【投稿】経済恐慌下で旧財投復活?-密かに針を戻す与謝野財務相

【投稿】経済恐慌下で旧財投復活?-密かに針を戻す与謝野財務相
                            福井 杉本達也 

1 国際金融資本は「崖から落ちた」-米国発金融恐慌は第二段階へ
 米シティグループの政府管理下入りに続き、英銀行大手のロイズ・バンキング・グループも3月7日、2,600億ポンド(3,700億ドル)のリスク資産を英政府の資産保護スキームに参加させることに合意したと発表、実質国有化されることになった。こうした動きをきっかけに世界的に金融不安が再燃している(ロイター:2009.3.9)
 米AIGへの支援額は1,500億ドル規模となっており、アメリカの人口を3億人とすれば、赤ん坊から老人まで一人当たり500ドルすなわち約5万円がAIGに支払われる。今回さらに300億ドルの追加支援。アナリティックスのアナリスト、ドン・ビックレー氏は、政府によるAIG救済の規模が最終的に2,500億ドルに達し、そのほとんどが返済されない可能性があるとの見方を示している。「厭債害債」氏は「AIAとかALICOとか『主として海外で事業を展開している』保険会社を米国政府がコントロールしてしまった…せっかく簡保とか民営化しそうだと思ったら、今度はアメリカ国営保険ですか?という猛烈な脱力感にさいなまれそうですね。…このような個別保険会社に対しての政府支援が米国法域内でおこなわれるならそれは各国マターなんですが、日本で営業している会社に事実上の支援をつけて営業を継続させるというのはいかがなものなんでしょうかね?…今後100年ぐらいはアメリカ様におかれては、他国の非関税障壁とか不公正な貿易慣行とか補助金がどうのとか一切口にされることはないと信じておりますが。」と皮肉っている(blog「厭債害債」:2009.3.5)。
 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は9日、CNBCテレビに出演。米国経済は「崖から落ちた」と形容した上で、米国経済は最悪ケースに近いシナリオに沿って推移しており、「すぐに回復に転じることはあり得ない」と述べた。

2 郵政民営化をめぐる暗闘
 こうした金融恐慌の最中、日本では郵政民営化をめぐって昨年12月26日に日本郵政がかんぽの宿70施設をオリックスに一括譲渡すると発表したが、今年1月6日に鳩山総務相が「国民が出来レースと受け取る可能性がある」と述べこれに待ったをかけ、2月13日にオリックスへの譲渡を断念させた。その間に麻生首相は2月5日の衆院予算委で「郵政民営化には賛成ではなかった。内閣の一員として最終的に賛成した」「今4つに分断した形が本当に効率としていいのかどうか、もう一回見直すべき時に来ている」「総務相だったが、郵政民営化担当から外されていた。濡れ衣をかぶせられると甚だ面白ない」との一連の「郵政迷走」発言を繰り広げた。これに対し、2月12日、小泉元首相が「怒るというより、笑っちゃうくらい、ただただあきれている」と批判した。しかし、こうした小泉氏側の反撃にもかかわらず、鳩山総務相は24日の衆院総務委で、「日本郵政が検討している(敵対的)買収防衛策だけではなく、外資規制も検討事項だ」と述べ、郵政民営化に伴うゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式上場計画に関し、外国資本による金融2社の株式買収に歯止めをかける考えを示した。その間にG7での中川財務相「酩酊記者会見事件」があり、そして、3月に入っては民主党小沢代表への西松建設献金疑惑事件である。しかし、この一連の動き・事件を権力側の内紛・あるいは野党側の失策などと個別バラバラに見てはいけない。

