<<野党共闘の混沌>>
7/5・投開票の東京都知事選は、6/18の告示を直前にしてようやく、選挙の構図・輪郭が見え始めるという、争点、対決軸、勢力配置がきわめて不明瞭、とりわけ野党共闘の一致した対決姿勢が見えてこないという事態の進展である。
6/15になって、れいわ新選組の山本太郎代表が立候補を表明した。山本氏は「東京オリンピック・パラリンピックの中止」や新型コロナウイルスで困窮する都民に向けた総額15兆円の経済政策の実現を掲げ、都知事就任後に「都に必要な8つの緊急政策」を実施すると宣言している。その1つ目には以前から自身が開催反対を訴えてきた東京オリンピック・パラリンピックの「中止」である。2つ目には総額15兆円の「コロナ損失」対策を掲げ、具体的には「全都民への10万円給付」「(高校・大学など)授業料の1年間免除」「中小企業・個人事業主の事業収入のマイナス分保障」などを実施するとした。また、今後のウイルス再拡大にともなう「コロナ自粛」に備え、都民に対してさらに10万円、全事業者に対して迅速に100万円を給付するとしている。さらに、就職氷河期世代(ロストジェネレーション)とコロナ失業者計3000人を都の職員として採用する雇用対策や、空き家や都営住宅の空き部屋を活用しやすい家賃で住めるようにする住宅政策を掲げた。
山本氏の立候補表明によって、他に日本維新の会推薦の小野泰輔・元熊本県副知事らが立候補を表明しているが、野党として現職・小池百合子知事に対決するのは、先に5/25にツイッターで、5/27に記者会見で出馬を表明し、すでに走り出していた宇都宮健児氏と山本太郎氏、この二人の候補者が相争う構図となった。嘆かわしい限りである。野党共闘の混沌である。
こうした事態の中で、宇都宮氏の支援を決定していた立憲民主党所属の須藤元気参院議員が、山本氏出馬表明の数時間後に「立憲としては宇都宮さん支持ですが個人的に山本さんを応援しています!」と山本氏支援の方針をツイートしていたことが明らかになった。6/16、福山哲郎幹事長は須藤氏と話し合いを持ったことを明らかにした上で「今後のことについては、また話し合う機会があるかもしれない」とも説明している。須藤氏は6/16、「都知事選で支持する候補者の違いを党と僕との間で再確認しました。今後どうするかもう一度考えてみます」とツイートしている。
立憲民主党ではさらに、小川淳也衆院議員が「何とか野党候補を一本化できないか」として、「山本太郎さんの気概に心から敬意を表しつつ、しかし早急に宇都宮さんと話し合い、何とか野党候補を一本化できないか。もちろんより勝てる候補に。いつも野党陣営は分断し相手を楽にさせてしまう」とツイートしている。
こうした事態がどこまで進むかは不明であるが、野党候補の一本化は、公示直前という差し迫った事態の中では、到底不可能であろう。
何よりも、宇都宮氏はすでに5/27の記者会見で「私が立候補(表明)するまでに政党との関係はないし、今まで政党に支援要請はしていない」「今回は、どういう候補が出てきても降りるつもりはない」「それ(山本氏が出馬しても立候補を断念しないこと)は、もう当然。(宇都宮氏以外の候補者で)野党共闘ができても、降りないわけだから」と、断言してしまっている。始めから共闘や一本化の意図などまったく持ち合わせてはいないのである。
<<フライング>>
これまで、都知事選を巡っては、「市民と野党共闘」という枠組みでの統一候補の擁立がさまざまに模索されてきた。澤藤統一郎の憲法日記(2020年5月29日)によれば、
その動静は、「東京革新懇」や「革新都政を作る会」、あるいは「九条の会」などを通じて公式・非公式に伝えられて来た。そして、現在は「市民と野党の共闘の実現で都政の転換をめざす呼びかけ人会議」がその任務を担っている。アベ政治や小池都政を容認しがたいとする多くの都民の期待は大きい。
