【投稿】労働組合運動の危機か、連合運動の危機か
—–「21世紀を切り開く連合運動」–21世紀連合ビジョン–を読んで(その2)
第3章は、1,2章を踏まえての具体的問題提起になるはずだが、一読して、その域には達しておらず、不十分と言わざるを得ない。まだ最終案ではないとのことだが、問題点を考えてみたい。
<新しい課題>
「第3章いかに実現するか」は、新しい時代の新しい課題、運動の力、組織の力、政治の力、そして国際連帯の力の項目で構成されている。
「1新しい時代の新しい課題」では、まさに「労苦」としての「レイバー」から、自己実現的な「ワーク」へと労働の捉え方が変化していること、そして労働者個人も画一的な要求に収斂しにくい個人となり、多様な価値観をもった労働者を対象とする新しい課題を提起しようとしている。
そこで疑問を感じるのだが、組合員の意識が多様化している、ということは事実であるとしても、労働組合の課題・任務は、それによって果たして「拡大」しているのであろうか。情勢は変われど、基本的任務は変わらないし、拡散的に組合活動のエリアを広げることは、返って組合の存在意義を薄める結果の方を危惧してしまうのだが。
<青年と女性の結集>
「2運動の力」では、求心力の回復、組合員の参加という問題意識から、組合員個人の要求に応えていくサポート体制が求められているとしている。そして、組合の活性化に「青年と女性」の結集を核にする必要が挙げられている。文章の性格上、方針書ではない、ということだろうが、問題提起に止まり、具体論は見当たらず、消化不良というところか。
「労働市場への影響力の強化」という項では、「産業構造の変化を背景に、雇用の多様化、柔軟化が進むことは避けがたい」という認識の上で、コスト削減などのバッファとして、パートや派遣など不安定な「非正規」労働の拡大は放置できないとして、明確なワークルールの確立が必要としている。
そして、これまで「企業内労組を通じて、内部市場に強く関与してきた」が、今後は、「外部労働市場にルールを持ち込み、・・・・労働市場への労組の影響力の強化に全力をあげる必要がある、としている。しかし、影響力の強化の具体的な戦略は明確ではない。
<100人未満企業の組織率1.7%>
「一体的な力の発揮」という項では、各構成組織の課題ということで、「基盤となる企業別組合の活性化」「企業グループ労連の新たな位置付け」「産別の機能強化と統合」が掲げられているが、近年続発している企業不祥事、JCOや雪印など労組の企業内チェック機能が低下し、労組の社会的責任を問うくだり以外に、特に目新しい内容は少ない。
「自立と連帯の中小労働運動の展開」では、雇用労働者の7割が働く中小企業の中で100人未満の企業での組織率が1.7%であること、ここに十分に労働運動が影響力をもち得ていないことが、日本労働運動の根本問題だ、とした上で、中小企業労働者の自立した運動、産別の強化と地域連帯の強化、労働組合が経営コンサルタント的な政策能力を強め、経営に影響力を強めること、地域的な労使協議制、労働者代表制にも触れている。
「2運動の力」の部分は、全体としてに非常に抽象的な提起に終わっているように思える。
<新しい組織化戦略>
「3組織の力」の項は、組織率の低下に歯止めがかからない状況の中での、新しい組織化運動の提起ということになる。1000人以上の大企業の組織率が57%、100人未満では1.7%という組織率の状況から、拡大のターゲットは中小企業という位置付けを明確にしつつ、このままの組織率低下を許せば、労働運動が企業内でも、社会的にも少数派になりかねない、という危機感が述べられている。
その意味から、「組織化に労働組合の人的・資金的資源を集中し」大胆に組織拡大に取り組むとしている。そのターゲットの第1は、パートタイマー。第2は、中小・零細企業の仲間づくり、そして管理職、退職者の組織化にも言及している。
また、組織化のためのインターネットを活用した「e-ユニオン」という提起もされている。
<労組の財政構造の見直し>
具体的に問題提起がされているひとつに、「財政構造の見直し」がある。事業所レベルの組合員が納める組合費は平均月額4,959円、上部団体(産別)へは、月額585円、連合へは78円という内訳となり、まだまだ企業内レベルに資金は集中しているという。要するに、ナショナルセンター・連合への資源の集中が必要だというわけである。
そのあとの、「4政治の力」「5国際連帯の力」は、紙面の都合で省こうと思う。大した内容はない。
こうして「21世紀連合ビジョン」の組織内討議案を紹介してきた。先月号の冒頭に、私の問題意識を以下のように述べた。「明らかに労働運動は危機に陥りつつあるように思う。危機とは具体的に何か、簡単に言えば、その力が低下してきていること。そして、その低下の原因が、閉鎖的な組織運営や、企業別労組の限界を突破できない現状にある、と捉える。企業の壁、大企業と中小企業、正規職員と非正規職員、男性と女性、官と民などを越える『連合の価値、労働運動の価値』を、共通認識として形成しえていない。こうした現状に、果たして「21世紀を切り開く連合運動」は、果たして応えているのであろうか」と。
残念ながら、問題点は一定提起されているが、正直迫力に欠けるというところか。
例えば、パート・臨職など企業内の不安定雇用労働者について、すべての労働組合が、正規・非正規を問わず、組織化対象とすると宣言し、組織化すること。リストラの中で「雇用保険」財政は、逼迫しているが、「労災保険会計」は悪徳企業の「労災隠し」の横行で、資金がだぶついていると言われる。すべての企業で労災隠しを労組は絶対に許さない運動を提起し、地域連合は住民やすべての労働者の相談窓口の役割を果たすこと、などは一例だが、社会的公正を具体的に体現する組織として、生活のレベル・地域レベルで人間的連帯を実践することで労働組合が生き残り、再生する戦略が求められているのではないか。(佐野秀夫)
【出典】 アサート No.278 2001年1月20日