3 日本郵政の運用資産の中身
 郵政事業は「郵便局㈱」「郵便事業㈱」「㈱ゆうちょ銀行」「㈱かんぽ生命保険」に4分社化され、その持株会社として日本郵政株式会社があり連結決算を組んでいる。日本郵政㈱の資本金は3兆5,000億円で全額「財務大臣」=国民が保有している。2008年9月末のゆうちょ銀行の総資産195兆円であり、うち国債が156兆円(80.1%)、地方債が6.8兆円(3.5%)、残りを社債が4%程度を占める。財政投融資預託金は2008年3月期決算をもって0となった(郵政民営化委員会(田中直毅委員長):「郵政民営化の進捗状況」2009.1.14)。かんぽ生命は総資産110兆円で、うち国債が71兆円(64.8%)、地方債が4兆円(3.7%)、貸付金が19兆円(17.4%)、社債が9.2兆円(8.4%)などとなっている。
 これだけ国債の保有率が高ければ、当然ながら総資産に対する当期純利益率は低い水準に止まる。ゆうちょ銀行の場合0.14で、都銀の0.22、地銀の0.21と比較すると2/3でしかない。これでは巨大な金融2社を維持できない。「金利リスクから市場リスク・信用リスクへ、リスク配分のリバランスを進めていくことが必要である」として、取り敢えず2008年5月から「クレジットカード」「変額個人年金保険」「住宅ローン媒介業務」を認可している。しかし、巨大資金の運用先としては余りにも小粒である。民営化委の意見聴取では、「機関投資家型のビジネスモデルを目指すべきである。」との声が強い。
 さらに、2008年10月15日の米年次改革要望書でも「米国は、郵政の民営化と改革が完全に市場志向型で実施されるならば、日本経済にとって多くの潜在的利益があるプロセスであるとの認識から、引き続き重大な関心を払っている。」とし、「かんぽ生命による新たな、または変更された保険商品の導入、ならびにゆうちょ銀行による新たな貸付業務および他の金融商品の元売りなどが郵政金融機関に認可される前に、郵政金融機関と民間金融機関の間に対等な競争条件が確保されるよう引き続き求める。」として、競合する分野への進出に釘を刺している。がんじがらめに縛られれば、巨大な資金の脱出先は海外投資以外にはない。

4 先例-農林中金の海外投資の失敗
 海外投資へのお手本になると、これまで郵政が熱い視線を送ってきたのが、農林中金であった。しかし、そのビジネスモデルはあっけなく崩れた。農林中金は今年2月20日、総額1.9兆円という巨額増資を発表したが、これは、リーマン・ブラザーズ破綻以降の国際金融恐慌下で1.5兆円もの有価証券の含み損を抱えたからである(11月27日現在)。農林中金は単協や信連から豊富な余剰資産を預かり、国内外で債券や株式などの有価証券で運用してきた。農林中金が海外投資に“飛躍”を遂げたのは90年代後半、バブル崩壊後の超低金利で、国債中心の投資ではグループを支えきれなくなったことにより、活路を米国などに求めたからである。しかし、積極的海外展開は完全に裏目にでた。2008年9月末現在の農林中金の運用資産は58.1兆円となっている。そのうち有価証券が33兆円を占める。うち外国債券が13兆円で1兆円の評価損・その他が10.3兆円で1兆円の損失を出している(農林中金ディスクロージャー誌)。今後の損失は予測できないが、23兆円うちさらに2~3割が評価損になるとすると、4~7兆円という恐るべき額になり、とても農協や信連への奉加帳回しで補填できる金額ではない。たちまち自己資本が10%を割り込み、国際金融市場から締め出されることになる。その時は農林中金が23兆円の債権もろともに沈むこととなる。

5 恐慌下における政策金融機関の役割の増大
 日経は「再膨張する政策金融」という特集記事を組んだ。金融危機に対応し、政府は政策金融をフル活用した企業への資金繰り支援など異例の対応を次々に打ち出している。政府系金融機関改革で昨秋に“民営化”した政策投資銀行がCPを買い入れることとなった。政府系金融機関の日本政策金融公庫の資金で政投銀に2兆円のCP購入枠を来年度末まで設ける。損失が発生した場合は政府が一部を補填する。財務省は最大6,000億円の負担を想定する。また、大企業・中堅企業向けの低利融資として、公的資金で08年度、09年度にそれぞれ最大1 兆円を融資する(日経:2009.2.24)。
 また、国際協力銀行(JBIC)は昨年10月に中小企業金融公庫などと統合、政府系金融機関の日本政策金融公庫の一部門となった。先進国事業向け融資は「民間で担える」として原則撤退したばかりだった。だが昨秋以降、状況が一変。「必要なドルを調達できない」と、欧米に進出する自動車メーカーなど大手優良企業からも悲鳴が上がり、急遽、中川前財務相がJBICによるドル調達支援検討を指示し、廃止後わずか3カ月での先進国事業向け融資が復活した(日経:2009.2.25)。
 さらに、金融危機で一時的に経営の傾いた企業に公的資金を活用して資本注入する制度の新設だ。産業活力再生特別措置法の適用認定を受けた企業を対象に政投銀や民間銀行が資本支援する。保証枠は最大1.5兆円。損失の5~8割を政策金融公庫が保証し、最終的には政府が負担する。既に半導体大手のエルピーダメモリや全日空・富士重工など数社が同制度の活用を検討すると表明。経済産業省には問い合わせが急増している(日経:2009.2.28)。