予定候補者として、何人もの有力な人の名前が上がっては消えた。そんな中で、宇都宮健児君が立候補を表明し、一昨日(5月27日)出馬の記者会見をした。もちろん、「市民と野党共闘」の候補ではない。その意味ではフライングである。まだ間に合う。宇都宮君、立候補はおやめなさい、と申しあげたい。
5月27日記者会見で、彼は記者の質問に答えてこう発言したそうである。「今回は、どういう候補が出てきても降りるつもりはない」
むくつけなまでの野党共闘拒否の宣言である。もちろん、そのような考え方があってもよかろう。しかし、誠実に社会進歩を望む人の発言ではない。日本の首都の首長選挙である。市民や野党間の共闘あっての候補者でなければならない。
問題は、野党の対応である。何より注目されるのは共産党の姿勢。本日(5月29日)の赤旗が、志位和夫委員長の以下の発言を報じている。
「昨日(27日)の宇都宮さんの会見を拝見しましたが、基本的な政治姿勢、基本政策は私たちと共有できると思います。日本共産党として宇都宮さんの出馬表明を歓迎します。今後のたたかいについては、よく話し合っていきたい」と語りました。
志位氏はまた「この間、野党の党首間では、都知事選挙で統一候補を立ててたたかうことを何度も合意しています。わが党としては野党共闘でたたかう体制をつくるために努力したい」と語りました。
その見出しが、「東京都知事選で志位委員長 宇都宮氏の出馬表明を歓迎 野党共闘の体制づくりへ努力」というもの。まことに思慮に欠けた発言と指摘しなければならない。
《野党共闘拒否宣言の宇都宮出馬表明歓迎》と《野党共闘の体制づくりへ努力》が、両立するわけはない。これでは、共産党が、野党共闘を壊しているとの批判を避けがたい。
「市民と野党の共闘の実現」を目指す活動は、有力野党の共産党の特定候補者評価できわめて難しくなる。共闘を否定しての宇都宮健児出馬表明がフライングであり、これを容認するかのごとき志位和夫発言もフライングというほかはない。
これまで、「市民と野党共闘」という枠組みでの統一候補の擁立が模索されてきた。その動静は、「東京革新懇」や「革新都政を作る会」、あるいは「九条の会」などを通じて公式・非公式に伝えられて来た。そして、現在は「市民と野党の共闘の実現で都政の転換をめざす呼びかけ人会議」がその任務を担っている。私も、「呼びかけ人会議」の呼びかけ人の一人だが、そのときは即刻下りることにしよう。
澤藤氏はさらに、5/31の「澤藤統一郎の憲法日記」で
何よりも、都民の目から見て「革新共闘が今度は本気で勝ちを狙っている」と感じさせるだけの清新で有力な候補者の擁立が不可欠である。宇都宮君には、最初の出馬表明時にはその片鱗があった。しかし、選挙戦進展の中で、候補者としての資質の欠如、魅力の欠如を露わにして歴史的な惨敗をした。いま、政党が宇都宮を推薦するとなれば、都民の目には「この選挙捨てたな」と見られるしかない。
しかも、彼は前回都知事選にも革新共闘の協議を無視して3度目の立候補をし、告示直前に立候補を断念したものの、革新共闘には背を向け続けている。今回また、革新共闘とは距離を置くことを公言して憚らない。到底、革新共闘が一致して押すことのできる候補ではない。
まさかとは思うが、念のために「呼びかけ人会議」に申しあげたい。
真に革新陣営の共闘を大切する立場を貫くならば、市民と野党の共闘に背を向けてフライングの立候補宣言をした宇都宮健児君を共闘候補として推薦してはならない。共産党が、「基本政策は私たちと共有できる」と、さらにフライングを重ねたこの事態では、なおさらのことである。
仮に宇都宮君を共闘候補として推薦するようなことになれば、市民運動が主導して野党共闘を作るという、いま、成功しつつある貴重な枠組みに大きな傷を残すことになる。くれぐれも、よくお考えいただきたい。
過去2度の都知事選に出馬して、惨敗した候補者である。負け馬の3度目の出馬に勝利の目はない。誰が見ても、本気で勝ちに行く選挙にふさわしい候補者ではないのだ。
