【投稿】「脅威」拡大に走る防衛白書と小泉政権
8月8日衆議院は解散し、9月11日総選挙が決定した。この選挙の争点のなかでとりわけ重要なのが、外交、軍事問題である。小泉政権やその亜流を許すならば、日本はますます危険な方向に突き進むだろう。
8月2日の閣議で平成17年度「防衛白書」(日本の防衛)が了承された。白書は、この間の「新防衛計画大綱」などの軍拡計画、中国との緊張拡大という小泉政権の意向を踏まえ、より積極的な自衛隊の海外展開、ミサイル防衛などの推進を打ち出している。
中でも際だっているのが「新たな脅威や多様な事態」という名の仮想敵拡大である。すでに「新防衛計画大綱」では、テロや弾道ミサイル、中国の動向ついては述べられていたが、弾道ミサイル防衛について先日、北朝鮮だけではなく中国のミサイルも対象であることが明らかにされ、防衛白書では警戒感がより明確に示されている。
<中国の台湾侵攻を想定>
白書では、中国の軍事費の不透明さや、台湾独立阻止の「反国家分裂法」制定に懸念を表明。そのうえで「軍の近代化の目標が、中国の防衛に必要な範囲を超えるものではないのか慎重に判断されるべきであり、このような近代化の動向については今後とも注目していく必要がある」として、とくに海上兵力に関して「中国海軍が近海において防御作戦空間を拡大し、統合的作戦能力を増強することを目指しているとされていることに加え、将来的にはいわゆる「外洋海軍」を目指しているとの指摘もあることから、その動向に注目していく必要がある」と強調している。つまり、「中国は台湾侵攻を想定し、制海権、制空権の確保、その際障害となる、アメリカ艦隊への攻撃能力を向上させようとしている」と言っているのだ。
そして「新たな脅威と多様な事態への実効的な対応」として台湾有事に関わる中国軍の、尖閣諸島を含む南西諸島への侵攻をも想定。「島嶼部に対する侵略への対応は、本格的な着上陸侵攻対処における作戦の形態と共通する点が多いが、自衛隊が平素から行っている警戒監視や軍事情報の収集などにより、早期に兆候を察知することが重要である。事前に兆候を得た場合には敵の部隊などによる侵略を阻止するための作戦を行い、また、事前に兆候が得られず当該島嶼を占領された場合などにはこれを撃破するための作戦を行う」と具体的な軍事行動にも言及している。
<進む日米共同作戦>
白書の提起を踏まえ、自衛隊は着々と対中国戦の準備を進めている。陸上自衛隊と米陸軍が来年1月に予定している日米共同図上演習「ヤマサクラ」では、日本の島嶼部が侵攻を受けたとの想定で共同作戦を実施する内容が盛り込まれることとなった。
日米共同図上演習で島嶼作戦が行われるのは初めてだが、すでに自衛隊は98年11月、3軍合同での島嶼上陸演習を硫黄島で実施している。この演習の状況は、82年にイギリス軍が行った、アルゼンチン軍に占領されたフォークランド諸島への上陸作戦を敷衍したものであり、敵に占領された島の奪還作戦であることは明らかであった。これは江沢民国家主席訪日を10日後に控えた状況のなかでの、あからさまな示威行動であったが、当時防衛庁は日中関係に配慮し「これは既に我が方が確保している島嶼への増派訓練であり、奪還を想定してのものではない」と釈明していた。しかし、現在はそうした「遠慮」も無用と、図上演習に続きアメリカ海兵隊との実働演習も予定している。
<反発強めるアジア諸国>
防衛白書に対して中国外務省は、8月3日声明で「全く根拠がないことであり、日本が政府文書で公にいわゆる『中国の脅威』を強調するとは極めて無責任だ」と非難。「両国の安全保障面での信頼関係構築に寄与するものではなく、公衆の誤解を招き、相互間で疑念や反感をもたらし、中日関係を損ねる」としており、演習が実施されればさらなる反発が予想される。
防衛白書に示された日本政府の姿勢は、中国のみならず韓国からも批判を招いている。白書で「竹島」領有が明記されたことに、韓国国防部は「我々の正当な領土主権に対する挑戦行為であり、決して容認できない」と関連内容の削除を要求した。韓国は先に進水した1万4000トンの強襲揚陸艦を「独島」と命名、後には引かない決意を示している。これに対して海上自衛隊は、「独島」級を上回る1万7000トンクラスのヘリ空母を09年にも竣工させる予定であり、こうした「軍拡競争」で韓国との潜在的な緊張は、ますます高まるものと思われる。
また防衛庁は、8月15日からシンガポールで開催されている、大量破壊兵器拡散阻止構想(PSI)の多国間共同訓練に、護衛艦「しらね」とP3C哨戒機2機を派遣している。これは米、英、豪などとの共同訓練であるが、マラッカ海峡周辺への自衛隊のプレゼンス拡大に対しては、周辺諸国からの警戒を招くことが予想される。
<政権交代こそ平和と安定への道>
アジアでの孤立が深まるなか、国連の常任理事国入りが絶望的となった日本政府は、今後国連を軽視する一方で、裏切られたにもかかわらず「支持取り付けにはもっと軍事貢献が必要だった」として日米同盟の強化に向かうだろう。「世界は新たな脅威と不安定要因に満ちあふれている」との認識のもと「国際平和協力活動に主体的・積極的に取組む=アメリカと連携した地域紛争介入」という防衛白書が示す方向性はまさにそういうものである。これは第2次大戦前の国際連盟脱退、日、独、伊枢軸を彷彿とさせるものである。イラクでも欧州、アジアの各派兵国が次々と撤退、または撤退の時期を探っているが、日本政府は最後までアメリカとつき合う覚悟のようである。
さらに北朝鮮、ロシアとの関係でも、展望の見いだせない、いわば八方ふさがりの状況下、内政的にも行き詰まった小泉政権は、参議院での郵政関連法案否決を口実に、破れかぶれの衆議院解散に打って出たわけである。小泉政権は白書で示された「中国、北朝鮮の脅威」を最大限利用しながら政権延命を図ろうとするだろう。今次総選挙ではアジアの平和と安定のため、国際協調を軸とする政権の確立に全力を挙げなければならない。(大阪 O)
【出典】 アサート No.333 2005年8月13日