【翻訳】「長期にわたる計略は、中国に希土類元素を支配するのを許している。」
The New York Times International Edition、Dec. 31, 2025 ? Jan. 1, 2026
“ Long game allows China to dominate rare earths”
Wuxi, China (無錫、中国)
Generations of leaders invested heavily in the industry over six decades.
by Keith Bradsher [ 訳者:He is an American business and economics reporter and the Beijing bureau chief of the New York Times. ]
「長期にわたる計略は、中国に希土類元素を支配するのを許している。」
指導者たちの幾世代が60数年に渡りこの産業に重点的に投資してきている。
中国による rare earths への優位的支配の起源は、ある鉄鉱石鉱山 — モンゴルとの国境から50 mile ほどの中国北部 Baotou(包頭)の近く — に遡ることが出来る。 それは 1964年4月で中国の地質学者達が発見した。この鉱山が、また、幸運にも、今日の世界経済にとって不可欠な成分となっている17の元素金属がone set となっている rare earths(希土類元素) の世界最大の埋蔵量を有していたのである。
Deng Xiaoping (鄧 小平) — その時は中国共産党の上級党員だった— は、当時、軍の製鉄所によって所有されていた遠隔地の砂漠にあるこの鉱山を訪れて、膨大なる貯蔵庫というべきところを視察、検分した。「我々は、鉄資源を開発する必要がある。同時に rare earthsも」と鄧氏は明言した。10数年後に彼は、最高位の指導者になっていることが明らかになる。
[ご参考までに 17 の元素は以下の通りです。— 訳者 ]
No. 元素番号 元素記号 元素名
1 21 Sc スカンジウム
2 39 Y イットリウム
3 57 La ランタン
4 58 Ce セリウム
5 59 Pr プラセオジム
6 60 Nd ネオジウム
7 61 Pm プロメチウム
8 62 Sm サマリウム
9 63 Eu ユウロビウム
10 64 Gd ガドリニウム
11 65 Tb テルビウム
12 66 Dy ジスプロシウム
13 67 Ho ホルミウム
14 68 Er エルビウム
15 69 Tm ツリウム
16 70 Yb イッテルビウム
17 71 Lu ルテチウム
今日、先頭を行く供給者としての中国の立ち位置は、電気自動車や風力発電のタービンのようなクリーンエネルギー技術において大きな影響を与えている。世界中の会社は、これら製品に使われている高性能磁石を中国からの輸入に頼っている。希土類元素の中国への集中は偶然に起こったことではない。それは計画に基づいた数十年に渡る国内外への投資—時として党の最高レベルや政府からの指示による— の結果である。1970年代初期に、人民解放軍は rare earths の軍用への可能性を研究、開発すべく調査、研究計画を実行した。
鄧氏は、引き続き Geologist (地質学者) Wen Jiabao (温 家宝) — 彼は後に2003 ~ 2013年中国の首席となる。— と共に 1980~1990年代 rare earth の開発を進めた。温氏の下で、小規模でバラバラの個人会社群を統合整理して堅実経営の中国政府の一部門とした。また温氏は、密輸業者の経営する鉱山を閉鎖させ、この産業の汚染/公害を根絶するよう手を尽くした。この分野は、規模が大きくなって専門知識や技術を蓄え、成長した。2019年、中国の最高指導者として 7 年の統治で Xi Jinping (習 近平)は、rare earthsを「重要なる戦略的資源」であるとその特色を述べた。数年前にも世界のsupply-chain における「締め技」(chokehold)として、また、トランプ大統領との貿易戦における強力なる手段として使うことを厭わない、という態度を示してきた。(2025年)4月と再び10月になって中国は新しく輸出制限法を制定した。Rare earthsとそれを使った磁石の供給/輸出を保留出来るもので、米国に輸入関税で妥協を勝ち取った。10月の供給制限では、財務長官 Scott Bessentをして、「全世界のサプライチェーンと産業基盤に、バズーカ砲を指し向けた」と、言わしめた。
1973年後半と1974前半のアラブ諸国による石油禁輸は、米国に、重要鉱物の入手不能を体験させた。この禁輸は、世界の石油供給の1/3に影響を与えた一方で、中国は世界のrare earths とそれを使った磁石の90%を生産している事実がある。Rare earthsに関するこの一年の行動は、「明らかに地経学史(geoeconomic history)
