【投稿】千葉県知事選を振り返って

【投稿】千葉県知事選を振り返って  by 市川 信一 

 3月8日告示、3月25日投票で、千葉県知事選がたたかわれた。既に新聞等で報道されているように、結果は前参議院議員の堂本暁子氏が当選、連合が推薦した若井康彦氏は惜敗した。

堂本暁子   491,205票
岩瀬良三   472,325票 (自民、保守推薦、公明支持)
若井康彦   428,153票 (民主、社民、連合千葉推薦)
河野 泉  240,271票 (共産推薦)
門田正則   53,865票

<混迷した候補者選び>
 県知事選は長期政権であった沼田知事(5期20年)が引退表明する中で、候補者選びから難航した。岩瀬氏は当初より立候補の意思を示していたが、自民党は岩瀬では勝てないとして、中央官僚などに接触したがことごとく断られ、連合候補との相乗りもままならず、最後の選択として岩瀬氏を推薦した。対する民主党は市民団体との候補者調整を図ったが、最初に「堂本」ありきに終始した「市民派」と決別し、連合の推す若井康彦氏(都市計画プランナー)を推薦、市民派は予定通り堂本氏を推薦し、それぞれ選挙戦に突入した。

<序盤岩瀬、中盤若井 そして最終版>
 マスコミによる世論調査では、選挙戦序盤は、全国的には自民党に逆風が吹いていようとも保守王国千葉県の貫禄を発揮、岩瀬氏がリードした。しかしその時点で都市部では、若井氏がかなり浸透し、トップを取っていた。 中盤の世論調査では、開きは大きくないが若井、堂本、岩瀬の順でマスコミは報道。連合・民主党陣営は「このままいけば、当選する」との思いを強くする。民主党は、この知事選を参議院選の前哨戦と位置付け中盤以降、鳩山・菅と言った看板を投入し、民主対自民の構造を押し出していった。
 しかしながら、直前4日ほど前から不可思議な現象が起きてくる。自民党の元代議士「水野清」(千葉県の北総地区では、一定の影響力を持つ)が勝手連を名乗り堂本応援を表明、動き出す。また、前日まで鳩山・菅と仲良く三番瀬を視察していた民主党代議士、「田中甲」が突如として、労組に依存した民主党体質、県知事選民主・連合陣営を批判、離党届を提出し、実質的に堂本応援にまわった。マスコミの論調も、無党派選挙を標榜する堂本陣営に好意的になっていった。
 一方、当初中立を標榜していた公明党は、中央のてこ入れの中で岩瀬支持を打ち出していった。
 選挙戦は、最終版まさに混戦の中で迎え、結果として連合候補である若井氏は惜敗した。

<「無党派・市民派」の内実、そして無党派の風は....>
 選挙の総括視点は色々ある。①中盤有利とされた若井陣営に気の緩みは無かったのか、連合が組織力を発揮できたのか、②民主党が前面に出る中で社民党が引けていったのではないか、③あまりに絶妙なタイミングで労組依存を理由に離党届を出し、堂本応援に回った田中甲代議士の背景は?など色々ある。特に田中代議士の離党騒ぎの影響力はかなり大きく、彼の地元の市川市では、堂本・若井で1万票以上の差が出ており利敵行為以外の何者でもない。④また、自民党県連が分裂している中で、一方のグループの一部が利権確保のため堂本陣営のために動いたのも事実である。戦術的な総括や利権がらみの動きの分析はとりあえずここではこれ以上は触れないこととする。
 一番の関心事は、堂本陣営の「無党派・市民派」とは何であったのか、無党派層がなぜ動いたのかである。
 結論から言えば堂本陣営は無党派ではない。当初、市民が中心となった組織であったが途中からは、「市民ネット」が前面に立ち、さらには「市民の党」を名乗る斉藤正志グループ(MPD-ポルポト支持)が中村敦夫選挙、川田悦子選挙をへて乗り込んでくる。たしかに既成政党ではないが、明確な政治セクト主導の陣営であった。 
 しかしながら、堂本陣営は無党派層に食い込んでいった。今まで民主党は、そういった無党派層をターゲットにしてきたが、森退陣に明確な筋道を作れない野党に対する不満、一向に好転しない経済情況などでの閉塞感の中で、既成政党への批判は民主党にも直撃した。そのことが、中盤から民主党を前面に押し出した若井陣営にマイナス影響を与えたと言えよう。一方で、唯一の女性候補、無党派を掲げた堂本氏がムードとして、そして「したたかな戦術」を持って無党派層を取り込んでいった。 

<政策を打ち出さないことが政策?>
 堂本氏の政策とは何であったか。 はっきり言って政策らしい政策は皆無に等しい。唯一公約と言えるのは、県下全市町村をまわり対話集会を開くことである。 選挙戦でも街頭でのインタビューに徹し、皆さんのご意見を聞くと言ったスタイルをとった。結果として、そのことを含めソフト路線が堂本陣営には効を奏し、女性票、若者票の獲得に結びついた。
 政策的提起を押し出した若井陣営は、団塊の世代を中心とする男性層には食い込んだが、女性層には浸透しきれなかった。政治不信、既成政党不信という中で、手段である「住民対話」が政策になり公約になってしまうのは皮肉な現象である。
 選挙の結果は出た。政策なき「ご意見拝聴型県政」が自民党主導、官僚主導の青島都政の再現を想像してしまうのは私だけであろうか。既に68歳と高齢の堂本氏の次の時代に何が起こるのか.....。  
 来るべき4年を「失われた4年」にさせないために、労働現場からの提言を続けていきたい。(市川信一) 

 【出典】 アサート No.281 2001年4月21日

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