【投稿】インフレ=バイデンの政治的悪夢--経済危機論(66)

<<FRBパウエル議長再任に非難殺到>>
11/22、バイデン米大統領は、米連邦準備制度理事会・FRB議長にジェローム・パウエル氏を再指名することを発表したが、これには避難が殺到している(CommonDreams November 22, 2021)。
同日、経済政策研究センター(Center for Economic and Policy Research)の回転ドアプロジェクト(Revolving Door Project)は、今回の指名に「非常に失望した」との声明を出し、「我々は、バイデン氏がジェローム・パウエルを連邦準備制度理事会の議長に再指名したことに非常に失望している。バイデンがパウエルの規制緩和政策を支持したことは、アメリカの家庭に大きな損害を与えるだろう。今日は、従来の常識とエスタブリッシュメントの勝利であり、地球とジョー・バイデン氏の究極のレガシーの敗北である。」と述べ、「はっきりさせておくと、この選択は、パウエル自身の取引スキャンダルと、連邦準備制度理事会(FRB)の一連のスキャンダルに対するパウエルの口止めされた不十分な対応について、現在、そして今後知られるであろうことを、大統領が所有することを意味する」と糾弾している。

「Fossil Free Federal Reserve(化石燃料のない連邦準備制度)」キャンペーンを立ち上げて活動してきた350.org、副議長候補のラエル・ブレイナードは、気候変動のリーダーであるが、パウエルは気候に関して失敗している。

ここで指摘されているFRB議長のスキャンダルとは、今年の10/18に暴露されたことであるが、2020年の10月、トランプ政権下、コロナ救済法案の可決をめぐって交渉が膠着状態にある最中、パウエル氏は 10月1日にスティーブン・ムニューシン財務長官(当時)と4回、ナンシー・ペロシ下院議長とも話したその同じ10/1に、バンガード・トータル・ストック・マーケット・インデックス・ファンドの株式を売却しており、その10日前、同じファンドの株式を別個に売却したことで、FRB議長は5万ドルから10万ドルの利益を得ていた、というのである。しかもこのスキャンダルは、この9月末にボストン(チーフ、エリック・ローゼングレン)とダラスの連邦準備銀行の総裁(ロバート・カプラン)が2020年に、大規模な株取引を行っていたことが金融機関の情報開示で明らかになったため、退任することを発表したスキャンダルに続くものであった。さらに、ブルームバーグ・ニュースが今年の10/1、パウエル氏がパンデミックによる利下げの可能性を示唆した前日の2020年2月27日に、リチャード・クラリダ連邦準備制度理事会副議長があるミューチュアル・ファンドから100万ドルから500万ドルを引き出し、他の2つのファンドに入れていたと報じるスキャンダルも暴露されたのである。
パウエル氏を含めたFRBの幹部が、FRBが方針として戒めている利益相反の腐敗した取引を行っており、事実究明すら行われず、うやむやにされている。こうした事態に、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)は、証券取引委員会(SEC)に対し、ローゼングレン、カプラン、クレリダの3人がインサイダー取引の規則に違反していないかどうかの調査を要求、先月10月5日の上院議場での演説で、パウエル氏を呼び捨てにし、「リーダーとして失敗した」と議長不適格、退任を求めていたのである。
環境保護・消費者の権利擁護に取り組むパブリック・シチズンは、今回の決定について、「無謀なウォール街の規制緩和と、金融システムに対する気候関連の脅威に対する危険な引き延ばしを倍増させるものであり、気候の脅威を食い止めるためのバイデン政権全体のアプローチに背を向けるものである」と厳しく抗議している。

<<「関税撤廃の即時行動を」>>
そのFRBは、大規模な金融緩和・財政出動で先進国株価指数の上昇をけん引し、金融投機とバブル経済を煽ってきた政策の転換をいよいよ迫られる事態となり、11月2~3日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で債券購入プログラムのテーパリング(段階的縮小)開始を決定することとなった。11月半ばから買い入れ規模を縮小し、22年6月にも見込まれるテーパリング終了後のフェデラルファンド(FF)金利の引き上げに移行する