と国際関係における重要な瞬間だった」と Mr. Nicholas Mulder, a historian of embargoes and sanctions at Cornnell University in upstate New York は述べている。
Early Role for China’s Military : 初期の中国軍への役割
中国のrare earths 産業は、50年以上前の文化対革命での軍事作戦で大きく前進した。毛沢東の紅衛兵は、ほとんどの学校と大学を閉鎖した。この時期は技術の革新にとってふさわしくないように見えた。この産業の父と呼ばれている人は、Mr. Xu Guangxian (徐 光憲)で、背の高い細身の人で上海に近いShaoxing(紹興)の出身で囲碁を愛し武術小説にも熱中していた。第二次大戦後しばらくして、彼は Columbia University in New York にて化学の博士号を取得し、その後北京大学で教え、研究するために帰国し、ウラ二ウムを加工、処理する新しい方法を発見した。これは、中国の原子爆弾を作る奮闘における大発見であり、その後のrare earthsに役立つ前触れであった。
その後の文化大革命時に、多くの知識人同様に彼も拘束された。しかし1971年、彼は政治的に復職を許され大学に戻った。人民解放軍は、rare earthsの純粋サンプルを精製する方法を発明する課題を与えた。軍は戦場でのレーザー光線を使う実験のためのサンプルを必要としていた。この精製は非常に難しい。初期には化学者達は、一つ一つ引き離し分離する難題のゆえに “rare” と名付けたほどである。
北京大学にて、徐博士と妻、それに熟達の化学技術者達は研究室に閉じこもって研究した。そして、ついに革新的大発見をなした。Rare earthsは、高価でない hydrochloric acid (塩酸)と貯蔵タンク付きの設備で精製が出来た。混合されたrare earthsは片方の端から注がれて、特定の種類の元素は様々な溶媒に結合した後に、もう片方の出口より現れてきたのである。これは最初の精製ラインであり、粗末な装置ではあったが今日でも使用されている。徐博士の技術によって生産コストは大幅に下げることが出来た。この設備は最初に包頭にて設置され、関連化学プラントを上海にて立ち上げた後に、技術者を全国から集めて教育/訓練を開始した。
Deng Xiaoping takes charge : 鄧小平が指揮を執る。
毛主席の逝去の後、鄧氏が科学技術に重点を置く経済計画にて権力の統合を始め、1978年にその計画を監督するために Mr. Fang Yi (王毅氏)を副首相に選任した。王氏は、関係する科学者/技術者を伴って包頭に向かいrare earths 産業を視察した。
鄧氏と王氏によって立案された 1981 ~ 1985 年の五か年計画には、「rare earth metals の生産を増強すべし」と指示されていた。中国の 100 以上の町や村は、1980年代にrare earths の精製所を建設した。それらの多くは国有化されていたが、ほとんどは有効な汚染処理設備を持っていなかった。1986年までには、中国はrare earths の世界最大の生産国となっていた。
当時の外国の精錬所は、徐博士の精製技術を採用/借用していた。彼は、特許を取っていなかったので、特許使用料を徴収できず、それが頭痛の種だった。「我々は当時、秘密にしておくことの自覚がなかった。」と何年か後に徐博士は、雑誌のインタビユーで述べていた。
Rare earths は、当時は high-tech. ではなく、low-tech. の製造工程で使われていた。すなわち、鉄の強度を上げることや、油の精製、ガラスに磨きをかけること、等々。しかし、米国のMichigan州や日本の研究所では、rare earths metal を、いかにして強力な磁石に変えるかという研究が進められていた。Rare earthは、正に、進化する製造業、革新の自動車、コンピューター、スマホの中心になろうとしていた。
1983年、General Motorsと日本の磁石メーカー:住友特殊金属(株)は、各々に強力なrate earth magnetを開発したと発表した。その磁石は、すぐに自動車産業や、さらにそれを超えて電気モーターに使用され始めた。中国は、その専門知識に欠けていた。
G.M. steps out, China steps in. : G.M は出て行き、中国が入る。
