【投稿】COP26の「脱石炭」は金融詐欺と原発回帰の合図
福井 杉本達也
1 竜頭蛇尾の「脱石炭」
COP26は人為的な地球温暖化の主要因となっているとする化石燃料の削減・特に”悪役“の石炭に絞って削減が求められたが、交渉は難航し11月12日までの日程が、1日延長され13日にずれ込んで閉幕した。特に石炭を主燃料とするインドは、「化石燃料の削減を巡る文言に反発し、表現の修正を要求。石炭火力の『段階的廃止(phase out)』ではなく、「段階的削減(phase down)」に向けた努力の加速を各国に要請するという表現に修正された。」(ロイター:2021.11.15)。韓国『ハンギョレ新聞』はこれを「場が盛りあがったりひっくり返ったり…COP26の『決定的場面』5カット」(2021.11.15 Yahoo)と揶揄した。同紙は会議当初の「首脳たちの派手な外出」を取り上げ、「120あまりの国の首脳が直接、英国のグラスゴーを訪れたからだ。COP26は、1~2日に特別首脳会議で始まり、期待を高めた。実際、100カ国以上が、2030年までに全世界の森林破壊を防ごうと約束した。ブラジルやインドネシアなど森林が多い国も含まれた。米国が主導した国際メタン誓約への加入国も100カ国を超えた。」と書き、最大の関心事は、脱石炭計画の具体化について、「しかし、最終合意文では、中断の代わりに削減に変わり、4日にその内容を約束した脱石炭声明に署名した国は、46カ国に過ぎなかった。石炭火力発電への依存度が高い国家に挙げられる日本、中国、オーストラリア、インドや米国などは、初めから参加しなかった。韓国やポーランドなどは署名したが、石炭退出の時期には同意していないという立場だ。この日…アニメキャラクター『ピカチュ』の扮装をした気候問題活動家が、日本が石炭への金融支援などのこれまでの政策を維持することに対し抗議するデモを行った。」と書いた。
2 空理空論の「脱石炭計画」
そもそも、脱石炭は空理空論に過ぎない。総合球環境学研究所の金本圭一朗准教授は「先進国が自国の排出削減を進める陰で、新興国や途上国に排出を抑しつけている」と指摘する。金本氏の計算では、中国が2015年に排出した温暖化ガスのうち5・8億トンは米国向けに輸出した商品に由来する。同じく欧州向けが5.3億トン、日本向けが2.4億トンである。日本の場合、元々の排出量が13億トンなので、輸入品に伴う排出量・2.4億トンというのは2割弱を占めることとなる。石炭火力などを中心とする中国の排出量は、これら輸出関係が1/3を占めることとなる。COPでは先進国は自国に有利なように議論を運ぼうとしたのである。オックスフォード大学は「製品を生産する側ではなく消費する側の国・地域に排出量をひもづけたデータを公表している。同年の推計で、中国の排出量は全体とし1割減る。逆に日本は1~2割増える。」今回のCOP26の議長国である英国に至っては4割増となる。「世界全体でみれば、製品をつくる場所が違う国・地域に移っただけである。」(日経:2021.11.2)。石炭はインドなどを含め発展途上国の貴重な第一次エネルギー源であるし、今後ともエネルギー源でありつづける。もちろん大気汚染への対策や発電の効率化は進める必要があるが、全廃などというのは暴論である。
3 「脱石炭」は実物投資から金融にカネを集めるための巨大詐欺
国際会計基準を策定するIFRS財団は、2022年6月をめどに企業による気候変動リスクの開示を求める世界共通の基準をつくとした。統一したルールに基づき「温暖化ガス排出量などの開示が進めば投資家は比較しやすくなり、企業の選別が進む」という建前であるが(日経:2021.11.4)、実際は、石炭や石油・天然ガスといった資源投資では長期にわたり投資が固定化されるので、これを嫌がり、短期資金としてカネを金融に回しバブルを支える財源にするもので、全くの金融詐欺といえる。日銀もこうした国際金融資本の流れに「気候変動対応,オペ(公開市場操作)」を設けるとした。「対象となる金融機関には、気候変動への取り組みに関する目標や戦略、実績といった具体的な情報開示を求める。こうした条件を満たした金融機関は、金利ゼロで日銀から資金を借りられる。