<<要求に応じれば攻撃は「一瞬で」終わる>>
3/7、ウクライナへのロシア軍の侵攻をめぐってベラルーシのブレストで行われたロシア・ウクライナ和平協議の第3回会合が開かれたが、ウクライナは即時停戦と全ロシア軍の撤退を要求し、ロシアは拒否して平行線であった。しかし、このベラルーシでの外交交渉に加え、3/10木曜日にトルコで、ロシアと
ウクライナの外相が直接会談することが明らかにされた。先月末にロシアの侵攻が始まって以来、両国間の最高レベルの会談となる予定である。
この同じ3/7、クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、
ロイター通信に対して、ロシア側の三つの要求:1.ウクライナはいかなる軍事ブロックへの加盟も拒否する、そのような憲法改正を行う。2.クリミアがロシア領であることを認める。3.ドネツクとルガンスクは独立国家であることを認める。を明示した。
同報道官は、ウクライナがこうした要求に応じれば、攻撃は「一瞬で」終わると述べ、同時に、ロシアは「ウクライナの領土を奪ったり、同国の国家指導者を追放しようとしているわけではない」と否定した、と報道されている。この報道通りであれば、プーチン大統領が2/21の演説で侵攻理由とした、ウクライナは1917年のロシア革命とレーニンによってロシアから不当に切り離されたロシアの領土であるとの主張は破綻し、明らかに後退しているのである。
そして同じ3/7、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ABCワールドニューストゥナイトの独占インタビューに応じ、「これは別の最後通告であり、最後通告の準備はできていません。しかし、これら3つの項目、つまり重要な項目については、可能な解決策があります。」「やらなければならないことは、プーチン大統領が酸素のない情報バブルに住むのではなく、話し始めて対話を始めることです。」と述べ、プーチン氏に何を言いたいかと尋ねられて、ゼレンスキー氏は「彼が否定できない重要なことは、戦争を止めることが彼の能力であるということです。」と答えている。
3/10の会談がどうなるか、予断を許さないが、かすかではあっても希望の余地はあると言えよう。すでに3/6現在、戦火を逃れる避難民は175万人にも達しており、ウクライナ4200万人の人口の10%、400万人以上の避難民が予測されている。ウクライナ国内の原発を巡る攻防は、危険極まりない事態を日に日に高めている。和平交渉が停滞したり、とん挫すれば、たんにプーチン体制が泥沼にはまり込み、政治的失脚を余儀なくされるばかりか、米国やNATO同盟国の軍事介入から一挙に第三次世界大戦、核戦争へと展開する切迫した危険性さえ指摘される事態である。
核戦争への危険性は、すでにポーランド、ハンガリー、ルーマニアが、ロシアを標的とした核ミサイルを導入するNATOの「核準備態勢」に参加していること、そのミサイルはわずか10分でロシアの主要都市を爆撃できること、そして米国自身がすでにNATO主要国に相当数の核爆弾を持ち込んでいること、それらを使用可能とするために米国は弾道弾迎撃ミサイル条約、中距離核戦力条約、およびオープンスカイズ条約から撤退しており、ロシア側の継続交渉要求に応じていないことによって、核戦争の危険性は高まりこそすれ、減少していないのである。そうした事態と緊張激化を待ち望む産軍複合体やネオコン勢力の罠に陥らないためには、対話と緊張緩和を通じて、一刻も早くロシア軍の撤退が決定されるべきであろう。
<<「全世界的な物価ショック」>>
問題は、ことここまでに至る過程ですでにウクライナ危機が当事国はもちろん、全世界に及ぼしている政治的経済的危機の深化である。
3/5 国際通貨基金(IMF)は、ゲオルギエバ専務理事が理事会後の声明を発表し、「ウクライナでの戦争がすでにエネルギーと穀物の価格を押し上げている」と述べ、「状況は依然として非常に流動的であり、見通しは非常に不確実であるが、経済的影響はすでに非常に深刻である」、「進行中の戦争とそれに伴う制裁も世界経済に深刻な影響を与えるであろう」と警告 全世界的な物価ショックが発生し、ウクライナ危機は「世界の食糧にとって壊滅的」である、とまで警告している。
3/7、ロシア産の石油禁止・供給懸念に関する議論を背景に、実際に北海ブレンド原油先物価格は前週末比2割も急騰、1バレル=139ドル台に、WTI原油先物も一時130ドルを突破、このままでは08年7月の史上最高値=147.5ドルに接近が不可避と見込まれ、東京商品取引所・中東産(ドバイ)原油先物相場も急騰、、前週末比1㎘当たり1万円超え(1万0530円高、7万7240円)、過去最大の上げ幅を記録している。1週間で10%高、21年10~12月期比3割超えの急騰である。これらは当然、ガソリン、合成樹脂など幅広い製品の値上げにつながることが必至である。商品包装等に使われるポリプロピレンはすでに3割上昇、電線の値上げにも波及している。
原油・ガスのみならず、半導体生産に不可欠なネオンは7割をウクライナに依存、自動車生産、携帯電話、さらには歯科用充填材にも使用されているパラジウムは4割はロシアに依存、等々、ニッケル、クリプトンを含め希少金属の調達危機が表面化しだしており、大半がオデッサ港の閉鎖で供給停止に追い込まれ、スポット価格は65%も上昇する事態である。
さらに、ロシアとウクライナどちらも世界的な穀倉地帯であり、巨大な食料生産国であること、カリやリン酸塩などの膨大な量の肥料生産国であること、両国は世界の小麦輸出の28.9%も占めており、両国は世界の総輸出額の約4分の1を占めているという現実の重大さである。窒素肥料の主要成分であるアンモニア生成には、大量の天然ガスが必要であり、ヨーロッパのプラントは大量のロシアのガスに依存しているのが実態である。
ウクライナ危機は港湾閉鎖、制裁による供給制限によって、コロナ危機によって悪化していたサプライチェーンをさらに悪化させ、世界の食料品価格を一挙に急騰させることは必至である。すでにシカゴ先物取引所の小麦価格は14年ぶりの高値に見舞われている。制裁の強化は、短期的にはもちろん、潜在的かつ長期的にも世界経済に重大な悪影響を及ぼすものである。それは当然、制裁を課している諸国にも深刻に跳ね返るブーメラン効果をもたらすのは必至である。
アメリカの産軍複合体、石油独占資本、金融独占資本、ネオコン政治勢力は、米英の政治権力を後ろ盾に、こうしたブーメラン効果をむしろ拡大し、彼らの覇権を拡大すること、何よりもロシアにとって南の国境にアメリカが苦しんだ別のアフガニスタン=ウクライナの泥沼を作り、ロシアをそこに誘い込み、溺れさせ、疲弊させること、これこそが彼らの罠であり、真の狙いだとも言えよう。
(生駒 敬)