<<トランプ特使、1回の会談で「停戦引き延ばし」打破>>
1/15、パレスチナのガザ地区紛争当事者であるイスラエルとハマス運動は、カタール、エジプト、米国の仲介により、第一段階として42日間の停戦合意に達し、合意は1月19日に発効すると、カタールの首相兼外相が記者会見で発表した。画期的な事態の展開と言えよう。
「カタール、エジプト、米国の仲介者が、ガザ紛争当事者間の停戦合意の仲介に成功した。合意は1月19日に発効する。第一段階では、民間人や軍人女性を含むイスラエル人人質33人が解放される。その見返りとして、パレスチナ人囚人がイスラエルの刑務所や拘置所から釈放される」とし、カタール、エジプト、米国は、ガザでの停戦を監視するためカイロに合同チームを設置することが明らかにされたのである。
停戦の条件に基づき、イスラエルはガザの人口密集地域から軍を撤退させ、ハマスは段階的に人質を解放する。ネタニヤフ首相は合意が永続的な平和につながることを期待すると表明し、ハマスの幹部バセム・ナイム氏は合意へのコミットメントを確認した。
そしてハマスは、ガザでの停戦合意の締結を確認し、これをイスラエルとの「紛争の転換点」と表現している。今回、ハマスは初めてガザの路上に公然と姿を現し、その最初の声明で、ハマス運動のイスラエル軍に対する「勝利」として位置付け、「偉大なパレスチナ人の伝説的な不屈の精神とガザ地区の勇敢な抵抗」を称賛している。もちろん、465日間ものイスラエルの攻撃に耐えてきたガザの人々は、ようやくにして勝ち得た停戦合意を祝している。
停戦合意草案には、さらに以下の事項が盛られている。
* イスラエルは、2023年10月7日の事件に関与した者を除き、2023年10月8日以降に逮捕されたガザの被拘禁者1,000人を釈放する。
* ガザの病人や負傷者の人質9人は、イスラエルで終身刑を宣告されているパレスチナ人囚人110人と引き換えに解放される。
* イスラエルは、停戦合意の第一段階において、ガザとエジプトの国境にあるフィラデルフィア回廊の駐留軍を徐々に削減する。
23年12月に1週間の停戦が失効して以来、このような合意は何度も提起され、実現寸前で米バイデン政権、イスラエル・ネタニヤフ政権によって、「ジェノサイド」批判をかわす、単なるジェスチュアとされ、いとも簡単に反故にされてきたものである。
しかし今回、停戦合意が急遽まとまり、ことここまでに
至った経緯について、イスラエルのメディアでさえ、ガザ停戦合意の達成はトランプ次期大統領とそのチームのおかげだと指摘している。イスラエル・タイムズによると、ネタニヤフ首相とトランプ次期大統領が派遣したスティーブ・ウィトコフ次期中東特使との「緊張した」週末の会談は人質交渉の突破口となり、「1回の会談で、退任するジョー・バイデン大統領が1年間で行ったよりも首相を動揺させた」と、2人のアラブ当局者が語った、と報じている。
<<「よほど視野が狭いか腐敗しているか」>>
ところが、退任するバイデン米大統領は、これを自身の外交の成果だとして、「この合意により、ガザでの戦闘は停止し、パレスチナの民間人への切望されている人道支援が急増し、15か月以上監禁されていた人質が家族と再会することになる」と声明で述べ、「私の外交は、この合意を成し遂げるための努力を決してやめなかった」と主張している。
あきれた虚言であろう。バイデン外交の現実は、実際には停戦妨害外交、ネタニヤフ政権のジェノサイド助長外交であった。だからこそ、「ジェノサイド・ジョー」との批判が絶えなかったのであり、大統領選での敗北につながったのである。
ニュースサイト『ザ・インターセプト』創立編集者グレン・グリーンウォルド氏は、「イスラエルとガザは過去 15 か月間、真の和平協定に近づくことすらなかったのに、バイデンがこの協定を成立させたと信じるには、よほど党派的か、よほど視野が狭く腐敗しているかを考えてみてください。協定はトランプが勝利して初めて成立し、トランプが要求したまさにその時に発効したのです。」と批判している。
一方、トランプ次期大統領は、「合意は成立した」とするフォローアップ声明で、この合意が 11 月の選挙での勝利によるものだと述べ、「この壮大な停戦合意は、11 月の歴史的勝利の結果としてのみ実現しました。これは、私の政権が平和を求め、すべてのアメリカ人と同盟国の安全を確保するための取引を交渉することを全世界に知らせたからです。アメリカ人とイスラエル人の人質が帰国し、家族や愛する人と再会できることを嬉しく思います。この合意が成立したことで、私の国家安全保障チームは、中東担当特使のスティーブ・ウィトコフの努力により、イスラエルと同盟国と緊密に協力し、ガザが二度とテロリストの避難所にならないようにします。私たちは、この停戦の勢いを利用して歴史的なアブラハム合意をさらに拡大し、地域全体で強さによる平和を推進し続けます。これはアメリカ、そして世界にとって、これから起こる素晴らしいことの始まりに過ぎません!」と、ガザ和平協定を称賛している。
しかし、このトランプ氏もまたいい加減なものである。帝国主義外交そのものともいえる言動、放言は、とどまるところを知らず、直近では、パナマ運河とグリーンランドを軍事力で支配する可能性を否定しないとまで公言している。「平和を推進し続けます」、「素晴らしいことの始まり」と言うなら、こうした不穏当な発言をまずは撤回すべきであろう。
ガザ停戦合意発効のわずか数時間前に、ガザ地区の一部でイスラエルの爆撃が激化したとの報道があり、イスラエルの国家安全保障大臣イタマール・ベン・グヴィル氏は、ネタニヤフが人質と停戦合意に同意すれば、与党連合を離脱すると脅している。停戦合意は、いまだきわめて脆弱な状態であるとも言えよう。
問われているのは、今回の停戦合意をしっかりと定着させ、揺り戻しを許さない、さらなる平和外交への全世界的な合意の拡大である。
(生駒 敬)