<<「懸念の変種」・オミクロンの衝撃>>
感謝祭の祝日による休場明けとなった11/26の金曜日、ニューヨーク株式市場は、南アフリカなどで見つかった新型コロナウイルスの変異株=「オミクロン」の出現で激震に見舞われた。
優良株で構成するダウ工業株30種平均は前営業日終値比905.04ドル安の3万4899.34ドルと、今年最悪・最大の下げ幅で終了、一時1025ドルを超える暴落を記録。S&P500種株価指数も2.27%下落し、2月以来の最悪を記録。ハイテク株中心のナスダック総合指数も353.57ポイント安の1万5491.66で引けた。米長期金利が急低下し、米国債・10年債利回りはパンデミック初期以来の大幅な低下。外国為替市場はドル下落、円とスイス・フランに逃避の急騰。ニューヨーク原油先物相場は13%安、1バレル=68.15ドルと、70ドル割れ、2020年4月以来の大幅下落であった。ブルームバーグ商品指数は2.2%下落、暗号通貨のビットコインも7%以上の下落、等々。
この日、世界的に株安が連鎖、欧州の主要な株式指標も軒並み下がり、今年最大の下落率を記録、イギリス3.6%安、ドイツ4.2%安、フランスは4.8%安、イタリアも4.6%安、日本の日経平均株価でも7%安、前日比747円66銭安の2万8751円62銭と大幅反落、東証株価指数(TOPIX)は40.71ポイント安。
この感謝祭の翌日の金曜日は、毎年、小売店舗などが大規模な安売りを実施、暗いうちから買い物客が押しかけ、並び、売り上げ増で黒字が見込まれる、暗いうちのブラックと、黒字のブラックをかけた、大いに歓迎されるべきブラックフライデーのはずであったが、金融・株式市場の急落で経済の根幹を揺るがす、まさに文字通りのブラックフライデーとなったのであった。
ただし、ここで注目すべきは、大手製薬独占企業の株価は上昇、コロナウイルスワクチンの特許権放棄を拒否するモデルナは約21%高、同じくファイザーは過去最高値を更新している。
世界保健機関(WHO)が緊急会議を開き、南アフリカで11/9に採取された検体から最初の感染が確認され、11/24に報告のあったコロナウイルスの新しい変異株「B.1.1.529」を、感染力が高く、南アのすべての地域で感染者が増えているとみられることから、ワクチン耐性を持つ可能性のある「懸念される変異株」として指定、「オミクロン」株と名付けたと発表したのが、11/26であった。
このオミクロンはまず、南アフリカの隣国・ボツワナで確認され、その後、南アフリカで約100人の患者、次いで、南アフリカのヨハネスブルグを含む州で報告された1,100件の新規感染者のうち、90%がこの変異型によるものであることが判明、さらにイスラエル、香港、そしてベルギーでも患者が確認される事態となった。WHOは、このオミクロンを、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタの4つの以前の変異株からの突然変異の「前例のないサンプリング」と説明し、「多数の変異があり、そのうちの一部が懸念される」と、これまでに見られなかった他の遺伝的変化があり、その重要性はまだ不明であるが、感染が広がる危険性が高い、「従来の感染急増よりも速いペースで確認されており、増殖に強みを持っている可能性がある」と、発表したのである。
その変異株の不確実性、不確定性、コロナ禍からの脱却、景気回復への悪影響に世界の金融・株式市場が敏感に反応したわけである。
<<「渡航禁止は早いが、ワクチン共有は非常に遅い」>>
こうした事態に、英政府は直ちにアフリカ6カ国からの航空便を一時禁止すると発表。欧州連合(EU)もウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「アフリカ南部地域からの航空旅行を停止するための緊急ブレーキの発動」を提案。米国当局も、11/29から南アフリカ、ボツワナ、ジンバブエ、ナミビア、レソト、エスワティニ、モザンビーク、マラウイからの入国禁止を発表した。
