【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(前編)
The Japan Times Weekend、 April 5-6, 2025
“ Why rice prices keep rising ?“
by Alex K.T. Martin, Staff Writer
「何故に米価は上がり続けているのであろうか ? 」
A current shortage of Japan’s main dietary staple is due to mix of factors
including government policy, evolving tastes and climate change.
[ 昨今の日本の主食たるコメの不足は、政府の施策、変化/進化している味覚/
嗜好や 気候変動を含む諸要因に起因している。]
新潟県長岡市の桜井元気さんが、家族の稲田で、17年前に働き始めた時には、近所で12軒以上の米作農家がいた。しかし、今はたった3軒しか残っていない。「米生産者は、子供に儲からない仕事を継がせたくない。」と38歳の桜井さんは言う。彼は“コシヒカリ”品種で全国に知られている米の生産者で、24ヘクタールの田圃を耕す300年続く農家の9代目である。 「米価はあまりにも低く、農家は熱心に働いても損失を出している。そこで両親は子供に“勤め人”(Office Woker)になるほうがいいと勧める。」と桜井さんは言う。
今は、日本にとってその米の生産者を、これまで以上に必要としている。
昨年の夏に始まった国家の主食たる農産物の米の不足は、価格の急な値上がりを見せていて、政府として、初めて緊急用の備蓄庫の扉を叩き、不足分を補い価格を下げようと 21万トンの米を入札にて放出するに及んだ。
極度の暑さ、パニックのような買い、そして増大する外国人旅行者、これらが組み合わさって米の不足と価格高現象の背後にあると信じられている一方で、他の要因も働いている。数十年に渡り政府の米作地面積の削減政策は、米作から、供給量の少ない小麦や大豆のような作物への転換(いわゆる“減反政策”)へ補助金を出して来ていた。その政策は、日本人の食嗜好の西洋化と人口減少、高齢化により米への需要は低下し続けているとの前提に基づいている。
他方、農水省によれば、個人経営の農地の90 %は、60歳以上の高齢者によって経営されていて、稲作農場の70%は後継者が確保されていない。日本の耕作に適する水田は、ピーク時の1961年の 3,390,000 ヘクタールより2024年には 2,320,000 ヘクタールに減少している。米の売買や分配については、農協グループ(’JA’)による、これまでに運営されてきた最大の分配のための収集母体にのみ頼らずに、多くの農家が米を消費者等に直売したり、地方のネットワーク内で売ったりして、追跡することが一層困難になってきている。
「日本の農家は、生産においては優れているが、価格の決定については、ほとんどコントロール出来ていない。直売や他の販売方法は確立されてきているが、価格決定の分野においては、今もって問題点や不満がある。」と江藤 拓 農水大臣は述べている。さらに続けて「農業人口は、1,160,000人から低下して 300,000人になるであろうと予測されている。我々はこのトレンドを変えて逆にすることを決定付けられている。このような状況を考えると、現在のビジネス慣行が続けば米生産者にかかる負担は耐えられなくなり、潜在的に耕作現場を破壊させ食料保全を危険に曝す。」とされた。
The Reiwa rice crisis [令和の米危機]
「令和の米危機」と日本のメディアに呼ばれている進行中の米不足は、2023年の記録的に暑かった夏に遡ることが出来る。例えば新潟県―米作の全面積とその生産高の両方において日本の先導的な県―は、焼けつくような高温と長引く旱魃に見舞われた。「30日以上にわたり雨がなかった。」と桜井さんは思い出したように言った。「私は今までにこのようなことは経験したことがない。80歳を超えている私の隣人は、同じことを言っている。」とも。
