【投稿】波乱の幕開け-政治・経済

【投稿】波乱の幕開け-政治・経済

<<「米経済のうたげは終わった」>> 
 21世紀、年明け早々、波乱の幕開けを象徴する事態が展開している。ニューヨーク株式市場は昨年末に引き続き、急落、反騰の激しい動揺を繰り返しながらも、明らかにバブル崩壊を本格化し始めたのである。1/3、「年初の株価下落でFRB(米連邦準備理事会)は動転した」(1/8日経、G・シリング氏)結果、当初1月下旬に予定されていた連邦公開市場委員会(FMOC)が急遽電話連絡の持ち回りで開かれ、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を6%とする緊急利下げを決定した。前日発表された12月の全米購買部協会景気指数が43.7と実に1991年以来の低水準となり、「米景気の悪化が予想を上回る」ものであり、放置すれば米株価はさらに大幅下落しかねないと判断されたのである。
 FRBの緊急声明は「販売、生産が一段と鈍化し、消費者の景気信頼感が低下、一部金融市場の逼迫が見られ、エネルギー価格の高騰による購買力が低下」している事態を、きわめて異例な緊急利下げの理由としている。こうした事態をもたらした「昨年後半の判断ミスのツケ」を追及されかねないグリーンスパンFRB議長は焦りと動揺を隠せなかったのである。利下げ幅が0.5%と予想外に大きく、米株式相場はいったんは急騰したが、再び下落し始め、翌4日、FRBは前日0.25%の利下げを実施したばかりの公定歩合をさらに0.25%引き下げ5.5%とすることを追加決定した。しかし翌5日には市場はまたもや大幅続落、ハイテク株ばかりか金融株が軒並み売られ、利下げ効果は早くも失われ始め、利下げだけでは食い止めようのない限界を示し出している。これ以上の利下げは、次には投機とうまみを求めて集まってきた世界中のマネーの流出という、より重大な危機を招きかねない。
 米誌『タイム』1/8号のタイトルは「米経済のうたげは終わった」である。

<<「ドット・ボム(爆弾)」>>
 英『エコノミスト』誌は、米経済の3つの不安要素を指摘し、第1に、米国民の貯蓄率がマイナスという異常な状態であること、第2に、民間企業の債務超過がGDPの150%という巨額に達していること、第3に、経常収支の赤字がGDPの4.5%にも達していること、これらの不均衡の重大性から、「米国の経済がソフトランディングできる可能性はあるものの、それを当然視することは愚かであり、むしろ、より激しい着地のリスクが実在する」と警告している。
 事実、バブル相場に大きく依存してきた米個人消費に急ブレーキがかかり始め、株式相場下落の「逆資産効果」が顕著になり始めている。これまでは借金家計であっても株式相場上昇の「資産効果」で痛みも感じずに消費を拡大してきたものが、逆回転し始めると、その影響は計り知れないといえよう。すでにこの1/4、米小売業最大手のウォルマート・ストアーズは強気姿勢を一転、業績予測を下方修正、売上高伸び率を前年実績9.1%から0.3%へと大きく引き下げている。総合小売業最大手のシアーズ・ローバックも同日、89店舗の閉鎖と2100人の従業員の削減を柱としたリストラ策を発表している。
 そしてつい最近まで時代の寵児としてもてはやされてきた「ドット・コム」企業、ハイテク企業の業績不振・経費削減・解雇・倒産などが昨年後半以来大きく取り上げられ、今や「ドット・コム」が「ドット・ボム」(dot-bomb=ドット爆弾)と揶揄される状況へと急転し出したのである。
 ブッシュ次期大統領が1/3、4に地元テキサス州オースチンで米産業界代表を招いて開いた経済会議では、景気先行きへの懸念表明が相次ぎ、「大胆な行動」を迫られ、「今日は本当にたくさんの悪いニュースを聞いた」と、就任前からうんざりといった感想をもらしている。