投融資の実請に応じて、マイナス金利政策による負担が軽くなる優遇措置を受げられるメリットもある。」(福井:「日銀が脱炭素化支援」2021.11.8)と発表した。温暖化ガス排出の実質ゼロを目指す金融機関の有志連合(GFANZ)は今後30年間で脱炭素に100兆ドル(1・1京円)を投じる方針だ。提唱したのは国際金融資本の元締めの一つ・イングランド銀行前総裁のマーク・カーニー氏である。世界の有力銀行・保険・投資会社450社が参加するという。日本からも3メガバンクのほか、日本生命・野村アセットなど18社が名を連ねる(日経:2021.11.8)。資源に投資すれば、当然、探査・開発などで20~30年という長期にわたり資金が固定される。発展途上国の自立により、かつてのようには資源の収奪ができなくなり、利益も上げにくくなってきてもいる。また、石油のように価格支配力をOPECプラスに奪われてしまったものもある。国際金融資本としては、こうした利益幅の薄くなった投資先から、投機市場に資金を移し替えたいのである。
4 再生可能エネルギーの妄想
再生可能エネルギーによって、全てのエネルギーが賄われるというのは妄想に過ぎない。太陽光や風力発電などの再生エネルギーは予測不能であり安定性に欠ける。それをバックアップするために大規模な蓄電システムが必要である。今回、英国はガソリン自動車の新車販売を主要市場で35年、世界で40年までに終えるとの宣言を出した(日経:2021.11.11)。ガソリン車を廃止するということは、電気自動車(EV)への転換を進めるということだが、少し資料は古いが、小澤祥司氏の計算によると、ガソリンの発熱量は1ℓあたり8000=9300W/H、フルタンクにすれば400~500km走ることができる。一方、バッテリー充電できる電力量を体積(ℓ)あたりのエネルギー密度はリチウムイオン電池でも300~600W/Hである。ガソリンの1/15~1/30ほどであり、重量あたりのエネルギー密度ではガソリンの2%、ガソリン車と同等の走行距離を稼ごうとすればガソリン車の15倍のバッテリーを積む必要がある(小澤:『「水素社会」はなぜ問題か』)。さらに、冬季の暖房はどうするのか。ガソリン車では廃熱を利用している。EVでは電気を無駄に暖房に使用しなければならない。全世界の自動車の内燃機関から発生するエネルギーを、再生可能エネルギーだけで賄うということは不可能である。それはどこからか持ってこなければならない。
5 原発回帰を狙う国際金融資本
COP26開催中の11月9日、フランスのマクロン大統領は、ガスや電力価格が高くなる中「原子力発電所の建設を再開すると発表した。安定した電力供給を続けながら脱炭素を進めるには原発の活用が不可欠と説明した。」原発に回帰した背景を、「気象条件で発電量が左右される再生可能エネルギーだけでは安定的な電力の供給体制はつくれないとの考えを強調した。原発の活用で電力の安定供給と脱炭素の両方を実現できるとする」と説明した。また、英国も「原発の活用で温暖化ガス削減を進めるとの立場」である(日経:2021.11.11)。 英政府は10月19日、「2050年までの温暖化ガスの排出実質ゼロに向け、30年までに900億ポンド(約14兆円)の民間投資を呼び込む」と発表したが、「原発については、工場で組み立てる『小型モジユール炉』(SMR)を合めた原発開発や技術の維持のために1・2億ポンドの新基金を創設する。20年にも小型炉や先進的モジュール炉の開発に3・8億ポンドを充てる計画を表明済み」である(日経:2021.10.22)。英国は全発電量の原発の比率が16%、再生エネルギーが43%を占めが、ジョンソン首相はCOP26に先立ち、「2035年までに電力の脱炭素化を果たす方針を表明した」が、その裏には再生エネルギーは予測不能で安定性に欠けることを念頭に、『原発はベースロード電源になる』との見方を示し」(日経:同上)、「ベースロード電源」の競合相手の1つとして原発などよりよほど安全性でもコスト的にも有力な石炭火力を潰すことによる、原発回帰の露骨な宣言であり、グラスゴーのCOP26での「脱石炭」はまともに取り合ってはいけない危険なしろものである。