【投稿】三位一体改革の「決着」

【投稿】三位一体改革の「決着」

<混乱の中での決着>
 国と地方の税財政改革、いわゆる三位一体改革(税源移譲、国庫補助負担金改革、地方交付税改革)が、昨年11月末に政府・与党合意により「決着」した。
2004~06年度の3年間で4兆円の国の補助金削減、3兆円の地方への税源移譲という「目標」は達成されたものの、国庫負担率の引下げなど地方の自由度・裁量性が高まらない、言わば「地方への負担のつけ替え」が多く含まれるなど、様々な課題、問題点を残す内容となった。
 とりわけ、2006年度においては、またもや厚生労働省が、2005年度の国民健康保険に引き続き、地方が提案していない「生活保護費負担金」の負担率引下げを持ち出し、これに対して地方が受給者データの提供を中止するなど猛反発し、大事な論点を忘れさせるほどの「混乱」に陥った。
 結果的には、国は撤回することになったのであるが、「地方は生活保護の適正化について真摯に取り組む」との文言が盛り込まれるとともに、急きょ代替案として、これまた地方が提案していない児童手当の国庫負担率引下げ(2/3→1/3)、児童扶養手当の国庫負担率引下げ(3/4→1/2)が盛り込まれることとなり、決して「勝利」したとは言えない内容となっている。
むしろ、その直後に公明党の強い要請により、児童手当制度が拡充(小3→小6への引上げ、所得制限の緩和)されたことを考えると、極めて意図的なものを感じるのである。
 昨年9月の「自民圧勝」からの流れ、省庁の分権・三位一体改革への「嫌気」、そして、小泉首相そのものの無理解、いや無関心を考え合わせるならば、十分に想定内の「決着」であったと言わざるを得ない。
 
<第2期改革はあるのか>
 地方側は、「これで第1期改革は終わった。次は第2期改革だ」と意気込んでいるが、合意文書では「地方分権に向けた改革に終わりはない」と全く抽象的な表現にとどまり、次なる方向性は明確になっていない。
 全国知事会や全国市長会などの地方6団体は、「新地方分権構想検討委員会」を設置し、第2期改革に向けて動き始めている。
 委員長の神野直彦氏(東京大学教授)は、これまでの国の諮問機関等でも一貫して地方の側に立って発言されており、大いに期待されるのであるが、実際には、「大先生」堺屋太一氏から、榊原英資氏、北川正恭氏、そして自治体職員に密着し地方財務の実務に精通している小西砂千夫氏(関西学院大学教授)など、委員構成があまりに多士済済すぎて、議論がまるで噛み合っていない状況にある。
 都市と農村の「対立」を抱えながらも、三位一体改革では「運命共同体」として結束を保ってきた地方6団体が、今後も一致団結して運動できるのどうか、この神野委員会にかかっているのである。
 一方、相前後して竹中総務大臣は「地方分権21世紀ビジョン懇談会」、いわゆる竹中懇談会を設置し、「三位一体改革後のビッグピクチャー」を描くとして、第2期改革どころか、自治体破綻法制の検討を始めるなど、地方の側とはまったく違うステージでの議論を進めている。
 メンバーが、あの猪瀬直樹氏であり、大阪市を「恫喝」した本間正明氏(大阪大学教授)であることを考えるならば、その「危険な」結論が想像できるのである。
 さらには、内閣府の経済財政諮問会議では、国にとっての地方税財政改革の「本丸」である地方交付税改革について、本間氏を中心としたワーキンググループで議論が進められている。
 今後、これらの様々な動きが、今年6月の「最後」の「骨太の方針」を一つのヤマ場として、活発になってくるであろう。今後の分権改革の推移を見極めるためにも、小泉構造改革がどのような遺伝子を残していくのか、注視していかなければならない。
 この間の地方分権を巡る動きの中で、民主党は完全に「カヤの外」であった。地方自治制度の枠組みを中央政府がつくるという根本矛盾を解決するには、やはり、地方の側に立った政権の樹立が必要不可欠なのである。民主党がしっかりと地方6団体と連携し、「戦線」に復帰してもらわなければ、いつまでたっても分権改革は進まないのである。
(大阪 江川 明)

 【出典】 アサート No.340 2006年3月25日

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