<<「日本売り>>
 より深刻なのは日本の事態である。この間のニューヨーク市場の下落・反騰といったジグザグな動きの中で、日本だけが唯一下落一方の展開に追い込まれている。株式、為替市場とも、日本株、日本円売り一色となり、少々の反転はあってもこの傾向はしばらくは持続しかねない状況である。
 ドルは対欧州通貨で売られ、ユーロは持ち直しているにもかかわらず、対円に関しては、異なる展開となって、景気対策でまだ余裕を持つドルと、景気対策にほとんど信頼感を喪失している円との差が歴然としだしている。1月第2週の外国為替市場でも、引き続き円売り圧力が根強く、12日には1ドル=118円台前半まで下落した。日本経済に対する悲観的な見方が根強く、株価が今後さらに下落し、13000円割れ、金融危機の再燃懸念が浮上し、1ドル=120円台が現実的可能性として論じられる状態である。
 森首相がアフリカ外遊で放言している間に、東証の株価が危険ラインを突破し、12日の平均株価の終値は1万3347円、TOPIXは1237.88という事態を迎えている。TOPIXで1200、日経平均で1万3000円を割り込むと、大半の銀行の含み益が吹っ飛び、含み損を抱えてしまうと予測されている。大和銀がTOPIXで1450強、富士銀、東海銀で1250前後、興銀で1200、三井住友が1200強、みずほ、UFJが1100強で含み損を抱えるデッドライン=経営破綻に突入するといわれており、金融危機再燃どころかより大規模な危機が目前に控えているとも言えよう。
 宮沢財務相は「市場のことだから」などと容認する構えであるが、実態は「もうなす術もなし」、克服する知恵も政策も意欲もない、無責任・森内閣そのままの放任姿勢である。奥田碩日経連会長が11日、「株価が下がり続ければ、金融危機的なものが発生する可能性が十分あり、非常な経済混乱になる」と重大な懸念を表明したが、今の森連立政権にはこれを受け止める姿勢どころか、逆に自ら破局のひきがねをひきかねない状況だとも言えよう。

<<「あと3年は続きます」>>
 「今後2~3年は、世界同時不況的な動きが優勢となるだろう」(三和総研・嶋中雄二氏、エコノミスト新春合併号)という事態である。こうした中、平均株価が1万4000円を割ったら森は即退陣といわれていたのであるが、すでに昨年12月以来1万3000円台である。いつ倒れてもおかしくはないのだが、加藤政変の腰砕け以降、逆に森政権は無風・無気力状態の中の安定状態を見出している。亀井政調会長などは「森政権はあと3年は続きます。黄金の21世紀の幕開けです」「参議院選挙も心配ない。森首相の下で過半数確保は確実です」とほらを吹き、小泉・森派会長は「森降ろしの声が出たら、私は自民党をぶっ壊す覚悟で反対する」と息巻き、森降ろしを画策していた青木参院幹事長までが「森首相の下で一本になって来年の参院選を戦うことが大事だ」という始末である。いまの末期的状態の自民党では予算成立後の「3月交代説」だって怪しいものである。しかし経済の実態の進行はそんなことを許し得ないであろう。
 それかあらぬか、森首相は年明け早々“国外逃亡”を決め込み、経済の非常事態も無視して、無理やりアフリカ3カ国、ギリシャ訪問の外交日程を入れ、行く先々で失言・暴言を繰り返し、自らの非常識ささえ理解できない状態である。南アフリカ在住の日本法人代表らが主催する懇親会で、「黒人の集落を見て“こんなところに住んでいていいのか”とついつい思いたくなるようなところだった」と、何の援助も約束するわけでもなくただただ哀れみさげすむだけの黒人蔑視発言を平然と行い、自分の生い立ちに触れて、「私は1937年生まれで大東亜戦争の前、支那事変が起こったときだ」と述べても、「支那」という差別史観、「大東亜戦争」という侵略史観の時代錯誤にも気付かないほどである。そしてこういう人間ほど、教育や道徳、修身、滅私奉公を叫び、教育基本法の改悪や、改憲論議、強制的ボランティアに血道を上げ、今夏の参院選挙の最大の争点にしようともくろんでいるのである。今年こそ、こうした連立政権を崩壊に導き、新しい政界再編成に道を切り開くことが出来なければ、政治・経済の新しい展望も見出し得ないといえよう。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.278 2001年1月20日

カテゴリー: 政治, 生駒 敬 パーマリンク