【投稿】ウクライナ侵攻における核戦争に直結する原発攻撃の危険性

【投稿】ウクライナ侵攻における核戦争に直結する原発攻撃の危険性

                            福井 杉本達也

1 ロシア軍が占拠したザボロージェ原発にウクライナ軍が攻撃

3月4日午前(日本時間):「ロシアの侵攻を受けるウクライナで日本時間4日、原子力発電所への攻撃が行われたと、ゼレンスキー大統領らがSNSで伝えた。ゼレンスキー大統領は自身のSNSに建物が攻撃される映像をアップ。「今!!! ロシアがウクライナの原子力発電所に砲撃!!!!」とコメントした。」(スポーツ報知:2022.3.4 11:58)。

まず、事実はどうか。既に3月3日の各紙はザボロージェ原発が3月1日時点ではロシア軍の管轄下に入ったのではなかという報道をしている(別添:福井新聞参照:2022.3.3)。これを受けて3月3日のIAEAの臨時理事会は 「原子力施設の管理の強奪や暴力などの行為は遺憾」とし、直ちに軍事行動を止めるようにとの決議を採択している。決議では、中国が反対、インド・パキスタンが棄権している(別添:日経:2022.3.4)。従って、時系列から考えても「『4日午前2時ごろ、原発に隣接する地域をパトロール中の部隊がウクライナの破壊工作グループから攻撃を受けた』と話した。原発の外にある訓練施設から小銃による激しい射撃を受けたため、ロシア部隊が応戦したところ、『破壊工作グループ』は訓練施設を放棄し、火をつけて逃げたという。報道官はまた、ザポロジエ原発は2月28日以来、ロシアの支配下にあるとし、正常に稼働しているとした。」(ロイター:2022.3.4 19:40)とするのが事実である。ロシア軍が原発を占拠もしないのにわざわざIAEAの理事会が開かれるはずもない。3月5日の各紙は「ロ軍、稼働原発砲撃、制圧」(福井:2022.3.5)との見出しだが、自らの、たった2日前の紙面を無視して報道する姿勢はいかがなものか。完全なフェイクニュースである。IAEA理事会では採択はされたものの、中国などが反対したことで、ウクライナ側がわざと攻撃してプロパガンダを拡散しようとしたということである。ゼレンスキー大統領は4日、「ロシア軍がヨーロッパ最大の原子力発電所であるザポリージャ原発を砲撃し火災が発生したことで、NATOに『ウクライナの上空を飛行禁止区域に設定してほし』」と要請していた」(Yahoo:2022.3.5  11:58)。NATOは5日、ウクライナから出されていた、ウクライナ上空に「飛行禁止区域」は設定しないと決定した。「飛行禁止区域」を設けることは同上空の「制空権」を握るロシアとの全面戦争を意味する。ウクライナは米国の指示を受けNATOを戦争に引きずり込もうとしたようであるが失敗した。ストルテンベルグNATO事務総長は『同盟国たちは、我々がウクライナの上空にNATOの航空機を稼働させたり、ウクライナの領土に兵力を置いてはならないことに合意した』と語った。」「ゼレンスキー大統領はこの日、SNSにあげた動画を通じて『ロシアが爆撃を行なえるよう、NATOが許可したことになる』」と挑発の失敗を認めた(Yahoo:同上)。これについてはSputnikで「ゼレンスキーは、西側が飛行禁止区域を課すために原子力発電所の挑発を使用したかった – 元 ウクライナ首相」とのコメントが出た(2022.3.5  15:30)。

 

 

2 ウクライナ侵攻における最も不安定な事項としての「原発」

ロシア軍のウクライナ侵攻での最難題は原発をどうするかと、国防軍の一部として編入されているネオナチのアゾフ大隊と一般市民をどう分離できるかである。

スウェーデン国立スペース物理研究所の山内正敏研究員は「ウクライナで原発事故が起こったら、確実にロシアとベラルーシにも大きな被害が出る。それゆえ今回の侵攻に当たってロシアは原発事故による被害を恐れており、誤爆の心配はいらない。だが、戦火を避けての管理放棄や、やけになっての自爆(冷却水を止めるような細工や管理機器の破壊)のリスクは無視出来ない。」と警告する(論座:2022.3.1)。

ウクライナでは慢性的な燃料不足により、電力の50%を旧式の原発に頼っている。欧州最大というザポリージャ原発はVVER1000型の電気出力100万kWの旧ソ連製第三世代加圧水型原子炉であり、6基が稼働している(1,5,6号機は現在電力系統から外されている(発電していない又は稼働停止?3月5日5時現在のウクライナ国営電力の発表では2基が系統につながり発電中としている)。1号機はチェルノブイリ原発事故以前の1985年稼働で46年経過しており、他の原発も同様に経年劣化してきている。安全性は西側と同等の水準とされている。6基の原子炉と使用済み燃料が存在する。総量は2017年時点で2,204トン、そのうち855トンがプール内に、1,349トンが乾式貯蔵施設に保管されている。これらの冷却に支障が出れば、福島第一原発事故のような惨事にもなりかねない(原子力資料情報室)。

