【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(後編)
The Japan Times Weekend、 April 5-6, 2025
“ Why rice prices keep rising ?“
by Alex K.T. Martin, Staff Writer
「何故に米価は上がり続けているのであろうか ? 」
It’s clear that agriculture is on the brink of change — or rather,
it wouldn’t be an exaggeration to say it’s facing extinction..
[ 農業は、変遷の瀬戸際にある。むしろ、それは消滅に直面していると言っても
誇張ではないであろう。]
Rural Decline [農村の衰退]
米の消費の低迷、農家の減少、気候変動による不安定な収穫量や農地面積の縮小施策(減反政策)による打撃等の要因の縺れ、絡まった網が日本の米問題となっている。1962年(昭和37年)の 118.3Kg/人のピーク以来、米の消費量は減少し続けて来ている。2022年までに、それは 50.8Kg/人まで落ちた。同時に米作農家世帯も、JAによれば、1970年(昭和45年)の446万から2020年には、およそ 70万世帯に着実に減じてきている。同じように、米の生産量も 1970年の 1,253万トンから、2024年の 679万トンに滑るように低下している。山が多い日本において、平地は少なく米作は小さめの田圃―およそ 0.3 ~ 0.5 ヘクタール―に適した中型の農耕機械を使用する。対照的にアメリカにおける米作では、より広い耕作地―しばしばおよそ 10 ヘクタール―にて行われ、種は直接飛行機より蒔かれる。これらのことは、農耕方法の重要な違いで効率上のはっきりした格差となっている。
市場調査会社の帝国データバンクによれば、米価の上昇にもかかわらず、米作事業において、2024年に事業の失敗事例が 42件あった(倒産 6件、中止や閉鎖が36件)。米作は長い間利益を生んできていない。インフレ、円安と輸入品のコストアップにより悪化した要因によっても。 昨今の米不足は、JAによるコメ農家への前払いの申し出に拍車をかけている一方で、米耕作者の中には、苗床をも作れず、ましてや来年の為のトラクターのような欠くことのできない農耕器具を調達する余裕もない。 日本総研のマクロ経済学の研究員である後藤俊平氏は述べている。「将来に渡り米生産は、持続するだろうか否か関心事である ― 減反政策を再考する時かもしれない。」
1971年 (昭和46年) 以来、政府は米の過剰供給と価格低下を防ぐ為に年間生産目標を設定して、地域ごとに割り振ってきている。この施策は 2018年に廃止されたが、政府は今なお生産ガイドラインを示し米から他の作物に転換するよう助成金を出している。「米耕作者の数が減少しているので、生産量を維持するために耕作方法を改良する必要がある。これには、機械化、大規模農法 又は少ない耕作者(作業者)にて生産できる方法等が含まれる。」と後藤氏は述べ、さらに続けて「国内需要の減少故に生産をも削減するやり方に代わって、輸出することも考慮して生産に注力する方が良い。」と。
Peasant Uprising [農民一揆]
東京で桜が咲いていた先週土曜日(3月29日)農民がデモのために集まった。彼らはこれを「令和の農民一揆」と呼び、歴史的米価の急上昇にもかかわらず耕作(生産)現場の状況は改善されていない実情を問題提起するために約 3,200人が参加して30台のトラクターを伴って表参道―原宿を行進した。 デモの組織委員長で山形県の農家でもある菅野義秀さんは、青山公園での演説で述べた。「農家は日本の村より消えて行っている。農民がかって育てた作物は、なくなってしまい、今や村そのものが消滅の淵に立たされている。農業は変化の瀬戸際にあることは明白である。いや、むしろ消滅に直面していると言っても過言ではないであろう。もし我々が何もしなければ、一番影響を受けるのは我々農民ではなくて、消費者なのであろう。」と。
先週、東京の台東区のスーパーで、新潟産コシヒカリの5Kg入りパックは、税前価格で\4,690で売られていた。近くに積まれていた秋田県産のアキタコマチは、\4,490の値段だった。政府の放出備蓄米は、まだ米棚に見られなかった。買い物客の40歳台と思しき井上貴子さんは言った。「これは、びっくりするほどの高値ではないですか? 以前は安すぎ、今は高すぎると思います。」
米の流通販売網のアナリストであり大阪で自らも米穀店を営んでいる常本ひろし氏は述べている。「スーパーは、長らく安い米を客引きの一手段として利用してきた。たとえそれが、損を出して売ることを意味していても。これら低価格の米に、なじみ慣れ切ったお客/消費者は、この問題に寄与し、一因となってきている。結果として、多くの農家は利益を上げることが出来ずに農作業を辞めてしまっている。」 昨今の米価の急上昇は、生産者(米農家)にとって、恩恵となりうるであろう。もし適切なバランスが保たれれば。
常本氏は言う。「もし、消費者が 5Kgの米を、例えば \ 3,000.-で受け入れるならば、我々は多くの農家が、少しの利益を得ることが出来る、と判断できるかも知れない。より重要なのは、消費者が考え方、ものの見方を変える必要があり、食卓に登る食物を作る農家に協力的になることだ。」と。
前出の新潟の米農家桜井さんは、米価の値上がりで、彼の収入は増えている。しかし同様に肥料のコストも上っている。生産コストが高止まりしている時に、備蓄米の放出や他の要因で米価が押し下げられれば、「米作りを止めた、と叫ぶ農家がたくさん出ると思う。」と。そして「コシヒカリ」―全国津々浦々に知られているプレミアム付き短粒種の米―を育てている一農家として桜井さんは、消費者がこの切望された品種の栽培されるに至るまでの努力と時間を忘れているのでは、と心配している。「米価は、全国的に急上昇している。新潟の誇るプレミアムブランド米ではあるが、他の品種の米とほとんど差にないレベルの価格帯で売られている。」
桜井さんは、そのことを銀座の高級デパート「三越」に買い物に行く客が、結局は、ブランド品よりは安い大量生産された品物を買うことに行きつく例になぞらえている。「厳しくて無情なことであるが、それが現実に起こっていることです。 米が足りていないのです。人々は米を欲しくてたまらないので、どんなコメでも買うであろう。」
[ 完] (訳:芋森)