【投稿】諫早干拓事業で有明のり大打撃–工事中断へ

【投稿】諫早干拓事業で有明のり大打撃–工事中断へ
 
アサート271号(2000年6月)でレポートした諫早干拓事業だが、1997年4月14日の「ギロチン」以来、旧干潟は消滅し、「潮受け堤防」工事は1999年7月に完成、すでに4年が過ぎている。そして、今年に入って、有明海周辺の漁協(佐賀、福岡、熊本)が、ノリの不作は諫早干拓が原因と排水門の開門と工事中断を求めて、長崎農政局や農水省にデモや抗議行動を行った。1月28日には諫早湾で有明海沿岸の漁業者による漁船1500隻の海上デモが行われ、3月1日には福岡県有明漁連は約270人が上京して農水省に対して抗議の申し入れと霞ヶ関周辺での抗議デモを行った。
 諫早干拓事業については、271号や諫早干潟救済本部のHP(http://www2s.biglobe.ne.jp/~isahaya/)を参照していただきたいが、今年に入っての抗議行動などの事態を見ていると新たな観点が必要だと思った。
 要するに、諫早湾の問題ではなく、有明海レベルの問題として被害が広がっていることである。地図を見るとよくわかる。諫早湾は有明海の一部であって、有明海は、佐賀、福岡、熊本、そして長崎県に囲まれているわけだ。そして、海流はちょうど時計周りに有明海を巡る。ちょうど海流は最初に諫早湾から回り始める。広大な諫早干潟は自然の濾過機能と共に、微生物の宝庫として、余分なプランクトンを「消費」してくれていたわけである。この干潟が消えた時、すべてのバランスが大きく崩れ始める。

<干潟が消え、プランクトンが異常発生>
 この間における水産資源の減少は、年を追うごとに予想以上に深刻の度を深めていた。
 「タイラギ漁の不振、アサリの死滅、ムツゴロウの激減、その他赤潮の発生、潮位が異常上に高くなり、ノリ養殖業にも甚大な被害を与えている。漁民は今、死活問題に直面している。こうした被害の原因については、長崎大学の東幹夫教授など、科学者による赤潮の多発や底生生物の激減ぶりを示す現地調査の報告が発表され、新聞やテレビで大きく報道された。これらは我々、海に生きる漁業者の生産活動を通じての認識と、完全に一致するものである。」(2000年4月大浦漁協の『諫早干拓水門開放と事業中止を求める大浦漁民海上決起集会』宣言より)
 データ的にみても、例えば有明海特産の「タイラギ漁」(貝の一種)だが、このギロチンを境に、漁獲量が激減している。
 佐賀県平良町の大浦漁協の大浦漁協のタイラギ漁獲量の推移だが、漁獲量がギロチン前の96年度 318トン、97年度(閉め切り) 97トン、98年度 15トン、99年度 0トンという状況で、大浦漁協の漁民はすでに2000年4月に漁船デモで、工事中止を訴えている。
 3県魚連による強力な工事中断要求となったのは、今年冬の有明ノリの壊滅的な不作である。原因はプランクトンの異常発生で養殖ノリに栄養が回らないことだ。いずれノリの価格高騰は必死と言われている。現に全国漁業協同組合連合会(東京)の調査では、ノリの落札価格は1月後半の約32%高からさらに値上がり幅が拡大し、産地によっては2倍以上になった所もあると言われている。

<水門開門でヘドロが流出も>
 皮肉なことに、干潟が消えて、都市排水の汚泥もまた4年間、干拓地の調整池に堆積し続けている。すでに調整池は汚水状態となって汚染が進んでいる。
 こうした事態に、佐賀、福岡、熊本の魚連は一致して工事中断、水門開門を求めているのに対して、長崎県魚連は、水門開門でヘドロの大量流出が予測され、一部の漁民の漁業に致命的な影響が懸念されるため、魚連で意見が割れているという。諫早市内で干拓推進派の「工事中断反対・干拓推進」の決起集会も開かれるなど、「経済的利害」も絡んで現地は複雑な様相である。

<緊急調査実施へ>
 こうした中、3県魚連の抗議行動に対して、農水省の第三者委員会は13日の第2回会合で、諌早湾干拓事業を中断して潮受け堤防内の緊急調査をするよう農水省に提言した。これに対して、長崎県も、工事中断と緊急調査を受け入れた。ただ、長崎県は水門開放には依然として反対している。調査は3月中旬から2週間の予定で行われ、27日には「提言」が出される予定で、「水門の一時開放」の結論の方向と報道がなされている。
 しかし、農水省は表向き漁民の声を聞いた形だが、昨年「諫早湾干拓調整池水質調査委員会」の議事録に、反対派委員の意見を勝手に削除した経過もある。第3者委員会の公正な判断が期待されるところである。

<バランスが崩れる時・・・・>
 有明海、諫早湾の自然を守れ、という単純な構図ではなくなってきているのである。経済的利害への影響が深刻になり、大きく報道されるほど人々が行動した。しかし、一方で取り返しのつかないほど、自然のシステムは破壊されてしまった。
 諫早湾の干潟という自然が、漁民そして市民の生活に重要な役割を果たしていた「事実」は軽視されてきた。農水省の「干拓ニュース」は「水質の悪化は微小」と昨年諫早を訪れた時に手にしたものは書いてあった。
 自然のバランスが崩れるとき、どういう事態が起こるか、残念ながら諫早のケースを貴重な警鐘とすべきである。そして従来型の公共事業からの転換が求められているのである。(2001-03-18 佐野)

朝日新聞のHPでも、諫早干拓の特集ページがあります。ご参照ください。(http://www.asahi.com/nature/index.html) 

 【出典】 アサート No.280 2001年3月24日

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