6 秘密裏に、しかし、大胆に旧財政投融資の復活を図る
 政投銀の09年度計画の資金調達額は1.5兆円であるが、財源は財政融資借入金が21%、財投機関債が16%、長期借入金が21%などとなっている。国際協力銀行の場合も08年度の9,000億円の資金調達は財政融資資金借入金が4,000億円、政府保証外債が1,800億円などとなっている。いずれにしても政策金融機関の資金調達は国家信用に頼らざるを得ない。
 総資産で見ると、政投銀は約12兆円、商工中金は11兆円、政策金融公庫は旧国民金融公庫部門が7兆円、旧中小公庫部門が7兆円、国際協力銀行部門が20兆円であり、全て合わせても57兆円規模でしかない。この他、中小企業への信用保証や貸付枠を30兆円に拡大し、又、金融機関へは別途、新金融機能安定化法よる資本注入枠12兆円を用意したが、今回の底のない恐慌下にあってはこれだけでは全く不十分である。
 国際金融資本の『総本山』で金融の「社会主義化」が進む中、ついに与謝野財務相も『宗旨替え』を行った。10日の参院予算委で小泉政権の経済政策を「国民金融公庫とか中小企業金融公庫とか商工中金とか日本政策投資銀行とか農林漁業金融公庫とか、こういうものを結局民営化しようと。政策金融機関も不要だ(と判断した)」と評価し、「不況が来ないことを前提とした経済学で、間違いだった」との認識を示した(日経:3.11)。これは極めて重大な橋本政権以降の歴代自民党の経済政策の転換である。「金融ビックバン」・「政策金融機関の解体と民営化」・「郵政民営化」路線の完全な行き詰まりを公に認めたのである。
 3月11日の日経は政府が政投銀がCP買い入れなどを行う危機対応業務に対し、ゆゅうちょ銀などが基金に政府保証つきで低利融資すれば、政投銀の緊急融資枠を数兆円に拡大でき、一方でゆうちょ銀行の余剰資金の運用先も増えるとする“観測記事”を1面トップに持ってきた。このストーリは既に有田哲文・畑中徹氏らが「政投銀が貸出しをする資金の出所の大半は、財務省から借りる財政融資資金や政府保証債を発行して調達したものだ。現在の財政融資資金は財務省が市場から集めたお金だが、かつては郵便貯金や年金から強制的に集められた財政投融資資金が使われていた。その政策投資銀行は2008年10月に国が株式を持つ特殊会社になり、2012~2014年までに完全民営化する。完全民営化されれば自分で債券を発行して資金を調達しなければならなくなる。…それよりも郵便貯金と一緒になったほうが調達にかかるコストが安いのではないか、という見方が出ている。…そんなことになれば、かつて調達を把っていた郵便貯金と運用をしていた政府系金融機関が元のサヤに収まることになる。」と指摘しているものである(『ゆうちょ銀行』東洋経済新報社2007.9)。