日本の米作の周期は、一般的には、春になって水田の準備作業と苗の植え付けで始まり、夏になっての生育と水の管理、そして秋になっての収穫で一番重要な時期を迎える。桜井さんの説明では、2023年には、第一級品質の米(’first-grade rice’)の割合は減少した、と。米の等級は良い型の米粒と、変色や白濁と言った損傷の粒の割合によって決められる。稲が花をつける8月中旬から9月上旬にかけて高温の天気が長く続けば、傷ついた粒の割合が高くなり、結果として低い精米の歩留まりとなる。これら低品位の米が流通過程において消費者に選択され避けられて、供給不足の一因となる。そして2024年の夏において、このことが顕著に現れた。
難題が続く。大きい地震が8月に宮崎県の海岸沖で発生して、南海トラフ大地震の史上初の注意報が出された。これがパニックに陥った消費者をして、前年同月に買った量に比べ、より多くの米を買う引き金となった。
業界のウオッチャー達は、この状況は秋になって米が収穫されれば、自ずと解決するであろうと見なしていた。しかし、ここには‘ねじれ’がある。2024年における国内の収穫量は、2023年より 18万トン多かった一方で、JAのような実体ある業者によって集められた量は 31万トンで前年より少なかった。この不足分はメディアをして行方不明の米と呼ばしめた。
Missing Rice [ 行方不明の米 ]
日本は 1942年に食料管理法を制定した。それに基づき政府は、生産、分配と食料、とりわけ米価の統制を行って。 安定確保を確かなものにするために。その法律は1995年になって、農業諸施策が進化/発展するにつれて段階的に廃止された。その間に、農家による直接販売と共に様々なプレーヤーのこのマーケットへの参入により、長年にわたりJAによるコメの集荷の割合を 50%ほどに減少させてきている。
政府は、当初はこの行方不明の不足米を、農家や直接出荷された仲介業者の思惑買いによる備蓄米―JAのような集荷代理店をバイパスしての―であると主張した。しかしながら、これだけでは、この大きな量の不一致が説明出来ていない。
栃木県 宇都宮大学の農業経済のエキスパートである小川まさゆき准教授は述べている。「この米の不足は”先食い” によるものと考えられようか。これは計画されたよりも、より早く将来の使用または分配のための意図された米の消費に関係する。この場合、それは2024年からの収獲米にて、10月から消費されると考えられる。」
3月31日に農水省は調査結果をリリースした。それによれば、直接販売―集荷業者を省いての―は前年と比較して、44万トン増加していて、全部で 237万トンに達していた。この状況は、潜在的米不足をめぐる思惑によって拍車をかけられた活発な直接売買によって引き起こされた。
結果として、小売店や食料サービス業者は、いつもよりもたくさんの在庫を積み上げ、農家も手元に保管する米の量を増やした。言い換えれば “missing rice” はなかったということだ。農水省のデータによれば、 3/17~3/23 の間にスーパーマーケットで売られた 5Kg の米袋の平均価格は \ 4,197.- だった。これは 12週連続の値上がりで、昨年 3月の米価の二倍であった。そして 4月1日に同省は、二回目となる入札を実施して約 7万トンを分配業者に売って同省の在庫計 21万トンの売却を完成した。
2022年に「日本の米問題」を出版された著者の小川准教授は述べている、即ち「統計的には、五月か六月頃には人々は米価の違いに気付き始めるかもしれないであろう。均一な米価の下落に代わって、私はいくつかの変化、多様性が生じると予想する。」と。米の備蓄は、スーパーマーケットの在庫管理と違って、食料の安全保障のために存在している。結果として、備蓄は各種の米を含んでいて、それらの中には消費者になじみの薄い品種の米もある。 「スーパーでの米価は、全国で \500.- 又は \1,000.- 一気に下落するということは、在りそうにないであろうし、ブレンド米はより安くなるであろう。そして異なる地域の多様性の混合が生じるであろう。」と。「さらに言えば、備蓄米はスーパーのみならず、食堂、食品チェーン店やレストランでも入手可能である。このことは、備蓄米の多くは、高い米価と格闘している食品サービス業界―大学のカフェテリアに於けるように―に行きつくであろうことを意味している。」
[ 後編に続く]
(訳: 芋森)