General Motorsは、発明した磁石の製造をIndiana州にある子会社の Magnequenchという子会社に任せた。しかし、10数年後にGMは、部品の多くで自社生産を止める決定をした。Magnequenchは、1995年投資家の共同体に売却された。その投資家の中に二つの中国の会社が含まれていて、それらの会社は鄧氏の義理の息子である Wu Jianchang と Zhang Hong によって統括されていた。Bill Clinton 大統領の下、過半数の株主は米国人であるということで、米政府はこの取引を許可した。彼ら中国人は、投資家を説得して中国での低コスト生産へと導いた。Magnequenchは、2001年、Indiana州Valparaisoの工場を閉鎖してその設備を中国 Tianjin(天津)と Ninbo(寧波)に移設した。「Valparaisoの多くの設備は休止させられて、分解され船便で運ばれるようパレットに入れられた。」とMr. Jeff Calvertは述べている。(彼は、天津における工場の設備の据え付けに任命されたMagnequenchのManagerであった。)この移転は、中国にrare earth magnetをいかにして作るか、を教えた。
磁石の生産が増加することで、rare earths 鉱山の汚染問題も大きくなり、北京政府も立ち向かう必要が出てきた。包頭にある精製所は、多量の放射性破棄物を保管場所に運び込んでいた。近くの大河川:黄河を汚染する恐れが強まっていた。2006年になって,時の首席:Wen Jiabao温家宝は、rare earth の輸出に年間割当量を課して、精製を制限し汚染を止めた。
China tests a trade weapon : 中国は通商の武器としてテストする。
2010年9月、商務省の会議室にrare earth産業の20名ほどの経営幹部が招集された。中国は、台湾の北方の無人島(尖閣諸島のこと)をめぐって日本と対峙していた。同省高官は指示を出した:日本―最大の市場―にrare earths を輸出しない。日本に供給されると思われる他国にも輸出しない。この禁輸は公表されない。
公式発表はなかったが、日本政府は、この領土問題で譲歩を示した。しかし、この禁輸措置は北京の弱みを曝すこととなる。中国の犯罪集団―この集団は中国rare earths生産の半分近くを統制下に置いている。―は、禁輸の間にも日本へ輸出し続けていた。温主席は、公安に命じ、その集団を捜査させ、当局は不法鉱山を襲って政府の管理下に置いた。
それから15年たった今、このことは中国rare earth産業の転換点だった。産業活動の無法地帯だったこの分野は飼いならされて、政府の支配下となった。そして、北京政府は、この産業は geopolitical(地政力学)を強化し、商売/取引相手を不利にすることに使えることを学んだ。
Education and Research : 教育と研究。
中国は、今日、他国に比べてより良く教育された研究者や技術者を多く生み出すことによって、rare earths における優位を固めている。Rare earthsの学習プログラムを国内39の大学に提供している。米国やヨーロッパの国々は、そのようなプログラムを持っていない。―アイオワ(Iowa) State Universityさえも。この大学はかって米国の技術者にrare earths について教えていた。Iowa州は、過去数年間に渡りrare earthsの教科を提供してきていない。しかし、ある一人の卒業生に独自にこの分野の勉強をさせていた。この大学は2026年にこの学科開く予定である。中国は今や、数百人にも上るrare earths技術の探求する科学者を擁している。上海の近くに有るWuxi(無錫)の精製工場の技術者たちは、rare earths の一つであるdysprosiumを高純度に精製するための実験/研究に7年間も要した。この工場は、今では、この元素を精製する唯一の工場であり、この元素はコンデンサー—電流をコントロールする小さな装置— に使われていて、Nvidia(エヌビディア)の人工知能半導体 ”Blackwell” にも使われていることが分かっている。
この精製所の大半の株式は、2025年まではCanadaのNeo Performance Materials—2005年にMagnequenchを所有した会社—が所有していた。しかし、2025年4月1日に中国のある国有企業がこの会社の大半の株式を買った。そして4月4日、北京政府は dysprosiumと他の6種のrare earthsの、米国とその同盟国への輸出を中断した。中国は、技術上の優位を保持することを決意したのである。政府はその精製設備をも輸出することを休止した。さらに技術者が価値ある情報を持って出国することを防止する為に、passportを取り上げている。 昨年 11月に無錫の工場を訪れた際に、門には、公安部のよく磨かれたスチールの銘板が掲げられていた。
“Caution : Key Confidential Unit”
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Li You : Contributed research
[ 訳:芋森 ]