【投稿】郵政解散に思う

【投稿】郵政解散に思う

 8月8日、この日が日本の政治にとって歴史的な日となるかどうか、今夜の時点では、予測は不可能である。8月30日公示、9月11日投票という選挙日程も決まり、これから1ヶ月余りの中で、各党が何を主張し、さらに国民がどう判断するかにかかっている。
 本誌次号の発行日程では、すでに総選挙の結果が出ていると言う日程上の制約もあり、現時点で思いつくままに、今回の「郵政解散」について、書いてみたい。

<内閣総辞職こそ常道である>
 第1に、解散に至る経過からみた解散の性格である。小泉首相は「郵政民営化への国民の信を問う選挙であり、そのための解散だ」と解散後の記者会見で述べた。たいへんに無理のある強弁である。小泉政権が誕生して4年を迎えている。この間、衆議院選挙1回、参議院選挙2回が行われているが、民主党は前進してきたとは言え、自公保、また自公で政権を維持し、小泉政権は「国民の信任」を得てきたはずである。小泉改革の目玉は構造改革であり、郵政民営化であった。その流れからすれば、今回の解散ほど、国民にとって「突然であり」「身勝手な」解散はない。小泉は「郵政民営化もできないようなら、財政再建などできるはずもない」と言うが、安定多数を持つ与党体制を持ちながら、党内の造反によって法案一つ通せないというのでは、吐いた唾が自分に返ってくる。自らの指導力の無さを考え、内閣総辞職こそがふさわしいのである。
 しかし、小泉は解散総選挙を選択した。それは何故なのか。森田実氏のHPによれば、「郵政民営化は小泉首相のブッシュ大統領との約束事なのだ。世界の証券マーケットで働くアナリストは言う――「米国の保険業界と米国ファンドは、日本の郵政民営化のための広告費として約5000億円を使っている・・・」と。郵政民営化の頓挫は、日米関係の解消に繋がるというのだ。そして、小泉はあと1年となった自民党総裁任期にしがみつくため、賭けに出ているということだろう。
 
<国民は冷めている>
 第2に、自民党造反グループが、「党議拘束」やら「解散の脅し」に屈せず、参議院での否決、法案の廃案まで、なぜ貫けたのか、という問題である。市場原理主義者やマスコミを賑わす芸能人エコノミストは、郵政民営化は規定方針であり、構造改革に欠かせないと、小泉郵政改革を賛美してきた。しかし、確かに自民党への強力な圧力団体としての郵政グループが存在しているとは言え、郵政事業に対する強烈な批判があるわけではない。むしろ国民の間には郵便事業にしろ保険事業にしろ、信頼感の方が強いのではないか。97年前後の金融不安、銀行の不良債権問題、ゼロ金利で行われている国民からの収奪にたいする銀行、民間金融機関への不満は根強いが、郵政、郵便局が赤字を垂れ流しているわけではない。郵便貯金が特殊法人へ流れているというのなら、民主党が主張している、個人の限度額1000万円を300万円に引き下げることも有効であろう。
 造反グループが、法案否決に追い込めたのも、郵政民営化論が未だ国民の世論になっていないことを見越していたからではないか。
 もちろん、小泉独裁とも言える強引な手法、それは板ばさみになった自民党議員の自殺まで追い込むことになったほどであり、こうした強引な手法に対する綿貫はじめ古参議員の憤懣の発露であったことも事実であろう。
 