7 財政投融資制度の「改革」は何のためだったのか
 そもそも、財政投融資制度の「改革」は2001年4月に始めたが、それまでは、郵便貯金は全額が大蔵省所管の資金運用部特別会計に預託されていた。それをやめて、郵貯は郵貯で自主運用、資金運用部特別会計は「財政融資資金特別会計」と名称変更して、財投債を発行して資金調達し、商工中金などの各財投機関は財投機関債を自らが発行して資金調達するというスキームであり、郵便貯金・資金運用部・財投機関の三者全体が巨大な金融機関として繋がる仕組みを解体「民営化」しようとする目論見であった(小西砂千夫:『特殊法人改革誤解』東洋経済新報社:2002.8.22)。小西氏は「財投というシステムそのものの欠陥であったのか、財投という政策手段を使いきれなかった政治の問題であるのか」と問い、「財投というシステムはそれなりに制御できるようなシステムになっており、その政策手段を後年度の負担を考えて慎重に運用できないことに原因があった」とし、「財投というシステムに切り込むのではなく、その政策手段のガバナンスを高める仕組みを開発」すればよかったと批判し、「政策手段を破壊することは、本当は危険である。経済運営における危機管理ができなくなる」と警告していた(同上)。そして、今回、経済恐慌下で小西氏の警告どおりの結果が招来している。国際金融資本のいわれるままに「郵政解散」まで行ってシステムを破壊した責任はいったい誰が取るのか。

8 レモン社会主義
 NY株価に連動し、3月10日の日経平均は7,000円割れ目前まで下げバブル後最安値を付けた。こうした中、公的金融を一方的に収奪しようとする動きもある。政府・与党は銀行等保有株式機構の20兆円枠を使って株式指数に連動する上場投資信託(ETF)を買い取る検討を始めた。この原資を政府保証するというものである(日経:3.7,3.13)。3月7日付けの日経社説は「三月末の決算期を前に、企業が資金調達に四苦八苦している。平時なら十分に存続できる企業もがカネ詰まりで破綻してしまうようなら、日本経済にとって重大な損失となる。政府・日銀は公的金融も活用して資金繰りを死守してほしい」と、これまでの主義・主張を180度転換したかのようである。しかし、政府が直接介入して株価を買い支えるというのは常軌を逸している。ポール・クルーグマン教授は米政府の銀行救済策を”lemon socialism”(レモン社会主義)と皮肉っているが、これは「socialized losses, privatized profits(損失の社会化、利益の私物化)」である(NYT:1.30)。2008年中の外国人の日本株の売越額は3.7兆円であった(日経:2009.1.15)。さらに今年に入っても2.2兆円もの売り越しをしており(日経:3.13)、日本経済の相対的状況及び円ドルの為替レートから、まだ比較的有利な日本の市場から急速に資金を引き揚げている。こうしたところに公的資金を原資にした資金を突っ込んでも国際金融資本の餌食になるだけである。

9 政策転換に露骨に反対する国際金融資本のエージェント=マスコミ
 ところで、今回の経済政策の転換へのマスコミの反応は“悲惨”なものがある。上記の与謝野氏の発言について、朝日(3.13)は小さな囲み記事程度の扱いであり、他紙はほとんど無視である。また、3月10日の日経社説は「麻生政権には小泉政権以来の構造改革路線にブレーキをかける閣僚が少なくない」とし、6日の参院予算委で与謝野氏が「一時期、規制緩和はすべて善であるという信心がはやったが、間違った信心だ」と述べたことに、「反改革の流れを見すごすことはできない」と国際金融資本を代弁した批判に終始している。日本の資金を“勝手に”日本国内で使われては困るのである。
 その一方で各紙・TVは何の裏づけも取らず、西松建設献金問題や拉致被害者と金賢姫“元工作員”?との会見の怪情報を垂れ流し続けている。経済が恐慌の谷へと重落下しつつある中、何としても日本の資金を確保したい国際金融資本は必死である。北朝鮮が人工衛星を打ち上げるとするものをMDで打ち落とすと挑発し、6カ国協議の合意事項を無視して東アジアにおける緊張を煽り日本に揺さぶりをかけている。
 3月8日のテレビ朝日「サンデー・プロジェクト」で、田中真紀子氏は、「既得権益を守りたい1割の勢力が政権交代を絶対に阻止したいと考えている。検察・メディアを活用して世論の誘導を働きかけている。日本人がどれだけマチュア(成熟している)であるかが試される」と述べ、また、政治学者の飯尾潤氏も民主党に対し「代表の問題を組織としてうまく処理できないようでは、政権を担当してからも難題を自ら解決できないのではと疑われる。そう考えれば、この問題は、民主党が政権担当能力を示すべき機会なのである。」(福井:2009.3.10)と分析している。正に今、日本人とその政党の成熟度が試されている。

 【出典】 アサート No.376 2009年3月21日

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