【投稿】トランプ関税:後退と妥協へのディール--経済危機論(161)

<<「トランプ氏は嘘をついている」>>
4/25早朝に放送された、米CNN放送のファクトチェック番組は、トランプ大統領の経済に関する「虚構」を具体的に暴く痛烈なものであった。
トランプ氏が繰り返し主張している「卵の価格は、大統領就任式の日から93%も下がっている」との主張を、実際のファクトチェックで見事に覆している。
「トランプ大統領が1月に大統領に復帰して以来、卵の価格は93%、94%どころか、ましてや87%も下がってはいません」と説明し、「消費者が実際に支払っている価格を見てみましょう。現在、このデータは3月までしか入手できていませんが、3月のデータは芳しくありません。1ダースの卵の全国平均価格は過去最高の約6.23ドルを記録し、1月から26%上昇しているのです。4月にはこれらの小売価格が少しは下落している可能性が高いのですが、今月食料品を買った人なら誰でも、トランプ大統領就任式の日から93%も下がっているなどとは到底言えないでしょう。もし93%も下がっていたら、現在では1ダースあたり38セント以下で売られているはずです。明らかにそうではありません。」
さらに同放送のファクトチェックは、ガソリン価格に関するトランプ氏の主張も否定し、トランプ氏は、ガソリン価格が「1ガロン1.98ドルに達した」と主張しているが、「この1.98ドルという数字も虚構です。大統領が言及した4月16日と17日には、ガソリン価格が1.98ドルに近い州は一つもありませんでした。全米自動車協会(AAA)によると、各州の1日の平均価格の最低は2.70ドルでした。『もしかしたら、1.98ドルでガソリンを販売しているガソリンスタンドがたくさんあるという意味だったのかもしれない』と思うかもしれませんが、しかし、それも事実ではありません。全米数万のガソリンスタンドを追跡調査しているガスバディ社によると、両日とも1.98ドルに近い価格でガソリンを販売しているスタンドは全国で一つもなかったそうです。実際、同社が確認した最低価格はどのスタンドでも2.19ドルでした。」と、鋭く追及している。
同放送のファクトチェッカー・デール氏は、「ガソリン、卵、食料品。トランプ大統領はこれらすべての価格について嘘をついている」、それは、「トランプ氏が、関税がインフレを加速させるという広範な懸念を軽視しようとしている。」ことに起因していると端的に指摘している。

当然、トランプ政権の支持率は急速に低下し始めている。あらゆる世論調査で支持率は低迷しており、今や過半数が不支持となっている。AP通信とNORC公共政策研究センターによる世論調査によると、米国成人の約半数がトランプ大統領の貿易政策によって物価が「大幅に」上昇すると回答し、10人中3人が物価が「多少」上昇する可能性があると考えている。約半数の米国人が、今後数ヶ月以内に米国経済が景気後退に陥る可能性を「極めて」または「非常に」懸念している。直近に発表されたCBSの世論調査では、59%が経済は悪化しており、過半数はトランプのせいだと回答。関税によって引き起こされた混乱を明らかに大惨事と見なし、過半数はトランプの責任だと回答し、バイデンの責任だと答えたのはわずか21%であった。(「トランプの言うことは信じていたが、もう信じていない!」ドナルドを見捨てる有権者の背後にあるもの : マイケル・シニョリーレ・レポート 2025年4月23日

<<「145%の関税は持続不可能」>>
トランプ氏を取り巻く事態は急速に変化しており、そのゴーマンな政策も後退と妥協へのディールに追い込まれつつある。
4/24付フィナンシャル・タイムズは、「数週間にわたる怒号とエスカレーションの後、トランプ大統領は一瞬目をそらした。そして再び、そしてまた再び。彼は連邦準備制度理事会(FRB)議長解任の脅しを撤回した。財務長官は、トランプ氏の就任以来S&P500が10%下落していることを痛感し、中国との貿易戦争の激化を回避するための口実を探していることを示唆した。そして今、トランプ氏はわずか2週間前に発表した中国製品への145%の関税は持続不可能であると認めた…トランプ氏が現実に直面したことは、最も強硬な政策を打つことの政治的・経済的コストを示す鮮明なケーススタディとなった。」と報じている。

 トランプ大統領がここ数日、対中関税について明らかに姿勢を軟化させたことで、世界二大経済大国間の緊張緩和への期待が高まり、市場は少しは揺り戻し、活況に戻るかに見えているが、中国外務省報道官は、トランプ氏自身まで広めている、両国が交渉中であるという示唆を「フェイクニュース」だとして否定し、中国側は「現在のところいかなる経済と貿易の交渉も行っていない」と、明確に否定した。「この関税戦争は米国が仕掛けたもので、中国側の立場は常に明確かつ一貫している」、「戦うなら最後まで戦う。話し合うなら扉は大きく開かれている。いかなる対話や交渉も平等、尊重、相互利益に基づくものでなければならない。」といなされている。実際の緊張緩和政策が具体化されない限り、ずるずると悪化の泥沼に引き込まれる可能性が大なのである。

4/25、むしろ中国政府は、事態の長期化を見据え、増大する関税ショックへの対応として、技術、消費、貿易、そして内需拡大を促進するための新たな金融政策手段と政策融資手段を導入することを表明。中国人民銀行は、銀行システムの流動性確保のため、6,000億元(823億ドル)の1年物中期貸出制度を実施する。これにより、4月のこの制度による純資金注入額は5,000億元となり、2023年12月以来最大となる金融政策の支援姿勢を示している。

トランプ政権が緊張緩和への大胆な政策転換をしない限り、米国資産への信頼は急速に失われる可能性があり、株式と米ドルへの影響はより深刻になる可能性が大である。その政治的経済的危機の深化は、世界的な政治的経済的再編成をより一層鮮明にするであろう。
(生駒 敬)

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