「豊かな国は、渡航を禁止するのは早いが、ワクチンやノウハウを共有するのは非常に遅い」と、カナダのマギル大学の疫学・国際保健学のマドゥ・パイ博士が痛烈に批判している通りである。
問題は、富裕国と貧困国の間に大きな予防接種の格差があり、世界中の何十億もの人々がワクチン接種を受けられず、放置されてきたこと、意図的に莫大な超過利潤を確保する製薬独占企業の強欲さを富裕国が支援し、ワクチンの共有を拒否してきたこと、まさにそうした事態こそが、さまざまな変異種の出現を許し、助長してきたことにある。そのしっぺ返し、逆襲として、オミクロンが出現したとも言えよう。
アフリカでは、直近11/23段階で10.5%しかワクチン接種が行われていないのである(Our World in DATA 2021/11/23)。新たな変異種の出現は、ワクチン特許権放棄を頑強に拒否し続けてきた欧州諸国、一時的特許放棄を提案しながらイギリスやドイツ政権に追随し、米ファイザーの利権に配慮し、積極的な交渉を放棄してきた米バイデン政権などがもたらしたものなのである。
英国に拠点を置く提言団体「Global Justice Now」のティム・ビアリー氏は、「南アフリカ、ボツワナをはじめとするほとんどの国は、1年以上前から、コロナウイルスのワクチン、検査、治療に関する知的財産権を放棄して、独自の注射薬を製造できるようにすることを世界のリーダーたちに求めてきました」、しかし、「英国は、低・中所得国がコロナワクチンを公平に入手することを積極的に妨害してきたのです。私たちは、この亜種が出現する条件を作ってしまった」のであり、それは「富裕国の意図的な政策決定の結果」であり、「完全に回避可能」であったものであるとの声明を発表している(Common Dreams November 26, 2021)。

コロナワクチンを1回以上接種した人の割合、2021年11月23日 キューバ89.6% 中高所得国47.5% 高所得国73.4% 南米71.6% アメリカ68.6% 北アメリカ63.9% 欧州61.9% アジア61.8% 世界53.5% 中低所得国42.2% アフリカ10.4% 低所得国5.2%(少なくとも1回のワクチン接種を受けた人の総数を、その国の総人口で割ったもの。)
一方、上の図表でも明らかなように、いまだに米政権の悪質な制裁によって低所得国に追いやられ、キューバ独自の矛盾や弱点を抱え、コロナ禍に苦しめられながらも、100%完全に公的なバイオテクノロジー部門の製品として、ワクチンを開発、今やキューバは、89.6%の接種率を達成している。
なおかつ、キューバはその独自の国産ワクチンを、さらに向上、発展させ、いよいよ他の諸国に出荷できる段階となり、商業的輸出も開始し、大手製薬企業や富裕国に見捨てられた貧困国に製造レシピまで提供する用意を整えている。すでに100万本以上のワクチンを出荷、そのうち15万本は寄付されている。
9月にキューバを訪問したベトナムのグエン・スアン・フック大統領は、ワクチンを製造する研究所を見学し、少なくとも500万回分を購入する合意を発表。イランとナイジェリアも、独自のワクチンを開発するためにキューバと提携することに合意、ベネズエラとは3回分のワクチン1200万ドル分購入することに合意し、すでに投与が開始されている。米欧先進諸国は、こうした事態のさらなる進展に様々な妨害策を講じているが、戦々恐々としだした証左とも言えよう。
今回の新たで危険な変異ウイルスの出現は、ワクチンが世界中に公平で平等に配布・投与されていない場合、場所を問わずどこにでも出現するものであり、その影響は富裕国・先進国を除外するものではなく、むしろ政治的経済的危機をさらに激化させるものであることをあからさまに示したのである。一部独占企業とそれを擁護する政権は、圧倒的多数の人々から孤立し、自らの政権維持さえ危険にさらされるリスクがあることを思い知らせたのである。
(生駒 敬)