彼の過去の2度の知事選の得票は、2012年97万票(当選した猪瀬直樹は434万票)、14年98万票(当選した舛添要一は211万票)である。いずれも、100万に届かない。前回都知事選では、あのバッシングの嵐の中で鳥越俊太郎は135万票(当選した小池百合子は290万票)を得ている。
東京の基礎票が弱いのでやむを得ないのかと言えば、そんなことはない。参院東京選挙区(6議席)では、蓮舫一人で171万票(2010年)を得票した実績がある。同氏は2016年の選挙でも112万票を獲得している。これには及ばないものの、共産党の参院東京選挙区での得票数も、以下のとおりなかなかのもの。
2013年(吉良佳子)71万票、16年(山添拓)67万票、19年(吉良佳子)70万票。
2014年総選挙の東京ブロックでの野党各党の得票数は、以下のとおりである。
民主党94万票、共産党89万票、社民党12万票。合計では195万票になる。この基礎票あって、宇都宮(統一)候補では100万に届かないのである。
野党共闘が成立して、基礎票に共闘効果としてのプラスアルファの上積みを期待し、これに魅力的な候補者と目玉になる政策の押し出しがあれば、…都知事選はけっして勝てないたたかいではない。
何よりも、都民の目から見て「革新共闘が今度は本気で勝ちを狙っている」と感じさせるだけの清新で有力な候補者の擁立が不可欠である。宇都宮君には、最初の出馬表明時にはその片鱗があった。しかし、選挙戦進展の中で、候補者としての資質の欠如、魅力の欠如を露わにして歴史的な惨敗をした。いま、政党が宇都宮を推薦するとなれば、都民の目には「この選挙捨てたな」と見られるしかない。と、述べている。
<<山本氏と「重なる部分は多いと思う」>>
宇都宮氏は、6/14、まだ山本氏の立候補表明がない段階の日曜日の東京の新宿街頭演説で「今日応援に駆けつけて来て頂いている政党の皆さんとは一切相談、連絡もなく、自分の判断で出馬の決意をさせて頂きました。その後、皆さんも報道でご存知のとおり、立憲民主党、日本共産党、社民党、新社会党、緑の党。こういう政党から支援をして頂くという決定をいただきました。そしてその後、様々な市民団体、労働団体から宇都宮さんを支持するという決定が続々と届いております。このような支援の広がりに対して、大変ありがたく、それから心強く受け止めております。」と述べて、「一切相談、連絡もなく」一人で決断したが、市民と野党各党の支援を「心強く受け止め」る立場を明らかにしている。そして同時に「宇都宮選対というのは市民が集まった、客観的に見れば極めて弱小の選対だと思っております。」と、自らの陣営の選対が「極めて弱小」であるという自覚も明らかにしておられる。ならばもっと虚心坦懐に市民と野党共闘の前進のために、自らの立場をなげうってでも野党共闘と統一戦線の前進に献身するという表明があってしかるべきであろう。
さらに重要なことは、宇都宮氏自身が明らかにしているように、「実は私の『市民選対』に入っている人は、山本太郎さんも支持している人が多い」、昨年の統一地方選で無所属の区議や市議を応援した際にも「そこに、いつも山本太郎さんが来ていて応援していたので、重なる部分は多いと思う」という現実がある。(6月15日に東京・丸の内の日本外国特派員協会での記者会見)
重なる部分が多いと自覚しているのならば、なぜ一本化や統一候補の擁立を頭から拒否するのであろうか。
日本の首都の、巨大都市の首長選挙である。それもオリンピック開催に向けてパンデミック危機を放置しながら、延期が決まるや「感染爆発の重大局面」を叫び、実際にはPCR検査を一切充実させず、コロナ禍を自分の選挙のためにだけ利用する、そんな小池都政を許さない、圧倒的無党派層を引き付ける、そのような市民や野党間の共闘あっての候補者でなければならない。
(生駒 敬)