<単純な構造ではない、造反組>
 さて、衆議院37名・参議院での造反議員22名の内訳を見ると、衆議院では亀井派12名、旧橋本派16名、堀内派3名、無派閥3名などであり、参議院では亀井派12名、旧橋本派5名などである。今回の解散総選挙では、前回選挙で比例単独候補をのぞくと31選挙区が、造反議員と自民党公認(新人)の競合となる。
 小泉は、31選挙区すべてに公認候補を立てると言うが、造反組に古参議員も多いことから、形だけの新人ということにもなりかねない。小選挙区制になって候補者の公認は党中央に一元化されたという事情はあるものの、地方に行けば行くほど、党公認であろうと「ポッと出の新人」を応援する組織などあるはずもない。
 また、造反の中心となった亀井派、旧橋本派でも、派閥を挙げて造反したわけではなく、派閥が「新党」の基礎になることはできず、派閥の分裂という事態も想定されている。
 判官贔屓もあって、造反組=落選という構図も単純に描くことはできないし、各選挙区事情、候補者良し悪しも手伝って、自民党公認組と造反組の当落は、ある意味で選挙終盤にならないとわからないのではないか。
 
<浮かれるな、民主党>
 さて民主党である。岡田代表は、いよいよ政権選択選挙だと言っているが、はたしてそうであろうか。もちろん選挙結果として、政権が転がり込む場合もあるだろう。しかし、今回の解散総選挙は、あくまでも自民党内紛に端を発している。民主党が解散に追い込んだわけではない。小泉が強気なのもこの点である。民主党は、国会審議において、対抗案としての「郵政法案」を出すことができなかった。この間マスコミに登場してきたのは、自民党造反組であり、民主党は民営化反対を積極的に主張してきたわけではない。対岸の火事を見ていたような印象ではないか。
 とは言え、敵失は敵失である。すでに賞味期限がきれてきた小泉政治、「一点張りの賭け勝負」的選挙戦略に動じることなく、増税反対、行財政改革、アジア中心の安保政策で、限りなく政権交代を追及して欲しいものである。
 この間の「自民党内紛」に対して、国民は冷めている。小泉の自分中心主義の独裁的手法への批判も強く、政権交代は十分に有り得る情勢にあるからこそ、「浮かれるな」と言いたいわけである。
  
<公明は本気になるか>
 公明党はどうか。私は、公明党が今回の総選挙において自党の候補者の選挙は別にして、どれだけ政権与党の立場で選挙に臨むのか、疑問を持っている。「勝ち馬に乗る」公明党である。民主との連立に冬芝も言及している。残念ながら、小泉と心中する気は公明党にはない。おそらく大臣を二つ公明に、と言えばわからなくもないが。
 
<共産票はどこへ行く>
 ここに来て話題になっているのが、共産党票の行方である。残念な事だが、党勢の退潮もあり、共産党は小選挙区300すべてに候補者を立てる、という従来の方式を変更した。現時点でも候補者名は明らかになっていない。
 同様の事が、社民党支持者の皆さんにも言えることだが、「自民も民主も実質は保守だ」という論理が、未だに元「左翼」(現左翼かな)の人たちに多い。「よりまし政府」大いに結構ではないか、と私は言いたい。94年の非自民細川政権で野党に下った自民党は、宗教政党をも巻き込んで生き延びてきた。今回の選挙では、自民党、そして造反組を復活させないために、大局的な判断が必要ではないか。

<小選挙区選挙のメカニズム>
 これまで数度の小選挙区選挙があり、その独特のメカニズムが明らかになってきた。小選挙区での当選が増えるほど、比例区の当選も増える。前回の総選挙で、民主党は比例単独立候補を禁じ、すべての候補の小選挙区からの立候補を義務付けた。2003年の総選挙で民主党は177議席を獲得した。ということは177選挙区には現職の国会議員がいるということだ。自民党は造反組37人を除くと212議席となり、欠席・棄権組14人まで公認しなければ、198議席となる。現職のいる選挙区は、177対198となり、十分に勝負になる数字であると思われる。
 公明を加えて過半数を勝敗ラインと、小泉は宣言し、退路を断ったと言われる。しかし、退路がないのは自民党自身ではないか。小泉構造改革への信を問うとも言われているが、9月11日に「自爆解散」と言われるような選挙結果を生み出し、新たな政治のスタートとなることを期待している。(2005-08-08佐野秀夫)

 【出典】 アサート No.333 2005年8月13日

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