【投稿】在日米軍再編の行方
<明らかになる真の敵>
アメリカが世界的規模で進めている米軍再編計画(トランスフォーメーション)の大きな焦点のひとつが在日米軍の再編である。
現在の米軍は、基本的には冷戦時代の対ソシフトのままとなっており、「9、11」以降の「対テロ戦争」、とりわけユーラシア大陸を横断する「不安定の弧」で活動する国際テロ組織やイスラム原理主義過激派を対象とした軍事行動に充分対応できないとアメリカは主張している。
今回の在日米軍再編は、そうした専ら「新しい敵」に対応した軍事行動の効率化を進めるものであると言われているが、極東地域においては「本当の敵」は中国ではないかと思われる。現在アメリカは北朝鮮を牽制するため、中国を最大限利用したいと考えており、無用な挑発は避けている。しかし、北朝鮮の核問題が解決した後は、台湾問題が浮上するのは明らかであり、ブッシュ政権はそれを見越した動きに出ているようである。
大野防衛庁長官とラムズフェルド国防長官は6月初旬、在日米軍の再編計画案を年内に合意することで一致した。この日米防衛首脳会談でも、中国の軍事費について、大野長官が「透明性に問題」と指摘し、ラムズフェルド長官も「何を国防費に含めるかは国によって違うが、中国の実際の国防費は公表されている額の2~3倍ある」と懸念を表明、共通の脅威であることが確認された。
在沖米軍の削減については、昨年沖縄国際大への墜落事故を起こした普天間飛行場のヘリ部隊を嘉手納基地へ移転させることが確実視されている。ヘリ部隊については当初、辺野古沖への移転が有力であったが反対運動で足踏み状態のなか、白紙撤回となりそうである。しかし、嘉手納基地周辺では沖縄市議会で反対決議が採択されるなど、統合反対の動きが強まっており、沖縄県内での「たらい回し」ではなんら負担軽減につながらないことは明白である。逆に浮かび上がってくるのは対中国シフトの強化である。
先の会談でも大野長官は「沖縄の負担軽減」をあげて、海兵隊の削減を含めた兵力構成の見直しにふれた。しかし、ラムズフェルド長官は「抑止力の維持」が重要との立場を強調した。さらに浦添市の海兵隊キャンプ・キンザー(牧港補給地区)返還問題についてもアメリカ側は重要な補給基地であると主張、返還に難色を示している。これらは、いずれも中国を念頭においたものである。
<進む日本の対中基地化>
日本本土の米軍再編画もそうした方向に沿ったものとなっている。すでに米第1軍団司令部のワシントン州からキャンプ座間(神奈川県)への移転が固まっている。しかし中東までを作戦区域に含む同軍団の日本移転については、日米安保条約の極東条項との絡みで問題点が指摘されてきた。
これに対しアメリカは同司令部の機能や名称を縮小、改変、指揮権を「極東」に限定する意向だという。米軍は組織改編で指揮系統を、広域司令部(UEY)と作戦運用司令部(UEX)の2段階に再編する計画を進めている。第1軍団司令部は現在UEYだが、座間移転を機にUEXに改編し、太平洋軍司令部(UEY)の下に置くことを検討している。中国を対象とするなら指揮範囲を「極東」に限定しても何ら問題はないというわけだ。
また米空母艦載機の夜間発着訓練(NLP)は厚木基地の騒音被害が深刻な事から、一時三宅島への移転が計画されたが、全島的な反対運動の前に白紙撤回となった。それが今回の再編で艦載機部隊が山口県の岩国基地に移転されることが確実となり、NLPも岩国で実施される可能性が強まった。これらの具体的な動きは、グアムの空軍力の強化と合わせて、太平洋軍の矛先がどこに向いているかを示している。
<自らの首を絞める日本政府>
一方日本政府は、アジアでの影響力拡大のため、自衛隊の外征軍化、米軍との共同行動強化を基本としながら、日本本土の基地機能拡充を進めようとしている。
共同行動に関しては、改憲で明文化が目論まれている集団的自衛権の行使というソフト面とともに、ハード面でも、ミサイル防衛の研究から開発への移行、レーダー情報の日米共有化など、軍事一体化への動きが加速している。来年3月にはハワイ沖で海上配備型ミサイル(SM3)の迎撃実験を行うことが明らかになり、国内での手続きに関する自衛隊法改正と合わせて、即応体制が強められつつある。
これらの動きは、「北朝鮮の脅威」を口実としたものであるが、今後アメリカに引きずられる形で、「対北」にも増して中国に対しての措置であることが、露わになってくるだろう。
現在小泉政権は内外の強い反発にもかかわらず対中強行路線を進めている。このような時期に中国を睨んだ米軍の再編計画に組み込まれていくことは、ますます中国の警戒感を強め、与党内からも求められている関係改善への道のりを険しいものにするだろう。国内的にも沖縄の負担軽減が進まないことに加え、本土の負担が増える状況を前に、政府の危機感は深まるだろう。しかしアメリカに善処を求めても「日米共通の敵である中国に対処するため」と切り替えされれば、手の打ちようがないのである。
今回の米軍再編の動きと、それへの同調は、韓国、北朝鮮との関係も含め、東アジアにおける日本の選択肢をこれまで以上に狭めるものであり、目論む方向とは逆に小泉政権は自ら袋小路に陥ったと言えるだろう。(大阪O)
【出典】 アサート No.331 2005年6月18日