金融規制のシステムを導入することだ」と牽制したという。欧州連合(EU)は加盟各国に毎年の財政赤字をGDP比3%以内と義務づけているが、すでに進行中の危機対策で、09年にユーロ圏の財政赤字はGDPの4・0%に膨らむ見通しである。まずはマネーゲームを暴走させ、実体経済を空洞化させたアメリカ発の金融規制緩和・ビッグバンを徹底的に改め、金融規制の徹底を優先させることが筋というわけである。
日本は米国に同調する姿勢をとり、与謝野財務相はガイトナー長官と会談し、GDP比2%という「そのレベルは超える」追加刺激策、GDP0.6%分に相当する3兆円を超える財政出動を打ち出す方針を表明したが、会議は結局、アメリカが求めてきた数値目標は盛り込まれなかった。
<<「通貨切り下げ競争」>>
さらにG20財務相・中央銀行総裁会議に出席していたブラジル、ロシア、インド、中国の新興4カ国(BRICs)の財務相は、共同声明を出し、国際通貨基金(IMF)における各国の出資比率の見直しと新興国の発言権拡大を強く求め、原油価格の下落などを受け、ルーブルを切り下げたロシアのクドリン財務相は、現実は「切り下げ競争と呼べるだろう。ある国が切り下げれば、他国も追随せざるを得ず、問題になる」と述べ、世界的な「通貨切り下げ競争」への警告を発する事態であった。
共同声明とは裏腹に、利害は錯綜し、保護主義の蔓延と通貨切下げ競争への怖れが、当面をつくろう妥協的な、具体性のない合意をしか生み出さなかったともいえよう。4/2からのG20金融サミットが金融恐慌と経済恐慌の真の脱出口を見出せるのかどうか、危ぶまれる事態が現出されたのである。
このロンドン金融サミットに対して、イギリスの労組全国組織・労働組合会議(TUC)とその傘下の労組および非政府組織(NGO)が、この3/13に、「人間を第一に」と題した政策提言を共同で発表し、3/28に「人間を第一に」「雇用を、正義を、気候変動対策を」のスローガンを掲げた、共同のデモンストレーションを呼びかけている。
金融・経済恐慌脱出の最短で決定的な役割を果たすものは、3兆ドルから6兆ドルもの過酷な経済負担を強いているイラク戦争、アフガニスタン戦争を即刻停止させ、それらに関与している全外国軍隊を早急に撤退させるという、戦争経済から平和経済への転換を明確に打ち出すことである。オバマ政権はいまだにこのメッセージを明確に打ち出せずに、逆のあいまいな戦争関与政策に拘泥していることが、恐慌脱出への真の展望を見出せなくしているのである。そして第二は、国際・国内両面における市場原理主義からの決別を明確にすることである。それは、投機経済と野放しの弱肉強食経済に最大の責任を有する多国籍企業・国際金融資本・投機資本に対する徹底した民主的規制を課すこと、同時にそれらの国際的資本移動と収益に対して国際的共通課税を課すことを国際的ルールとし、それらを原資とした地球規模の環境対策、貧困対策、雇用対策、食糧危機対策、これらを包括した国際的規模のニューディール政策、29年恐慌におけるニューディール政策を上回る、「人間を第一」とした「雇用、正義、気候変動対策」の世界的規模でのニューディール政策を打ち出すことが要請されているのである。
しかし日本の政局は、こうした要請からまったくかけ離れたものとなり、「死に体」同然となってきた麻生政権は、自己の延命にのみ汲々とし、謀略的な西松献金事件に一喜一憂し、小沢民主党はこれに振り回されて、この危機的経済状況に最も必要とされている基本政策を打ち出すこともできず、新執行部構築、反転全面攻勢という局面打開のイニシャチブも取れないでいる。猛省が促されるところである。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.376 2009年3月21日