当然、ロシア軍とウクライナ軍の戦闘による原発の破壊の危険性も高いが、最大の問題は「管理放棄」又は「自爆」である。福島第一原発事故でも明らかになったように、原発は制御棒を挿入して運転を停止しても、燃料棒自体は高温で発熱している。燃焼により作られた核燃料内の核分裂生成物は放射線を出す。その放射線エネルギーの大部分は原子炉内で熱に変換される(崩壊熱)。下り坂で車のエンジンを切ってもブレーキがなければ止まらないことと同様である。燃料温度が上昇すると冷却水が蒸発し、炉心が溶融(メルトダウン)し、最終的には外部に放射性物質を大量に放出することとなる。原子炉が冷却が出来ないため、燃料表面温度が上昇し、水蒸気と燃料被覆管のジルコニウムとの化学反応により水素が発生し、水素爆発する。100万Kw級の原発では緊急停止後1時間での熱出力は5.2万Kw、3か月で4351Kw、5年経っても1430Kwもある(2011.3.16小出裕章ブログ)。5年後の使用済み核燃料でも4℃の水を1秒間に600g=時間2.2トンも蒸発させる能力がある。福島事故では一時、首都圏3000万人避難が計画された。原発を破壊することは、低性能で巨大すぎて持ち運びはできないが、逆に大量の放射能を抱える超巨大な据え置き型の核兵器を爆発させることである。

追い詰められたネオナチのアゾフ大隊などが何をするかは全く不明である。直接原子炉を破壊する必要はない。原発の大口径配管を爆破する、送電線を破壊して外部電源を遮断する、ディーゼル発電機を破壊することでも冷却できなくなれば数時間のうちにメルトダウンして核兵器として機能する。原発を「自爆」してヨウ素131・セシウム134・137やプルトニウムの放射性ブルームがまき散らされ、数百万人の市民が逃げ惑う混乱の中でロシア軍と戦うという構図も想定される。また、ロシアが原発を攻撃したとして、米国の核ミサイル攻撃の格好の口実ともなる。幸い、今のところはウクライナ国営電力は正常に運営されているようである。

 

3 米英傭兵部隊・イスラム過激派などの戦闘集団の存在

ロシア軍の侵攻前から米英の傭兵部隊がアゾフ大隊と一緒になってドンバス周辺でドネツク・ルガンスクの独立派に攻撃を行っていた。また、一部のイスラム過激派のテロ部隊もウクライナに運ばれたという。かれらは、戦争のプロ中のプロである。

Sputnikによれば、ロシア国防省は「ウクライナの主要な民族主義組織がロシア軍に包囲、殲滅されたため、西側諸国は戦闘行為の行われている地区へ、民間軍事会社と契約した傭兵の派遣を増員した。ロシア国防省の発表によれば、ウクライナ入りした外国人傭兵らは妨害工作、ロシアの軍機の車列への攻撃、資金調達を行っているほか、ウクライナの航空隊を防衛している。ロシア国防省は、外国人傭兵の攻撃は、米国製の対戦車ミサイル『ジェベリン』、英国製の携帯型対戦車ミサイルNLAW、米国製の携帯用対防空ミサイル『スティンガー』など全て西側諸国がウクライナ政権に供給した兵器によって行われており、それを使用するためには本格的な訓練が必要だと指摘している。」が、かれらは謀略戦にもたけている。しかもウクライナ人ではないため、ウクライナや東欧・ロシアが放射性ブルームが幕散らされ汚染され・ウクライナ市民やロシア人が放射線被曝しようが何の躊躇もない。作戦が終了すれば、速やかに米軍の救出ヘリコプターで「民間人」として脱出すればよい。

さらにSputnikは続けて「米国の軍事諜報部によって民間軍事会社の契約戦闘員を集め、ウクライナに派遣する大規模な扇動キャンペーンが展開されていると補足している」と指摘している(Sputnik :2022.3.4)。ウクライナ日本大使館は、その公式Twitterで日本人戦闘員の参加を募った。日本政府は「国の命令ではなく個人が外国に戦闘を仕掛ける目的で準備すると、刑法の私戦予備・陰謀罪にあたり3カ月以上5年以下の禁鋼刑が科される」(日経:2022.3.4)恐れがあるとして、応募しないよう警告した(日経:2022.3.4)。東京外大の伊勢崎賢治氏は「【傭兵の募集、使用、資金供与及び訓練を禁止する条約】をロシアは批准していません。しかしウクライナは批准しています。同条約を批准する国家の大使館が、同条約と矛盾する行為を、公然と日本国内で行なった場合、どうするべきか。同条約を批准していない平和国家日本の国民は考えるべきです。」(伊勢崎:2022.3.1)と警告した。防衛省はウクライナに防弾チョッキとヘルメットの防衛装備品を供給すると表明したが、軍備の輸出であり、明らかな戦争当事国への加担である。もちろん、経済制裁も一方の戦争当事国への加担であり戦争への全面的協力である。確か、日本史の教科書には日本が太平洋戦争に突入する口実としての「ハルノート」や「ABCD包囲網」というものがあったはずだが。

 

カテゴリー: ウクライナ侵攻, ソ連崩壊, 原発・原子力, 平和, 政治, 杉本執筆 パーマリンク

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