【投稿】「金融不安」の徘徊と「自己責任」論

【投稿】「金融不安」の徘徊と「自己責任」論

<<10.27パニック説>>
一部週刊誌ではこの10月27日に、「メガトン級の危機」、「市場最悪の金融パニック」が日本を襲い、「あなたの財産が紙クズ同然になる!!」と警告かあるいはどう喝を発し、危機感が煽られている。その根拠は、「ワイド」という「利子一括払い型利付き金融債」の償還がこの日にやってくるというところにある。このワイドという金融商品は、90年10月に売り出した「10月債」の場合、半年複利の5年満期で9.606%という超高金利商品で、当時1ヶ月弱の間に5兆円にも達するほど大量に売りさばかれ、その満期日がこの10月27日に集中しているという。
その発行金融機関は、日本興業銀行、日本長期信用銀行、日本債権信用銀行の長信銀3行と農林中金、商工中金であるが、顧客に払い戻さなければならない額が、この5行で利子を含めると5兆円にも達する。その償還額は、今年95年上半期に5行全体が販売したワイドの総額の8倍にもあたり、もはや2%前後という金利で魅力のなくなった新規発行ワイドへの買い替えなどとても期待できるものではないわけである。
しかも、通常の預金の場合は、たとえ金融機関が経営破綻し、倒産したとしても、1000万円以内は預金保険機構の払い戻しの対象となるが、ワイドは対象外であり、その場合には紙クズにしかすぎなくなり、取り付け騒ぎになろうがどうしようが一刻も早く現金に換金する以外に守るすべがないのである。

<<「経営破綻は時間の問題」>>
そして「経営破綻は時間の問題」とされ、しかも年内に表面化すると噂されている5行(北海道拓殖銀行、日本債権信用銀行、中央信託銀行、大阪銀行、福徳銀行)の2番目に日債銀が上がっている。同行は大手21行に分類されているが、すでに相当以前から経営不振が問題視されており、10月のワイド償還額は3000億円前後抱えているが、その資金調達が疑問視されている。「若干は他行に流れるだろうが、7割程度はとどまる見込み。その程度であれば経営に影響はない」(日債銀広報部)としているが、7割どころか2割もつなぎ止められないであろうと見られている。ここで取り付け騒ぎが発生すれば、連鎖的にワイド発行の他行に波及し、さらには危険水域にある他の金融機関までが巻き込まれ、手がつけられなくなるというわけである。
日銀はそうした銀行の資金ショートを懸念してすでに、問題金融機関への無担保の特別融資を密かに実行しているといわれる。この特融、95年9月末現在の残高で9400億円にも達し、日常化しており、「破綻処理の仕組みが整わないうちに、金融機関の破綻が相次いでいるため」やむを得ないと開き直っている(日銀営業局、10/16日経)。国会の議決や情報公開も経ないで、不透明な秘密裡の資金供給が行われているのである。

<<「ジャパン・プレミアム」>>
資金調達に関連して、このところ急速に浮上してきたのがジャパン・プレミアムの発生である。日本はそもそも対外資産が対外負債を大幅に上回る世界最大の純債権国となっていることは世界周知の事実である。にもかかわらず、日本の金融機関が海外で資金を調達しようとすると、ユーロ市場の基準金利に+αが要求されるという事態が生じている。純債権国化にともなって進行してきた円高によってその資金量、取引量ともに膨大化してきた邦銀がいまだにドル建てで国際業務を展開していることにも大きな要因があるが、このところの日本の金融機関や金融システムそのものへの不安感、不信感が表面化してきた現れでもある。
このジャパン・プレミアム、+αが8月30日時点で0.12%であったが、木津信、兵庫銀行の経営破綻が報道されるや翌日には0.18%に上昇し、個々の銀行の信用力の度合いに応じてランク付けされ、大手邦銀でも+0.25%まで要求されているところが現れ、その中には先に上げた北海道拓殖銀行や中央信託銀行、そして大和銀行も入っているという。ユーロ市場で邦銀全体として約400億ドルの資金調達をしているが、0.1%の+αでも4000万ドルの金利を別に払わなければならないのである。

<<「預金者の自己責任」?!>>
しかも資金調達のクレジットの上限額が信用度に応じて大きく引き下げられており、その結果、邦銀大手21行の中の数行は取引そのものが出来なくなっており、日債銀はその中に入っているといわれているのである。
問題はこうした事実が日本国内ではいっさい情報開示されていないことである。一方では、銀行業界全体としては、都市銀行を中心に史上空前の業務純益を上げ、94年度末でその内部留保額(各種引当金、法定準備金、剰余金の合計額)は32兆9585億円にも達し、バブル崩壊後の4年間で他の業界の不振を尻目に、預金金利の引き下げを武器に実に5兆6000億円余りもその内部留保額を増大させているのである。不良債権などどこ吹く風である。自らの責任を不問にして、預金者の自己責任論をばらまき、十分に不良債権をまかなえる純益を上げながら、債権回収を他に押しつけ、あげくのはてに公的資金投入が全国民の要求であるかのごとくにふるまっている。こうしたことを許しているのは、大蔵省、日銀、銀行業界が一体となって日本の金融システムの腐敗しきった病巣を覆い隠し、情報開示を拒否していることにあるといえよう。しかしこうした健全な切開の術も見い出せないやり方は、自らに降りかかってくるものである。その端緒がさまざまな信用危機となって現れているのではないだろうか。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.215 1995年10月27日

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