【コラム】ひとりごと:NGOの勝利–中国・瀋陽の日本総領事館事件
○中国・瀋陽の事件に注目が集まっている。中国のウイーン条約違反は逃れられないし事実だし、「不審者は退去させろ」と指示していたという日本の総領事発言を始め、日本側の対応もお粗末極まりない。ということで、マスコミ的には、どうにでも料理できるネタということになる。外務省の調査報告に、中国がさらに「合意の上」「握手もした」「亡命意思を示した文書も受け付けなかった」などの暴露も重なり、表面上は日中が対立した形となった。○国家主権が侵害されたと勢いづく保守系政治家も現れ、田中、鈴木宗雄と続く外務省の失態に、国会終盤を迎える小泉政権にとって、また不安要因を抱えたことも事実である。○この事件の性格を決定的にしたのが、あの繰り返し報道された映像であろう。領事館内に入れた二人の男性を武装警官が連れ出した場面はなかったけれども、門を挟んでのもみ合い、立ち尽くす女の子の表情。一方、生きるために必死の攻防を前に警官の帽子を拾って為すすべもない日本の外務省職員の態度。まさに映像の力である。あの映像がなければここまでの反応は生まれてこなかっただろう。○私の当初の感想は、杉原千畝精神はどこへ行ったのか、ということだ。ナチスドイツ支配下で、迫害されているユダヤ人達にビザを発行し続けた誇り高い人道主義はどこへいったのか。○まだまだ、中国と日本の表面的な外交議論は続くだろうけれど、国際的な監視の下で、公式的には認めないにしろあの5人の亡命が実現しそうな雰囲気にあることにはホッとする。○ウイーン条約という国際条約もかなぐり捨て、北朝鮮からの亡命者を不審者として拘束した中国も、不審者は退去させろ、とした難民条約を批准しながら、実質的には人道・人権主義を貫けず、国際的に信頼されない日本も、共に敗北することにになるだろう。勝者は、あの5人の人々と、それを支えて周到な準備をした亡命者支援のNGOだ。○明らかになったことは、窮乏化と封建的独裁政権の中で、北朝鮮からの難民は今後も確実に増加していくこと、中国・韓国・北朝鮮・日本という関係が一層複雑になり、日本の外交姿勢が厳しく問われることになると言う事だ。(佐野秀夫)
【出典】 アサート No.294 2002年5月25日