<<「戦争の質的に新しい段階」>>
11/19、ウクライナは初めてアメリカ製の長距離ミサイルATACMSをロシアに向けて発射し、ウクライナ当局は、ミサイルはロシア南西部のブリャンスク地方の弾薬庫に命中したと発表している。
一方、ロシア国防省は、発射された6発のATACMSのうち5発が撃墜され、1発が損傷し、損傷したミサイルの破片が落下して弾薬庫で火災が発生したが、被害や死傷者は出なかったと発表している。
G20会合に出席していたロシアのラブロフ外相は、西側諸国に対し、「長距離ミサイルがウクライナ領からロシア領に対して使用される場合、それは米国の軍事専門家によって制御されていることを意味するため、我々はそれを西側諸国によるロシアに対する戦争の質的に新しい段階とみなし、それに応じて対応する」と注意を喚起すると同時に、「ロシアは核戦争を回避する立場を固く守っており、核兵器は抑止力として機能する」とも述べている。
ここで、「米国の軍事専門家によって制御されている」長距離ミサイルとは、
* 米国製のATACMS は、米軍が提供する衛星ナビゲーション データを使用する
* ターゲットの選択と座標は、米国の軍事技術専門家によって実行される
* ミサイルの誘導ヘッドに飛行ミッションをロードするプロセスは、米軍兵士によって実行される
ものであり、「発射は米国の将校なしでは実行できない」ものであること、米国側の直接の関与・主導権が明らかとなっている。
ウクライナ側は、この米国が供給した長距離ミサイルをロシア領土のさらに奥深くに発射する許可を、3日前の11/17段階で得ていたことが明らかにされている。
<<戦争を「トランプ対策」化する>>
バイデン政権が何カ月もの間、長距離ミサイル攻撃の承認をためらい、他のNATO諸国にも同調を要請していたにもかかわらず、方針転換に踏み切り、世界戦争への挑発拡大、さらには核の瀬戸際政策に乗り出したのである。すでに9月の段階で、ロシアのプーチン大統領は、ロシアへの長距離ミサイル攻撃は「紛争の本質、性質そのものを明らかに変えるだろう」と、そのリスクの大きさを警告していたものである。
そのリスクの大きさにもかかわらず、方針転換に踏み切ったのは、米大統領選に大差で敗北し、今やレイムダック化したバイデン政権が、次期トランプ政権に「ウクライナの代理戦争を終わらせはしない」、戦争の泥沼化・世界戦争化を引き継がせようとしたもの、と言えよう。
トランプ次期大統領が「ウクライナ戦争を3日で終わらせる」などと公言し、来年1月の大統領就任と同時に、ウクライナ戦争終結に乗り出すという選挙公約を反故にさせる、あるいは戦争終結そのものをはるかに困難にさせる事態を意図的に作り出す、ウクライナ戦争を「トランプの脅威から守る」という、いわば、戦争を「トランプ対策」化することなのである。
そして危険なのは、このバイデンの世界戦争化に加担する、NATO諸国のなかの好戦的で危険な動きである。スウェーデンは核戦争の事態を想定し、国民に500万枚のパンフレットを配布し、備え方を指導している。パンフレットには、核攻撃の際に食料を備蓄し、避難所を見つける方法が記載されている。フィンランドは、人々に備え方をアドバイスする新しいウェブサイトを立ち上げ、ノルウェーは、世界の終わりに備えるためのヒントを記した独自の小冊子を郵送し、1週間自給自足で生活するための準備方法や、核事件に備えて保存しておくべき長期保存可能なアイテムのリストも掲載している。(バイデンが火に油を注ぐ中、ヨーロッパは戦争に備える 11/20 zerohedge)
英国とフランスもキエフに提供した長距離ミサイルの使用制限を解除したと報じられているが、ドイツとイタリアは、同調していない。
一方、対するトランプ時期大統領は11/19、世界は第三次世界大戦と核戦争の瀬戸際にいるという厳しい警告を発し、バイデン氏ののエスカレーションによって世界的な対立のリスクが高まり、核保有国が直接の紛争に巻き込まれる可能性があると主張し、さらなるエスカレーション防止の緊急性を訴え、世界規模の壊滅的な結果を回避するために、平和と強力なリーダーシップが極めて必要だと強調している。
<<ロシアの新型中距離極超音速ミサイル「オレシュニク」>>
11/21 プーチン大統領は、新型中距離極超音速ミサイル「オレシュニク」を、ウクライナがロシアのブリャンスク州とクルスク州に対してNATOの長距離ATACMSとストームシャドウを使用したことへの報復として、11月21日の夜に発射された、と公表した。「西側諸国が扇動したウクライナの地域紛争は、世界戦争の要素を獲得した」と述べ、この新型中距離極超音速ミサイル「オレシュニク」は、マッハ10(時速1万2250キロ 秒速約2.5~3キロメートル)を超える速度で飛行するもので、現在の米
国や欧州の防衛システムによる迎撃をほぼ不可能となる。プーチン大統領は、「米国がヨーロッパで構築したミサイル防衛システムを含む、世界中の既存の現代の防空システムは、そのようなミサイルを迎撃することはできない。不可能だ」、これは単なる「戦闘テ
スト」であると繰り返したが、ロシア領土への攻撃に米国と英国製の兵器が使用されたことに対し、紛争を不必要にエスカレートさせようとしているのではなく、脅威とみなされるものには報復するものであると述べている。
この「オレシュニク」は、核弾頭を搭載可能な中距離ミサイルで、射程は約5,500キロ。ロシア西部から発射した場合、欧州全体を射程内に収め、飛行速度はマッハ10(時速1万2250キロ)で、ポーランドのレジコボにある米国のミサイル防衛基地へは8分、英国には19分で到達する。
11/22、米国防総省のサブリナ・シン副報道官は、米国はロシア連邦との紛争を望んではおらず、紛争地域に派兵する考えもない、と述べ、新型ミサイルの発射に懸念を示しつつ、ロシア側の核準備に変化は見られないとし、米国側も核の位置付けは変えない考えを表明した。一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官によると、ロシア側は核リスク軽減ルートを通じ、中距離ミサイル「オレシュニク」発射前の30分前に警告を米国側に送信していたとのことである。
今、世界は危険極まりない世界戦争への挑発に、いかに対処すべきかが問われている。緊張激化と戦争挑発を孤立化させ、封じ込める、緊張緩和と平和への闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)