【投稿】解散・総選挙、小泉政権の終幕へ
<<「心、ヒロシマにあらず」>>
8/6、被爆60周年という節目の当日、小泉首相は広島の平和記念式には出席したが、その直後に開かれた「被爆者代表から要望を聞く会」には4年連続で欠席した。「心、ヒロシマにあらず」、参議院の郵政法案否決の流れに心奪われ、衆院解散か否かを詰め寄る記者団に「可決か否決か、どちらか一つだ」と虚勢を張るのみであった。
この「要望を聞く会」には首相に就任した01年には出席していたにもかかわらず、そして今年6月の日韓首脳会談で「在韓被爆者に対する支援を人道的観点から可能な限り進める」と表明し、在韓被爆者代表も要望を携えて来日していたにもかかわらず、首相は欠席し、美術館鑑賞に出かけているのである。
8/6付朝日夕刊によると、会に出た広島県原爆被害者団体協議会の坪井直理事長(80)は「郵政国会で忙しいかも知れないが、核は国の存亡にかかわる問題だ」と憤り、県朝鮮人被爆者協議会の李実根(リ・シルグン)会長(76)も「被爆60年の節目に会わないとは、被爆者を無視したのも同然だ」と話し、韓国原爆被害者協会元事務局長の朴源釦(パク・ウォング)さん(70)は「何かしてくれると期待したが、数カ月たっても何もない。我々が何を求めているのか、直接会って聞いてもらいたかった」と残念がった、という。
秋葉忠利・広島市長がこの日の平和宣言の中で、核保有国と核保有願望国に対して「世界の大多数の市民や国の声を無視している」と厳しく批判し、10月の国連総会で核兵器廃絶の具体策を協議する特別委員会を設けるよう提案し、「核廃絶に努力し続けた被爆者の志を受け継ぎ、果たすべき責任に目覚め、行動に移す決意を」と平和宣言で呼び掛け、今後一年間を被爆者の願いを受け継ぎ、核廃絶へ歩む「継承と目覚め、決意の年」にする決意を明らかにした。さらに秋葉氏は、戦争の放棄をうたった日本国憲法は「21世紀の世界を導く道標(みちしるべ)」であることを、世界に向かってあらためて宣言している。
この秋葉市長と小泉首相の差は、まさに雲泥の差である。本来、全世界に対して平和の尊さを呼びかけ、戦争の中止と核兵器の廃絶を訴えて行動に移すべきなのは日本の首相であろう。被爆者の願いなど、聞く耳持たずというこの日の首相の行動は、唯一の被爆国としての首相という自覚など、これっぽちもないということを自ら示したものであり、解散・総選挙の結果にかかわらず、この時点ですでに首相としての資格を自ら放棄したものといえよう。
<<「解党元年、分裂元年」>>
「郵政法案参院否決なら解散」、「殺されてもいい。おれは総理大臣だ」。小泉首相は6日、自らの支持母体、出身派閥の会長辞任を表明してまで衆院解散の翻意を迫る森前首相にそう、決意を語ったという。「外交だって山積みだ。予算もある、経済もある」。森氏は約1時間半にわたって解散を思いとどまるよう説得したが、首相は一切耳を貸そうとしない。「おれに対して、こんな対応ですよ。さじ投げたな。私に何をしろって言うの」、「変人以上だよ」とあきれれはてる森氏。「神の国」発言で世をあきれ果てさせたあの森氏をしてこういわせるのだから、もうつける薬がないというわけである。
解散カードで議員を、国会を脅しつける戦法が、首相自身の首を絞め、暴走を止めることも出来ず、自民党議員が「集団自殺」と恐れる自爆解散に突き進む事態を招来したともいえよう。首相自身の最大のマニフェストが、「自民党をぶっ壊す」ことだったことからすれば、これまでの「抵抗勢力」に取り込まれてきた紆余曲折、野垂れ死に同然の「改革」、うらみ、つらみを一挙に晴らす“私憤”解散・“自爆テロ”解散で自民党分裂選挙を強行し、結果的に「自民党をぶっ壊す」ことに最大の貢献をなす、これが残された唯一の役割なのかもしれない。
自民党の武部幹事長は北海道稚内市で「立党50年になるのに、解党元年、分裂元年になったらジョークにもならない」と嘆いたが、すでにジョークではすまなくなってきたのである。首相は、衆院の採決で党議拘束に従わず、反対・欠席した51人の造反議員は公認しない方針であり、造反グループは「新生自民党を結成して戦う」(平沼前経産相)こととなり、分裂選挙は確実である。
8/12付けの週刊ポストは「自民党160議席割れで民主党・岡田政権誕生だ」と題する福岡政行緊急分析を掲載し、衆院選300小選挙区当落全氏名を予測し、「小泉首相は郵政問題を名目に解散を打とうとも、それが国民の関心を引かないことは十分認識している。そこで中国などの反発をあらかじめ見込んだ上で8月15日に靖国神社を公式参拝し、〝靖国解散〟にすり替える。国民の愛国心に訴えかける作戦である。」、「総選挙のポイントは『郵政』、『靖国』、『増税』の3点セットとなる」と分析し、週刊文春は、自民200議席割れ(現有251)、民主241議席(現有175)とはじいている。いずれも当たらずといえども遠からずといえよう。
<<「こういう事態はあり得る」>>
内政のみならず、靖国参拝や領土・領有権問題、教科書問題、従軍慰安婦や強制連行など各種戦後補償問題等々で、反中国、反韓国のナショナリズムを煽り立て、その上でなおかつ国連安保理常任理事国入りを目指すという支離滅裂な外交は完全に破綻し、国連への拠出金の減額までちらつかせてアフリカ諸国を切り崩そうとしてきた独善的な姿勢は、アフリカ連合諸国からも拒絶され、絶望的なまでに孤立してしまっている。常任理事国入りは、アメリカからさえも突き放されてしまった。8/5の記者会見で町村外相は、「こういう事態はあり得ると思っていた。何が何でも投票というつもりはない」と述べ、政府が目指してきた枠組み決議案の国連での採決断念までをも示唆した。そして6カ国協議でも、なんらの積極的なイニシアティブや提案も持たずに出席し、情報交換さえロクに出来ず、日本だけが蚊帳の外に置かれたままであった。
こうした事態を改善し、国際的な信認を勝ち得るためには、もはや最大の障碍となっている小泉政権を退場させ、新たな政権で事態を打開する以外にない、そのような段階に直面していることを明らかにしている。
いかに道理のない解散といえども、こうした事態は小泉首相はもちろん、小泉政権を支える自民・公明の与党が招いたものである。こうした事態を招いた結果責任が問われなければならないのは当然のことといえよう。その意味では、今回のふってわいたような解散・総選挙は、その結果責任を問い、自民党政権を退場させ、新たな政界再編成をもたらす重要な一つの機会といえよう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.333 2005年8月13日