というのである。すでに債券買い入れ規模の若干の縮小に着手し始めたところであるが、株式・債券市場は、インフレの高進と相まって、いよいよ動揺し始めている。事態が悪化した場合、すでにゼロ金利か実質上マイナス金利に移行している下では、低金利に逃げることもできない。インフレを抑えるために金利を引き上げれば、債務危機を急速に引き起こし、株高の終焉どころか、株式市場とバブルを一挙に崩壊の危機に陥らせかねない。もはや大規模な金融緩和にも戻れない。引くに引けない、進むに進めない事態の到来である。
当面は何としてもインフレの高進を抑える、これがバイデン政権にとっての最大課題となっている。
先に開かれた、仮想・米中首脳会談で、バイデン大統領の側から、経済協力協定の一環として中国の備蓄石油量を放出するよう習主席に要請したと、11/17のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙が特報として報じるや、原油市場価格は一時的に下落、さらに他の先進国にも要請し、日本政府も備蓄石油の放出検討に動き出している。しかし効果は限定的なことは言うまでもない。
しかしこんな取ってつけたような弥縫策よりも、バイデン政権がインフレ抑制で手っ取り早く政策転換できる、インフレを少しでも、実効を伴って抑制できる道が確固として存在している。それは、トランプ政権が開始し、バイデン政権が相も変わらず引き継いでいる、中国製品への関税引き上げ政策である。
11/15、米国の2ダースの経済団体が、バイデン政権に対し、インフレ上昇の中で米国人を救済するために、中国製品への関税を引き下げるよう要請した、と報じられている(CNN Business November 15, 2021)。米中経済協議会を中心とした経済団体は、キャサリン・タイ米通商代表部代表とジャネット・イエレン財務長官に宛てた書簡の中で、「過去数年間に実施された関税は、米国の企業、農家、労働者、家族に不均衡な経済的損害を与え続けている」と述べ、米国の輸入業者は、中国製品に対するいわゆる「セクション301」の関税のために1,100億米ドル以上を支払っており、そのうち約400億米ドルはバイデン政権時代に課せられたもので、「これらのコストは、他のインフレ圧力と相まって、パンデミックの影響から回復しようとしているアメリカの企業、農家、家族に大きな負担を強いるものです」と指摘し、「関税撤廃プロセスを大幅に拡大するための即時行動を要請します」と結んでいる。この書簡に署名した他の24の経済団体は、米国商工会議所、ビジネス・ラウンドテーブル、全米小売連合、米国ファームビューロー連合、半導体産業協会などである。

11/10 イエレン財務長官は、FRBは1970年代レベルのインフレの繰り返しを許さないと述べ、米国のインフレ率の上昇は来年以降は持続しないとの見解を繰り返し、「物価上昇は横ばいになると思います。通常と考えている2%に近いインフレに戻ります」、「それは今は起こっておらず、連邦準備制度はそれが起こることを許可しません」と強弁している。しかしこのように叫べば叫ぶほど、足元を見透かされれるというものであろう。「それは今は起こっておらず」と言っても、すでに目標の3倍以上、6.2%に高進しているのである。一部の地域ではさらに高進し、アトランタでは、インフレ率は7.9%にフェニックスとセントルイスも7%を超えた、と報じられている。
庶民はすでに、「エネルギー危機の中、アメリカ人はパニックに陥り、薪やストーブを購入」と報じられ、「高騰する化石燃料の価格をそぎ落とすために、薪の束やストーブをパニック的に購入しています。」(11/21、ブルームバーグ)、「1コード(約700本)の乾燥した薪が、今日は200ドルで売られている。これは1年前に比べて33%の上昇です」「2,800ドル以上の薪ストーブの売り上げが50%も増加している」という。

インフレ高進がバイデン政権にとって政治的な悪夢となっている以上、まずは、米中冷戦政策を放棄し、関税引き上げ競争を停止すること。さらには愚かな金融ギャンブルを横行させ、マネーゲームが支配する金融資本主義、インフレを主導する独占企業支配体制に徹底的なメスを入れ、反独占規制を復活させる、より深い構造的問題に切り込む、反独占政策こそが事態打開のカギとなっているのである。
(生駒 敬)

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